量子力学の様々な構成方法 第6部 第3章 §6.3.4 ★★ 双一次の演算子の交換子はどちらの統計でも同じ形で閉じるが、対の項が入ると運動方程式の行列の符号が1か所変わり、ボース粒子は ε2−Δ2、フェルミ粒子は ε2+Δ2 になる
双一次の演算子と運動方程式
演算子の積の交換子は、2通りの恒等式
[A^B^,C^]=A^[B^,C^]+[A^,C^]B^=A^{B^,C^}+−{A^,C^}+B^(6.3.14)
で計算できる(右の形は、展開すると A^B^C^+A^C^B^−A^C^B^−C^A^B^ で左辺と一致する)。ボース粒子では左の形、フェルミ粒子では右の形を使うと、どちらでも
[c^i,c^j†c^k]=δijc^k,[a^i,a^j†a^k]=δija^k(6.3.15)
になる。粒子数を保つ2次のハミルトニアン H^=∑jkhjkc^j†c^k の Heisenberg 方程式は、どちらの統計でも
iℏdtdc^i=[c^i,H^]=k∑hikc^k(6.3.16)
で、1粒子の Schrödinger 方程式と同じ線形の方程式になる(第1章の場の Heisenberg 方程式 iℏ∂tψ^=hψ^ と同じ式。第6部第1章)。解は c^i(t)=∑kUik(t)c^k、U(t)=e−iht/ℏ で、統計は運動方程式に現れない。統計が現れるのは、この解を状態に当てて期待値をとるときである。これを 6.3.5 節で使う。
対を作る項
粒子数を保たない2次の項、つまり2個を同時に作る c^1†c^2† と2個を同時に消す c^2c^1 を入れると、統計の違いが運動方程式に現れる。1つのモードの中で対を作る項 c^†c^† は c^2=0 から0なので、フェルミ粒子の対には2つのモードが要る。2つのモードの模型
H^F=ε(c^1†c^1+c^2†c^2)+Δ(c^1†c^2†+c^2c^1),H^B=ε(a^1†a^1+a^2†a^2)+Δ(a^1†a^2†+a^2a^1)(6.3.17)
を比べる(ε>0、Δ>0 は実数。この Δ は対の強さで、共通例題②の離調ではない)。フェルミ粒子の形は、超伝導の BCS 理論で波数 k の上向きスピンと −k の下向きスピンの電子を対にする平均場のハミルトニアンの、1組の k の部分である(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部第4章)。ボース粒子の形は、光の2モードのスクイーズ(パラメトリック増幅)のハミルトニアンと同じ形である(光学と量子エレクトロニクス 第33章)。
(6.3.14) で交換子を計算すると、フェルミ粒子では
[c^1,c^1†c^2†]={c^1,c^1†}+c^2†−c^1†{c^1,c^2†}+=c^2†,[c^2†,c^2c^1]=c^1
で(c^1 と c^2c^1、c^2† と c^1†c^2† は交換する)、
iℏdtd(c^1c^2†)=(εΔΔ−ε)(c^1c^2†)(6.3.18)
になる。ボース粒子では [a^2†,a^2a^1]=−a^1 と符号が変わり、
iℏdtd(a^1a^2†)=(ε−ΔΔ−ε)(a^1a^2†)(6.3.19)
になる。違いは左下の成分の符号1つである。[a^2†,a^2]=−1 に対して {c^2†,c^2}+=+1 で、生成演算子と消滅演算子の順を入れ替えたときの符号の違いがそのまま現れている。固有値は、フェルミ粒子の行列がエルミートなので実数の ±EF、ボース粒子の行列はエルミートでないので
EF=ε2+Δ2,EB=ε2−Δ2(6.3.20)
である。Δ>ε ではボース粒子の固有値は純虚数 ±iΔ2−ε2 になり、演算子が時間とともに指数関数的に大きくなる。これは H^B が下に有界でなくなり、対を作るほどエネルギーが下がる不安定に当たる。フェルミ粒子では、各モードに1個しか入らないので対を作り続けることができず、どの Δ でも安定である。
Bogoliubov 変換
固有ベクトルから新しい消滅演算子を作る。フェルミ粒子では
γ^1=uc^1+vc^2†,γ^2=uc^2−vc^1†,u2=21(1+EFε), v2=21(1−EFε), uv=2EFΔ(6.3.21)
で、ボース粒子では
α^1=ua^1−va^2†,α^2=ua^2−va^1†,u2=21(EBε+1), v2=21(EBε−1), uv=−2EBΔ(6.3.22)
である。係数の組 (u,v)(フェルミ粒子)と (u,−v)(ボース粒子)は、(6.3.18)・(6.3.19) の行列の固有値 +E の左固有ベクトルで、iℏγ^˙1=EFγ^1、iℏα^˙1=EBα^1 を満たす(γ^2・α^2 も、(c^2,c^1†) の運動方程式から同じように出る)。新しい演算子がもとの代数を保つ条件は
