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限界:Lindblad 方程式に入らないもの、密度行列の構成が書けないもの

2026年10月17日13分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第6章 経路積分との合流:Feynman–Vernon の影響汎関数と、密度行列の構成の限界
目次
  1. Caldeira–Leggett 方程式は正値性を壊す
  2. 写像の半群の外にあるもの
  3. 密度行列の構成そのものの限界
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第4部 第6章 §4.6.5 ★★★ 高温の主方程式は Lindblad 形でなく、熱波長より狭い状態の正値性を壊す(Diósi の項で直る)。初めの相関・強い結合・記憶のある環境は写像の半群の外にあり、影響汎関数か大きな系の状態ベクトルに戻る必要がある

Caldeira–Leggett 方程式は正値性を壊す

第4部第5章の GKSL の定理によれば、完全正値な半群の生成子は Lindblad 形に限られる。(4.6.15) の摩擦の項 −iγ2ℏ[x^, {p^,ρ^}+]-\frac{\mathrm{i}\gamma}{2\hbar}\left[\hat x,\,\{\hat p,\hat\rho\}_+\right] はこの形に書けず、実際に正値性を壊す状態がある。不確定性の行列式 D=⟨x^2⟩⟨p^2⟩−C2D=\langle \hat x^2 \rangle \langle \hat p^2 \rangle -C^2(中心の期待値が 00 の状態で)を考えると、どの密度演算子でも D≥ℏ2/4D\ge\hbar^2/4(Robertson–Schrödinger の不等式)である。(4.6.16) から

dDdt=−2γD+2mγkBT⟨x^2⟩(4.6.23)\frac{\mathrm{d} D}{\mathrm{d} t}=-2\gamma D+2m\gamma k_{\mathrm B} T\langle \hat x^2 \rangle\tag{4.6.23}

が出る(調和な項は打ち消す)。最小不確定の状態 D=ℏ2/4D=\hbar^2/4 から始めると、dDdt=γ(−ℏ2/2+2mkBT⟨x^2⟩)\frac{\mathrm{d} D}{\mathrm{d} t}=\gamma(-\hbar^2/2+2m k_{\mathrm B} T\langle \hat x^2 \rangle ) で、⟨x^2⟩<ℏ2/(4mkBT)=λth2/2\langle \hat x^2 \rangle <\hbar^2/(4m k_{\mathrm B} T)=\lambda_{\mathrm{th}}^2/2 なら DD は ℏ2/4\hbar^2/4 を下回る。熱波長より狭い波束では、すぐに密度演算子でないものへ進む。摩擦は運動量の幅を縮めるが、位置の側の幅を広げる雑音が高温の極限で捨てられていることが原因である。

Diósi (1993), Europhys. Lett. 22, 1 は、Markov 近似を系統的に行うと次の次数で [p^, [p^, ρ^]]\left[\hat p,\,\left[\hat p,\,\hat\rho\right]\right] に比例する項が加わり、それで正値性が保たれることを示した。Diósi の式 (3) は、この章の流儀に直すと −κγ16mkBT[p^, [p^, ρ^]]-\kappa\frac{\gamma}{16m k_{\mathrm B} T}\left[\hat p,\,\left[\hat p,\,\hat\rho\right]\right] の形で、κ≥1\kappa\ge1 なら Lindblad 形になり、速度まで残す系統的な展開が与えるのは κ=4/3\kappa=4/3 である(Diósi の γ\gamma はこの章の γ/2\gamma/2)。この章では κ=1\kappa=1 の最小の係数 −γ16mkBT[p^, [p^, ρ^]]-\frac{\gamma}{16m k_{\mathrm B} T}\left[\hat p,\,\left[\hat p,\,\hat\rho\right]\right] を「Diósi の項」と呼んで使う(命題 4.6.3)。この項は d⟨x^2⟩dt\frac{\mathrm{d} \langle \hat x^2 \rangle }{\mathrm{d} t} に γℏ2/(8mkBT)\gamma\hbar^2/(8m k_{\mathrm B} T) を足す。

命題 4.6.3(Diósi の項を足した Lindblad 形)

