解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第10章 §4.10.5 ★★★ 磁場の中では ℏkx, ℏky が共役な組になり、k 空間の閉軌道の面積 A が作用変数になる。Bohr–Sommerfeld から Aν=2πeB(ν+21)/ℏ
k 空間の軌道
一様な磁場 B=Bez だけをかける。式 (4.10.6) は ℏk˙=−ev×B で、k˙ は v=ℏ1∇kε にも B にも垂直である。∇kε に垂直だから ε は一定(式 (4.10.7) の磁場の場合)、B に垂直だから kz も一定である。したがって k は、等エネルギー面 ε(k)=ε を kz= 一定の平面で切った曲線の上を動く。この曲線をサイクロトロン軌道と呼ぶ。
実空間の軌道も、k 空間の軌道から直接決まる。ℏk˙=−er˙×B を時間で積分すると ℏ(k−k0)=−e(r−r0)×B で、成分では
x−x0=eBℏ(ky−ky0),y−y0=−eBℏ(kx−kx0)(4.10.17)
である。実空間の軌道(を B に垂直な面に射影したもの)は、k 空間の軌道を 90∘ 回して ℏ/(eB) 倍したものになる。回転は向きを保つので、2つの軌道は同じ向きに回る。底の近くの電子では、k=(k,0)、v=(v,0)(v>0)のとき ℏk˙y=−e(v×B)y=+evB>0 だから、+z 側から見て反時計回りに回る。
共役な組と作用変数
4.10.2節の式 (4.10.8) で、B=Bez なら {ℏkx,ℏky}=−eB である。そこで
Q:=eBℏky,P:=ℏkx,{Q,P}=eB1{ℏky,ℏkx}=1(4.10.18)
とおくと、(Q,P) は正準な組になる。Landau ゲージ A=(0,Bx,0) で書けば P=px、Q=x+py/(eB) で、確かに {Q,P}={x,px}=1 である。もう1つの組 (py,⋅) は軌道の中心の位置を表し、H=ε(k) に現れない。したがって kz を止めた運動は、(Q,P) についての自由度1の系H=ε(P/ℏ,eBQ/ℏ) になる。
自由度1の閉じた軌道には、第1部第14章の作用変数 J=2π1∮PdQ を当てることができる。dQ=eBℏdky なので
J=2π1∮ℏkxeBℏdky=2πeBℏ2A(ε,kz)(4.10.19)
となる。ここで A(ε,kz) は k 空間の軌道が囲む面積である。作用変数は、k 空間の面積を ℏ2/(2πeB) 倍したものにほかならない。
サイクロトロン質量
第1部第14章の結果 ω=dJdH を使うと、軌道を1周する時間は
Tc=ω2π=2π∂ε∂J=eBℏ2∂ε∂A(4.10.20)
である。自由な電子の Tc=2πme/(eB) と比べて
mc:=2πeBTc=2πℏ2∂ε∂A(4.10.21)
をサイクロトロン質量と呼ぶ。自由な電子では A=πk2=2πmeε/ℏ2 で、mc=me に戻る。mc は1点の k の有効質量テンソルでなく、軌道全体で決まる量で、等エネルギー線の面積がエネルギーとともにどれだけ速く広がるかを表す。
Onsager の量子化
量子力学では、作用変数に Bohr–Sommerfeld の条件 J=(ν+γ)ℏ(ν=0,1,2,…)を課す(第1部第14章・第4部第7章)。式 (4.10.19) に入れると
A(εν,kz)=ℏ2πeB(ν+γ)(4.10.22)
となる。許される軌道は、k 空間の面積が 2πeB/ℏ の整数倍(に γ を足したもの)のものだけである。これを Onsager の関係と呼ぶ1L. Onsager (1952), Phil. Mag. 43, 1006–1008.。滑らかな軌道で γ=21 で、自由な電子に当てるとπk2=2πmeε/ℏ2=2πeB(ν+21)/ℏ から εν=ℏωc(ν+21)、ωc=eB/me となり、Landau 準位に一致する(第4部第4章の総合問題 第4部第4章で、2次元振動子の閉じ込めを弱くする極限として出したもの)。バンドに Berry 位相があると γ がずれる。これは第4部第11章で扱う。
隣り合う軌道の面積の差は ΔA=2πeB/ℏ で、これは k 空間の状態の密度 LxLy/(2π)2 を掛けると LxLyeB/h 個の状態に当たる。1つの Landau 準位に、面積あたり eB/h 個の状態が集まる。これも第4部第4章の総合問題の結果と一致する。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏ/J→0(軌道の内側にある Landau 準位の数 ν が大きい) | 証明 要確認(滑らかな閉軌道での Bohr–Sommerfeld の型の議論。ほかのバンドの軌道と近づいて乗り移る〔磁気的破壊〕ことが無く、半古典運動の札の前提も満たすことが要る。γ の値の前提と厳密な誤差の評価は原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章
