光学と量子エレクトロニクス 第7章 §7.1 ★★★ 自由空間の伝搬は角スペクトルの各成分に位相 eikzz を掛ける操作で、薄い物体とレンズは実空間で透過率を掛ける操作である
第6章(第6章)では、開口を通った光が遠くでどう広がるかを調べ、Fraunhofer 回折の像が開口の Fourier 変換になることを見た。そこで遠方として必要だった距離は、開口の半径を a、波長を λ として a2/λ よりずっと大きい距離で、a=5mm の開口では百メートルを超える。レンズを1枚置くと、この遠方の像がレンズの焦点面に現れる。この章では、この事実を出発点にして、光学系を「空間周波数ごとに振幅と位相を変える線形の系」として読む。
この章で取り出す場のモードは、光軸に垂直な面の中の波数 K を持つ平面波(角スペクトルの成分)である。自由空間はこのモードを混ぜず、各モードに位相 eikzz を掛けるだけなので、自由空間の伝搬は波数の表示で対角になる。物質のモデルは、薄い物体の透過率 t(x) と、厚さが位置の2次式で変わる薄いレンズである。物質と光の結合は、透過率を場に掛ける実空間での掛け算で、波数の表示ではモードどうしを混ぜる畳み込みになる。光学系の計算は、波数の表示で対角な操作(伝搬)と実空間で対角な操作(物体・レンズ)を交互に当てることに尽きる。
7.1節でモードと物体のモデルを置き、7.2節でレンズの前の焦点面と後ろの焦点面が Fourier 変換で結ばれることを示す。7.3節と7.4節が「出てくるもの」で、2枚のレンズを並べた 4f 系の焦点面で空間周波数を選ぶ空間フィルタと位相差法、コヒーレントな照明とインコヒーレントな照明での結像の伝達関数を導く。7.5節で置いた近似(スカラー波・Fresnel 近似・薄い物体)と測る量を述べ、7.6節で学部の光学で習う空間周波数 ν の書き方と並べる。
角スペクトル:自由空間を対角にするモード
角周波数 ω の単色の光を考え、電場の1つの成分を E(r,t)=Re[U(r)e−iωt] と書く(この巻の流儀で時間の因子は e−iωt)。偏光の向きを忘れて1つの成分だけを扱う近似をスカラー近似と呼び、7.5節でその範囲を述べる。一様な媒質の中で U は Helmholtz 方程式
∇2U+k2U=0,k=λ2π(7.1)
を満たす(λ は媒質の中の波長)。光が全体として進む向きを z 軸にとり、光軸に垂直な面の中の位置を x=(x,y)、それに共役な波数を K=(Kx,Ky) と書く。横の面の Fourier 変換をこの巻の流儀(2π を逆変換の側に置く)で
U(x,z)=∫(2π)2d2KU~(K,z)eiK⋅x,U~(K,z)=∫d2xU(x,z)e−iK⋅x(7.2)
と定める。式 (7.1) に入れると ∂z2U~+(k2−∣K∣2)U~=0 となり、+z の向きに進む解は
U~(K,z)=Hz(K)U~(K,0),Hz(K)=eikzz,kz=k2−∣K∣2(7.3)
である。これは第6章で角スペクトルの表示として導いた式で、∣K∣>k の成分は kz が虚数になって z とともに指数関数的に減衰するエバネッセント波だった。
式 (7.3) によれば、横の波数 K を持つ平面波 ei(K⋅x+kzz) は自由空間の伝搬で互いに混ざらず、それぞれ位相 kzz を受け取るだけである。量子力学で自由粒子の Hamiltonian が運動量の表示で対角になり、各運動量の成分が e−iEpt/ℏ を受け取るだけになるのと同じ構造で、この章では横の平面波をモードと呼ぶ。平面波 eiK⋅x は光軸と角度 θ をなして進む光で、∣K∣=ksinθ である。伝搬が線形で、しかも横の平行移動で変わらない(x をずらしても同じ操作になる)ことが、平面波で対角になる理由である。
光軸からの傾きが小さい成分(∣K∣≪k)だけを持つ場では、kz≈k−∣K∣2/(2k) と展開して
Hz(K)≈eikze−i∣K∣2z/(2k)(7.4)
とおける。これを Fresnel 近似(近軸近似)と呼ぶ。式 (7.4) を逆変換すると、実空間での伝搬は Fresnel の核との畳み込み