(4.6.15) に −γ16mkBT[p^, [p^, ρ^]]-\frac{\gamma}{16m k_{\mathrm B} T}\left[\hat p,\,\left[\hat p,\,\hat\rho\right]\right] を足した方程式は

dρ^dt=−iℏ[H^S+γ4{x^,p^}+, ρ^]+L^ρ^L^†−12{L^†L^,ρ^}+,\frac{\mathrm{d} \hat\rho}{\mathrm{d} t}=-\frac{\mathrm{i}}\hbar\left[\hat H_{\mathrm S}+\tfrac\gamma4\{\hat x,\hat p\}_+,\,\hat\rho\right]+\hat L\hat\rho\hat L^\dagger-\tfrac12\{\hat L^\dagger\hat L,\hat\rho\}_{+},

L^=μx^+iνLp^,μ=2mγkBTℏ,νL=γ8mkBT\hat L=\mu\hat x+\mathrm{i}\nu_{\mathrm L}\hat p,\quad \mu=\frac{\sqrt{2m\gamma k_{\mathrm B} T}}{\hbar},\quad \nu_{\mathrm L}=\sqrt{\frac{\gamma}{8m k_{\mathrm B} T}}

と同じで、したがって完全正値な半群を生成する。足す項の係数 γ/(16mkBT)\gamma/(16m k_{\mathrm B} T) は、μνL=γ/(2ℏ)\mu\nu_{\mathrm L}=\gamma/(2\hbar) を保って Lindblad 形にできる最小のものである。

証明

L^†L^=μ2x^2+νL2p^2+iμνL[x^, p^]=μ2x^2+νL2p^2−μνLℏ\hat L^\dagger\hat L=\mu^2\hat x^2+\nu_{\mathrm L}^2\hat p^2+\mathrm{i}\mu\nu_{\mathrm L}\left[\hat x,\,\hat p\right]=\mu^2\hat x^2+\nu_{\mathrm L}^2\hat p^2-\mu\nu_{\mathrm L}\hbar を使って散逸の項を展開すると

L^ρ^L^†−12{L^†L^,ρ^}+=−μ22[x^, [x^, ρ^]]−νL22[p^, [p^, ρ^]]+iμνL(p^ρ^x^−x^ρ^p^)+μνLℏρ^\begin{aligned} \hat L\hat\rho\hat L^\dagger-\tfrac12\{\hat L^\dagger\hat L,\hat\rho\}_+ &=-\tfrac{\mu^2}2\left[\hat x,\,\left[\hat x,\,\hat\rho\right]\right]-\tfrac{\nu_{\mathrm L}^2}2\left[\hat p,\,\left[\hat p,\,\hat\rho\right]\right]\\ &\quad+\mathrm{i}\mu\nu_{\mathrm L}(\hat p\hat\rho\hat x-\hat x\hat\rho\hat p)+\mu\nu_{\mathrm L}\hbar\hat\rho \end{aligned}

になる。μ2/2=mγkBT/ℏ2\mu^2/2=m\gamma k_{\mathrm B} T/\hbar^2 で雑音の項、νL2/2=γ/(16mkBT)\nu_{\mathrm L}^2/2=\gamma/(16m k_{\mathrm B} T) で Diósi の項が出る。摩擦の項は x^p^ρ^−ρ^p^x^=12[{x^,p^}+, ρ^]+iℏρ^\hat x\hat p\hat\rho-\hat\rho\hat p\hat x=\tfrac12\left[\{\hat x,\hat p\}_+,\,\hat\rho\right]+\mathrm{i}\hbar\hat\rho を使うと−iγ2ℏ[x^, {p^,ρ^}+]=iγ2ℏ(p^ρ^x^−x^ρ^p^)−iγ4ℏ[{x^,p^}+, ρ^]+γ2ρ^-\frac{\mathrm{i}\gamma}{2\hbar}\left[\hat x,\,\{\hat p,\hat\rho\}_+\right]=\frac{\mathrm{i}\gamma}{2\hbar}(\hat p\hat\rho\hat x-\hat x\hat\rho\hat p)-\frac{\mathrm{i}\gamma}{4\hbar}\left[\{\hat x,\hat p\}_+,\,\hat\rho\right]+\frac\gamma2\hat\rhoで、μνL=γ/(2ℏ)\mu\nu_{\mathrm L}=\gamma/(2\hbar) のとき第1項と第3項が上の2つの項に一致し、第2項が Hamiltonian の補正 γ4{x^,p^}+\frac\gamma4\{\hat x,\hat p\}_+ になる(verify で振動子の打ち切った基底の上で行列として照合)。係数の最小性:μ2\mu^2 を雑音の項で決めれば νL=γ/(2ℏμ)\nu_{\mathrm L}=\gamma/(2\hbar\mu) が決まり、Lindblad 演算子が1つのとき [p^, [p^, ⋅]]\left[\hat p,\,\left[\hat p,\,\cdot\right]\right] の係数は νL2/2\nu_{\mathrm L}^2/2 より小さくすることができない。

