解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第9章 §2.9.5 ★★★ 遅延の Green 関数のうち、作用の2次形式に入るのは時間について対称な部分だけ。対称な部分から Darwin の Lagrangian、反対称な部分から放射の反作用と Larmor の公式が出る
時間に依る源の作用
源が時間に依るときは、Lorenz 条件 ∂μAμ=0 を満たす解を考える。−41FμνFμν=−21∂μAν∂μAν+21∂μAν∂νAμ の第2項は部分積分で 21(∂μAμ)2 になって消えるので、作用は
S=c1∫d4x[2μ01Aν□Aν−JνAν],□Aν=μ0Jν(2.9.14)
の形になる(第2部第8章)。これは式 (2.9.2) で K↔□/μ0 としたものである。ところが □=c21∂t2−∇2 の逆は1つに決まらない。源のない解(入ってくる電磁波)を足しても方程式は満たされるからである。入ってくる波が無いという条件を課すと、遅延の解
ϕ(r,t)=4πε01∫d3x′Rρ(r′,t−R/c),A(r,t)=4πμ0∫d3x′RJ(r′,t−R/c),R=∣r−r′∣(2.9.15)
が選ばれる。t−R/c を t+R/c に替えたものが先進の解である。
作用原理は始めと終わりの両端を固定した境界値問題で、「過去に入ってくる波が無い」という初期条件は作用の中に書かれていない。遅延の解を選ぶのは作用の外から加えた条件である。この非対称は作用の停留値にも現れる。遅延の Green 関数 Gret(x,x′) はx′ の過去光円錐の上だけで 0 でなく、Gret(x,x′)=Gadv(x′,x) を満たす(図 2.9.2)。2次形式 ∫∫J(x)G(x,x′)J(x′) では x と x′ を入れ替えても値が変わらないので、G の対称な部分Gsym=21(Gret+Gadv) だけが入り、反対称な部分 21(Gret−Gadv) は消える。したがって、場を消去した源の作用は時間について対称なものになり、エネルギーが逃げていく過程(放射)はこの作用から出てこない。放射は、遅延の場と時間対称な場の差 21(遅延−先進) が源に及ぼす力として、作用の外から現れる。この構造を電荷どうしの直接の相互作用として定式化した理論に、Wheeler と Feynman の吸収体理論がある1J. A. Wheeler and R. P. Feynman (1945), Rev. Mod. Phys. 17, 157.。

図 2.9.2 観測の点 x での遅延の場は、x の過去光円錐(実線)が源の世界線と交わる点から決まり、先進の場は未来光円錐(破線)との交点から決まる。作用の2次形式に入るのは2つの平均で、時間の向きを区別しない
R/c の展開と偶奇の分け方
源が大きさ ℓ の領域にあり、その中で時間変化の速さを特徴づける角振動数を ω とする。ωℓ/c≪1、つまり源が波長より十分小さいときは、源の近く(R≲ℓ)で式 (2.9.15) の遅れを Taylor 展開できる。
ρ(r′,t−R/c)=n=0∑∞n!1(−cR)n∂tnρ(r′,t)
で、先進の解は −R/c を +R/c に替えたものなので、n が偶数の項は遅延と先進で等しく、n が奇数の項は符号だけが逆になる。偶数の項が時間対称な部分、奇数の項が 21(遅延−先進) の部分である。
奇数の項:放射の反作用
全体として中性な源を考え、電気双極子モーメントを d=∫rρd3x とする。連続の式から ∫Jd3x=d˙ である。ϕ の n=1 の項は −4πε0c1∂t∫ρd3x′ で、全電荷が一定なので 0 になる。ϕ の n=3 の項は−4πε016c31∂t3∫R2ρd3x′ で、∇R2=2(r−r′) と ∫∂t3ρ=0 から∇ϕ(3)=d.../(12πε0c3) になる。A の n=1 の項は −4πcμ0∫J˙d3x′=−4πcμ0d¨ である。1/(ε0c2)=μ0 を使って E=−∇ϕ−∂tA にまとめると、
Eodd=−12πcμ0d...+4πcμ0d...=6πcμ0d...(2.9.16)
を得る。これは ωℓ/c の最低次で場所に依らない一様な場である。この場が源にする仕事は単位時間あたり ∫J⋅Eoddd3x=d˙⋅Eodd で、源から場へ流れ出すエネルギーの仕事率は
P=−d˙⋅Eodd=6πcμ0[d¨2−dtd(d˙⋅d¨)](2.9.17)
となる。周期運動で時間平均を取ると全微分の項は消え、
⟨P⟩=6πcμ0⟨d¨2⟩(2.9.18)
が残る。1つの電荷 q が加速度 a で動く場合は d¨=qa で、これが Larmor の公式 P=μ0q2a2/(6πc) である。振動する双極子 d=d0cosωt では ⟨P⟩=μ0d02ω4/(12πc) になる。電荷 q、質量 m の粒子は Eodd から力 qEodd=mτ0r... を受ける。τ0=μ0q2/(6πmc) で、電子では τ0=6.27×10−24s である。この力を Abraham–Lorentz の力という。
偶数の項:Darwin の Lagrangian
