1本の表:符号化定理から一般化第二法則まで
AI 生成・木下が未勉強
相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第8章 §7.8.1 ★★★ 46章の「比べた2つ」はすべて違うが、当てた性質の欄には非負性・単調性・2次の展開・指数の4つがほとんどを占める
この巻は、情報理論・統計学・統計力学・量子情報・情報熱力学・多体系・量子計算・ブラックホールを、どれも「どの2つの分布(状態)の相対エントロピー を測っているか」として読んできた。第1部第1章では、(非負性)と、同じ確率行列を2つの分布に当てると が増えないこと(データ処理不等式)の2つを証明し、そこから Shannon エントロピー・相互情報量・Fisher 情報・等温の第二法則が出ることを小さな計算で示した。その章の終わりで、巻を通す主張として「第二法則はデータ処理不等式の1つの姿である」を掲げた。この終章では、その主張がどこまで成り立ったかを、巻の全章を並べて確かめる。
章の構成は次のとおりである。7.8.1節で46章を1本の表にし、当てた性質の欄に何種類の性質しか現れないかを数える。7.8.2節では、Markov 連鎖の H 定理・熱浴と接した系の第二法則・量子チャネルの H 定理・ブラックホールの一般化第二法則の4つを、1つの定理の特別な場合として並べる。7.8.3節では、 の値が確率の指数・仕事・推定の精度の3通りに読めることを、光ピンセットの粒子1個で確かめる。7.8.4節では、 だけでは言えなかったことを整理する。7.8.5節では巻の近似の裏付けの札70枚を数え、証明が残っている場所を特定する。7.8.6節で授業で習った形と並べ、7.8.7節の総合問題では、1ビットの情報を通信路から記憶の消去を経てブラックホールまでたどる。
この章の対数は自然対数(nat)で、ビットに直す所だけ「ビット」と書く。熱力学のエントロピーは 込み、・・ は無次元である。Planck 長の2乗を と書き(第7部第1章の冒頭の定義)、ブラックホールのエントロピーは ( は地平面の面積)とする。第7部の結果は各章の式を引き、細部はそれぞれの章に譲る。
表の読み方
表 7.8.1 は、巻の各章を1行にしたものである。左から、章(「3-02」は第3部第2章)、比べた2つの分布(状態)、当てた の性質、出てきたもの、の順に並べた。性質の欄には、次の7つの語だけを使った。非負性は (等号は2つが等しいときだけ)、単調性は同じチャネル(確率行列・量子チャネル・部分トレース)を2つに当てると が増えないこと(データ処理不等式)、2次の展開は少しずらした2つの分布の が になること、指数は 回のくり返しで確率が で減ること、等号条件は単調性の等号が成り立つ条件(十分統計量・回復写像)、連鎖律は を周辺と条件付きに分ける等式(Pythagoras の分解を含む)である。 を使わず数え上げだけで済んだ章には数え上げと書いた。
| 章 | 比べた2つの分布(状態) | 当てた性質 | 出てきたもの |
| 第1部 古典の情報理論 | |||
| 1-01 | 任意の と (硬貨・通信路・2準位系) | 非負性・単調性 | ・・・最尤推定・等温の第二法則が の特別な場合 |
| 1-02 | と一様分布、 と取り違えた | 非負性・指数 | ・AEP・典型集合の大きさ |
| 1-03 | 結合分布 と積 | 非負性・連鎖律 | 相互情報量・劣加法性・凸性 |
| 1-04 | 同じ を通した2つの分布 | 単調性・等号条件 | ・十分統計量・Markov 連鎖の H 定理 |
| 1-05 | と符号長の分布 | 非負性 | 平均符号長 ビット・取り違えの代価 ビット |
| 1-06 | 通信路の入出力の と | 単調性・指数 | ・通信路符号化定理 |
| 1-07 | と | 2次の展開 | Fisher 情報・Cramér–Rao の不等式 |
| 1-08 | 経験分布と真の分布 | 指数・単調性 | Sanov の定理・Stein の補題(指数は ) |
| 第2部 統計力学を情報で読む | |||
| 2-01 | 拘束を満たす と参照の | 非負性・連鎖律 | 最大エントロピー原理・カノニカル分布 |