Diósi の項があると (4.6.23) に γℏ2⟨p^2⟩/(8mkBT)\gamma\hbar^2\langle \hat p^2 \rangle /(8m k_{\mathrm B} T) が加わり、D=ℏ2/4D=\hbar^2/4 のとき相加平均と相乗平均の不等式で2mkBT⟨x^2⟩+ℏ2⟨p^2⟩/(8mkBT)≥ℏ⟨x^2⟩⟨p^2⟩≥ℏ2/22m k_{\mathrm B} T\langle \hat x^2 \rangle +\hbar^2\langle \hat p^2 \rangle /(8m k_{\mathrm B} T)\ge\hbar\sqrt{\langle \hat x^2 \rangle \langle \hat p^2 \rangle }\ge\hbar^2/2 なので dDdt≥0\frac{\mathrm{d} D}{\mathrm{d} t}\ge0 になる。端の D=ℏ2/4D=\hbar^2/4 で等号が成り立つ状態があり、係数がちょうどぎりぎりであることがここでも分かる。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの ℏωc/(kBT)→0\hbar\omega_{\mathrm c}/( k_{\mathrm B} T)\to0 の次の次数まで(Markov 近似の系統的な展開) | 証明 条件付き(Diósi 1993 で前提を確認:Ohm 型で遮断 Ω\Omega が系の振動数より十分大きく、kBT≫ℏΩk_{\mathrm B} T\gg\hbar\Omega の高温で、加速度以上の時間微分を捨てる展開。低温で正しい定常状態を与える保証はない) | 行き先 近似の数理 第14章

例題 4.6.6 低温の振動子で正値性が壊れる ★★

オリジナルkBT=0.1 ℏω0k_{\mathrm B} T=0.1\,\hbar\omega_0 の熱浴の中の振動子が、初めに基底状態(⟨x^2⟩=ℏ/(2mω0)\langle \hat x^2 \rangle =\hbar/(2m\omega_0)、⟨p^2⟩=ℏmω0/2\langle \hat p^2 \rangle =\hbar m\omega_0/2、C=0C=0)にある。(4.6.15) での dDdt\frac{\mathrm{d} D}{\mathrm{d} t} を γℏ2\gamma\hbar^2 を単位に求め、Diósi の項を足したときの値と比べよ。dDdt=0\frac{\mathrm{d} D}{\mathrm{d} t}=0 になる温度はいくらか。

解答

(4.6.23) で D=ℏ2/4D=\hbar^2/4、2mkBT⟨x^2⟩=kBTℏ/ω0=0.1ℏ22m k_{\mathrm B} T\langle \hat x^2 \rangle = k_{\mathrm B} T\hbar/\omega_0=0.1\hbar^2 なのでdDdt=γ(−ℏ2/2+0.1ℏ2)=−0.4 γℏ2<0\frac{\mathrm{d} D}{\mathrm{d} t}=\gamma(-\hbar^2/2+0.1\hbar^2)=-0.4\,\gamma\hbar^2<0。DD はすぐに ℏ2/4\hbar^2/4 を下回り、(4.6.15) の解は密度演算子でなくなる。Diósi の項は γℏ2⟨p^2⟩/(8mkBT)=γℏ2⋅ℏω0/(16kBT)=0.625 γℏ2\gamma\hbar^2\langle \hat p^2 \rangle /(8m k_{\mathrm B} T)=\gamma\hbar^2\cdot\hbar\omega_0/(16 k_{\mathrm B} T)=0.625\,\gamma\hbar^2 を足し、dDdt=+0.225 γℏ2\frac{\mathrm{d} D}{\mathrm{d} t}=+0.225\,\gamma\hbar^2 になる。2つを足した γℏ2(−12+r+116r)\gamma\hbar^2(-\tfrac12+r+\tfrac1{16r})、r=kBT/(ℏω0)r= k_{\mathrm B} T/(\hbar\omega_0) は r=14r=\tfrac14 で最小値 00 を取る。基底状態は kBT=ℏω0/4k_{\mathrm B} T=\hbar\omega_0/4 でちょうど端に触れる。ただしこの温度は高温の展開の前提 kBT≫ℏω0k_{\mathrm B} T\gg\hbar\omega_0 から外れているので、Diósi の項は正値性を守るが定常状態の値まで正しくするわけではない。低温では第4.6.4節の厳密な扱いに戻る必要がある。

