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比べる2つの状態:日記を変えた2つのブラックホールの放射

2026年10月15日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第7部 第7章 島の公式と Page 曲線の半古典的な導出
目次
  1. 設定:ブラックホールと浴と放射
  2. Hawking の計算の放射の状態
  3. ユニタリ性が要求すること:Page 曲線を D で読む
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第7章 §7.7.1 ★★★ Hawking の計算では日記の違う2つの放射の相対エントロピーがいつまでも 0 になり、ユニタリ性は Page 時間の後にそれが日記の情報量まで増えることを要求する

第7部第3章(第7部第3章)では、ブラックホールとその放射を合わせた全体が純粋状態のまま時間発展するなら、放射のエントロピーは Page 時間で増加から減少へ折り返すはずだ、という Page 曲線を見た。ところが Hawking の計算をそのまま信じると、放射のエントロピーはブラックホールが消えるまで単調に増え続ける。どちらが正しいかは、半古典的な重力(時空は古典的な計量で、その上の場だけを量子力学で扱う近似)の中で放射の状態をどう計算するかにかかっている。2019 年に、この計算の規則が見つかった。それが島の公式である。島の公式は、放射のエントロピーを「放射そのもののエントロピー」でなく、ブラックホールの内部の一部(島)を放射に加えた領域の一般化エントロピーの極値で表す。この規則で計算すると、Page 曲線が半古典的な計算から出てくる。

この巻の言葉で言うと、この章で比べる2つの状態は、同じブラックホールに違う日記を落としたときの2つの放射の状態である。Hawking の計算では、2つの放射は日記の中身によらず同じ熱的な状態になり、その間の相対エントロピーはいつまでも 0 である。これが情報喪失のパラドックスを D で言い直したものになる。当てる D の性質は、第7部第6章(第7部第6章)のJLMS の関係(境界の相対エントロピー=エンタングルメント・ウェッジの中の相対エントロピー)と、第7部第1章(第7部第1章)で一般化第二法則を導いた D の単調性である。この2つを根拠にすると、重力のある系の相対エントロピーとエントロピーを「面積の項を足した一般化エントロピー」で測るべき理由が説明される。

出てくるものは3つある。1つ目は島の公式そのもので、Page 時間に極値曲面が「島なし」から「島あり」へ入れ替わって Page 曲線が出ることを、蒸発するブラックホールの簡単な模型で確かめる。2つ目は、2次元の重力(JT 重力)のブラックホールに重力のない浴をつないだ模型で島の位置を実際に求め、島が地平面のわずかに外まで張り出すこと、その張り出しの量がスクランブリング時間になることを示す。3つ目は、島の公式がなぜ正しいかの説明で、エントロピーをレプリカ(状態の複製)で計算すると、重力の経路積分に複製どうしをつなぐ新しい鞍点(レプリカ・ワームホール)が加わることを、乱数の状態の模型で式に書く。最後に、統計力学で習う S=kB(ln⁡Z+β⟨E⟩)S=k_{\mathrm B}(\ln Z+\beta\langle E \rangle ) や1次相転移の自由エネルギーの折れ曲がりと、この章の計算を並べる。

この章のエントロピーはすべて無次元(nat)で書く。ブラックホールのエントロピーは SBH/kB=A/(4ℓP2)S_{\mathrm{BH}}/k_{\mathrm B}=A/(4\ell_{\mathrm P}^2)、ℓP2=Gℏ/c3\ell_{\mathrm P}^2=G\hbar/c^3(Planck 長の2乗)である。部分系 XX の von Neumann エントロピー S(ρ^X)S(\hat\rho_X) を S(X)S(X) と略して書き、時空の中の量子場(重力子を含む)の von Neumann エントロピーを Sbulk(X)S_{\mathrm{bulk}}(X) と書く。島は I\mathcal I、放射は RR、ブラックホールの側は BB と書き、相互情報量の I(A;B)I(A;B) と字を分ける。7.7.4 節と 7.7.5 節の模型の計算だけは ℏ=1\hbar=1・光速 =1=1・kB=1k_{\mathrm B}=1 とし、その節の冒頭で断る。重力の計算(Hawking 放射・極値曲面の存在・鞍点の構成)は原論文と「解析力学から様々な理論分野を組み立てる」の結果を引き、何を仮定して何を計算したのかを毎回書く。

