解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第12章 §1.12.6 ★★ 「Hamilton 方程式の形を保つ変換」という教科書の定義との違い、量子力学のユニタリ変換、数値計算との対応
「形を保つ変換」という定義
学部の解析力学の教科書の多くは、正準変換を「Hamilton 方程式の形を保つ変換」と定義し、すぐに相空間の作用を使って
δ∫(i∑piq˙i−H)dt=0とδ∫(i∑PiQ˙i−K)dt=0が同じ経路を選ぶ(1.12.21)
ことを要求し、2つの被積分関数の差を dF/dt とおいて母関数を導く。この章の1.12.5節の計算と同じ式が出るが、出発点が違う。この章は {Qi,Pj}=δij を定義に取り、そこから式 (1.12.11) を導いた。教科書の書き方には、定義として次の2点の注意が要る。
第一に、「形を保つ」は特定の H についてではなく、すべての H について要求しないと定義にならない。特定の H だけなら、正準でない変換でも形が保たれることがある(次の例題)。第二に、すべての H について形を保つ変換には、正準変換のほかに Q=λq, P=p のような定数倍の変換が入る。この変換では {Q,P}=λ で、K=λH とおくと Q˙=λq˙=λ∂H/∂p=∂K/∂P, P˙=−∂H/∂q=−λ∂H/∂Q=−∂K/∂Q と形が保たれる。時間の目盛りを 1/λ 倍に取り直したのと同じで、面積は λ 倍に変わる。教科書によっては、式 (1.12.21) の2つの被積分関数の比に定数 λ を許してこれを「拡大された正準変換」として含める。この本では λ=1 のもの、すなわち括弧と面積を保つものだけを正準変換と呼ぶ。量子力学の交換関係 [q^,p^]=iℏ に対応するのは λ=1 の場合だけだからである。
例題 1.12.7 1つの H でだけ形を保つ変換 ★
オリジナル変換 Q=q, P=p3(p>0)を考える。
- (1) {Q,P} を求め、正準変換でないことを確かめよ。
- (2) 自由粒子 H=21p2 では、K=43P4/3 とおくと (Q,P) が Hamilton 方程式の形に従うことを示せ。
- (3) 調和振動子 H=21(p2+q2) では、(Q,P) が従う方程式を Hamilton 方程式の形に書ける K が存在しないことを示せ。
解答
(1) {Q,P}=1⋅3p2−0=3p2。1 でないので正準変換でない。
(2) 古い変数では q˙=p, p˙=0。よって Q˙=p=P1/3, P˙=3p2p˙=0。一方 K=43P4/3 なら ∂K/∂P=P1/3, −∂K/∂Q=0。両方とも一致する。
(3) 古い変数では q˙=p, p˙=−q なので Q˙=P1/3, P˙=3p2p˙=−3P2/3Q。もし Q˙=∂K/∂P, P˙=−∂K/∂Q となる K があれば、2階偏微分の順序を入れ替えて ∂Q˙/∂Q=∂2K/∂Q∂P=−∂P˙/∂P が成り立たなければならない。左辺は ∂P1/3/∂Q=0、右辺は ∂(3P2/3Q)/∂P=2P−1/3Q で、一般に 0 でない。したがってそのような K は存在しない。「形を保つ」を定義に使うなら、すべての H について要求しなければならない理由がこれである。
Lagrangian の側の座標変換との関係
Lagrangian で解析力学を学ぶと、Euler–Lagrange 方程式が一般化座標の取り替え q→Q(q,t) で形を変えないことを習う(第1部第2章・第1部第4章)。相空間ではこれは点変換 F2=∑iQi(q,t)Pi にあたる。正準変換はそれより広く、座標と運動量を混ぜる変換(入れ替え・調和振動子の流れ・作用角変数)を含む。Hamilton 形式に移る利点の1つは、変数を取り替えられる範囲がこのように広がることにある。
量子力学のユニタリ変換
量子力学では、ユニタリ演算子 U^ で Q^=U^†q^U^, P^=U^†p^U^ と取り替えても
[Q^,P^]=U^†[q^,p^]U^=iℏ
が保たれる。これは {Q,P}=1 を保つ正準変換の量子版で、記法の正本の対応 {⋅,⋅}→[⋅,⋅]/(iℏ) のもとで定義 1.12.1 と同じ形をしている。時間発展 U^(t)=e−iH^t/ℏ を演算子に当てたものが Heisenberg 描像 A^H(t)=U^(t)†A^U^(t) で、定理 1.12.4「流れは正準変換」の量子版にあたる。無限小の生成子 G には U^=e−iϵG^/ℏ が対応する。Heisenberg 描像は 第4部第3章、Poisson 括弧から交換子への移り方は 第4部第1章 で扱う。
数値計算の授業との対応
数値計算の授業では、常微分方程式の解法を「1歩の誤差が Δt の何乗か」で比べることが多い。第1部第8章の例題 1.8.5 の前進 Euler 法とシンプレクティック Euler 法はどちらも1歩の誤差が O(Δt2) で、その意味では同じ精度だった。それでも長い時間では、正準でない Euler 法はエネルギーが指数関数的に増え、正準な方法は増えなかった。Hamilton 系を長く追う計算(惑星の軌道・分子動力学)で正準な刻み方(シンプレクティック積分法)が選ばれる理由はここにある。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com