解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第15章 §2.15.1 ★★★ 計量から作れる最も簡単なスカラー R を、不変な体積要素 −gd4x で積分したものを重力場の作用に選ぶ
一般相対論の授業では、Einstein 方程式 Gμν=c48πGTμν を「曲率がエネルギーと運動量で決まる」という主張として、ほぼ天下りに書くことが多い。左辺がなぜ Ricci テンソルそのものでなく Rμν−21gμνR という組み合わせなのか、右辺の係数 8πG/c4 はどこで決まるのか、宇宙項 Λ の符号はどちら向きか。この3つは、方程式を作用の停留条件として出すと、それぞれ1か所の計算に対応する。
この章で選ぶものは、重力場(計量 gμν)の作用としての Einstein–Hilbert 作用と、物質の作用の和である。
S[g,ψ]=Sg[g]+Sm[g,ψ],Sg=−16πGc3∫(R+2Λ)−gd4x.(2.15.1)
ψ は物質の場をまとめて表す。当てる道具は、場の Euler–Lagrange 方程式(第2部第5章)を計量という10本の場に当てることと、場の Noether の定理(第2部第7章)を「座標の取り替え」という任意関数をパラメータに持つ変換に当てることの2つである。出てくるものは3つある。①計量の変分から Einstein 方程式と、物質の作用の計量微分としてのエネルギー運動量テンソル、②座標の取り替えに対する不変性から、縮約した Bianchi 恒等式 ∇μGμν=0 と物質の保存則 ∇μTμν=0、③Newton 極限で係数 8πG/c4 と作用の前の符号が決まること、宇宙項の意味である。最後に、授業で習う Newton の重力の Lagrangian 密度 −8πG1(∇Φ)2−ρΦ が、Sg の弱い場での2次の項であることを確かめる。
単位は SI、計量は (+,−,−,−)、xμ=(ct,x)、d4x=cdtd3x とする(記法の正本 §3・§4。この本の流儀)。曲率の定義は 第2部第14章と同じで、Rρσμν=∂μΓρνσ−∂νΓρμσ+ΓρμλΓλνσ−ΓρνλΓλμσ、Rμν=Rρμρν、R=gμνRμν、Gμν=Rμν−21gμνR である。添字の付かない G は重力定数で、添字の付いた Gμν は Einstein テンソルである。
作用に求める条件
第2部第12章では、粒子の作用に固有時 L=−mcgμνx˙μx˙ν を選び、計量 gμν(x) は外から与えた。この章では計量そのものを、場の値として動かす変数に格上げする。そのためには計量の作用を選ばなければならない。電磁場の作用 −4μ01∫FμνFμν(第2部第6章)を選んだときと同じく、次の3つを課す。
第一に、作用はどの座標で計算しても同じ値でなければならない。一般相対論ではどの座標も特別でないので、作用はスカラーを不変な体積要素で積分した形をとる。座標を x→x′ と取り替えると d4x′=∣det(∂x′/∂x)∣d4x、計量の行列式は g′=g[det(∂x/∂x′)]2 と変わるので、−gd4x は取り替えで変わらない(g=detgμν<0)。これが不変な体積要素である。第二に、作用は局所的で、計量とその微分の多項式で書けるものに限る。第三に、場の方程式は計量の2階微分までを含むものにする。Newton の重力の Poisson 方程式 ∇2Φ=4πGρ が2階であり、初期値を与えれば解が決まる形にしたいからである。
計量の1階微分だけからはスカラーを作ることはできない。どの点でも座標をうまく選べば ∂λgμν=0(したがって Γρμν=0)にできる(第2部第13章)ので、1階微分だけのスカラーはその座標で値が決まってしまい、計量の情報を持たない。2階微分まで使うと、最も簡単なスカラーはスカラー曲率 R である。R は2階微分を1次でしか含まないので、2階微分の部分は部分積分で全微分と1階微分の2次式に分けられ、場の方程式は2階にとどまる。逆に、4次元でこの3つの条件を満たし、発散が恒等的に 0 になる対称テンソル(場の方程式の左辺になれるもの)は aGμν+bgμν に限られることが知られている(Lovelock の定理。D. Lovelock (1972), J. Math. Phys. 13, 874)。Gμν が R から、gμν が定数 Λ から出る。