設定:ブラックホールと浴と放射

純粋状態の物質が重力で崩れてブラックホールができ、Hawking 放射を出して蒸発していく場面を考える。放射の行き先をはっきりさせるため、ブラックホールの遠くに重力の無視できる領域(浴)をつなぎ、出てきた放射はすべて浴へ流れ込んで集められるとする。時刻 tt までに浴に集まった放射を RR、それ以外(ブラックホールとその近く)を BB と呼ぶ。全体の時間発展がユニタリなら、全体の状態 ∣Ψ(t)⟩BR| \Psi(t) \rangle _{BR} は純粋状態のままで、

S(R)=S(B)(7.7.1)S(R)=S(B)\tag{7.7.1}

が成り立つ(純粋状態の2つの部分系のエントロピーは等しい。第3部第2章)。

Hawking の計算の放射の状態

第5部第12章(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第12章)で見たとおり、Hawking の計算は、崩壊でできた古典的な時空の上で量子場の真空がどう変わるかを Bogoliubov 変換で追うものだった。外へ出ていく各モードは、地平面の内側の相手のモードと2モードスクイーズド状態をなし、外のモードだけを見ると温度 THT_{\mathrm H} の熱状態になる(第7部第2章の式 (7.2.5))。この計算で得られる放射の状態を ρ^RHawk(t)\hat\rho_R^{\mathrm{Hawk}}(t) と書く。これは時刻 tt までのブラックホールの質量の履歴だけで決まり、ブラックホールを作った物質の細かい中身にはよらない。

そこで、ブラックホールに2通りの日記 ψ1\psi_1、ψ2\psi_2(互いに直交する2つの状態)を落とした2つの世界を比べる。Hawking の計算では、どちらの世界でも放射の状態は同じ ρ^RHawk(t)\hat\rho_R^{\mathrm{Hawk}}(t) になるので

D(ρ^RHawk,(1)(t) ∥ ρ^RHawk,(2)(t))=0(すべての t)(7.7.2)D\bigl(\hat\rho_R^{\mathrm{Hawk},(1)}(t)\,\big\|\,\hat\rho_R^{\mathrm{Hawk},(2)}(t)\bigr)=0\qquad(\text{すべての }t)\tag{7.7.2}

である。放射をどれだけ集めても、どんな測定をしても日記を見分けることはできない。ブラックホールが蒸発しきった後には放射しか残らないので、日記の情報は宇宙から消えたことになる。これが S. W. Hawking が 1976 年に指摘した情報喪失のパラドックスである1S. W. Hawking (1976), Physical Review D 14, 2460。下の脚注へ。相対エントロピーで言えば、「最初は完全に見分けられた2つの状態(D=∞D=\infty)が、時間発展の後に見分けられなくなる(D=0D=0)」ということで、ユニタリな時間発展は D を変えないので、これはユニタリ性と両立しない。

ユニタリ性が要求すること:Page 曲線を D で読む

全体がユニタリに発展するなら、式 (7.7.1) により S(R)S(R) はブラックホールの側のエントロピー S(B)S(B) に等しく、S(B)S(B) は BB の状態空間の次元の対数を超えない。外から見たブラックホールは eA/(4ℓP2)\mathrm{e}^{A/(4\ell_{\mathrm P}^2)} 個の状態を持つ量子系である、と仮定する(この仮定は「ブラックホールのエントロピーは状態の数を数えている」という読みで、第7部第1章で議論した)。すると

S(R)≤min⁡{S(ρ^RHawk(t)), A(t)4ℓP2}(7.7.3)S(R)\le\min\Bigl\{S\bigl(\hat\rho_R^{\mathrm{Hawk}}(t)\bigr),\ \frac{A(t)}{4\ell_{\mathrm P}^2}\Bigr\}\tag{7.7.3}

