量子力学の様々な構成方法 第5部 第5章 §5.5.3 ★★ 4点の位相空間に Wootters の位相点の演算子を置くと、Bloch ベクトルが4つの値 Wqp=41(1+aqp⋅r) に写る。Rabi 振動の途中で負になり、∣r∣≤1/3 まで縮むと負になれない
連続の位相空間が無い系の Wigner 関数
2準位系は x^ と p^ を持たないので、ここまでの W(x,p) はそのままでは使えない。W. K. Wootters は 1987 年に、d 準位系(d が素数のとき)にd×d 点の離散の位相空間と Wigner 関数を作った1W. K. Wootters (1987), Ann. Phys. (N.Y.) 176, 1–21.。d=2 の場合を、連続の場合の性質(実数・規格化・直線に沿った和が測定の確率・状態と1対1)を手がかりに組み立てる。
位相空間は (q,p)∈{0,1}2 の4点である。各点に、2行2列のエルミート行列(位相点の演算子)
A^qp=21[1+(−1)qσz+(−1)pσx+(−1)q+pσy](5.5.10)
を置き、Wigner 関数を Wqp=21Tr(ρ^A^qp) で定める。連続の場合の W(x0,p0)=Tr(ρ^Π^x0,p0)/(πℏ)(ずらしたパリティ。第5部第4章)の Π^/(πℏ) の役を A^/2 が受け持つ。Bloch ベクトル r=Tr(ρ^σ) で書くと
Wqp=41[1+(−1)qrz+(−1)prx+(−1)q+pry]=41(1+aqp⋅r),aqp=((−1)p,(−1)q+p,(−1)q)(5.5.11)
である。4つのベクトル aqp は成分の積が +1 の (±1,±1,±1) で、Bloch 球に内接する立方体の頂点のうち1つおきの4つ、つまり正四面体の頂点をなす。異なる2点では a⋅a′=−1、同じ点では 3 なので、Tr(A^qpA^q′p′)=21(1+a⋅a′)=2δqq′δpp′ となり、4つの A^ は2行2列のエルミート行列の空間(実4次元)の直交基底である。したがって ρ^=∑q,pWqpA^qp と逆に戻せて、W と ρ^ は1対1に対応する(第5部第2章の連続の場合の対応と同じ形)。
連続の位相空間で「直線に沿った積分が1次結合 ax+bp の分布になる」ことに当たるのが、直線に沿った和である。4点の位相空間には平行な2本の直線の組が3つある。
p∑A^qp=1+(−1)qσz,q∑A^qp=1+(−1)pσx,q+p≡c∑A^qp=1+(−1)cσy
で、右辺はそれぞれ σz、σx、σy の固有射影の2倍である。よって q が一定の直線(縦線)での W の和は σz の測定の確率、p が一定の直線(横線)での和は σx の、対角線での和は σy の測定の確率になる。とくに σz∣e⟩=+∣e⟩ の向きでは
Pe=W00+W01=21+rz(5.5.12)
である。3つの測定は互いに偏りのない基底(どの基底の状態も他の基底で確率 21 ずつ)で、離散の位相空間の3方向の直線がそれに対応する。
Wqp は負になりうる。(5.5.11) が負になるのは aqp⋅r<−1 のときで、∣a∣=3 なので純粋状態(∣r∣=1)で r がある頂点の真反対を向くと最も負の値 41(1−3)=−0.183 になる。逆に ∣r∣≤1/3=0.577 ならどの a との内積も −1 以上で、W は4点とも非負である。連続の場合と同じく、負の値は純粋に近い状態にだけ現れ、混合が進むと消える。
Rabi 振動を4点で見る
共通例題②のハミルトニアン H^=−2ℏΔσz−2ℏΩσx で、∣g⟩(r=(0,0,−1))から出発する。Bloch ベクトルは r˙=h×r、h=(−Ω,0,−Δ) で回る(第2部第3章の Pauli 行列の Heisenberg 方程式の期待値)。共鳴(Δ=0)では r(t)=(0,−sinΩt,−cosΩt) で、(5.5.11) から
Wqp(t)=41[1−(−1)qcosΩt−(−1)q+psinΩt]
である。縦線 q=0 の和は 21(1−cosΩt)=sin2(Ωt/2) で、共通例題②の Pe の共鳴での形が出る。Δ=0 でも (5.5.12) はPe=(Ω/Ω′)2sin2(Ω′t/2)(Ω′=Ω2+Δ2)を与えることを検算した。
Ωt=π/4 では W00=41(1−2)=−0.104、W01=W11=0.25、W10=41(1+2)=0.604 で、1点が負である。共鳴の Rabi 振動では、r が y–z 面の大円を回り、Ωt が π/2 の整数倍の瞬間(r が座標軸に重なる瞬間)を除いて、いつもどこか1点が負になる。緩和を入れると(Lindblad 方程式。第4部第5章)r は球の内側へ縮み、∣r∣≤1/3 に入った後は負の値は現れない。
離散 Wigner 関数の選び方は1つではない。(5.5.10) の符号を変えた別の正四面体(成分の積が −1 の4頂点)を使っても、同じ3組の直線の性質を持つ Wigner 関数ができる。連続の場合の Wigner 関数が (W1)〜(W4) でほぼ一意に決まったのとは違い、2準位系では位相空間の向きの付け方の分だけ選択の自由が残る。ここでは共通例題②の答え Pe(t) が縦線の和として出ることを確かめるのにとどめ、一般確率論の状態空間としての Bloch 球は 第9部第4章に任せる。
例題 5.5.3 離調のある Rabi 振動の離散 Wigner 関数 ★★
オリジナルΔ=Ω(Ω′=2Ω)とし、∣g⟩ から出発する。
- (1) r(t) を求め、Pe の最大値を求めよ。
- (2) Ω′t=π/2 での r と、4点の Wqp の最小値を求めよ。
解答
(1) r は単位ベクトル n^=h/∣h∣=(−1,0,−1)/2 のまわりを角速度 Ω′ で回る。r0=(0,0,−1) を n^ に平行な部分(n^⋅r0)n^=(−21,0,−21) と垂直な部分 (21,0,−21) に分け、垂直な部分を n^×r0=(0,−1,0)/2 の向きへ回すと、θ=Ω′t として
r(t)=(−21+21cosθ, −2sinθ, −21−21cosθ).
Pe=21+rz=41−cosθ=21sin22θ で、共通例題②の (Ω/Ω′)2=21 と一致し、最大値は 21。
(2) θ=π/2 で r=(−21,−21,−21)、∣r∣=1。a=(1,1,1)(q=p=0)との内積が −21−21−21=−1.707 で最小なので、W00=41(1−1.707)=−0.177。ほかの3点は a⋅r=−21+21+21 などで正である。r が正四面体の頂点 (1,1,1)/3 の真反対 (−1,−1,−1)/3 に近いほど負の値は大きく、この時刻の −0.177 は最小値 −0.183 に近い。
1 W. K. Wootters (1987), Ann. Phys. (N.Y.) 176, 1–21.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com