解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第8章 §4.8.2 ★★★ 時間を N 等分して完全系を挟むと、指数の肩に相空間の作用 ∫(pq˙−H)dt が並ぶ。p の Gauss 積分は停留点 p=mq˙ で値が決まり、Legendre 変換の逆を行って L を戻す
時間を刻む
時間 T を N 等分し、刻み幅を ϵ=T/N とする。e−iH^T/ℏ=(e−iϵH^/ℏ)N の N 個の因子の間に、位置の完全系 ∫dqk∣qk⟩⟨qk∣(k=1,…,N−1)を挟む。端は q0=qi、qN=qf とする。
K(qf,qi;T)=∫dq1⋯dqN−1k=0∏N−1⟨qk+1∣e−iϵH^/ℏ∣qk⟩(4.8.11)
これは式 (4.8.4) を N−1 回使ったものと同じで、ここまで近似は入っていない。第1部第3章で、汎関数 S[q] を時刻の格子点での値 q1,…,qN−1 の多変数関数で近似した(第1部第3章)。式 (4.8.11) の積分変数は、その格子点の値そのものである。
短い時間の因子を計算する。H^=p^2/(2m)+V(q^) の2つの項は交換しないが、
e−iϵH^/ℏ=e−iϵp^2/(2mℏ)e−iϵV(q^)/ℏ+O(ϵ2)(4.8.12)
が成り立つ。両辺を ϵ で展開すると1次の項までは一致し、違いは2次の項にある交換子 [p^2,V(q^)] の分だけだからである。1つの刻みの誤差が O(ϵ2) なら、N=T/ϵ 個の刻みの誤差の合計は O(ϵ) で、N→∞ で消える。右側の因子 e−iϵV(q^)/ℏ は ∣qk⟩ に当たって数 e−iϵV(qk)/ℏ になり、左側の因子には運動量の完全系を挟む。
⟨qk+1∣e−iϵH^/ℏ∣qk⟩≈∫2πℏdpkexp[ℏiϵ(pkϵqk+1−qk−2mpk2−V(qk))].
これを式 (4.8.11) に入れると、
K(qf,qi;T)=N→∞lim∫k=1∏N−1dqkk=0∏N−12πℏdpkexp[ℏik=0∑N−1ϵ(pkq˙k−H(qk,pk))],q˙k:=ϵqk+1−qk(4.8.13)
を得る。指数の肩の和は、第1部第8章の相空間の作用 S[q,p]=∫(pq˙−H)dt を格子点で書いたものである(第1部第8章)。q は N−1 個の内側の点で積分し、p は N 個の区間ごとに積分する。端で固定するのは q だけで、p の端は固定しない。これは第1部第8章で、相空間の作用の停留を q の端だけを固定して求めたことと対応している。
p の積分は Legendre 変換
式 (4.8.13) の pk は、それぞれ1つの区間にしか現れないので、区間ごとに積分することができる。pk を含む部分は
∫2πℏdpkexp[ℏiϵ(pkq˙k−2mpk2)]=2πiℏϵmexp[ℏiϵ2mq˙k2](4.8.14)
で、式 (4.8.5) と同じ形の Gauss 積分である(T を ϵ に、qf−qi を ϵq˙k に置き換えればよい)。
この結果を Legendre 変換として読む。指数の肩の pq˙−p2/(2m) を p の関数とみると、停留点は ∂(pq˙−p2/2m)/∂p=0 から p=mq˙ で、そこでの値は mq˙2/2 である。第1部第7章の言葉では、H から L への Legendre 変換
L(q,q˙)=pstat(pq˙−H(q,p))(4.8.15)
そのものである(stat は停留点での値を取る操作)。Gauss 積分では、指数の肩が積分変数の2次式なので、積分の値は「停留点での指数関数の値」と「2次の係数で決まる前因子」の積に厳密に等しい。したがって H が p の2次式なら、p の積分は Legendre 変換を誤差なしに行い、前因子 m/(2πiℏϵ) を残す。量子化の入口で L→H と進んだ道を、経路積分は p の積分で H→L と引き返している。
区間ごとの p の積分を全部行うと、
K(qf,qi;T)=N→∞lim(2πiℏϵm)N/2∫k=1∏N−1dqkeiSN/ℏ,SN=k=0∑N−1ϵ[2m(ϵqk+1−qk)2−V(qk)](4.8.16)
となる。SN は、格子点 q0,…,qN を順に直線で結んだ折れ線の経路の作用 S[q] を、各区間の左端の V で近似したものである。N→∞ の極限を記号で
K(qf,qi;T)=∫q(0)=qiq(T)=qfDqeiS[q]/ℏ(4.8.17)
と書き、これを経路積分と呼ぶ。Dq は式 (4.8.16) の前因子つきの多重積分の極限を表す記号で、それ自身が独立に定義された測度ではない。すべての折れ線の経路が、その作用で決まる同じ大きさ 1 の重み eiSN/ℏ で寄与する。古典の経路も、古典力学では決して通らない経路も、重みの絶対値は同じである。違いは位相だけにある。この見方は Dirac が遷移振幅と eiS/ℏ の関係として指摘し1P. A. M. Dirac (1933), Physikalische Zeitschrift der Sowjetunion 3, 64–72.、Feynman が式 (4.8.16) の形にまとめた2R. P. Feynman (1948), Reviews of Modern Physics 20, 367–387.。

