解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第8章 §4.8.5 ★★★ t=−iτ と置くと eiS/ℏ は実数の重み e−SE/ℏ になる。周期 βℏ の閉じた経路の和が Z=Tre−βH^ で、高温では古典の ∫dqdpe−βH/(2πℏ) に戻る
虚数の時間と Euclid の作用
時間発展の演算子 e−iH^t/ℏ で t=−iτ(τ は実数)と置くと、e−H^τ/ℏ になる。τ=βℏ(β は逆温度。この章では T を時間の長さに使うので、温度の字は使わず β だけで書く)とすれば、これはカノニカル分布の演算子 e−βH^ である(第3部第3章)。経路積分の側では、作用の中の時間を同じく虚数にする。dt=−idτ、dq/dt=idq/dτ なので
iS=i∫[2m(dtdq)2−V]dt=i∫[−2m(dτdq)2−V](−idτ)=−∫[2m(dτdq)2+V]dτ
となる。そこでEuclid の作用
SE[q]=∫0τ[2m(dτ′dq)2+V(q)]dτ′(4.8.27)
を定義すると、eiS/ℏ=e−SE/ℏ で、
KE(qf,qi;τ)=⟨qf∣e−H^τ/ℏ∣qi⟩=∫q(0)=qiq(τ)=qfDqe−SE[q]/ℏ(4.8.28)
となる。前因子は (m/2πℏϵ)N/2 で実数である。Euclid の作用では V の前の符号が L=2mq˙2−V と逆で、全体は 2mq˙2+V の「エネルギーの形」をしている。重み e−SE/ℏ は正の実数で、作用の大きな経路ほど小さい。振動による打ち消し合いが無くなり、被積分関数は確率の重みとして読むことができる。
δSE=0 の条件は md2q/dτ2=+V′(q) で、ポテンシャルを逆さにした −V の中の Newton の運動方程式である。第4部第7章で、トンネルの確率の指数 Θ=∫∣p∣dx/ℏ が「虚数の時間の中の古典運動」の作用で決まることを示した(第4部第7章)。その運動は SE の停留点で、停留位相の代わりに e−SE/ℏ の最大点の近くを評価する Laplace の方法を使うと、トンネルの振幅が e−SE/ℏ の形で出る。障壁を越える虚数の時間の古典解はインスタントンと呼ばれる。
分配関数は閉じた経路の和
分配関数 Z=Tre−βH^ を位置の固有状態で跡を取って書くと
Z=∫dqKE(q,q;βℏ)=∮q(βℏ)=q(0)Dqe−SE[q]/ℏ(4.8.29)
となる。始点と終点が同じで、その点 q についても積分するので、虚数の時間の長さ βℏ を周期とする閉じた経路すべての和になる。温度が高いほど閉じた経路の周期 βℏ は短い。
調和振動子では、式 (4.8.23) に T=−iτ を入れると sinωT=−isinhωτ、cosωT=coshωτ で
KE(qf,qi;τ)=2πℏsinhωτmωexp[−2ℏsinhωτmω((qf2+qi2)coshωτ−2qfqi)](4.8.30)
になる。指数の肩は、−V の中の古典の経路 q(τ′)=[qisinhω(τ−τ′)+qfsinhωτ′]/sinhωτ の Euclid の作用 SE,cl を −ℏ で割ったものに等しい。式 (4.8.30) は Mehler の核と呼ばれる。
高温の極限は古典の分配関数
βℏ が短いと、閉じた経路は始点 q から遠くへ離れることができない。自由粒子の核の幅から、経路の広がりは
λT=m2πβℏ2
の程度である(熱的 de Broglie 波長。添字の T は温度 1/(kBβ) で、この章の時間の長さ T とは別)。V がこの長さの間でほとんど変わらなければ、経路の上の V を始点の値 V(q) で置き換えてよく、
KE(q,q;βℏ)≈2πβℏ2me−βV(q)=λT1e−βV(q)
となる。一方、∫2πℏdpe−βp2/2m=m/(2πβℏ2) なので、
Z≈∫2πℏdqdpe−βH(q,p)(4.8.31)
を得る。第3部第3章の古典の分配関数で、相空間の体積を h=2πℏ で割る測度まで含めて戻る。量子の効果は、閉じた経路が広がる λT の範囲で V が一定でないことによる。
例題 4.8.5 調和振動子の分配関数を閉じた経路で求める ★★
オリジナル
- (1) 式 (4.8.30) の対角成分 KE(q,q;βℏ) を q について積分し、Z=1/[2sinh(βℏω/2)] を示せ。エネルギー準位 En=ℏω(n+21) の和 ∑ne−βEn と一致することを確かめよ。
- (2) 古典の分配関数 Zcl を式 (4.8.31) で求め、比 Z/Zcl を x=βℏω の関数で書け。x=0.1,1,5 での値と、x→0 の展開の最初の補正を求めよ。
- (3) ヘリウム4(m=6.646×10−27kg)の 1K での λT を求め、液体ヘリウムの原子間の距離(約 0.36nm)と比べよ。
解答
(1) 対角成分の指数は、qf=qi=q として (2q2coshx−2q2)=2q2(coshx−1) なので−ℏmωsinhxcoshx−1q2=−ℏmωtanh2xq2 である(x=ωβℏ。coshx−1=2sinh2(x/2)、sinhx=2sinh(x/2)cosh(x/2) を使った)。Gauss 積分で πℏ/(mωtanh(x/2)) になり、前因子と掛けて
Z=2πℏsinhxmω⋅mωtanh(x/2)πℏ=2sinhxtanh(x/2)1=4sinh2(x/2)1=2sinh(x/2)1.
一方、∑n≥0e−x(n+1/2)=e−x/2/(1−e−x)=1/(ex/2−e−x/2) で、同じ値である。経路積分では個々の準位を一度も求めずに、閉じた経路の和から準位の和が出た。これは第3部第3章の式 (3.3.23) を準位の和で出したものと一致する。
(2) Zcl=∫2πℏdqdpe−β(p2/2m+mω2q2/2)=2πℏ1β2πmβmω22π=βℏω1 である。比は
ZclZ=sinh(x/2)x/2=1−24x2+O(x4)
で、x=0.1 で 0.99958、x=1 で 0.95952、x=5 で 0.41321 である。最初の補正 −x2/24 は ℏ2 に比例し、閉じた経路が広がる λT の範囲でポテンシャルが曲がっている分の補正である。
(3) λT=2πβℏ2/m=hβ/(2πm) に 1/β=kB×1K を入れるとλT=6.626×10−34/2π×6.646×10−27×1.381×10−23=8.73×10−10m で、約 0.87nm である。原子間の距離の2倍を超えるので、閉じた経路は隣の原子のところまで広がり、高温の極限 (4.8.31) は使うことができない。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの λT/ℓ→0(熱的 de Broglie 波長がポテンシャルの変化の長さ ℓ に比べて短い。調和振動子では βℏω→0) | 証明 要確認(調和振動子では厳密な式の展開で確かめた。一般の V で補正が ℏ2 の冪の漸近級数になる前提は原論文で未確認) | 行き先 近似の数理 第7章
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