解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第18章 §2.18.4 ★★★ 2次の作用からエネルギーの流れ c3⟨h˙+2+h˙×2⟩/(16πG) を、遅延解から四重極公式 P=5c5G⟨Q...ijQ...ij⟩ を出す
エネルギー密度とエネルギーの流れ
TT ゲージでは (2.18.5) の後ろの3項が消え、L2=64πGc4∂λhij∂λhij だけが残る(i,j について和)。+z 方向に進む波で h+ と h× を変数として書くと、hijhij には h+ が2回(xx と yy)、h× が2回(xy と yx)現れるので
L2=32πGc4[c21(∂t∂h+)2−(∂z∂h+)2+c21(∂t∂h×)2−(∂z∂h×)2](2.18.20)
になる。これは振動する弦(第2部第4章)と同じ形の Lagrangian 密度が2つ並んだものである。第2部第7章の正準エネルギー運動量テンソルを当てると、エネルギー密度 u とエネルギーの流れ Sz は
u=a=+,×∑(∂h˙a∂L2h˙a)−L2,Sz=a∑∂(∂zha)∂L2h˙a(2.18.21)
で、進む波 ha=ha(t−z/c) では
u=16πGc2(h˙+2+h˙×2),Sz=cu=16πGc3(h˙+2+h˙×2)(2.18.22)
になる。
重力場のエネルギーは局所的に決まらない
正準エネルギー運動量テンソルは (2.18.8) のゲージ変換で変わり、等価原理によって1点では重力場をいつでも消せるので、重力場のエネルギー密度を1点で決めることはできない。意味を持つのは、波長より長い領域と周期より長い時間で平均した量 ⟨h˙+2+h˙×2⟩ である。Isaacson はこの平均を使って、重力波の有効なエネルギー運動量テンソルが (2.18.22) の平均と同じ形になり、ゲージに依らないことを示した(R. A. Isaacson(1968)、Phys. Rev. 166、1263 および 1272)。以下、エネルギーの流れは時間平均 ⟨⋯⟩ を取ったものとして使う。
遅延解と四重極の恒等式
源がある場合は (2.18.14) を解く。□ψ=s の遅延解は ψ(t,x)=∫4π∣x−x′∣s(t−∣x−x′∣/c,x′)d3x′ なので
hˉμν(t,x)=−c44G∫∣x−x′∣Tμν(t−∣x−x′∣/c,x′)d3x′(2.18.23)
である(静的なら hˉ00=4Φ/c2 で、Newton のポテンシャル Φ=−G∫ρ/∣x−x′∣ を再現する)。源の大きさ d が放射の波長より十分小さい(源の運動が光速より十分遅い)とき、遠方 r=∣x∣≫d では分母を r、遅れを t−r/c で置き換えてよく、空間成分は
hˉij≈−c4r4G∫Tij(t−r/c,x′)d3x′(2.18.24)
になる。この積分は、エネルギー運動量の保存 ∂μTμν=0 を2回使うと質量分布の2次のモーメントで書ける。∂0T00+∂kTk0=0 と ∂0T0i+∂kTki=0 に xixj や xj を掛けて部分積分すると、表面の項が消えて
∫Tijd3x=21dt2d2Iij,Iij(t):=∫ρ(t,x)xixjd3x(2.18.25)
が出る(T00=ρc2 を使った。Tij=Tij は2つの添字を下げて符号が2回変わるため)。物質が自分の重力で結びついているときは、Tij に重力の応力も含めて (2.18.25) が成り立つ(例題 2.18.4)。
以上を合わせ、TT 部分(進む向き n に垂直な面へ射影して跡を除いたもの)を取ると、観測者の見るひずみは
h^ijTT(t,x)=c4r2GI¨ijTT(t−r/c)(2.18.26)
である(h^ij=−hij で符号が反転する)。これを (2.18.22) の流れに入れて全方向で積分すると、TT 射影の角度平均の計算から
P=5c5G⟨i,j∑Q...ijQ...ij⟩,Qij:=Iij−31δijk∑Ikk(2.18.27)