U(x,z)=∫d2x′hz(x−x′)U(x′,0),hz(x)=iλzeikzexp(2zik∣x∣2)(7.5)
になる(hz の Fourier 変換が式 (7.4) になることは Gauss 積分で確かめられる)。第4章(第4章)で見たとおり、式 (7.4) は2次元の自由な Schrödinger 方程式の時間発展で、z が時間、1/k が ℏ/m の役をしている。
物質のモデル:薄い物体とレンズ
光が厚さの無視できる物体を通ると、物体の各点で振幅と位相が変わる。この変化を透過率 t(x)(複素数)で
Uout(x)=t(x)Uin(x)(7.6)
と書くモデルを薄い物体の近似と呼ぶ。吸収だけの物体では t は実数で 0≤t≤1、屈折率 n、厚さ Δ(x) の透明な板では、その点を通る光が受け取る光路長からt(x)=exp{ik0[nΔ(x)+(Δ0−Δ(x))]} となる(k0 は空気中の波数、Δ0 は板の最大の厚さで、残りは空気の中を進む)。
式 (7.6) は実空間で対角だが、波数の表示では畳み込み
U~out(K)=∫(2π)2d2K′t~(K−K′)U~in(K′)(7.7)
になる。波数 K′ の平面波が物体に当たると、物体が持つ空間周波数 K−K′ の分だけ向きを変えた平面波が出る。物体はモードどうしを混ぜる結合の役をする。自由空間(波数の表示で対角)と物体(実空間で対角)の2つの操作を交互に当てることが、以下の計算のすべてである。
薄いレンズは、厚さが光軸からの距離の2次式で減る透明な板である。平凸レンズの凸面の曲率半径を R とすると、近軸では厚さが Δ(x)=Δ0−∣x∣2/(2R) で、上の透過率に入れると定数の位相を除いて
tL(x)=exp(−2fik∣x∣2),f1=Rn−1(7.8)
となる(k は空気中の波数)。f はレンズの焦点距離で、両凸のレンズでは2つの面の寄与 (n−1)/R を足せばよい。式 (7.8) の位相は、位置 x での傾き −kx/f を平面波に足す。光軸に平行に入った光線は高さ ∣x∣ に比例して内側へ曲げられ、距離 f で光軸に集まる。時間の因子を e−iωt に選んだので、位相が中心から外へ向かって減る(式 (7.8) の負の符号)ことが、焦点へ向かって収束する球面波を表している。
例題 7.1 正弦波の格子から出る回折光 ★★
オリジナル振幅の透過率が t(x)=21(1+mcos(2πx/Λ))(0≤m≤1)の薄い格子に、光軸に沿って進む振幅 1 の平面波を当てる。
- 格子を通った直後の場を平面波の重ね合わせに分け、出てくる平面波の向き sinθ と振幅を求めよ。
- 出てくる平面波のそれぞれが運ぶ光の割合(回折効率)を求め、それらの和が格子の平均の透過率 ⟨∣t∣2⟩ に等しいことを確かめよ。
- λ=633nm、Λ=10μm のとき、±1 次の回折光が光軸となす角を求めよ。
解答
(1) cos(2πx/Λ)=21(eiGx+e−iGx)(G=2π/Λ)と書くと
Uout(x)=21+4meiGx+4me−iGx.
出てくる平面波は Kx=0,±G の3つで、向きは ksinθ=0,±G、すなわち sinθ=0,±λ/Λ。振幅は 0 次が 1/2、±1 次がそれぞれ m/4 である。透過率に cos の1次の項しか無いので、±2 次以上の回折光は出ない。
(2) 平面波の強度は振幅の絶対値の2乗に比例するので、回折効率は 0 次が 1/4、±1 次がそれぞれ m2/16 である。一方
⟨∣t∣2⟩=41⟨1+2mcosGx+m2cos2Gx⟩=41+8m2=41+2⋅16m2
で、両者は一致する(⟨⋅⟩ は1周期の平均)。Fourier 級数の係数の2乗の和が平均の2乗に等しいという Parseval の等式を、光の電力の保存として読んだことになる。m=1 でも ±1 次の回折効率はそれぞれ 6.25 パーセントで、残りの光は 0 次の光になるか、格子に吸収される。
(3) sinθ=λ/Λ=0.0633 から θ=3.63∘。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com