解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第7章 §1.7.6 ★★ 授業の「全微分を取って d(pq˙) を引く」書き方は Legendre 変換と同じ。代入だけで H を作る誤りの正体を見る
全微分で書く導出
学部の解析力学の授業では、Hamiltonian を次のように導入することが多い。L(q,q˙,t) の全微分を
dL=∂q∂Ldq+pdq˙+∂t∂Ldt
と書き、d(pq˙)=pdq˙+q˙dp を使って dq˙ の項を消すと
d(pq˙−L)=q˙dp−∂q∂Ldq−∂t∂Ldt(1.7.15)
となる。右辺に dq˙ が無いので、H=pq˙−L は自然に (q,p,t) の関数で、∂H/∂p=q˙、∂H/∂q=−∂L/∂q と読むことができる。熱力学の授業でも、dU=TdS−PdV から d(U−TS)=−SdT−PdV と書いて F=U−TS を導入する。
この全微分の計算は、規則 (1.7.10) の証明で「括弧が 0 になる」ことを、微分の形で一度に書いたものである。pdq˙ と −dL の中の pdq˙ が打ち消すのは、p が L の q˙ についての傾きだから、つまり接点で計算しているからである。授業の書き方で抜けやすいのは2点で、1つは「pq˙−L を (q,p,t) の関数と読むには p=∂L/∂q˙ を q˙ について解ける必要がある」こと(∂2L/∂q˙2=0、1.7.4節の notebox)、もう1つは「H から L に戻せる」ことである。後者は L が q˙ について凸なら定理 1.7.3 で保証され、L=pq˙−H と q˙=∂H/∂p で L が完全に戻る。
対応表
| 数学(1.7.2節) | 解析力学 | 熱力学 |
| もとの関数 | f(x) | L(q,q˙,t) | U(S,V) |
| 取り替える変数 | x | q˙ | S |
| 傾き(新しい変数) | p=f′(x) | p=∂L/∂q˙ | T=∂U/∂S |
| 取り替えない変数 | なし | q, t | V |
| 変換の結果 | f∗=px−f | H=pq˙−L | F=U−TS=−U∗ |
| 切片との関係 | 切片 =−f∗ | 切片 =−H | 切片 =F |
| 傾きの入れ替え | (f∗)′=x | ∂H/∂p=q˙ | ∂F/∂T=−S |
| 取り替えない変数の微分 | — | ∂H/∂q=−∂L/∂q | ∂F/∂V=∂U/∂V=−P |
| 凸性の条件 | f′′>0 | ∂2L/∂q˙2>0 | CV>0 |
| Young の不等式 | f+f∗≥px | L+H≥pq˙ | U−TS≥F |
代入だけで H を作る誤り
「H はエネルギーだから、エネルギーの式 21mq˙2+V(q) に q˙=p/m を入れればよい」という作り方は、L=21mq˙2−V(q) のときだけ偶然正しい答えを出す。第1部第5章で定めた h(q,q˙)=∑jq˙j∂L/∂q˙j−L は、L=T−V で T が速度の2次式なら T+V に等しく、式 (1.7.9) の右辺を q˙ のまま書いたものなので、値としては H と等しい。しかしH は値だけでなく「どの変数の関数か」まで含めて決まる量で、変数 p を q˙ から正しく作らないと、偏微分 ∂H/∂p が q˙ にならない。これは1.7.1節の素朴な代入 (1.7.1) と同じ種類の誤りで、次の例題で具体的に確かめる。
例題 1.7.6 代入だけで作った H は運動を間違える ★★
オリジナル平面上の粒子の L=21m(x˙2+y˙2)+21mωc(xy˙−yx˙)(ωc>0 は定数)を考える。
- (1) Euler–Lagrange 方程式を書き、x¨=ωcy˙, y¨=−ωcx˙ を示せ。速さ v0 の解はどんな運動か。
- (2) 正準運動量と、Legendre 変換による H(x,y,px,py) を求めよ。
- (3) エネルギーの値 E=21m(x˙2+y˙2) に x˙=px/m, y˙=py/m を代入しただけの H~=(px2+py2)/(2m) から Hamilton 方程式 (1.7.11) を作ると、どんな運動が出るか。
解答
(1) ∂L/∂x˙=mx˙−21mωcy、∂L/∂x=21mωcy˙ なのでmx¨−21mωcy˙−21mωcy˙=0、すなわち x¨=ωcy˙。同様に ∂L/∂y˙=my˙+21mωcx、∂L/∂y=−21mωcx˙ から y¨=−ωcx˙。速度 (x˙,y˙) は角速度 ωc で時計回りに回り、粒子は半径 v0/ωc の円を描く(磁場中の荷電粒子のサイクロトロン運動の形。第2部第2章)。
(2) px=mx˙−21mωcy、py=my˙+21mωcx。W=diag(m,m) は正定値で、1.7.4節の例題と同じ計算(速度の1次の項は切片に残らない)により
H=2m1[(px+21mωcy)2+(py−21mωcx)2].
これから Hamilton 方程式を作ると x˙=(px+21mωcy)/m などが (1) の運動量の定義と一致し、p˙x=−∂H/∂x=21ωc(py−21mωcx)=21mωcy˙。px の定義を微分した p˙x=mx¨−21mωcy˙ と比べて x¨=ωcy˙ が戻る。
(3) H~ からは x˙=px/m, p˙x=0, y˙=py/m, p˙y=0 となり、等速直線運動が出る。円運動にならない。H~ の値は E に等しいが、変数 px を px=mx˙ と取り違えたので、関数としての形が違う。H と H~ は、p の原点を 21mωc(−y,x) だけずらした関係にあり、1.7.1節の f と fc と同じく、代入では見分けられない「ずれ」が運動を変えている。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com