になる。最初の項は、Hawking の状態が放射の取りうる状態の中でエントロピー最大のもの(熱状態)であることから出る。A(t)A(t) は時刻 tt の地平面の面積で、蒸発とともに小さくなる。第7部第3章の Page 曲線(式 (7.3.11))は、乱数の状態でこの上限がほぼ等号で達成されることを示したものだった。2つの項が等しくなる時刻が Page 時間 tPt_{\mathrm P} である。

この折り返しは相対エントロピーで言い直すことができる。dd 次元の系の任意の状態 ρ^\hat\rho について、完全に混ざった状態 π^=1/d\hat\pi=\mathbf 1/d との相対エントロピーは

D(ρ^ ∥ π^)=Tr⁡ρ^ln⁡ρ^−Tr⁡ρ^ln⁡1d=ln⁡d−S(ρ^)(7.7.4)D(\hat\rho\,\|\,\hat\pi)=\operatorname{Tr}\hat\rho\ln\hat\rho-\operatorname{Tr}\hat\rho\ln\frac{\mathbf 1}{d}=\ln d-S(\hat\rho)\tag{7.7.4}

である。放射の取りうる状態空間を dRd_R 次元とみなし、Hawking の状態をその上の完全に混ざった状態 π^R\hat\pi_R で置き換えた簡単な模型(第7部第3章の qubit の模型)では、S(R)=ln⁡dR−D(ρ^R ∥ π^R)S(R)=\ln d_R-D(\hat\rho_R\,\|\,\hat\pi_R) になる。Page 時間の前は D(ρ^R ∥ π^R)≈0D(\hat\rho_R\,\|\,\hat\pi_R)\approx0 で、放射は Hawking の状態と見分けがつかない。Page 時間の後は D(ρ^R ∥ π^R)≈ln⁡dR−A(t)/(4ℓP2)D(\hat\rho_R\,\|\,\hat\pi_R)\approx\ln d_R-A(t)/(4\ell_{\mathrm P}^2) と増えていき、放射は Hawking の状態からはっきり外れる。Hawking の計算は、この D を最初から最後まで 0 と計算していることになる。

日記の情報についても同じことが成り立つ。2つの日記を等確率で落とすとき、放射に含まれる日記の情報は Holevo 量

χR=S(ρˉR)−12[S(ρ^R(1))+S(ρ^R(2))]=12[D(ρ^R(1) ∥ ρˉR)+D(ρ^R(2) ∥ ρˉR)],ρˉR=12(ρ^R(1)+ρ^R(2))(7.7.5)\chi_R=S\bigl(\bar\rho_R\bigr)-\tfrac12\bigl[S(\hat\rho_R^{(1)})+S(\hat\rho_R^{(2)})\bigr] =\tfrac12\bigl[D(\hat\rho_R^{(1)}\,\|\,\bar\rho_R)+D(\hat\rho_R^{(2)}\,\|\,\bar\rho_R)\bigr],\qquad \bar\rho_R=\tfrac12(\hat\rho_R^{(1)}+\hat\rho_R^{(2)})\tag{7.7.5}

で測られる(第3部第7章)。Hawking の計算では χR=0\chi_R=0 のままである。ユニタリ性が成り立てば、蒸発しきった後の放射は全体の純粋状態を担うので χR=ln⁡2\chi_R=\ln2 に達していなければならない。

図

図 7.7.1 この章の設定。ブラックホール(黒)から出た Hawking 放射は浴に集められて RR になる。RR の各モードは地平面の内側の相手のモードともつれている。Page 時間の後は、内側の相手を含む領域(島 I\mathcal I、青)を RR に加えた領域で放射のエントロピーを計算する、というのが島の公式である

この章の問いは、半古典的な重力の中のどんな規則によって、Hawking の状態 ρ^RHawk\hat\rho_R^{\mathrm{Hawk}} でなく本当の ρ^R\hat\rho_R のエントロピーと D が計算されるか、である。答えを先に書くと、本当の S(R)S(R) は、RR に島 I\mathcal I を加えた領域で計算した一般化エントロピーの極値で与えられる(図 7.7.1)。次の節でその道具をそろえる。

