出てくるもの(3):レプリカ・ワームホール
AI 生成・木下が未勉強
相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第7章 §7.7.5 ★★★ エントロピーを複製の跡 から計算すると、重力の経路積分に複製の内部をつなぐ鞍点が加わり、その寄与によって放射が Hawking の状態から見分けられるものになり、島の公式が導かれる
この節の模型の計算でも 、光速 とする。
レプリカの方法
密度行列 の von Neumann エントロピーは、整数 の Rényi エントロピー
を について解析接続して とした極限 で得られる。 は、系を 個複製し、1番目の複製の の出口を2番目の入口に、2番目の出口を3番目に、と巡回させてつないだ「 重の系」の経路積分の値 を、1つの系の の 乗で割ったもの である。
場の理論では時空が決まっているので、つなぎ方は の上だけで決まる。重力では、時空の幾何そのものが経路積分の積分変数である。境界条件として指定するのは「無限遠(浴)で 個の複製の が巡回してつながっている」ことだけで、重力のある領域の内部をどうつなぐかは経路積分が足し上げる。鞍点(古典解)は2種類ある。
つながらない鞍点では、 個のブラックホールの内部はそれぞれ別のまま、浴の だけが巡回してつながる。その寄与は、半古典的な時空の上の場の で、 で Hawking の =島なしの候補になる。
レプリカ・ワームホールでは、 個のブラックホールの内部が、浴の巡回と同じ順に互いにつながった1つの幾何になる。この幾何は の対称性(複製の巡回)を持ち、その固定点が で島の境界 になる。A. Lewkowycz と J. Maldacena が示したように1A. Lewkowycz, J. Maldacena (2013), Journal of High Energy Physics 2013(08), 090。下の脚注へ、固定点のまわりの幾何から作用の の微分を取ると面積の項 が出て、場の部分からは が出る。さらに、鞍点であるための条件(重力の運動方程式)が で一般化エントロピーの停留の条件に一致する。こうして島の公式 (7.7.10) が、重力の経路積分の2つの鞍点の寄与のうち大きい方(エントロピーでは小さい方)として出てくる。この計算は 2019 年に2つのグループが独立に、2次元の JT 重力で鞍点を具体的に作って行った2G. Penington, S. H. Shenker, D. Stanford, Z. Yang (2022), Journal of High Energy Physics 2022(03), 205(arXiv 版は 2019 年)。A. Almheiri, T. Hartman, J. Maldacena, E. Shaghoulian, A. Tajdini (2020), Journal of High Energy Physics 2020(05), 013。下の脚注へ。
図 7.7.4 の場合の2つの鞍点の模式図。灰色の楕円がそれぞれの複製の時空、黒い円がブラックホール、赤が浴で巡回してつながった 。左は内部が別々のまま(Hawking の計算)、右は2つの内部が管でつながる(レプリカ・ワームホール)。境界条件はどちらも同じで、重力の経路積分は両方を足す
乱数の状態の模型
2つの鞍点が何をしているかは、Page の乱数の状態の模型で式に書ける。放射を 次元、ブラックホールを 次元()とし、全体の状態 を 次元の乱数の純粋状態とする。 では、 の平均が ( は2つの複製の入れ替え)であることを使って
になる。 と書けるのがレプリカの方法の で、2つの項は複製をつなぐ2通りの仕方に対応する。恒等置換 の項はブラックホールの側の添字を各複製の中で閉じる(つながらない鞍点)もので、値は 、つまり が完全に混ざった Hawking の状態の値に等しい。入れ替え の項はブラックホールの側の添字を複製の間でつなぐ(レプリカ・ワームホール)もので、値は である。
一般の では、 個の複製のつなぎ方(置換)のうち交差しないものが主に寄与し、その数は Narayana 数 で数えられて
になる( で )。両端の2項がつながらない鞍点()と完全につながったレプリカ・ワームホール()で、 と が大きく離れているときはどちらか一方だけが残り
となる。これが島の公式の2つの候補 (7.7.11) の 番目の版である。ただし の解析接続は2項だけでは取れない( で2項の和は 2 になってしまう)。すべてのつなぎ方を足した式 (7.7.27) を へ接続すると、Page の平均 (。第2部第3章の式 (2.3.22)(第7部第3章の式 (7.3.6)))がそのまま出てくる。G. Penington・S. H. Shenker・D. Stanford・Z. Yang は、JT 重力にブラックホールの内部の状態を 通りに区別する簡単な物質を入れた模型で、重力の鞍点の和がこの組み合わせの構造を厳密に再現することを示した(前掲)。
レプリカ・ワームホールは放射を Hawking の状態から見分ける
式 (7.7.26) を相対エントロピーで読み直す。 次元で とすると なので、レプリカ・ワームホールの項 はちょうど放射の状態と Hawking の状態の Hilbert–Schmidt 距離の2乗である。第2部第3章(第2部第3章)の不等式 を に当てると