{γ^1,γ^1†}+=u2+v2=1,[α^1,α^1†]=u2−v2=1(6.3.23)
である。フェルミ粒子では u=cosθ、v=sinθ と円の上に、ボース粒子では u=coshr、v=−sinhr と双曲線の上に乗る。異なる番号どうしの関係({γ^1,γ^2}+=uv−vu=0 など)も同じ計算で確かめられる。
逆に解いた c^1=uγ^1−vγ^2†、c^2=uγ^2+vγ^1† を H^F に入れ、新しい真空(γ^1,γ^2 で消える状態)での期待値をとると⟨c^1†c^1⟩=⟨c^2†c^2⟩=v2、⟨c^2c^1⟩=⟨c^1†c^2†⟩=−uv なので、基底エネルギーは
E0F=2εv2−2Δuv=ε−EF,E0B=2εv2+2Δuv=EB−ε(6.3.24)
である(ボース粒子も同じ計算で ⟨a^2a^1⟩=uv)。どちらも
H^F=EF(γ^1†γ^1+γ^2†γ^2)+ε−EF,H^B=EB(α^1†α^1+α^2†α^2)+EB−ε
と、独立な2つの振動子に書き直せる。フェルミ粒子では定数をトレースからも確かめられる。4つの状態の上の TrH^F=εTr(n^1+n^2)=4ε と、右辺の Tr=4EF+4(ε−EF)=4ε が一致する。ボース粒子では状態が無限個あってトレースが発散するので、この確かめ方は使えない。

図 6.3.3 対の項の強さ Δ に対する準粒子のエネルギー(厳密なので点線)。運動方程式の行列 (6.3.18)・(6.3.19) の符号1つの違いで、フェルミ粒子では Δ とともに上がり、ボース粒子では下がって Δ=ε で0になる。
例題 6.3.4 Bogoliubov 係数を数値で ★★
オリジナル
- (1) フェルミ粒子の (6.3.17) で ε=1、Δ=0.75(エネルギーの単位は任意)のとき、EF、u2、v2、uv、基底エネルギー、4つの準位を求め、基底状態での ⟨n^1⟩ を書け。
- (2) ボース粒子の (6.3.17) で ε=1、Δ=0.6 のとき、EB、u2、v2、uv、基底エネルギー、基底状態での ⟨a^1†a^1⟩ を求めよ。
- (3) (1)(2) で (6.3.23) を確かめよ。
解答
(1) EF=1+0.5625=1.25、u2=21(1+0.8)=0.9、v2=0.1、uv=0.75/2.5=0.3 である。基底エネルギーは ε−EF=−0.25 で、準位は −0.25(準粒子0個)、−0.25+1.25=1(準粒子1個、2重)、−0.25+2.5=2.25(準粒子2個)の4つである。準粒子1個の状態は ∣1,0⟩ と ∣0,1⟩ そのもので、対の項はこの2つに働かないのでエネルギーは ε=1 のままである。基底状態の占有数は ⟨n^1⟩=v2=0.1 で、相互作用の無い真空(Δ=0)の0から、対の項で一部が占有された状態に変わる。
(2) EB=1−0.36=0.8、u2=21(1.25+1)=1.125、v2=0.125、uv=−0.6/1.6=−0.375 である。基底エネルギーは EB−ε=−0.2、基底状態の占有数は ⟨a^1†a^1⟩=v2=0.125 である。準位は −0.2+0.8(m1+m2)(m1,m2=0,1,2,…)で、Δ を ε に近づけると間隔 EB が0へ縮み、v2 が発散する。
(3) フェルミ粒子は u2+v2=0.9+0.1=1、ボース粒子は u2−v2=1.125−0.125=1 で、それぞれ反交換関係と交換関係が保たれる。verify_ch6-03.py では、フェルミ粒子の4次元の行列と、ボース粒子の占有数を各モード40個で打ち切った行列を対角化し、準位と ⟨n^1⟩ がこの値に一致することを確かめた。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの BCS の相互作用を対の平均値のまわりで1次まで残す平均場(モードの数 →∞) | 証明 条件付き(BCS の簡約したハミルトニアンに限り、熱力学極限で平均場が厳密になる。Haag 1962・Thirring–Wehrl 1967、第8部第5章の札と同じ判定。短距離の現実的なハミルトニアンからの導出は未解決。この節の2モードの模型そのものは2次なので近似を含まない) | 行き先 近似の数理 第6章
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