量子力学の様々な構成方法 第7部 第5章 §7.5.6 ★★★ Nelson の過程を、基準の波動関数・第7部の流体と軌道・第3部の虚時間・古典の Brown 運動の言葉で書き直し、どこまで同値かを示す
基準の言葉で:2つの速度は ∇ψ/ψ の実部と虚部
ψ=ρeiS/ℏ の対数微分は ∇ψ/ψ=21∇lnρ+i∇S/ℏ なので、ℏ/m を掛けて
mℏψ∇ψ=u+iv,b=mℏ(Re+Im)ψ∇ψ,b∗=mℏ(Im−Re)ψ∇ψ(7.5.26)
となる。第7部第4章の運動量の弱値 pw=mv−imu(第7部第4章)と比べると、Nelson の浸透速度はちょうど弱値の虚部を −m で割ったものである。Bohm の力学が弱値の実部だけを速度に使ったのに対し、Nelson の過程は実部と虚部の両方をドリフトに使う。例題 7.5.2 の⟨p^2⟩=m2⟨v2+u2⟩ は、∣pw∣2=m2(v2+u2) の ρ での平均でもある。
第7部の流体の言葉で:量子応力は浸透速度の勾配
第7部第1章で、量子ポテンシャルの力を量子応力 Pij=−(ℏ2/(4m))ρ∂i∂jlnρ の発散に書いた。∂jlnρ=uj/ν を入れると
Pij=−mνρ∂iuj,∫ρQd3r=2m∫ρ∣u∣2d3r(7.5.27)
で、量子応力は浸透速度の勾配に −mνρ を掛けた形になる。粘性流体の応力が速度の勾配に粘性係数を掛けた形であるのと同じ構造で、「量子圧力の正体」は各点の運動量の広がり(第7部第2章)であり、Nelson の言葉ではそれが浸透速度の揺れとして現れる。
Bohm の軌道との関係:拡散を止める
Nelson の過程から拡散と浸透速度を取り除くと、つまり dX=bdt+dW で dW→0、b→v とすると、案内方程式 X˙=v が残る。どちらの過程も各時刻の分布は ∣ψ∣2(等変性)なので、1時刻の予言は区別できない。違うのは道筋だけで、基底状態では Bohm の粒子は止まり、Nelson の粒子はOrnstein–Uhlenbeck 過程で揺れる。どちらの道筋も測定の統計からは読み取れないことは、第7部第4章の「同値な部分と解釈の部分」の表と同じ事情である。
ℏ→0 では ν=ℏ/(2m)→0 で拡散が消え、u=ν∇lnρ→0 で浸透速度も消える(ρ を ℏ によらず固定する)。残るのは X˙=v、v=∇S/m で、S は量子ポテンシャルを落とした古典の Hamilton–Jacobi 方程式に従う。Nelson の過程の古典極限は、第7部第2章の単一運動量の古典粒子の集団に一致する。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ν=ℏ/(2m)→0(拡散と浸透速度を落とす。量子ポテンシャルを落とす ℏ/(pL)→0 と同じ) | 証明 条件付き(ρ, S が ℏ によらず滑らかで、古典の軌道が交わる焦点より前の時刻。第7部第2章の判定と同じ前提) | 行き先 近似の数理 第7章
虚時間の言葉で:基底状態の過程は虚時間の経路積分
基底状態の過程の生成作用素を基準の言葉で書くと、第3部第6章の虚時間の時間発展につながる。ψ0>0 を実の基底状態(エネルギー E0)とする。v=0、b=u=ν∇lnψ02=2ν∇ψ0/ψ0 なので、過程の生成作用素(t によらない f についての D)は
Lf=ν∇2f+2νψ0∇ψ0⋅∇f.(7.5.28)
証明
∇2(ψ0f)=f∇2ψ0+2∇ψ0⋅∇f+ψ0∇2f なので(H^−E0)(ψ0f)=f(H^−E0)ψ0−2mℏ2(2∇ψ0⋅∇f+ψ0∇2f)。第1項は 0 で、ψ0 で割ると−2mℏ2(∇2f+2∇ψ0⋅∇f/ψ0)=−ℏν(∇2f+2∇ψ0⋅∇f/ψ0)=−ℏLf。指数関数の形は両辺の時間微分の式が一致し t=0 で等しいことから従う。
