解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第5章 §3.5.2 ★★★ エネルギー E 以下の状態が占める相空間の体積 Φ(E,λ) は、運動がエルゴード的なら、パラメータをゆっくり変えても保たれる(Hertz の定理)
エネルギー以下の状態の数
自由度 f の系で、エネルギーが E 以下の領域の相空間の体積を、前の章までの数え方(第3部第2章)で無次元にして
Φ(E,λ)=hfN!1∫θ(E−H(q,p;λ))dfqdfp(3.5.4)
と書く。θ は階段関数(正で 1、負で 0)、h は Planck 定数で、N! は同種粒子の入れ替えを数え直さないための因子である(区別できる振動子の集まりでは N! を付けない)。Φ は「エネルギー E 以下の状態の数」と読むことができる。E で微分したもの
g(E,λ)=∂E∂Φ=hfN!1∫δ(E−H(q,p;λ))dfqdfp(3.5.5)
は状態密度で(第3部第2章の g(E) と同じもの)、エネルギー面 H=E の「厚み 1 あたりの体積」である。前の章の状態数 W(E) は、幅 ΔE の殻の中の状態の数 g(E,λ)ΔE にあたる。
自由度 1 では、H≤E は等エネルギー線が囲む領域で、その面積は 2πJ なので
Φ(E,λ)=h2πJ=ℏJ(f=1)(3.5.6)
になる。Φ は作用変数の多自由度への広げ方の1つで、自由度1では J/ℏ そのものである。一方、f が大きいときに作用変数を自由度ごとに J1,…,Jf と定義することは、運動が自由度ごとに分離できる場合にしかできない。粒子どうしが衝突する気体ではこの分離が成り立たないが、Φ はどんな H にも定義することができる。
Φ を λ で微分する
エネルギー面の上での平均(ミクロカノニカル平均)を
⟨A⟩E=g(E,λ)1⋅hfN!1∫A(q,p)δ(E−H(q,p;λ))dfqdfp(3.5.7)
と書く。Φ を λ で微分すると、階段関数の微分がデルタ関数になり、∂θ(E−H)/∂λ=−δ(E−H)∂H/∂λ なので
∂λ∂Φ=−g(E,λ)⟨∂λ∂H⟩E(3.5.8)
を得る。E を止めて λ を動かしたときの体積の減り方は、エネルギー面の上での ∂H/∂λ の平均と状態密度の積である。∂H/∂λ>0 の所では、λ を増やすとその点のエネルギーが上がり、E 以下の領域から押し出されるからである。
Hertz の定理
定理 3.5.1(相空間の体積の断熱不変性 ★★★)
各 λ について、エネルギー面 H(q,p;λ)=E の上の運動がエルゴード的(長い時間の平均がミクロカノニカル平均 (3.5.7) に等しい)であるとする。λ を、系がエネルギー面の上を一巡りする時間に比べてゆっくり変えると、Φ(E(t),λ(t)) は一定に保たれる。
理由
時間の長さ Δt を、エネルギー面の上で時間平均がミクロカノニカル平均に近づくのに十分長く、しかもそのあいだの λ の変化 Δλ=λ˙Δt が小さい程度に短くとる。式 (3.5.2) をこの時間で積分すると、エネルギーの変化は ΔE=λ˙∫∂H/∂λdt で、積分の中身を時間平均で置き換え、さらにエルゴード性でミクロカノニカル平均に置き換えると
ΔE=⟨∂λ∂H⟩EΔλ
になる。このあいだの Φ の変化は、式 (3.5.5) と (3.5.8) から
ΔΦ=∂E∂ΦΔE+∂λ∂ΦΔλ=g(E,λ)⟨∂λ∂H⟩EΔλ−g(E,λ)⟨∂λ∂H⟩EΔλ=0
である。区間をつなげば、λ が有限だけ変わるあいだも Φ は一定である。
この議論は P. Hertz が与えた1P. Hertz(1910)、Annalen der Physik 33、225頁および537頁。。証明の中で使ったのは「軌道に沿った ∂H/∂λ の時間平均が、エネルギー面の上の平均に等しい」ことだけである。自由度1ではエネルギー面は1本の閉曲線で、運動は自動的にその上を一巡りするので、この仮定は周期運動であることそのものになり、定理は第1部第14章の J の断熱不変性に戻る。自由度が大きいときは、エネルギー面の上を一様に巡るという仮定(エルゴード性)を別に置く必要がある(第3部第2章)。粒子どうしが衝突してエネルギーを配り直す気体は、この仮定を使う典型である。個々の粒子の作用変数は衝突のたびに変わるが、全体の Φ は保たれる。
Liouville の定理から見る
エネルギー E0 以下の領域 Σ0={H(⋅;λ0)≤E0} の点をすべて Hamilton 方程式で動かす。第3部第1章の Liouville の定理により、λ をどう動かしても、Σ0 の像の体積は Σ0 の体積のままである(第3部第1章)。変化がゆっくりなら、境界のエネルギー面の上の点はどれも同じだけエネルギーを受け取り、像は新しい H(⋅;λ1) のエネルギー面で囲まれた領域にほぼ一致する。そのエネルギーを E1 とすれば、体積が同じなので Φ(E1,λ1)=Φ(E0,λ0) である。変化が速いと、境界の点が受け取るエネルギーがばらばらになり、像はエネルギー面で囲まれた領域にならない。この場合は3.5.4節で扱う。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ϵ=τmix∣λ˙∣/λ→0(エネルギー面を巡る時間 τmix のあいだの λ の相対変化が小さい) | 証明 要確認(自由度1では作用変数の断熱不変性として条件付きで成り立つ。多自由度では運動のエルゴード性を仮定した議論で、ずれの大きさの評価は原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章
例題 3.5.2 振動子の集まりの Φ ★★
オリジナル同じ角振動数 ω の区別できる調和振動子 N 個の集まり H=∑i=1N(2mpi2+21mω2qi2) を考える。E 以下の体積は、第3部第2章の3.2.7節の総合問題 (1) で求めた Φ(E,ω)=N!1(ℏωE)N である。
- (1) 式 (3.5.8) を使って ⟨∂H/∂ω⟩E=E/ω を示し、Hertz の定理から、ω をゆっくり変えると E/ω が一定になることを導け。
- (2) N=3, E=10ℏω のとき Φ を求めよ。ω をゆっくり 2 倍にした後の E と Φ はいくらか。
解答
(1) ∂Φ/∂ω=−NΦ/ω、g=∂Φ/∂E=NΦ/E なので、式 (3.5.8) から ⟨∂H/∂ω⟩E=−g∂Φ/∂ω=NΦ/ENΦ/ω=ωE。直接計算しても、∂H/∂ω=∑imωqi2=ω2∑i21mω2qi2 で、エネルギー面の上では位置エネルギーの合計の平均が E/2 なので(q と p の役割が対称なため)、同じ E/ω になる。Hertz の定理で Φ が一定なら、Φ の式から E/ω が一定である。これは各振動子の Ji=Ei/ω が一定であることと同じ結論だが、振動子どうしが弱くエネルギーを交換していても E/ω は保たれる。
(2) Φ=103/3!=166.7。ω を 2 倍にすると E=20ℏω0(ω0 は初めの角振動数)で、Φ=(20ℏω0/2ℏω0)3/3!=166.7 のまま変わらない。
1 P. Hertz(1910)、Annalen der Physik 33、225頁および537頁。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com