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比べる2つの状態:境界の状態と内部の状態

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第7部 第6章 ホログラフィーと量子誤り訂正
目次
  1. AdS 時空と境界
  2. 辞書と符号部分空間
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第7部 第6章 §7.6.1 ★★★ AdS/CFT を辞書として使い、内部の低エネルギーの状態が境界の Hilbert 空間の部分空間(符号部分空間)に等長写像で埋め込まれていると読む

第7部第5章までは、漸近的に平坦な時空のブラックホールを、外から見える放射と地平面の内側の自由度とに分けて読んできた。この章は舞台を負の宇宙項を持つ時空(反 de Sitter 時空、AdS)に移す。AdS では、重力を含む内部(バルク)の理論が、その時空の境界に住む重力を含まない場の量子論(共形場理論、CFT)と同じものになるという対応(AdS/CFT 対応)が知られている1J. Maldacena (1998), Adv. Theor. Math. Phys. 2, 231。分配関数の対応は S. S. Gubser, I. R. Klebanov, A. M. Polyakov (1998), Phys. Lett. B 428, 105 と E. Witten (1998), Adv. Theor. Math. Phys. 2, 253。下の脚注へ。この対応がなぜ成り立つかはこの章では問わない。対応を「内部の言葉で書いた量を境界の言葉に訳す辞書」として受け取り、その辞書が情報の言葉でどういう構造をしているかを調べる。

比べる2つの状態は、境界の一部 AA に制限した2つの状態 ρ^A,σ^A\hat\rho_A,\hat\sigma_A と、それに対応する内部の領域 aa に制限した2つの状態 ρ^a,σ^a\hat\rho_a,\hat\sigma_a である。当てる性質は、Jafferis–Lewkowycz–Maldacena–Suh(JLMS)の等式 D(ρ^A ∥ σ^A)=D(ρ^a ∥ σ^a)D(\hat\rho_A\,\|\,\hat\sigma_A)=D(\hat\rho_a\,\|\,\hat\sigma_a) と、データ処理不等式の等号の条件(Petz の定理)である。この2つから、境界の領域 AA だけで内部の領域 aa の演算子を書き直せること(エンタングルメント・ウェッジの再構成)が出る。出てくるものは3つある。1つ目は、境界のエンタングルメント・エントロピーが内部の極小曲面の面積で与えられるという Ryu–Takayanagi(RT)公式で、第5部第1章の面積則の幾何版になっている。2つ目は、内部の1点の演算子が境界の互いに重ならない複数の領域で書けるという一見の矛盾が、量子誤り訂正符号では当たり前の性質だということ(Almheiri–Dong–Harlow)である。3つ目は、第3部第9章の [[5,1,3]][[5,1,3]] 符号から作る完全テンソルを並べた網(HaPPY 符号)で、RT 公式と再構成が小さな有限次元の模型として確かめられることである。

この章の対数は自然対数(nat)とする。重力の強さは、Newton 定数と ℏ\hbar と光速から作る Planck 長 ℓP\ell_{\mathrm P} でまとめて書き(d+1d+1 次元の時空では面積の次元を持つ ℓPd−1\ell_{\mathrm P}^{d-1} が現れる)、光速は式に出さない。文字 cc は境界の CFT の中心電荷に使う(第5部第1章と同じ)。AdS の曲率半径を ℓ\ell、時間座標を長さの次元を持つ x0x^0 と書く。面積は領域の名前 AA と衝突するので Area⁡(⋅)\operatorname{Area}(\cdot) と書く。Pauli 行列は X,Y,ZX,Y,Z と書く。

AdS 時空と境界

d+1d+1 次元の AdS 時空の一部は、Poincaré 座標 (x0,z,x)(x^0,z,\bm{x})(z>0z>0、x∈Rd−1\bm{x}\in\mathbb{R}^{d-1})で

ds2=ℓ2z2((dx0)2−dz2−dx2)(7.6.1)\mathrm{d} s^2=\frac{\ell^2}{z^2}\bigl((\mathrm{d} x^0)^2-\mathrm{d} z^2-\mathrm{d}\bm{x}^2\bigr)\tag{7.6.1}

