量子力学の様々な構成方法 第6部 第3章 §6.3.3 ★★★ 同じ対称な順序で書くと零点エネルギーの符号が逆になり、熱平衡の分配関数は 2sinh が 2cosh に、占有数は 1/(ex−1) が 1/(ex+1) に変わる
対称な順序と零点エネルギー
共通例題①の調和振動子は、第2部第4章で H^=2ℏω(a^†a^+a^a^†)=ℏω(a^†a^+21) と書けた(第2部第4章)。古典の H=ℏω∣a∣2 を演算子にするとき、a^†a^ と a^a^† の平均をとる対称な順序(Weyl の順序)を選ぶと、零点エネルギー ℏω/2 が出る。順序の選び方が残す曖昧さは第2部第2章で扱った(第2部第2章)。同じ対称な順序をフェルミ粒子のモードに当てはめる。反交換関係では c^c^†=1−c^†c^ なので、2つの積の符号を付けて平均すると
H^F=2ℏω(c^†c^−c^c^†)=ℏω(c^†c^−21)(6.3.8)
になる。積 c^c^† に負の符号を付けたのは、フェルミ粒子の演算子を入れ替えるたびに −1 を付けるという反交換関係の約束を、順序の平均にも当てはめたためである(この符号の付け方は、経路積分で Grassmann 数を使うと自然に出る。第6部第6章)。固有値は ∓ℏω/2 の2つで、零点エネルギーはボース粒子の +ℏω/2 と符号が逆の −ℏω/2 である。
熱平衡
βℏω=x とおく。密度行列 ρ^=e−βH^/Z(第4部第4章)の分配関数と占有数は、ボース粒子の振動子(共通例題①)では
ZB=n=0∑∞e−x(n+1/2)=2sinh(x/2)1,⟨n^⟩B=ex−11(6.3.9)
で、フェルミ粒子の振動子 (6.3.8) では状態が2つしか無いので
ZF=ex/2+e−x/2=2cosh2x,⟨n^⟩F=2cosh(x/2)e−x/2=ex+11(6.3.10)
である。違いは分母の −1 と +1 だけで、これは (6.3.9) の和が等比級数 ∑nqn=1/(1−q)(q=e−x)、(6.3.10) の和が2項 1+q であることから出る。化学ポテンシャルを入れて多くのモードに広げたものが Bose 分布と Fermi 分布で、それは 第6部第5章で扱う。
占有数のゆらぎにも違いが出る。フェルミ粒子では n^2=n^ なので、どの状態でも
⟨n^2⟩−⟨n^⟩2=⟨n^⟩(1−⟨n^⟩)(6.3.11)
で、ゆらぎは平均より小さい。ボース粒子の熱平衡では、占有数が等比数列の重み (1−q)qn に従うので、分散は nˉ(1+nˉ)(nˉ=⟨n^⟩B)で平均より大きい。ボース粒子の大きなゆらぎは、熱的な光の光子数のゆらぎとして光の巻で扱う(光学と量子エレクトロニクス 第32章)。

図 6.3.2 1つのモードの熱平衡の占有数(どちらも厳密なので点線)。高温(x→0)でボース粒子は 1/x で発散し、フェルミ粒子は 1/2(空と占有が同じ重み)に止まる。低温ではどちらも e−x に近づき、統計の違いが見えなくなる。
超対称な振動子
同じ角振動数のボース粒子のモード a^ とフェルミ粒子のモード c^ を1つずつ並べ、a^ と c^ は交換するとする。2つの対称な順序のハミルトニアンを足すと、零点エネルギーが打ち消し合って
H^=ℏω(a^†a^+21)+ℏω(c^†c^−21)=ℏω(a^†a^+c^†c^)(6.3.12)
になる。ここで Q^=ℏωa^†c^ とおく。Q^ はフェルミ粒子を1個消してボース粒子を1個作る演算子で、c^2=0 から Q^2=0 である。さらに
{Q^,Q^†}+=ℏω(a^†a^c^c^†+a^a^†c^†c^)=ℏω(a^†a^(1−n^c)+(a^†a^+1)n^c)=H^
となる(n^c=c^†c^)。Q^2=0 と H^={Q^,Q^†}+ から [H^,Q^]=Q^Q^†Q^−Q^Q^†Q^=0 で、Q^ は保存する。Q^ のように、ボース粒子とフェルミ粒子を入れ替える保存量を持つ系を超対称な系と呼ぶ。
固有状態は ∣na,nc⟩ でエネルギーは ℏω(na+nc) である。E=0 は ∣0,0⟩ の1つだけで、E=kℏω(k≥1)は ∣k,0⟩ と ∣k−1,1⟩ の2つで、Q^ がこの2つを Q^∣k−1,1⟩=ℏωk∣k,0⟩ で移し合う。分配関数は2つの振動子の積で
Z=ZBZF=2sinh(x/2)2cosh(x/2)=coth2x=1+2k≥1∑e−kx(6.3.13)
で、最後の形は準位の縮退度を数えたものと一致する。フェルミ粒子の個数の偶奇 (−1)n^c を重みに付けた和をとると、2重の準位は +1 と −1 で打ち消し合い
Tr[(−1)n^ce−βH^]=1
が温度によらず残る。この量は Witten の指数と呼ばれ、E=0 の状態の数(ボース的なものからフェルミ的なものを引いた数)を数える(E. Witten (1982), Nucl. Phys. B 202, 253)。共通例題①の言葉で言えば、ボース粒子の振動子の零点エネルギー +ℏω/2 とフェルミ粒子の振動子の −ℏω/2 が同じ大きさであることが、E=0 がちょうど1つ残ることの代数の側の理由である。
例題 6.3.3 1つのモードの熱平衡を2つの統計で比べる ★★
オリジナルx=βℏω=1 とする。
- (1) ボース粒子とフェルミ粒子の振動子について、⟨n^⟩ と分散 ⟨n^2⟩−⟨n^⟩2 を数値で求めよ。
- (2) フェルミ粒子の分散を、密度行列 ρ^=diag(1,e−x)/(1+e−x)(基底 ∣0⟩,∣1⟩)から直接計算し、(6.3.11) と一致することを確かめよ。
- (3) 超対称な振動子 (6.3.12) の分配関数を求め、下から3つの準位とその縮退度を書け。
解答
(1) ボース粒子は nˉ=1/(e−1)=0.5820、分散は nˉ(1+nˉ)=0.9207 である。フェルミ粒子は nˉ=1/(e+1)=0.2689、分散は nˉ(1−nˉ)=0.1966 である。同じ温度でボース粒子の占有数はフェルミ粒子の約2倍で、分散は約4.7倍になる。
(2) n^=diag(0,1) なので n^2=n^ で、Tr(ρ^n^2)=Tr(ρ^n^)=e−1/(1+e−1)=1/(e+1) である。分散は nˉ−nˉ2=nˉ(1−nˉ) となって (6.3.11) と一致する。2つの状態しか無いので、占有数は Bernoulli 分布(確率 nˉ で1、1−nˉ で0)に従う。
(3) (6.3.13) から Z=coth(1/2)=2.1640 である。準位は E=0(∣0,0⟩、1重)、E=ℏω(∣1,0⟩ と ∣0,1⟩、2重)、E=2ℏω(∣2,0⟩ と ∣1,1⟩、2重)である。verify_ch6-03.py で、ボース粒子の占有数を打ち切った行列の上に Q^ を作り、Q^2=0、{Q^,Q^†}+=H^ と準位の縮退を確かめた。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com