解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第18章 §2.18.1 ★★★ g=η+h と分けて Einstein–Hilbert 作用を h の2次まで展開すると、hμν を平坦な時空の上の場とする作用(Fierz–Pauli の形)が得られる
第2部第15章で、重力場そのものの作用として Einstein–Hilbert 作用を選び、その変分から Einstein 方程式を出した。Einstein 方程式は計量 gμν について非線形で、一般には解けない。ところが太陽系の外を伝わってくる重力の波は、地上に届いたときには計量を平坦な ημν から 10−21 程度しかずらさない。そこで gμν=ημν+hμν と分け、作用を hμν の2次まで展開すると、hμν を「平坦な時空の上の場」とする線形な場の理論が得られる。この章では、その2次の作用を選ぶ。
当てる道具は、第2部第5章の場の Euler–Lagrange 方程式、第2部第8章のゲージ不変性と拘束による自由度の数え方、第2部第7章のエネルギー運動量テンソル、第2部第14章の測地線偏差の方程式である。2次の作用は座標の取り替えに対応するゲージ変換 hμν→hμν−∂μξν−∂νξμ で変わらず、これが電磁場の Aμ→Aμ−∂μΛ とまったく同じ役を果たす。その結果、hμν の10成分のうち波として伝わる自由度は2つ(h+ と h× の2つの偏極)しか残らない。
出てくるものは3つある。①横波でトレースが 0 のゲージ(TT ゲージ)での2つの偏極と、それが自由落下する質点の輪を変形させるしかた。②重力波が運ぶエネルギーの流れと、源の質量の四重極モーメントの3階微分で放射の強さが決まる四重極公式。③四重極公式を連星に当てた結果として、公転周期の減少(Hulse–Taylor の連星パルサー)と、合体の直前に周波数が上がるチャープ(GW150914)。最後に、電磁気学の双極子放射・Lorenz ゲージ・Newton の重力のポテンシャルという授業での書き方を、この章の式と並べる。
単位は SI、計量は ημν=diag(+1,−1,−1,−1)、xμ=(ct,x)、□=∂μ∂μ=c21∂t2−∇2 で、上下に1回ずつ現れるギリシャ添字は和を取る(記法の正本どおり)。添字の上げ下げは ημν で行う。観測で測る「ひずみ」は、線素を ds2=c2dt2−(δij+h^ij)dxidxj と書いたときの h^ij で表す。この本の流儀では hij=−h^ij である(gij=−δij+hij のため)。添字の付いた hμν・h+・h× と Planck 定数 ℏ は字が違う。
展開する作用
第2部第15章で選んだ作用は、重力場の部分と物質の部分の和
S=Sg+Sm,Sg=−16πGc3∫R−gd4x,Tμν=−g2cδgμνδSm(2.18.1)
である。この変分から Einstein 方程式 Gμν=c48πGTμν が出る。ここで計量を
gμν=ημν+hμν,∣hμν∣≪1(2.18.2)
と分ける。逆計量は1次までで gμν=ημν−hμν(hμν=ημαηνβhαβ)で、実際 gμαgαν=δμν+O(h2) になる。hμν の跡を h=ημνhμν と書く。
Christoffel 記号は h の1次で
Γρμν=21ηρσ(∂μhσν+∂νhσμ−∂σhμν)(2.18.3)
になり、Riemann テンソルの定義(記法の正本 §4)の ΓΓ の項は2次なので落ちる。1次の Riemann テンソルを縮約して、1次の Einstein テンソルは
Gμν(1)=21(∂ρ∂μhνρ+∂ρ∂νhμρ−□hμν−∂μ∂νh−ημν∂ρ∂σhρσ+ημν□h)(2.18.4)
になる。この式は (−,+,+,+) の教科書の式と文字の上でまったく同じ形をしている。hμν・ημν・□ の符号がそろって逆になり、各項で打ち消し合うためである(第2部第11章の対応表で Gμν が両方の流儀で同じであることと整合する)。