と書ける(計量の符号は記法の正本どおり (+,−,−,−)(+,-,-,-))。時間 x0x^0 を固定した面の計量は ℓ2(dz2+dx2)/z2\ell^2(\mathrm{d} z^2+\mathrm{d}\bm{x}^2)/z^2 で、これは負の定曲率を持つ双曲空間である。3次元(d=2d=2)では時間一定面は Poincaré 上半平面そのものになる。

この計量の性質で、この章が使うものは2つある。1つ目は、(z,x)→(λz,λx)(z,\bm{x})\to(\lambda z,\lambda\bm{x}) が計量を変えない等長変換であることで、境界の座標 x\bm{x} のスケール変換が内部の等長変換になっている。境界の理論がスケール不変(共形不変)であることの内部の姿である。2つ目は、境界 z=0z=0 が無限に遠いことである。z0z_0 から z=εz=\varepsilon まで zz に沿って測った長さは ℓln⁡(z0/ε)\ell\ln(z_0/\varepsilon) で、ε→0\varepsilon\to0 で発散する。そこで内部に切断の面 z=εz=\varepsilon を置くと、これは境界の場の量子論の短距離の切断(格子定数)ε\varepsilon に対応する。境界の短い距離が内部の境界の近く、境界の長い距離が内部の深い所に対応するので、内部の動径方向 zz は境界の長さのスケールを並べた軸と読める(図 7.6.1)。

図

図 7.6.1 Poincaré 座標の時間一定面(d=2d=2)。境界の区間 AA の両端を結ぶ測地線(半円)γA\gamma_A が RT 公式の曲面で、AA と γA\gamma_A が囲む内部の領域 aa がエンタングルメント・ウェッジの時間一定面である。短い区間の測地線は浅く、長い区間の測地線は深くまで届く。

辞書と符号部分空間

AdS/CFT の辞書のうち、この章が使う項目は次の3つである。第一に、内部の重力の結合の弱さは境界の自由度の多さに対応する。3次元の AdS では、漸近的な対称性の代数から、境界の CFT の中心電荷が

c=3ℓ2ℓP(7.6.2)c=\frac{3\ell}{2\ell_{\mathrm P}}\tag{7.6.2}

になる(Brown–Henneaux の関係2J. D. Brown, M. Henneaux (1986), Commun. Math. Phys. 104, 207。ℏ=1\hbar=1 と光速を 1 にした単位では c=3ℓ/(2G)c=3\ell/(2G) と書かれる。下の脚注へ)。重力が古典的に扱える ℓ≫ℓP\ell\gg\ell_{\mathrm P} は、境界では c≫1c\gg1 の理論に当たる。第二に、内部の重力の古典解(AdS 自身・その中のブラックホール)は境界の状態に対応し、内部で少しの粒子を励起した状態は、その周りの境界の状態に対応する。第三に、境界の対称性の群と内部の等長変換の群は同じものである。第二の項目から、AdS の中でブラックホールが作られて蒸発する過程も、境界の CFT のユニタリな時間発展で書かれる。したがって辞書を受け入れる限り、情報は失われない。これは 第7部第2章の3つの立場のうち「放射に出る」を支持するが、内部の言葉で情報がどう外へ出るかは辞書だけからは分からない。この章の符号の見方と 第7部第7章の島の公式(第7部第7章の式 (7.7.10))が、その問いに内部の言葉で答える。

第二の項目を量子情報の言葉で言い直す。ある古典解の周りで、エネルギーが小さく、重力の反作用で背景が大きく変わらない内部の状態だけを集めた Hilbert 空間を Hcode\mathcal{H}_{\mathrm{code}} と書く。その状態は境界の Hilbert 空間 HCFT\mathcal{H}_{\mathrm{CFT}} の状態に1対1に対応し、重ね合わせと内積も保たれるので、対応は等長写像

V^:Hcode→HCFT,V^†V^=1code(7.6.3)\hat V:\mathcal{H}_{\mathrm{code}}\to\mathcal{H}_{\mathrm{CFT}},\qquad \hat V^\dagger\hat V=\mathbf 1_{\mathrm{code}}\tag{7.6.3}

で書ける。V^\hat V の像 C=V^Hcode\mathcal C=\hat V\mathcal{H}_{\mathrm{code}} は境界の Hilbert 空間のごく小さな部分空間で、これを符号部分空間と呼ぶ。第3部第9章の言葉では、Hcode\mathcal{H}_{\mathrm{code}} が論理的な自由度、境界の場が物理的な自由度、V^\hat V が符号化の写像である。