が出る。これが四重極公式で、Einstein(1918)が線形化した方程式から導いた(A. Einstein(1918)、Sitzungsber. Preuss. Akad. Wiss.、154)。角度の積分は総合問題で円軌道の連星について実際に行い、(2.18.27) と一致することを確かめる。
連星の放射
質量 m1,m2 の2つの星が、相対距離 a・角振動数 Ω の円軌道を回る場合に当てる。全質量を M=m1+m2、換算質量を mr=m1m2/M と書くと、重心系ではIij=mrxixj(x=acosΩt、y=asinΩt)で、Kepler の法則 Ω2=GM/a3(第2部第1章の中心力)が成り立つ。Ixx=2mra2(1+cos2Ωt) のように、四重極モーメントは公転の2倍の角振動数 2Ω で振動する。3階微分を (2.18.27) に入れると、円軌道では時間平均を取る前から一定で
P=532c5Gmr2a4Ω6=532c5a5G4mr2M3(2.18.28)
になる。重力波の周波数は公転の周波数の2倍 f=Ω/π である。
例題 2.18.4 円軌道で四重極の恒等式を確かめる ★
オリジナル円軌道の相対運動 x=acosΩt、y=asinΩt(換算質量 mr、加速度 x¨=−Ω2x)について、恒等式 (2.18.25) の右辺 21I¨xx を計算し、運動エネルギーの流れの項 mrx˙2 と重力の応力の項 mrxx¨ の和に等しいことを示せ。重力の応力の項を落とすと何が起こるか。
解答
Ixx=mra2cos2Ωt なので 21I¨xx=−mra2Ω2cos2Ωt。一方 mrx˙2=mra2Ω2sin2Ωt、mrxx¨=−mra2Ω2cos2Ωt で、和は mra2Ω2(sin2Ωt−cos2Ωt)=−mra2Ω2cos2Ωt となり一致する。一般に 21I¨ij=∑mx˙ix˙j+21∑m(xix¨j+x¨ixj) で、第2項の加速度を重力で書いたものが重力の応力の積分になる。これを落として ∫Tij を運動エネルギーの流れ mrx˙ix˙j だけで計算すると、mra2Ω2sin2Ωt の平均 21mra2Ω2 という時間によらない部分が残り、振動の振幅も半分になって放射を正しく出せない。物質を結びつけている力の応力まで入れて初めて ∂μTμν=0 が成り立ち、(2.18.25) が使える。
例題 2.18.5 地球と太陽が出す重力波 ★★
オリジナル地球(5.972×1024kg)が太陽(1.989×1030kg)のまわりを半径 1au=1.496×1011m の円軌道で回るとする(G=6.674×10−11m3kg−1s−2)。
- (1) (2.18.28) で重力波の仕事率を求めよ。
- (2) 軌道の力学的エネルギー E=−GMmr/(2a) の大きさと比べ、重力波で軌道が縮む効果が公転にとって無視できることを確かめよ。
解答
(1) mr≈5.972×1024kg、M≈1.989×1030kg を入れるとP=532c5a5G4mr2M3≈196W。電球数個分にすぎない。
(2) ∣E∣=GMmr/(2a)=2.65×1033J で、∣E∣/P≈1.4×1031s は宇宙の年齢(約 4×1017s)の 1013 倍以上である。後の 2.18.5節の式 (2.18.30) で合体までの時間を出すと約 1.1×1023 年になる。(2.18.28) は a−5 に比例するので、重力波が観測にかかるのは、中性子星やブラックホールのように重くて小さく、互いに近い連星だけである。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの v/c→0(源の運動が遅く、源の大きさが波長より十分小さい) | 証明 要確認(自己重力で結びついた源での四重極公式の正当化の前提を原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com