例題 7.7.1 qubit の模型で日記の Holevo 量が立ち上がる時刻 ★★

オリジナルブラックホールを N=10N=10 個の qubit とし、1 qubit の日記 ∣j⟩| j \rangle(j=0,1j=0,1)を落とした後の状態を、乱数で選んだ等長写像 V^:C2→C2N\hat V:\mathbb{C}^2\to\mathbb{C}^{2^N} で V^∣j⟩\hat V| j \rangle とする。最初の mm 個の qubit を放射 RR、残りの N−mN-m 個をブラックホール BB とする。dA≤dBd_A\le d_B のとき乱数の純粋状態の部分系のエントロピーの平均はPage の近似 ⟨S⟩≈ln⁡dA−dA/(2dB)\langle S \rangle \approx\ln d_A-d_A/(2d_B) で与えられる(第2部第3章の式 (2.3.22)(第7部第3章の式 (7.3.6)))。日記を等確率で落とすときの放射の Holevo 量 χR\chi_R の平均を、m=3m=3、55、88 で求めよ。ただし ρˉR\bar\rho_R は、日記と最大にもつれた参照系 QQ を加えた Q⊗(N qubit)Q\otimes({N}\text{ qubit}) の純粋状態の RR への周辺で、その平均エントロピーも同じ近似で書けるとしてよい。

解答

ρ^R(j)\hat\rho_R^{(j)} は 2N2^N 次元の乱数の純粋状態の、2m2^m 次元の部分系への周辺である。ρˉR\bar\rho_R は参照系 QQ を加えた 2N+12^{N+1} 次元の純粋状態の周辺で、RR の相手は QQ と BB を合わせた 2N+1−m2^{N+1-m} 次元の系である。したがって

⟨χR⟩≈⟨S⟩(2m,2N+1−m)−⟨S⟩(2m,2N−m).\langle \chi_R \rangle \approx\langle S \rangle (2^m,2^{N+1-m})-\langle S \rangle (2^m,2^{N-m}).

2m≤N2m\le N のときはどちらも dA=2md_A=2^m が小さい方で、ln⁡2m\ln2^m が打ち消し合い

⟨χR⟩≈2m2⋅2N−m−2m2⋅2N+1−m=22m2N+2=22m−N−2.\langle \chi_R \rangle \approx\frac{2^m}{2\cdot2^{N-m}}-\frac{2^m}{2\cdot2^{N+1-m}}=\frac{2^{2m}}{2^{N+2}}=2^{2m-N-2}.

m=3m=3 で 2−6=0.01562^{-6}=0.0156、m=5m=5 で 2−2=0.252^{-2}=0.25 である。2m>N+12m>N+1 のときは BB(や Q⊗BQ\otimes B)の方が小さく、

⟨χR⟩≈[ln⁡2N+1−m−2N+1−m2⋅2m]−[ln⁡2N−m−2N−m2⋅2m]=ln⁡2−2N−2m−1\langle \chi_R \rangle \approx\Bigl[\ln2^{N+1-m}-\frac{2^{N+1-m}}{2\cdot2^m}\Bigr]-\Bigl[\ln2^{N-m}-\frac{2^{N-m}}{2\cdot2^m}\Bigr]=\ln2-2^{N-2m-1}

で、m=8m=8 では ln⁡2−2−7=0.6853\ln2-2^{-7}=0.6853 になる。Page の厳密な平均の式で計算した値(0.01540.0154、0.24970.2497、0.68510.6851)と、乱数で等長写像を選んだ数値(verify)もこれに合う。放射が全体の半分(m=5m=5)を超えるまでは日記の情報はほとんど放射に出ず、超えると急に ln⁡2\ln2 に近づく。Hawking の計算の χR=0\chi_R=0 と食い違い始めるのは Page 時間である。

1 S. W. Hawking (1976), Physical Review D 14, 2460。

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