解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第5章 §3.5.1 ★★★ パラメータ λ を含む H(q,p;λ) を選ぶ。λ を動かすとエネルギーは ∂H/∂λ を通してだけ変わり、それが仕事になる
第1部第14章では、自由度1の周期運動で、外から変えるパラメータ λ を周期に比べてゆっくり変えると作用変数 J=2π1∮pdq が保たれることを示した(第1部第14章)。2πJ はエネルギー E 以下の状態が相空間で占める面積である。同じ章の終わりで、箱の中の粒子の J が保たれることから単原子理想気体の断熱変化の式 PV5/3= 一定を出し、「J が保たれることは、統計力学の言葉ではエントロピーが変わらないことにあたる」と予告した。この章はその予告を回収する。
気体の粒子は互いに衝突してエネルギーをやり取りするので、粒子1つ1つの作用変数は保たれない。それでも保たれる量が1つあり、それはN 粒子の相空間全体で「エネルギー E 以下の領域」が占める体積 Φ(E,λ) である(P. Hertz の定理)。この章で選ぶのは、外から動かせるパラメータ λ(体積・ばね定数・磁場)を含む Hamiltonian H(q,p;λ) である(3.5.1節)。当てる道具は第1部第14章の断熱不変性と第3部第1章の Liouville の定理で、作用変数を相空間の体積に広げる(3.5.2節)。出てくるものは3つある。第一に、S=kBlnΦ と置くと温度・圧力・第一法則 dE=TdS−PdV がそのまま出て、ゆっくりした変化ではエントロピーが一定になる(3.5.3節)。第二に、パラメータを速く変えるとエントロピーが増える(3.5.4節)。第三に、量子力学では断熱定理が量子数を保つので、状態の数を数えるエントロピーが同じ理由で保たれる(3.5.5節)。最後に、熱力学の授業で習う準静的断熱変化・Poisson の式・断熱消磁と並べ(3.5.6節)、まとめと総合問題で終える。
記号は記法の正本に従う。この章には温度 T が出てくるので、周期・時間の長さに T を使わない。運動エネルギーは ∑a∣pa∣2/(2m) と書き、エントロピー S は熱力学のエントロピー(kB 込み)だけに使う。この章では作用 S[q] を使わない。
パラメータを含む H
ピストンのついたシリンダーに入った気体を考える。粒子の Hamiltonian は
H(q,p;V)=a=1∑N2m∣pa∣2+a<b∑u(∣ra−rb∣)+a=1∑NUwall(ra;V)(3.5.1)
で、最後の項は容器の壁のポテンシャルである。ピストンの位置、すなわち体積 V を動かすと壁のポテンシャルが動き、Hamiltonian が変わる。同じように、ばね定数を変えられる調和振動子の集まりでは角振動数 ω が、磁場の中のスピンの集まりでは磁場の強さ B が、外から動かすパラメータである。これらをまとめて λ と書き、Hamiltonian を H(q,p;λ) とする。λ は系の外の誰かが時刻の関数 λ(t) として決め、系の運動方程式を解いて決まるものではない。
λ が時刻によって変わると、H は時刻を陽に含む。Hamilton 方程式に従う軌道に沿った H の変化は、第1部第8章のとおり
dtdH(q(t),p(t);λ(t))=i∑(∂qi∂Hq˙i+∂pi∂Hp˙i)+∂λ∂Hλ˙=∂λ∂Hλ˙(3.5.2)
である(第1部第8章)。括弧の中は Hamilton 方程式を代入すると打ち消し合う。系のエネルギーは、パラメータを動かしたときだけ、∂H/∂λ を通して変わる。λ を λ0 から λ1 まで動かすあいだに系がされる仕事は
W=∫t0t1∂λ∂H(q(t),p(t);λ(t))λ˙dt(3.5.3)
で、エネルギーの変化 H(t1)−H(t0) に等しい(記法の正本のとおり、系がされる仕事を正とする)。この仕事は軌道の上の値 ∂H/∂λ を積分したものなので、同じ λ(t) でも初期値ごとに違う値になる。
一般化された力
−∂H/∂λ は、系がパラメータを押し返す力の大きさを表す。λ が体積 V なら、−∂H/∂V は粒子が壁を押す力を壁の面積で割ったもの、すなわちその瞬間に壁が受ける圧力である。λ がばねの角振動数 ω なら −∂H/∂ω=−∑imωqi2、λ が磁場なら −∂H/∂B は磁気モーメントになる。どれも軌道に沿って時々刻々と変わり、粒子が壁に当たった瞬間だけ値を持つ圧力のように激しく揺れる。熱力学の圧力は、この揺れる量を長い時間で平均したものである。どの平均をとればよいかが、次の節の主題になる。
例題 3.5.1 動く壁で跳ね返る粒子 ★★
オリジナル1次元の区間 0<x<L に質量 m の粒子が1つあり、両端の壁で弾性的に跳ね返る。左の壁は止まっていて、右の壁を一定の速さ u で外向きに動かす(L˙=u>0)。粒子の速さは v≫∣u∣ とする。
- (1) 速度 v>0 で右の壁に当たった粒子の、跳ね返った後の速度を求め、1回の衝突でのエネルギーの変化を m,u,v で表せ。
- (2) 右の壁に当たる頻度は v/(2L) である。u の1次までで、エネルギーの変化率 dE/dt を E, L, u で表せ。EL2 が一定に保たれることを示せ。
- (3) m=1, v=10, L=1, u=0.1 のとき、(1) の1回の変化と (2) の変化率を数で求め、−L2Eu と比べよ。
解答
(1) 壁と一緒に動く座標では粒子の速度は v−u で、弾性衝突で −(v−u) になる。元の座標に戻すと v′=−(v−u)+u=2u−v。エネルギーの変化は 21m(2u−v)2−21mv2=2mu(u−v) で、u>0(壁が逃げる)なら負である。
(2) u の1次では1回の変化は −2muv。頻度 v/(2L) を掛けて dtdE=−2muv⋅2Lv=−Lmv2u=−L2Eu。u=L˙ なので dtdE=−L2EdtdL、すなわち dtdln(EL2)=0 で、EL2 が一定になる。これは第1部第14章の箱の作用変数 J=L2mE/π が一定であることと同じ式である。式 (3.5.2) の言葉では、壁が受ける平均の力が −∂H/∂L の時間平均 2E/L で、それと壁の速さ u の積がエネルギーの減り方になっている。
(3) 1回の変化は 2⋅1⋅0.1⋅(0.1−10)=−1.98。頻度は 10/2=5 で、変化率は −9.90。E=50 なので −L2Eu=−10.0 で、差の 0.1 は u2 の項 2mu2×5 である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com