を得る(平均は ln の凹性で中に入れた)。つながらない鞍点だけなら右辺は 0 で、放射は Hawking の状態と見分けがつかない。レプリカ・ワームホールを加えて初めて、放射の状態が Hawking の状態から だけ外れうる。Page 時間の前()はその上限が の程度で小さく、Page 時間の後()は と大きくなって、式 (7.7.4) の D の増え方と一致する。相対エントロピーで言えば、レプリカ・ワームホールは、Hawking の計算が 0 とした D を正しい値に戻す寄与である。
例題 7.7.5 2つの鞍点の重みを数えて Rényi-2 エントロピーを出す ★★
オリジナル放射 次元、ブラックホール 次元の乱数の純粋状態で、(1) と2つの鞍点の寄与の内訳を求め、 を出せ。(2) 式 (7.7.29) の右辺と、Page の平均から出る を比べよ。、 と入れ替えた場合も比べよ。
解答
(1) 。内訳は、つながらない鞍点が 、レプリカ・ワームホールが である。 で、Hawking の状態の より 小さい。乱数の状態を 400 個選んだ平均(verify)は で式と合う。
(2) 、 では右辺 、Page の平均から (厳密な式で )で、上限の中に収まる。、 では右辺 、 で、上限にかなり近い。Page 時間の後は放射が Hawking の状態から大きく外れ、その外れのほとんどを のレプリカ・ワームホールの項が押さえている。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの (。重力の経路積分を鞍点の寄与で近似する) | 証明 条件付き(古典解の鞍点が経路積分を支配することを仮定した導出。2次元の JT 重力では鞍点〔レプリカ・ワームホール〕を具体的に構成した。高次元では鞍点の存在と、どの鞍点まで足すべきかが仮定として残る) | 行き先 近似の数理 第7章
何が分かって何がまだ分からないか
分かったことは、半古典的な重力の計算の中に、放射の本当のエントロピーを計算する規則があり、その規則で計算すると Page 曲線が出ることである。Hawking の計算は誤りではなく、重力の経路積分の1つの鞍点の寄与だけを取ったもので、Page 時間の後は別の鞍点が優勢になる。ユニタリ性と整合するエントロピーの時間変化が、ブラックホールの微視的な理論(弦理論の状態の数え上げなど)を使わずに出てきた。
分からないことも多い。第一に、島の公式で分かるのはエントロピーという数で、放射から日記を取り出す具体的な手順ではない。取り出しの量子回路は一般に指数的に長くなると考えられている(D. Harlow と P. Hayden3D. Harlow, P. Hayden (2013), Journal of High Energy Physics 2013(06), 085。下の脚注へ)。第二に、レプリカ・ワームホールは異なる複製をつなぐので、重力の経路積分が「1つの量子系」でなく「量子系の集団の平均」を計算しているように見える。2次元の JT 重力は乱数行列の集団の平均と等価であることが知られている4P. Saad, S. H. Shenker, D. Stanford (2019), arXiv:1903.11115。下の脚注へが、1つのブラックホールについてこの平均が何を意味するかは決着していない。式 (7.7.26) の模型も乱数の状態の平均である。第三に、計算が具体的にできているのは、重力のない浴をつないだ2次元の模型が中心で、漸近的に平らな4次元の時空のブラックホールで放射を重力のある領域で集める場合の扱いは確立していない。総説は A. Almheiri ほか5A. Almheiri, T. Hartman, J. Maldacena, E. Shaghoulian, A. Tajdini (2021), Reviews of Modern Physics 93, 035002。下の脚注へにまとまっている。
ほかの巻では
- 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第8章:時間を虚数にした経路積分が分配関数になる仕組み。 を経路積分で書く土台が読める
1 A. Lewkowycz, J. Maldacena (2013), Journal of High Energy Physics 2013(08), 090。
2 G. Penington, S. H. Shenker, D. Stanford, Z. Yang (2022), Journal of High Energy Physics 2022(03), 205(arXiv 版は 2019 年)。A. Almheiri, T. Hartman, J. Maldacena, E. Shaghoulian, A. Tajdini (2020), Journal of High Energy Physics 2020(05), 013。
3 D. Harlow, P. Hayden (2013), Journal of High Energy Physics 2013(06), 085。
4 P. Saad, S. H. Shenker, D. Stanford (2019), arXiv:1903.11115。
5 A. Almheiri, T. Hartman, J. Maldacena, E. Shaghoulian, A. Tajdini (2021), Reviews of Modern Physics 93, 035002。
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