解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第12章 §1.12.5 ★★★ 変換が時刻を含むと新しい Hamiltonian は K=H+∂F/∂t。K=0 にする変換を探すことが Hamilton–Jacobi 方程式になる
相空間の作用
定理 1.12.3 は時刻を陽に含まない変換に限っていた。動く座標系への取り替えのように変換そのものが時刻で変わるときは、新しい Hamiltonian K がどうなるかを決め直す必要がある。そのために、第1部第8章の式 (1.8.7) の相空間の作用
S[q,p]=∫t1t2(i∑piq˙i−H(q,p,t))dt(1.12.17)
を使う(q と p を互いに独立な関数とみなす)。第8章で示したとおり、両端で δq と δp を 0 にとったときの S[q,p] の停留条件は Hamilton 方程式q˙i=∂H/∂pi, p˙i=−∂H/∂qi である。
K=H+∂F/∂t
いま変換が時刻を含み、各時刻で正準変換になっているとする。式 (1.12.11) は各時刻で成り立つので、母関数も時刻を含む F1(q,Q,t) になる。時刻を動かした分も含めて全微分をとると、dF1=∑ipidqi−∑iPidQi+(∂F1/∂t)dt。そこで新しい Hamiltonian を
K=H+∂t∂F1(1.12.18)
と定めると、
i∑pidqi−Hdt=i∑PidQi−Kdt+dF1(q,Q,t)
が成り立つ。これを相空間の任意の経路に沿って dt で割ると、2つの作用の被積分関数は時間の全微分 dtdF1 だけ違う。
∫t1t2(i∑piq˙i−H)dt=∫t1t2(i∑PiQ˙i−K)dt+F1t1t2.
両端で (q,p) を固定すると、変換が1対1なので両端の (Q,P) も固定され、最後の端の値は経路をずらしても変わらない。したがって2つの作用は同じ経路で停留し、新しい変数 (Q,P) は K の Hamilton 方程式 Q˙i=∂K/∂Pi, P˙i=−∂K/∂Qi に従う。
F2=F1+∑iQiPi などの Legendre 変換は時刻の微分に触れないので、∂F2/∂t(q,P を止める)は ∂F1/∂t(q,Q を止める)と同じ値になり、どの型でも K=H+∂F/∂t である。時刻を含まない変換では ∂F/∂t=0 で、K は H を書き直しただけのもの(定理 1.12.3)に戻る。
例:調和振動子を一様な回転に直す
調和振動子の F1=21mωq2cotQ
時刻を含まない母関数 F1(q,Q)=21mωq2cotQ を調和振動子 H=p2/(2m)+21mω2q2 に使う。式 (1.12.12) から
p=∂q∂F1=mωqcotQ,P=−∂Q∂F1=2sin2Qmωq2.
第2式から q=2P/(mω)sinQ、それを第1式に入れて p=2mωPcosQ。これを H に代入すると
K=H=2m2mωPcos2Q+21mω2⋅mω2Psin2Q=ωP.(1.12.19)
K は Q を含まないので P˙=0、Q˙=ω。新しい変数では運動は「P が一定のまま、Q が一定の速さで増える」だけになる。P=E/ω はエネルギーを角振動数で割った量で、Q=ωt+Q0 を戻すと q=2E/(mω2)sin(ωt+Q0) が出る。運動方程式を解く代わりに、運動を一様にする変数を母関数で探した。この P が作用変数、Q が角変数の最初の例で、一般の周期運動への拡張は 第1部第14章 で行う。
例題 1.12.5 動く座標系への取り替え ★★
オリジナル1自由度の粒子 H=p2/(2m)+V(q) を、速度 v で動く座標系で見る。母関数を
F2(q,P,t)=(q−vt)P+mvq−21mv2t
とする。
- (1) この母関数が作る変換を求めよ。
- (2) 新しい Hamiltonian K を求めよ。V=0 の場合と V=0 の場合で K の形を比べよ。
解答
(1) p=∂F2/∂q=P+mv, Q=∂F2/∂P=q−vt。位置を動く原点から測り、運動量から mv を引く変換(Galilei 変換)である。
(2) ∂F2/∂t=−vP−21mv2。p=P+mv, q=Q+vt を H に入れて
K=2m(P+mv)2+V(Q+vt)−vP−21mv2=2mP2+V(Q+vt).
V=0 なら K=P2/(2m) で、動く座標系でも自由粒子は自由粒子の Hamiltonian を持つ。∂F2/∂t の項 −vP がなければ P2/(2m)+vP+21mv2 が残り、Q˙=P/m+v という誤った式になる。V=0 では K が Q+vt を通して時刻を陽に含む。止まった座標系で動かないポテンシャルは、動く座標系では動いて見えるからである。このとき K は保存しない。エネルギーが保存するかどうかは、どの変数で見るかによる。
K=0 にする変換
正準変換で運動を簡単にするとき、最も簡単な場合は新しい Hamiltonian が K=0 になる場合である。K=0 なら Q˙i=0, P˙i=0 で、新しい変数はすべて定数になる。時刻 t の点 (q,p) を出発点 (q0,p0) に戻す変換、つまり流れの逆 φt−1 がちょうどそれである。K=0 の条件を式 (1.12.18) で書くと、F2(q,P,t) について pi=∂F2/∂qi を H に入れて
H(q,∂q∂F2,t)+∂t∂F2=0(1.12.20)
になる。これは F2 についての偏微分方程式で、Hamilton–Jacobi 方程式と呼ばれる(第1部第13章)。運動方程式(常微分方程式)を解く問題が、1つの偏微分方程式を解く問題に置き換わる。
例題 1.12.6 自由粒子を出発点に戻す変換 ★★
オリジナル自由粒子 H=p2/(2m) に、母関数 F2(q,P,t)=qP−2mP2t を使う。
- (1) 変換を求め、Q と P が何を表すかを答えよ。
- (2) K を求めよ。また F2 が式 (1.12.20) を満たすことを確かめよ。
- (3) m=1 で時刻 t=1.5 に点 (q,p)=(3,2) にいる粒子の Q, P を求めよ。
解答
(1) p=∂F2/∂q=P, Q=∂F2/∂P=q−Pt/m=q−pt/m。P は運動量そのもの、Q は時刻 t の位置から運動を逆にたどった時刻 0 の位置(出発点)である。
(2) K=H+∂F2/∂t=2mp2−2mP2=0(p=P なので)。∂F2/∂q=P を H に入れると P2/(2m) で、∂F2/∂t=−P2/(2m) と足して 0。F2 は式 (1.12.20) を満たす。
(3) Q=3−2⋅1.5=0, P=2。この粒子は時刻 0 に原点を運動量 2 で出発した。Q と P はどの時刻で計算しても同じ値になる。
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