解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第5章 §5.5.4 ★★★ A0 は共役な運動量を持たない拘束の変数で、Gauss の法則を解くと瞬間的な Coulomb の項が Hamiltonian に残る。スカラー場の交換は同符号を引き寄せ、ベクトル場は反発させる
A0 は力学変数でない
第2部第8章で見たとおり、LEM は ∂tA0 を含まないので、A0 に共役な運動量は 0 で、A0 の Euler–Lagrange 方程式は時間微分を含まない拘束 ∇⋅E=ρ になる。ここで ρ=j0=qψ†ψ、E=−∇A0−∂tA である。ゲージを Coulomb ゲージ ∇⋅A=0 に固定すると、拘束は −∇2A0=ρ になり、各時刻で
A0(t,x)=∫4π∣x−y∣ρ(t,y)d3y(5.5.16)
と解ける。A0 は同じ時刻の電荷の分布で決まり、独立な自由度を持たない。
電場を E=E∥+E⊥、E∥=−∇A0、E⊥=−∂tA と分けると、∇⋅E⊥=0 から交差項 ∫E∥⋅E⊥d3x は部分積分で消える。縦の部分のエネルギーは、部分積分と −∇2A0=ρ により 21∫(∇A0)2d3x=21∫ρA0d3x になる。こうして QED の Hamiltonian は
HQED=∫ψ†[α⋅(−i∇−qA)+βm]ψd3x+21∫(E⊥2+B2)d3x+21∬4π∣x−y∣ρ(x)ρ(y)d3xd3y(5.5.17)
の3つの項に分かれる。1つ目は Dirac 場と横の光子 A の結合(−j⋅A を含む)、2つ目は横の光子の振動子の集まり(第5部第3章)、3つ目が Coulomb の項 HC である。HC は場の量子を1つも含まず、電荷の密度だけで書かれている。Coulomb 力は、拘束を解いた結果として Hamiltonian に現れる。2つの点電荷 q1, q2 が距離 r にあれば、交差項は q1q2/(4πr) で、同符号なら正、すなわち反発する。
スカラー場を交換すると引き合う
この符号を、質量 M の実スカラー場 ϕ が静止した源 s(x) に結合した場合と比べる:
Lϕ=21∂μϕ∂μϕ−21M2ϕ2+gs(x)ϕ.(5.5.18)
Hamiltonian は H=∫[21π2+21(∇ϕ)2+21M2ϕ2−gsϕ]d3x で、ϕ と π について2次式である。ϕ=ϕcl+ϕ′ とずらし、ϕcl を (−∇2+M2)ϕcl=gs の解に選ぶと、ϕ′ の1次の項が消えて
H=Hfree[ϕ′,π]−2g∫sϕcld3x(5.5.19)
になる。これは各モードで ωa†a+λ(a+a†) を a→a−λ/ω とずらしてエネルギーが −λ2/ω だけ下がることと同じで、2次の Hamiltonian なので近似を含まない。基底状態のエネルギーのずれは古典の値 −2g∫sϕcl に等しい。s=δ(3)(x−x1)+δ(3)(x−x2) とすると、ϕcl=g∑ie−M∣x−xi∣/(4π∣x−xi∣) で、2つの源が関わる項は
Eint(r)=−4πg2re−Mr(5.5.20)
になる。同じ符号の源が引き合い、到達距離は 1/M である。これは湯川の核力のポテンシャルの形である1H. Yukawa (1935), Proceedings of the Physico-Mathematical Society of Japan 17, 48–57.。
符号の違いはどこにあるか
同じ符号の源が、スカラー場の交換では引き合い、電磁場では反発する。違いは L の中の勾配の項の符号にある。スカラー場では 21∂μϕ∂μϕ の空間部分が −21(∇ϕ)2 で、場を空間的に変化させると L が下がり、エネルギーが上がる。源があると場はエネルギーが下がる向きにずれ、2つの源の場が重なるとエネルギーはさらに下がる。電磁場では 21E2 の中の +21(∇A0)2 が L に正の符号で入る。A0 の方程式は作用の極小でなく極大を選ぶ形になり、拘束を解いた後の HC は正の2次形式になる。この符号は η00=+1 と ηii=−1 の差、つまり A0 が4元ベクトルの時間成分であることに由来する。一般に、偶数のスピンの場の交換は同符号の源を引き寄せ、奇数のスピンの場の交換は反発させる(重力はスピン2で、質量どうしは引き合う)。

図 5.5.2 同符号の2つの静止した源の相互作用エネルギー(厳密な値、点線)。光子の交換(HC の交差項)は正で反発し、質量 M のスカラー場の交換(式 (5.5.20))は負で引き合い、r≳1/M で急に弱まる。横軸は 1/M を単位にした距離で、Coulomb の曲線は同じ単位で描いた。
動く電荷:横の光子の交換
電荷が動くと、式 (5.5.17) の1つ目の項 −∫j⋅A を通して横の光子とも結合する。電流がゆっくり変わるとして式 (5.5.19) と同じずらしを横の A に当てると、2つの電流が関わる項は