| 2-02 | 任意の と Gibbs 分布 | 非負性 | ・取り出せる仕事・平均場近似 |
| 2-03 | 部分系の状態とミクロカノニカルの部分系 | 単調性・数え上げ | 正準典型性・平衡化 |
| 2-04 | 細かい密度と粗視化した密度 | 単調性・連鎖律 | 粗視化の第二法則・ |
| 2-05 | 仕切りを外す前と後 | 単調性 | 混合のエントロピー ・Gibbs のパラドックス |
| 第3部 量子情報理論 | |||
| 3-01 | 2つの密度行列(トレース距離) | 単調性 | Helstrom の ・量子チャネルの3つの表示 |
| 3-02 | と | 非負性 | Klein の不等式・ の上限・量子の Gibbs の変分原理 |
| 3-03 | チャネルを通す前の組と後の組 | 単調性・等号条件 | 強劣加法性・Petz の回復写像 |
| 3-04 | と分離可能な状態の集合 | 単調性 | の LOCC 単調性・蒸留 |
| 3-05 | 箱と局所的な模型の集合 | 単調性・指数 | CHSH の ・Tsirelson の ・棄却に要る試行の数 |
| 3-06 | と | 単調性 | 超高密度符号・テレポーテーションに要る古典ビット2個 |
| 3-07 | cq 状態と積 | 単調性 | Holevo 限界 ・HSW 定理 |
| 3-08 | 2つの量子状態(測定で古典の分布へ) | 単調性・指数・2次の展開 | 量子 Stein の補題・量子 Fisher 情報・Heisenberg 限界 |
| 3-09 | 雑音を通した2つの符号状態 | 等号条件 | Knill–Laflamme 条件・ |
| 3-10 | 鍵と理想の鍵 | 単調性 | Devetak–Winter の鍵率・BB84 の 11.0% |
| 第4部 情報熱力学 | |||
| 4-01 | 今の分布と瞬間の平衡分布 | 単調性 | Sekimoto の熱と仕事・有限時間の代価 |
| 4-02 | 前向きの経路と逆回しの経路 | 非負性 | Crooks の関係・Jarzynski 等式 |
| 4-03 | 経路の確率 と | 非負性・単調性 | 第二法則 ・粗く見た下限 |
| 4-04 | 事後分布と測定前の分布 | 非負性 | 沙川–上田の等式・取り出せる仕事 |
| 4-05 | 記憶と熱浴の前と後 | 非負性 | Landauer 原理の一般形 |
| 4-06 | 定常の経路の分布と流れを強めた分布 | 2次の展開 | 熱力学的不確定性関係・速度限界 |
| 4-07 | 消去の前後の記憶、測定直後の結合分布と積 | 非負性・連鎖律 | 消去とフィードバックの実験の下限と上限 |
| 4-08 | と熱状態 | 単調性 | 量子 Landauer 原理・Otto 機関・資源理論 |
| 第5部 多体系の情報 | |||
| 5-01 | 多体の状態と周辺の積 | 非負性 | 熱状態の面積則 |
| 5-02 | 縮退した基底状態どうし(小領域に制限) | 単調性・等号条件 | 位相秩序は距離の大きな符号・ |
| 第6部 量子計算 | |||
| 6-01 | 回路の数と見分けたいユニタリの数 | 数え上げ | ほとんどのユニタリは指数個のゲートを要する |
| 6-02 | 位相の違う状態 | 2次の展開 | (Heisenberg 限界) |
| 6-03 | 位数と測定結果の結合分布と積 | 非負性 | 逆 QFT の後の |
| 6-04 | 当たりの印つきのオラクルと空のオラクルの状態 | 単調性 | 探索の下界 |
| 6-05 | 復号後の論理量子ビットと環境 | 単調性 | しきい値は の相転移 |
| 第7部 ブラックホールの情報問題 | |||
| 7-01 | 地平面の外に制限した場の状態と真空 | 非負性・単調性 | ・Bekenstein 上限・一般化第二法則 |
| 7-02 | 外の放射と温度 の Gibbs 状態(熱場二重状態の片側) | 非負性・単調性 | 外は熱的に見える()・情報喪失のパラドックス |
| 7-03 | 放射の状態と最大に混ざった状態 | 非負性・連鎖律 | Page の定理・Page 曲線・Page 時間 |