比べる2つの状態はこの上に置く。内部の状態 ρ^,σ^\hat\rho,\hat\sigma(Hcode\mathcal{H}_{\mathrm{code}} の上の密度行列)を符号化した境界の状態 V^ρ^V^†\hat V\hat\rho\hat V^\dagger、V^σ^V^†\hat V\hat\sigma\hat V^\dagger を境界の領域 AA に制限したものを ρ^A,σ^A\hat\rho_A,\hat\sigma_A と書く。内部も、AA に対応する領域 aa(7.6.3節で定める)とその残り aˉ\bar a に分け(Hcode=Ha⊗Haˉ\mathcal{H}_{\mathrm{code}}=\mathcal{H}_a\otimes\mathcal{H}_{\bar a})、ρ^a=Tr⁡aˉρ^\hat\rho_a=\operatorname{Tr}_{\bar a}\hat\rho などと書く。この章の問いは、AA に残った区別のつきやすさ D(ρ^A ∥ σ^A)D(\hat\rho_A\,\|\,\hat\sigma_A) と、aa に残った区別のつきやすさ D(ρ^a ∥ σ^a)D(\hat\rho_a\,\|\,\hat\sigma_a) がどういう関係にあるか、である。

例題 7.6.1 動径方向は長さのスケールの軸 ★★

オリジナル3次元の AdS の時間一定面 ds2=ℓ2(dz2+dx2)/z2\mathrm{d} s^2=\ell^2(\mathrm{d} z^2+\mathrm{d} x^2)/z^2 を考える。

  1. (1) (z,x)→(λz,λx)(z,x)\to(\lambda z,\lambda x)(λ>0\lambda>0)で線素が変わらないことを示せ。
  2. (2) xx を固定して z=z0z=z_0 から切断 z=εz=\varepsilon まで zz に沿って測った長さを求めよ。
  3. (3) 切断を ε→ε/2\varepsilon\to\varepsilon/2 に下げると (2) の長さはいくら増えるか。境界の理論の言葉でこの増分を説明せよ。
解答

(1) dz→λdz\mathrm{d} z\to\lambda\mathrm{d} z、dx→λdx\mathrm{d} x\to\lambda\mathrm{d} x、z2→λ2z2z^2\to\lambda^2z^2 なので、ℓ2(λ2dz2+λ2dx2)/(λ2z2)\ell^2(\lambda^2\mathrm{d} z^2+\lambda^2\mathrm{d} x^2)/(\lambda^2z^2) は元の線素に等しい。

(2) dx=0\mathrm{d} x=0 の線に沿って ds=ℓ dz/z\mathrm{d} s=\ell\,\mathrm{d} z/z。よって長さは ∫εz0ℓ dz/z=ℓln⁡(z0/ε)\int_\varepsilon^{z_0}\ell\,\mathrm{d} z/z=\ell\ln(z_0/\varepsilon)。ε→0\varepsilon\to0 で対数的に発散する。

(3) ℓln⁡(2z0/ε)−ℓln⁡(z0/ε)=ℓln⁡2\ell\ln(2z_0/\varepsilon)-\ell\ln(z_0/\varepsilon)=\ell\ln2。切断を半分にするたびに、どの深さ z0z_0 から測っても同じ ℓln⁡2\ell\ln2 の層が1枚足される。境界の言葉では、格子定数を半分にして短い距離の自由度を1段階足すことに当たる。(1) のスケール不変性により、どの段階を足しても内部では同じ厚さの層になる。動径方向は、境界の長さのスケールを対数で並べた軸になっている。

1 J. Maldacena (1998), Adv. Theor. Math. Phys. 2, 231。分配関数の対応は S. S. Gubser, I. R. Klebanov, A. M. Polyakov (1998), Phys. Lett. B 428, 105 と E. Witten (1998), Adv. Theor. Math. Phys. 2, 253。

2 J. D. Brown, M. Henneaux (1986), Commun. Math. Phys. 104, 207。ℏ=1\hbar=1 と光速を 1 にした単位では c=3ℓ/(2G)c=3\ell/(2G) と書かれる。

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