偶数の項は時間対称なので、源の Lagrangian に書ける。n=0 の項は静的な場の式 (2.9.5) と同じで、2つの点電荷の Coulomb の項と、速度 v1,v2 の電流がつくる静磁場の項 q1q2v1⋅v2/(4πε0c2r) になる(式 (2.9.10) の Um の交差項)。ϕ の n=2 の項は 4πε012c21∂t2∫Rρd3x′ で、これも 1/c2 の大きさである(A の n=2 の項は 1/c4 なので無視する)。例題 2.9.5 で計算するとおり、これらを合わせると
Lint=−4πε0rq1q2+8πε0c2rq1q2[v1⋅v2+(v1⋅n)(v2⋅n)],n=rr1−r2,r=∣r1−r2∣(2.9.19)
になる。これを Darwin の Lagrangian という2C. G. Darwin (1920), Phil. Mag. 39, 537.。1/c2 の次数までの電荷の運動は、この Lint に各粒子の Lagrangian を足したもので書け、放射は 1/c3 の次数で初めて現れる。場の自由度を消去した後で源の運動を Lagrangian で書くことができる範囲は、1/c2 の次数までである。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ωℓ/c→0(源の大きさが波長より十分小さい) | 証明 条件付き(源が有界な領域にあり時間変化が滑らか。遅れの Taylor 展開の打ち切り) | 行き先 近似の数理 第7章
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ωτ0→0(反作用の時間が運動の時間より十分短い)。r... を運動方程式の主要項で置き換える次数下げ | 証明 要確認(Abraham–Lorentz の方程式の暴走解を除く条件) | 行き先 近似の数理 第7章
例題 2.9.5 Darwin の Lagrangian の速度の項を出す ★★
オリジナル粒子1が粒子2の偶数次の場から受ける Lagrangian の項を、1/c2 の次数まで求める。
- (1) 粒子2の ϕ の n=2 の項が ϕ(2)(r1,t)=8πε0c2q2∂t2∣r1−r2(t)∣(r1 は固定)となることを示せ。
- (2) 恒等式 v1⋅∇1(v2⋅∇2r)=−[v1⋅v2−(v1⋅n)(v2⋅n)]/r を示せ。
- (3) 時間の全微分を落として −q1ϕ(2) を v1,v2 で書き、磁気の項と合わせて式 (2.9.19) を導け。
解答
(1) 点電荷では ρ(r′,t)=q2δ(3)(r′−r2(t)) なので、n=2 の項 4πε01∫21c2R2R∂t2ρd3x′ は、∂t2 を積分の外に出して 8πε0c2q2∂t2∣r1−r2(t)∣ になる。
(2) ∇2r=−n なので v2⋅∇2r=−v2⋅n。∇1(v2⋅n)=[v2−n(n⋅v2)]/r を使うと、v1⋅∇1(−v2⋅n)=−[v1⋅v2−(v1⋅n)(v2⋅n)]/r を得る。
(3) r1 を固定した時間微分は ∂t2r=dtd(v2⋅∇2r)−v1⋅∇1(v2⋅∇2r) と書ける(dtd は両方の粒子を動かした全微分で、第1項は Lagrangian から落としてよい)。(2) を使うと
−q1ϕ(2)≃−8πε0c2rq1q2[v1⋅v2−(v1⋅n)(v2⋅n)]
である。磁気の項 +q1q2v1⋅v2/(4πε0c2r) と足すと、v1⋅v2 の係数は 41−81=81、(v1⋅n)(v2⋅n) の係数は +81 になり(いずれも q1q2/(πε0c2r) を単位として)、式 (2.9.19) の速度の項を得る。
例題 2.9.6 古典的な水素原子が落ちるまでの時間 ★★
オリジナル電子が陽子のまわりを Coulomb 力で半径 r の円運動をしているとし、Larmor の公式 (2.9.18) の分だけエネルギーを失いながら、各瞬間は円運動のまま半径がゆっくり小さくなると考える。半径 a0=5.29177×10−11m から 0 になるまでの時間を、古典電子半径 re=e2/(4πε0mec2)=2.81794×10−15m を使って表し、数値を求めよ。
解答
円運動のエネルギーは E=−e2/(8πε0r)、加速度は a=e2/(4πε0mer2) である。Larmor の公式で P=μ0e2a2/(6πc) を失うので、drdEdtdr=−P から r˙ を求める。e2/(4πε0me)=rec2 と μ0=1/(ε0c2) を使うと、a=rec2/r2、P=32mere3c3/r4、drdE=merec2/(2r2) と書けるので
dtdr=−P/drdE=−3r24re2c
となる。r2dr=−34re2cdt を a0 から 0 まで積分すると
tfall=4re2ca03=1.56×10−11s
である。円運動の周期は 2πa0/(αc)=1.52×10−16s(α は微細構造定数)なので、約 105 回まわる間に落ちる。1回転あたりのエネルギーの損失は小さく、「各瞬間は円運動」という近似の前提はほぼ最後まで成り立つ。この数値から、古典的な電磁気学と力学だけでは原子が安定に存在しえないことがわかる。
1 J. A. Wheeler and R. P. Feynman (1945), Rev. Mod. Phys. 17, 157.
2 C. G. Darwin (1920), Phil. Mag. 39, 537.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com