作用の形と前の符号
以上から、重力場の作用を
Sg[g]=−16πGc3∫(R+2Λ)−gd4x(2.15.2)
と選ぶ。Λ=0 の部分を Einstein–Hilbert 作用と呼ぶ。D. Hilbert がこの作用から場の方程式を出し(D. Hilbert (1915), Nachr. Ges. Wiss. Göttingen, Math.-Phys. Kl. 1915, 395)、同じ月に A. Einstein が別の道筋で同じ方程式を発表した(A. Einstein (1915), Sitzungsber. Preuss. Akad. Wiss. 1915, 844)。Λ は宇宙項で、2.15.5節で意味を調べる。
前の係数の大きさは次元で決まる。R は長さの −2 乗、−gd4x は長さの4乗(x0=ct)なので、積分は長さの2乗を持つ。作用は Js の次元を持つので、係数は kgs−1 の次元を持たなければならず、c3/G がちょうどその次元を持つ。16π と前の符号 − は、2.15.5節で Newton の重力が出るように決める。この符号は計量の流儀で変わる(この本の流儀)。(+,−,−,−) では R の符号が (−,+,+,+) の教科書と逆になるので(記法の正本 §4、第2部第11章の対応表)、Carroll・Wald・MTW の +16πGc3∫R−g と同じ物理を表すには前に − が要る。Landau–Lifshitz 第2巻はこの本と同じ流儀で、前の符号も − である。
物質の作用とエネルギー運動量テンソル
物質の作用は、平坦な時空で選んだ Lagrangian 密度 Lm の ημν を gμν に、∂μ を共変微分 ∇μ に、d4x を −gd4x に置き換えて作る。
Sm[g,ψ]=c1∫Lm(ψ,∇ψ,g)−gd4x.(2.15.3)
こうして物質の作用は計量にも依存する。その依存の仕方を表す量として、
Tμν:=−g2cδgμνδSm=−g2∂gμν∂(−gLm)(2.15.4)
を定義する(右の等号は Lm が計量の微分を含まない場合)。これがエネルギー運動量テンソルであることは 2.15.3節で確かめる。実スカラー場 Lm=21gμν∂μϕ∂νϕ−V(ϕ) では、平坦な時空で T00=21ϕ˙2/c2+21(∇ϕ)2+V となり正である(記法の正本 §4 で確かめた)。前の係数 2c の符号は、T00 がエネルギー密度として正になるように選んである。
例題 2.15.1 作用の係数の大きさ ★★
オリジナル(1) Einstein 方程式の右辺の係数 8πG/c4 とその逆数を、単位つきで求めよ。(2) 水の密度 ρ=1.0×103kgm−3 のエネルギー密度 ρc2 に係数を掛けた量は長さの −2 乗の次元を持つ。この量と、それを曲率半径 ℓ(量 =1/ℓ2)に直したものを求め、天文単位 1au=1.496×1011m と比べよ。G=6.674×10−11m3kg−1s−2、c=2.998×108ms−1 とする。
解答
(1) c48πG=(2.998×108)48π×6.674×10−11=2.08×10−43N−1(m3kg−1s−2/m4s−4=kg−1m−1s2=N−1)。逆数は c4/(8πG)=4.82×1042N で、力の次元を持つ。
(2) c48πGρc2=c28πGρ=(2.998×108)28π×6.674×10−11×1.0×103=1.87×10−23m−2。曲率半径は ℓ=(1.87×10−23)−1/2=2.31×1011m で、1.55au にあたる。水ほどの密度の物質が一様に詰まっていても、時空が目に見えて曲がるのは太陽と地球の距離ほどの大きさの尺度である。係数 c4/(8πG) が非常に大きい力であることが、日常で時空の曲がりが見えない理由である。
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