2次の作用
Sg を h の2次まで展開する計算は長いので、結果を書き、それが正しいことを「変分すると Gμν(1) が出る」ことで確かめる。時間あたり・体積あたりの Lagrangian 密度で書くと(S=∫Ldtd3x)、
L2=64πGc4(∂λhμν∂λhμν−2∂μhμλ∂νhνλ+2∂μhμν∂νh−∂λh∂λh)(2.18.5)
である。この形は Fierz と Pauli が質量の無いスピン2の場の作用として書いたものと同じ組み合わせで、ここではそれが Einstein–Hilbert 作用の2次の部分として出てくる。1次の項は全微分になって運動方程式に寄与せず、0次の項は η の曲率が 0 なので消える。
物質の作用の側は、δgμν=−δhμν と Tμν の定義 (2.18.1) から、h の1次で
Lint=−21Tμνhμν(2.18.6)
になる。これは電磁場の結合 −JμAμ と同じ形で、エネルギー運動量テンソルが重力の「源の流れ」の役をしている。
L2+Lint を hμν について変分すると、場の Euler–Lagrange 方程式(第2部第5章)は
16πGc4Gμν(1)−21Tμν=0⟺Gμν(1)=c48πGTμν(2.18.7)
となり、Einstein 方程式の1次の部分(線形化した Einstein 方程式)に一致する(検算は verify で一般の hμν について行った)。
座標の取り替えがゲージ変換になる
座標を x′μ=xμ+ξμ(x) と少しずらすと、計量の成分は gμν′(x′)=∂x′μ∂xα∂x′ν∂xβgαβ(x) で変わる。ξ と h がともに小さいとして1次を残すと
hμν ⟶ hμν−∂μξν−∂νξμ(ξμ=ημνξν)(2.18.8)
になる。同じ物理的な時空を別の座標で書いただけなので、測れる量はこの変換で変わってはならない。実際、1次の Riemann テンソルは (2.18.8) で変わらず、したがって Gμν(1) も2次の作用 (2.18.5) も(全微分を除いて)変わらない。電磁場の Aμ→Aμ−∂μΛ では任意関数が1つだったのに対し、ここでは任意関数が4つ(ξ0,…,ξ3)ある。第2部第8章の Noether の第2定理をそのまま当てると、運動方程式の左辺の発散が恒等的に 0 になる、つまり
∂μGμν(1)=0(すべての hμν について)(2.18.9)
が成り立つ。これは縮約した Bianchi 恒等式の1次の部分で、方程式 (2.18.7) が解を持つには ∂μTμν=0 が要る。電荷の保存が Maxwell 方程式の整合条件だったのと同じ構造である(第2部第8章)。
静的な弱い場 h00=2Φ/c2、hij=2Ψδij/c2 では、L2 が 第2部第15章の式 (2.15.21) になり、Ψ=Φ とおくと Newton の重力の作用 −(∇Φ)2/(8πG) に、結合 (2.18.6) は −ρΦ に戻る。これは電磁気のスカラーポテンシャル ϕ との対応である。結合 −21Tμνhμν には物質の流れ T0i と h0i の項もあり、これがベクトルポテンシャル A との対応になる。次の例題でそれを確かめる。
例題 2.18.1 ゆっくり回る球殻のまわりの重力磁気 ★★
オリジナル質量 M・半径 R の薄い球殻が、z 軸のまわりに一定の角速度 ω でゆっくり回っている(ωR≪c)。殻の面密度は σ=M/(4πR2)、殻の上の点 x′ の速度は v=ω×x′ で、物質の分布は時刻によらない。2.18.2節で示すとおり、調和ゲージでは線形化した Einstein 方程式が波動方程式 (2.18.14) になる。ここではそれを使う。
- (1) 遅い塵の Tμν=ρuμuν、uμ≈(c,v) から T0i を求め、hˉ0i の静的な方程式を書け。静磁場の ∇2A=−μ0J と比べ、解を積分で書け。