図 4.8.1 時間を N 等分した経路積分 (4.8.16)。内側の格子点 q1,…,qN−1 の値を独立に積分するので、始点 qi と終点 qf を結ぶすべての折れ線(赤・橙)が寄与する。古典の経路(青)はその中の1本にすぎず、重みの絶対値はどの経路でも同じで、違うのは位相 SN/ℏ だけである
電磁場があるとき
第2部第2章の荷電粒子の Lagrangian L=2mr˙2−qϕ+qr˙⋅A を選んでも、H=(p−qA)2/(2m)+qϕ は p の2次式なので、p の積分は同じく Legendre 変換の逆を行い、指数の肩に L が戻る(第2部第2章)。ただし A は格子点の区間の中点 (rk+rk+1)/2 で評価する必要がある。左端で評価すると、N→∞ の極限で正しい Schrödinger 方程式(第4部第6章)を再現しない。r˙⋅A の項は、経路ごとに重みへ
exp[ℏiq∫経路A⋅dr]
を掛ける。磁束 ΦB を閉じ込めたソレノイドの両側を通る2本の経路では、この因子の比が exp[iq∮A⋅dr/ℏ]=eiqΦB/ℏ になる。これが Aharonov–Bohm の位相差で、経路積分では「2本の経路の作用の差」として直接に出る(第2部第8章・第4部第6章)。経路が磁場のある所を通らなくても、作用には A が入るので位相が変わる。
経路積分の「測度」について
実時間の式 (4.8.16) の前因子 (m/2πiℏϵ)N/2 は N→∞ で発散し、被積分関数は絶対値 1 で振動するだけで減衰しない。このため、Dq を経路の空間の上の測度として定めることはできず、式 (4.8.17) は有限次元の積分の極限の略記として読む。時間を虚数にした第5節の形では被積分関数が実数で減衰し、自由粒子の部分は Brown 運動の確率測度(Wiener 測度)になる。その形で e−H^τ/ℏ の行列要素を表す式は Kac が示した3M. Kac (1949), Transactions of the American Mathematical Society 65, 1–13.(Feynman–Kac の公式)。
例題 4.8.2 2つに刻んで中点を積分する ★★
オリジナル自由粒子で時間 T を2等分し(N=2、ϵ=T/2)、式 (4.8.16) の中点 q1 についての積分を実行して、式 (4.8.8) と一致することを確かめよ。あわせて、q1 についての積分の停留点が古典の経路の中点 (qf+qi)/2 であることを確かめよ。
解答
N=2 では前因子が (m/(2πiℏϵ))2/2=m/(πiℏT)、作用が
S2=2m⋅T/2(q1−qi)2+(qf−q1)2=Tm[2(q1−2qf+qi)2+2(qf−qi)2]
である。2つ目の等号は q1 について平方完成した。∂S2/∂q1=0 の解は q1=(qf+qi)/2 で、古典の等速直線の中点である。q1 の積分は A=−2im/(ℏT)、B=0 の Gauss 積分で、π/A=πiℏT/(2m) になる。前因子と掛けると
πiℏTm2mπiℏT=(πiℏT)22mm2πiℏT=2πiℏTm
で、残る指数は eim(qf−qi)2/(2ℏT) である。これは式 (4.8.8) そのもので、自由粒子では N=2 ですでに厳密な核が出る。一般の N でも同じで、内側の点を1つずつ積分するたびに、隣り合う2つの区間が1つの区間につながる(式 (4.8.4))。自由粒子の核は N によらず厳密で、極限 N→∞ が要るのは V があるときの式 (4.8.12) の誤差を消すためである。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの 1/N=ϵ/T→0(時間の刻みを細かくする) | 証明 条件付き(Trotter の積公式。p^2/2m と V(q^) がそれぞれ自己共役で、和が定義域の共通部分で本質的に自己共役なとき、強収束の意味で成り立つ) | 行き先 近似の数理 第3章
1 P. A. M. Dirac (1933), Physikalische Zeitschrift der Sowjetunion 3, 64–72.
2 R. P. Feynman (1948), Reviews of Modern Physics 20, 367–387.
3 M. Kac (1949), Transactions of the American Mathematical Society 65, 1–13.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com