| 7-04 | 参照系と残りのブラックホールの結合と積 | 単調性・等号条件 | デカップリング・取り戻しの立ち上がり・スクランブリング時間 |
| 7-05 | 遅いモードと早い放射・内側の相手の結合と積 | 単調性 | 一夫一婦制(弱単調性から)・ファイアウォールの議論 |
| 7-06 | 境界の2つの状態と内部の2つの状態 | 単調性・等号条件 | JLMS・エンタングルメント・ウェッジの再構成・RT 公式 |
| 7-07 | 違う日記を落とした2つの放射の状態 | 単調性 | 島の公式と Page 曲線(量子極値曲面の規則は重力の経路積分の鞍点から) |
| 7-08 | 46章の全部 | 数え上げ | この表 |
性質の欄に何が並んだか
表の46行のうち、性質の欄に単調性を含む行は27、非負性を含む行は17、等号条件を含む行は6である。指数と連鎖律はそれぞれ5行、2次の展開は4行に現れる。比べた2つの分布の欄は46行とも違うのに、当てた性質は6種類で足り、そのうち単調性と非負性の2つで延べ44行を占める。この巻の主張を1行で書くと、物理と情報のさまざまな限界は「適切な2つを選んで か の単調性を当てる」ことで出る、となる。
非負性と単調性は独立な性質ではない。単調性で、チャネルとして「全部を1点へ送る写像」を選ぶと、出力の2つの分布はどちらも同じ1点の分布になり なので、 が出る。つまり非負性は単調性の特別な場合である。逆に、第1部第4章で示したように、単調性は連鎖律と非負性から出る。したがって表の性質の欄の大部分は、ただ1つの不等式 (量子では )の言い換えになっている。2次の展開と指数は、この不等式とは別の性質で、それぞれ の局所的な形(曲がり)と が大偏差の確率の指数になることを使う。等号条件は単調性の等号を調べたもので、誤り訂正(第3部第9章)・Hayden–Preskill のデカップリング(第7部第4章)・ホログラフィー(第7部第6章)は、どれも等号が成り立つ場合を利用する。
性質の欄に数え上げを含む行は3つで、量子計算の回路の数え上げ(6-01)とこの章(7-08)、単調性と併用した典型性(2-03)である。島の公式(7-07)の行は単調性で、一般化エントロピーを の単調性から作り(第7部第1章の定理 7.1.1)、JLMS で読み出しを判定した。ただし量子極値曲面の規則そのもの(Page 曲線が実際に折り返すこと)は重力の経路積分の鞍点から借りた(7.8.4節)。
例題 7.8.1 1つの を4通りに読む ★★★
オリジナル表の出る確率が の硬貨の分布 と、公平な硬貨の分布 を比べる。
- (1) を nat とビットで求めよ。
- (2) 出目を、 に合わせた1ビットの固定長の符号で記録すると、 に合わせた最良の符号に比べて1回あたり何ビット損するか(第1部第5章)。
- (3) 「硬貨は公平である」を誤って棄却する確率を固定したまま、「硬貨は である」を誤って受け入れる確率を まで下げるには、何回投げればよいか。Stein の補題(第1部第8章)の主要項で答えよ。
- (4) 2つの状態の縮退した記憶(Szilard エンジンの箱)の分布が のとき、300 K の熱浴で取り出せる仕事の上限 を求めよ(第2部第2章。 が平衡分布)。
- (5) 公平な硬貨を100回投げてちょうど75回表が出る確率を厳密に求め、 と比べよ。
解答
(1) である。 なので、 nat、ビットでは ビット。
(2) に合わせた符号は1回1ビット、 に合わせた最良の符号は(長い列をまとめて符号化すれば)1回 ビットまで縮む。差は ビットで、(1) の に一致する。第1部第5章の分解 で、符号長の分布 が のときの第2項がこの損である。
(3) 第2種の誤りの確率は で減るので、 から 、つまり約106回である。
(4) J なので、 J()。
(5) で、 はその約11倍である。型のクラスの確率は を満たし(第1部第8章)、ずれは多項式の因子の分だけである。 が決めるのは確率の指数( に比例して減る速さ)で、前の因子は決めない。
4つの答えは同じ数 を、符号長・検定の回数・仕事・確率の指数として読んだものである。読み方の違いは、 の前に掛ける量(、、)だけにある。
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