de Haas–van Alphen 効果
金属では、Fermi エネルギー εF より下の状態が占められている。磁場 B を変えると、軌道の面積 (4.10.22) は B に比例して動き、ν 番目の準位が εF を横切るたびに、占められた状態の数と全エネルギーの B 依存性に折れ目ができる。準位が εF を横切るのはA(εF)=2πeB(ν+γ)/ℏ、つまり 1/B=ℏA(εF)2πe(ν+γ) のときで、磁化などの量は 1/B について周期
Δ(B1)=ℏAext2πe,BdH:=Δ(1/B)1=2πeℏAext(4.10.23)
で振動する。3次元の Fermi 面では kz の違う多くの軌道の寄与が打ち消し合い、面積が kz について極値をとる軌道(Aext)の寄与だけが残る。周期を測ることで、Fermi 面の断面積を測ることができる。実在の金属の Fermi 面の測定は固体の巻(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第4章)で扱う。
図 4.10.3 は、2次元の正方格子の tight-binding のバンド ε=−2th(coskxa+coskya) の等エネルギー線である。底に近いエネルギーでは軌道は円に近く、自由な電子と同じ向きに回る。ε=0 では軌道は BZ の半分を囲む正方形になり、ε>0 では軌道は BZ の角 M を囲み、逆向きに回る。後者は正孔の軌道で、4.10.3節の正孔の電荷 +e が、回る向きの反転として現れている。

図 4.10.3 2次元の正方格子の tight-binding のバンドの等エネルギー線(BZ の中、+z 向きの磁場)。Γ を囲む軌道(青)は反時計回りに回る電子的な軌道で、M を囲む軌道(橙。BZ の4隅は周期性で1つにつながる)は時計回りに回る正孔的な軌道である。ε=0 の正方形(緑)はちょうど BZ の半分を囲む。ε=−3th では、底の放物近似の円(実線)の面積 π/a2 は厳密な面積 3.36/a2 より 7% 小さい
例題 4.10.5 Onsager の関係から Landau 準位と量子振動の周期 ★★
オリジナル自由な電子 ε=ℏ2(kx2+ky2+kz2)/(2me) に B=Bez をかける。
- (1) kz=0 の軌道について、作用変数 (4.10.19) を (Q,P) の積分で直接計算し、J=ℏ2πk2/(2πeB) となることを確かめよ(k は軌道の半径)。
- (2) Onsager の関係 (4.10.22)(γ=21)から準位を求めよ。
- (3) Fermi 波数を kF=1.0×1010m−1 とする。εF、BdH、B=10T での ℏωc と、εF より下にある準位の数(kz=0 の断面で)、実空間の軌道の半径を求めよ。
解答
(1) 軌道を ℏkx=ℏkcosφ、ℏky=ℏksinφ と書くと P=ℏkcosφ、Q=ℏksinφ/(eB) で、
J=2π1∫02πP∂φ∂Qdφ=2π1∫02πeBℏ2k2cos2φdφ=2eBℏ2k2=2πeBℏ2πk2.
(2) πk2=2πeB(ν+21)/ℏ で、ε=ℏ2k2/(2me) を使うと εν=meℏeB(ν+21)=ℏωc(ν+21)。自由な電子では Bohr–Sommerfeld の結果が厳密な Landau 準位と一致する(第4部第4章で見た、調和振動子では Bohr–Sommerfeld が厳密になることの再現である)。
(3) εF=ℏ2kF2/(2me)=6.10×10−19J=3.81eV。極値の断面は kz=0 の円 Aext=πkF2 で、
BdH=2πeℏπkF2=2eℏkF2=2×1.602×10−191.0546×10−34×1020=3.29×104T.
B=10T では ℏωc=ℏeB/me=1.16meV、準位の数は εF/(ℏωc)=BdH/B=3.29×103 である。実空間の軌道の半径は式 (4.10.17) から ℏkF/(eB)=0.658μm で、格子間隔の 103 倍以上ある。準位の数が 103 を超えるので、札の「ν が大きい」は十分に満たされ、半古典の扱いが正当化される領域にある。
1 L. Onsager (1952), Phil. Mag. 43, 1006–1008.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com