写像の半群の外にあるもの

第4部第5章は、環境を捨てた時間発展が CPTP 写像になるための前提として、初めに系と環境が相関を持たないことを置いた。この前提は影響汎関数 (4.6.6) でも同じで、初めの状態が積でなければ、環境の経路を先に積分しても系の初めの密度行列に掛かる形にまとまらない。系と熱浴を合わせた全体の熱平衡 e−βH^/Z\mathrm{e}^{-\beta\hat H}/Z から出発する実験(応答の測定はたいていこれ)では、初めの状態を虚時間の経路積分(第3部第6章、第3部第6章)で作り、実時間の2本の経路に虚時間の1本を足した3本の道で影響汎関数を計算する。この一般化は Grabert, Schramm and Ingold (1988), Phys. Rep. 168, 115 が与えた。

強い結合の熱平衡が系の Gibbs 状態でないことは、命題 4.6.2 (b) で見た。第4部第4章の部分トレースによる Gibbs 状態の導出は、相互作用のエネルギーを系と熱浴のエネルギーに比べて無視できることを使っていた。結合が強いと、縮約した熱平衡状態は全体の Tr⁡Ee−βH^/Z\operatorname{Tr}_{\mathrm E}\mathrm{e}^{-\beta\hat H}/Z のままで、系の Hamiltonian だけの指数関数に書くことができない。

記憶のある環境では、時刻 00 から tt への写像 Nt\mathcal N_t はどれも CPTP だが、それらは半群 Nt+s=NtNs\mathcal N_{t+s}=\mathcal N_t\mathcal N_s をなさない。例題 4.6.2 の干渉の戻りと例題 4.6.5 の冪の減衰がその例である。どの区間の写像も CPTP に分解できるかどうか(CP 分割可能性)と、情報が環境から系へ戻ることとの関係は、第V巻第14章(近似の数理 第14章)が強い結合の限界として扱っている。影響汎関数は記憶を核 ν(τ)\nu(\tau)、K(τ)K(\tau) に持つので、こうした場合も扱えるが、その代わり時間について局所的な微分方程式にはならない。

密度行列の構成そのものの限界

第4部の構成は、アンサンブルの統計を1つの密度演算子にまとめた。第4部第3章(第4部第3章)で見たとおり、同じ ρ^\hat\rho を与えるアンサンブルは1つでなく、1回1回の実験で何が起きたか(検出器が鳴った時刻の列など)は ρ^\hat\rho には書かれていない。個々の記録を知るには、Lindblad 方程式を確率的な純粋状態の軌道の平均に分解する(量子軌道、または unravelling と呼ぶ)か、環境まで含めた状態ベクトルに戻る必要がある。分解の仕方が1通りでないことは、アンサンブルの不定性の時間発展版である。

もう1つは計算の大きさである。dd 次元の系の密度行列は d2d^2 個の数を持ち、状態ベクトルの dd 個の2乗になる。多体系では dd 自体が粒子数について指数的に大きいので、密度行列の構成は開放系を書く言葉としては最も自然だが、計算の道具としては状態ベクトルより重い。実時間の2本の経路積分も、被積分関数が振動するために数値で直接評価するのが難しい(第3部第7章、第3部第7章 の実時間の測度の問題)。影響汎関数が厳密に使えるのは、環境が Gauss 型(振動子の集まり、または線形応答の範囲の環境)の場合に限られる。

木下の勉強ステータス

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