この命題から、定常な基底状態の過程の2時刻の相関はE[f(X(0))g(X(t))]=∫ψ0fe−(H^−E0)t/ℏ(ψ0g)dx=⟨ψ0∣f^e−(H^−E0)t/ℏg^∣ψ0⟩ で、虚時間の基底状態の相関関数(第3部第6章で β→∞ とした経路積分の相関)に等しい。調和振動子で f=g=x と取ると x^∣0⟩ は ∣1⟩ に比例するので σg2e−ωt になり、(7.5.18) と一致する。虚時間の経路積分を Wiener 測度で書き直す Feynman–Kac の公式は、この命題を基底状態でない一般の場合に広げたもので、第7部第6章で扱う。ここで等しいのは「Nelson の実時間の相関」と「基準の虚時間の相関」であり、基準の実時間の相関(cosωt)とは一致しない点に注意する。
古典の Brown 運動との違い
古典の過減衰の Brown 運動(相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部第1章)では、摩擦係数 γf の粒子が dX=(F/γf)dt+dW に従い、拡散係数は Einstein の関係 ν=kBT/γf で温度と摩擦から決まる。ドリフトは力に比例し、平衡分布は e−V/kBT で、熱浴へエネルギーを捨てて平衡に緩和する。Nelson の過程は同じ形の確率微分方程式だが、3点で違う。拡散係数は温度でなく ℏ/(2m) で決まる。ドリフトは力から直接でなく、平均の加速度の Newton の法則を通して決まる。そして要請 (N4) のとおり時間反転について対称で、エネルギー ∫ρ[2m(v2+u2)+V] は保存し、熱浴へ捨てられることは無い。
例題 7.5.6 時間を逆に回した自由波束の過程 ★★
オリジナル③の自由波束の過程 (7.5.21) について、次を確かめよ。
- 後ろ向きのドリフト b∗(x,t) は、前向きのドリフトの時間を反転したもの −b(x,−t) に等しい。
- このことと (N2) の加速度の作り方から、Nelson の法則が t→−t で不変であることの意味を述べよ。
解答
(1) b∗=v−u=(σσ˙+ν)x/σ2。σ(t)2 は t の偶関数、σσ˙=ν2t/σ02 は奇関数なので−b(x,−t)=−(σσ˙∣−t−ν)x/σ2=(σσ˙+ν)x/σ2=b∗(x,t)。
(2) 時刻 0 を中心に過去へ向かう過程を X~(t)=X(−t) と定めると、その前向きのドリフトは −b∗(x,−t)、後ろ向きのドリフトは −b(x,−t) である。(1) から X~ の前向きのドリフトは b(x,t) に戻り、過去へ走らせた過程が未来へ走らせた過程と同じ法則に従う。初めに位置と運動量の相関のない波束は t=0 について対称に広がる(σ(t)=σ(−t))ので、これは自然な結果である。(N2) の加速度 21(Db∗+D∗b) は D↔−D∗、b↔−b∗ で不変なので、時間を反転した過程も同じ Newton の法則を満たす。古典の Brown 運動では t=0 に一点から出た粒子は t<0 に戻せず、この対称性は無い。
まとめの地図

図 7.5.3 この章の橋。Nelson の過程は流体と両向きに同値(循環の量子化を足して)、基底状態では虚時間の経路積分と同じ確率法則を持つ。Parisi–Wu の方法は虚時間の経路積分の期待値を求める計算法で、Nelson の過程とは直接つながらない。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com