- (2) 一様に帯電した球殻(電荷 Q、面電荷密度 σQ)が角速度 ω で回るときのベクトルポテンシャルは、殻の外で A=4πμ0r3m×x(m=31QR2ω)、殻の内で A=3μ0σQRω×x である。これを読み替えて hˉ0i を求め、殻の外では殻の角運動量 J=32MR2ω だけで書けることを示せ。
- (3) 殻の内では h0i が ω×x に比例する。第2部第12章の例題 2.12.7 の回転座標の計量 g0i=−(Ω×x)i/c と比べ、殻の内の局所慣性系が遠方の座標に対してどちら向きに、どれだけの角速度で回るかを求めよ。地球の質量と半径(GM=3.986×1014m3s−2、R=6.371×106m)を持ち、自転の角速度 ω=7.292×10−5s−1 で回る球殻では、その角速度は1年あたり何秒角か。
解答
(1) T0i=ρu0ui=ρcvi で、添字を下げると T0i=η00ηijT0j=−ρcvi である。静的なら □=∂02−∇2→−∇2 なので、式 (2.18.14) の (0i) 成分は
∇2hˉ0i=c416πGT0i=−c316πGρvi
になる。静磁場の ∇2Ai=−μ0Ji と同じ形で、hˉ0i↔Ai、μ0Ji↔(16πG/c3)ρvi と読み替えればよい。静磁場の解 A=4πμ0∫∣x−x′∣J(x′)d3x′ から
hˉ0i(x)=c34G∫∣x−x′∣ρ(x′)vi(x′)d3x′
である。η0i=0 なので h0i=hˉ0i で、これが計量の g0i になる。
(2) 読み替えは μ0σQ→16πGσ/c3 である。殻の外では 4πμ0m=3μ0σQR4ω を 3c316πGσR4ω=3c34GMR2ω に替えて
hˉ0i=3c34GMR2r3(ω×x)i=c32Gr3(J×x)i
になる。磁気双極子のベクトルポテンシャル 4πμ0r3m×x と同じ形で、磁気モーメント m の役を角運動量 J がしている(μ0m/(4π)↔2GJ/c3)。殻の外の場は、殻の大きさによらず角運動量だけで決まる。殻の内では
hˉ0i=3c316πGσR(ω×x)i=3Rc34GM(ω×x)i
で、r=R で外の式とつながる。磁場に当たる ∇× は殻の内で一様になる。v/c の1次で現れる計量のこの部分を重力磁気(gravitomagnetism)と呼ぶ。
(3) 殻の内では Φ が一定なので、h00 と hij は定数で、時間と長さの目盛りを定数倍するだけである。残る g0i=h0i=3Rc24GMc(ω×x)i を g0i=−(Ω×x)i/c と比べると
Ω=−3Rc24GMω
である。遠方で慣性系に一致する座標が、殻の内では局所慣性系に対して −3Rc24GMω で回る座標に見える。言い換えると、殻の内の局所慣性系は遠方の座標に対して殻と同じ向きに角速度
Ωd=3Rc24GMω
で回る。殻の中の自由なこまの軸は、遠方の星に対してこの角速度でゆっくり向きを変える。回る殻が慣性系を引きずるこの効果は Thirring が線形化した方程式から求めた1H. Thirring (1918), Physikalische Zeitschrift 19, 33。。数値は GM/(Rc2)=6.96×10−10 から Ωd=34×6.96×10−10×7.292×10−5=6.77×10−14s−1 で、1年(3.156×107s)で 2.14×10−6rad=0.44′′ である。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ∣hμν∣→0(平坦な計量からのずれが小さい。地上の重力波で 10−21) | 証明 要確認(線形化した解が非線形の解の近似になる条件を原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第1章
1 H. Thirring (1918), Physikalische Zeitschrift 19, 33。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com