Wannier 関数の局在と Chern 数
AI 生成・木下が未勉強
近似の数理 第12章 §12.6 ★★★ tight-binding の基底を厳密に作れるかどうかは Bloch 関数を k について滑らかに選べるかで決まり、その障害が Chern 数である
Wannier 関数
12.2 節の tight-binding は、原子軌道という「本当の基底ではないもの」で近似した。これに対して、1本のバンドの固有空間を厳密に張る局在した基底を作れるか、と問うことができる。孤立したバンド の Bloch 関数 から
を作ると、 はバンド の固有空間の正規直交基底になる(G. H. Wannier (1937), Phys. Rev. 52, 191)。 なので、1つの関数 の並進でできている。この基底で を書くと、行列要素は だけの関数で、 の Fourier 係数そのものになる。つまり Wannier 基底での は厳密な tight-binding 行列であり、ホッピングが遠くまでどれだけ速く減るかは の滑らかさで決まる。ここまでは A 型の射影(バンドの固有空間へ)で誤差は無い。近似が入るのは、遠くのホッピングを捨てるときである。
(12.18) の位相 は自由に選べる。Bloch 関数は各 で位相を除いてしか決まらないからである(ゲージの自由度)。 の局在はこの選び方に強く依存する。
命題 12.7(滑らかさと局在 ★★)
が周期的で、帯状の領域 まで解析的に延長できるなら、任意の について は(単位胞の上の の意味で) より速く減る。逆に が指数的に減るなら、位相を選んだ Bloch 関数は帯状の領域で解析的である。
証明の骨格
(12.18) は についての周期関数の Fourier 係数なので、1次元で書けば の積分路を に平行移動する。周期性から両端の寄与は打ち消し合い、被積分関数に が出る(Paley–Wiener の定理)。
これは第4章の「解の滑らかさが基底展開の収束の速さを決める」と同じ関係を、 と の Fourier の組で見たものである。
1次元:いつでも局在させられる
孤立したバンドでは、スペクトル射影 (ギャップの中を回る周回積分)が について解析的である(第3章の Riesz 射影を の族にしたもの。ギャップがあるので積分路を によらずに取れる)。射影が解析的でも、その値域から単位ベクトルを「周期的かつ解析的に」選べるかは別の問題である。1次元では平行移動で位相を決め、1周したときに付く位相(Zak 位相)を1周にわたって均等に戻せばよいので、いつでも選べる。W. Kohn (1959), Phys. Rev. 115, 809 は反転対称な1次元の周期ポテンシャルで、指数的に局在した Wannier 関数の存在を示した。
1次元のトポロジーは局在を妨げず、Wannier 関数の中心の位置に現れる。中心 は Zak 位相 を用いて ( を法として)と書け( を法とし、符号は位相の向きの取り方による。J. Zak (1989), Phys. Rev. Lett. 62, 2747)、反転対称な鎖では は か に限られる。 のとき中心は原子の上でなく結合の中点に来る。この「中心がずれた」状態を有限の鎖で切ると、端に半端な電荷と端の状態が残る(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部第8章)。
2次元・3次元:Chern 数が障害になる
2次元では事情が変わる。Bloch 関数の位相を BZ(トーラス)全体で滑らかに選べるかは、Berry 曲率の積分
が かどうかで決まる。 なら、BZ の境界を1周する位相の巻き数が でなく、どう選んでもどこかで位相が飛ぶ。これは Thouless が磁場の中のバンドについて指摘した(D. J. Thouless (1984), J. Phys. C 17, L325)。数学の定理としては次の形になっている。
定理 12.8(局在の二分法 ★★★)
で、孤立したバンドの族について次が成り立つ。
- 指数的に局在した(合成)Wannier 関数が存在することと、すべての Chern 数が であることは同値である(C. Brouder et al. (2007), Phys. Rev. Lett. 98, 046402;G. Panati (2007), Ann. Henri Poincaré 8, 995)。時間反転対称性があれば Chern 数は で、局在した Wannier 関数が取れる。
- Chern 数が でなければ、どう位相を選んでも となる(D. Monaco, G. Panati, A. Pisante and S. Teufel (2018), Commun. Math. Phys. 359, 61)。
中間は無い。指数的に局在させられるか、位置の2乗の期待値すら有限にできないかのどちらかである。tight-binding の言葉に直すと、Chern 数が でない1本のバンドは、そのバンドだけを残した短距離のホッピングの模型では書けない。これがトポロジーが tight-binding を阻むということの正確な意味である。注意したいのは、Chern 絶縁体の標準的な模型(2軌道の Qi–Wu–Zhang 模型)自体は短距離の tight-binding 模型だということである。2本のバンドを合わせた Chern 数の和は なので、2本の族としては局在した基底(元の2つの軌道)がある。阻まれるのは、そのうち1本だけを切り出して局在基底で書くことである。この模型の下のバンドの Chern 数は、 で 、 で である(検算スクリプト。符号は向きの取り方に依存する)。バルクの Chern 数が端の状態の数と等しいこと(バルクと端の対応)は、相互作用の無いギャップのある系で証明されている(Y. Hatsugai (1993), Phys. Rev. Lett. 71, 3697)。
例題 12.6 2原子の鎖の Wannier 関数の減り方と中心 ★★★
オリジナル単位胞に2つの軌道 A, B を持つ鎖で、胞の中のホッピングを 、隣の胞へのホッピングを (、)とする。 の行列は、(格子定数 )で、下のバンドの固有ベクトルは と選べる。
- が について周期的で、実軸の上で解析的であることを確かめよ。
- と書き、 を の解析接続とみなす。特異点(分岐点)が にあることを示し、Wannier 関数の B 成分が の速さで減る(多項式の因子を除く)ことを導け。
- の数値計算では、B 成分の大きさの隣どうしの比は で である。(2) と比べ、ギャップ が閉じる で局在の長さがどうなるか述べよ。
解答
(1) なので は周期的である。 なので実軸の上で は にならず、 は解析的である。 がギャップ の存在と同じ条件であることに注意する。
(2) は 、すなわち で になり、 は 、すなわち で になる。平方根の分岐点なので、 はこれらの点で解析的でない。どちらも実軸からの距離は で、その内側の帯では解析的である。命題 12.7 からWannier 関数の B 成分( の Fourier 係数)は の速さで減る。A 成分は定数 の Fourier 係数なので にだけある。
(3) では (2) の比は で、数値の との違いは平方根の分岐点が与える多項式の因子 (比で )で説明できる。局在の長さ は で のように発散する。ギャップが閉じる所で Wannier 関数が広がり、tight-binding 表示に要るホッピングの距離が長くなる。 と のどちらでも Wannier 関数は指数的に局在しているが、数値で求めた中心は でセルの境目(半整数)、 でセルの中(整数)にあり、Zak 位相の と に対応する(検算スクリプト)。
近似の裏付け
型 A(射影) | 小さいもの 孤立したバンドの族の固有空間(Wannier 関数の張る空間) | 証明 証明済み( の孤立したバンドの族で、指数的に局在した Wannier 基底があることと Chern 数がすべて であることが同値。Brouder ら 2007、Panati 2007。遠くのホッピングを捨てる誤差は Wannier 関数の減り方で決まる) | 行き先 近似の数理 第4章
ほかの巻では
- ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部第8章:SSH 鎖の端とソリトンにギャップ中央の準位が出る所を物理の側から読める。記号の対応:この章の は向こうの
- ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部第5章:Chern 数が0でない Haldane 模型で、端に一方向に進む状態が現れる所が読める
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