−∬j1i(x)8πRδij+(eR)i(eR)jj2j(y)d3xd3y,R=x−y, eR=R/R(5.5.21)
になる。核の形は、Fourier 空間で横の成分だけを取り出す射影 δij−kikj/k2 を 1/k2 に掛けて逆変換したものである。点電荷 qa が速度 va で動くと ja=qavaδ(3) で、この項は Coulomb の項 q1q2/(4πr) に比べて v2(SI では v2/c2)の大きさを持つ。古典電磁気学で Darwin の相互作用と呼ばれる速度依存の項にあたる。量子論では、これは結合 q について2次の摂動(光子を1つ放出して吸収する過程)の結果で、QED の物理量は α=q2/(4π) のべき級数として計算される。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの v/c→0(電荷の速さが光速に比べて小さい。横の光子の交換を瞬間的な相互作用とみなす) | 証明 要確認((v/c)2 の次数で放射の反作用が入らないこと、すなわち電磁場の自由度を消去した相互作用が (v/c)2 まで正しいことの一般的な証明を原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの α=e2/(4πε0ℏc)≈1/137→0(結合定数の摂動展開) | 証明 未解決(QED の摂動級数は Dyson(1952), Physical Review 85, 631 の議論により収束しないと考えられているが、証明ではない。漸近級数であることも証明されていない) | 行き先 近似の数理 第7章
例題 5.5.4 質量のある光子を交換しても同符号の電荷は反発する ★★★
オリジナル光子に質量 M があるとした Proca 場(第2部第6章の2.6.7節の総合問題。その章の 1/λ がここの M にあたる)
L=−41FμνFμν+21M2AμAμ−JμAμ
に、静止した電荷の密度 J0=ρ(x), J=0 を入れる。静的な解では A=0 とおけることを認める。
- (1) A0 の方程式が (−∇2+M2)A0=ρ になることを示し、原点の点電荷 q の作る A0 を書け。
- (2) 静的な配置のエネルギーは E=−∫Ld3x である。L を A0 で書き、2次の項の符号を式 (5.5.18) の静的な部分と比べよ。(1) の解を入れて E=21∫ρA0d3x を示せ。
- (3) 2つの点電荷 q1, q2 が距離 r にあるとき、両方が関わる項が +q1q2e−Mr/(4πr) になることを示し、式 (5.5.20) と符号を比べよ。M→0 では何に戻るか。
- (4) 1/M=1km(第2部第6章の総合問題 (6) の λ)のとき、この相互作用が同じ電荷の Coulomb の値の 1/10 になる距離を求めよ。
解答
(1) Euler–Lagrange 方程式は ∂μFμν+M2Aν=Jν である(第2部第6章の総合問題 (1) で μ0=1, 1/λ2=M2 とおいたもの)。ν=0 では、静的で A=0 なら Fi0=∂iA0−∂0Ai=−∂iA0 なので ∂iFi0=−∇2A0 で、
(−∇2+M2)A0=ρ.
点電荷 ρ=qδ(3)(x) の解は、第5部第4章の式 (5.4.6) で g→q, m→M と読み替えた A0=4πqre−Mr である(その章の例題 5.4.1 で確かめた)。
(2) 静的で A=0 なら F0i=−∂iA0 だけが残り、−41FμνFμν=21E2=21(∇A0)2。AμAμ=(A0)2 なので
L=+21(∇A0)2+21M2(A0)2−ρA0.
式 (5.5.18) の静的な部分は −21(∇ϕ)2−21M2ϕ2+gsϕ で、2次の項の符号がそろって逆である。A0 は4元ベクトルの時間成分なので、勾配の項も質量の項も η00=+1 を通して正の符号で入る。E=−∫L は∫[−21(∇A0)2−21M2(A0)2+ρA0]d3x になる。(1) の方程式に A0 を掛けて部分積分すると∫[(∇A0)2+M2(A0)2]d3x=∫ρA0d3x なので、
E=−21∫ρA0d3x+∫ρA0d3x=+21∫ρA0d3x.
スカラー場では同じ計算で E=−2g∫sϕcld3x(式 (5.5.19))で、符号が逆になる。E は A0 について極小でなく極大の値である。
(3) ρ=q1δ(3)(x−x1)+q2δ(3)(x−x2) の解は2つの点電荷の解の和で、E のうち両方が関わる項は
21[q14πq2re−Mr+q24πq1re−Mr]=+4πq1q2re−Mr.
同符号なら正で、反発する。到達距離は湯川のポテンシャルと同じ 1/M だが、式 (5.5.20) の −g2e−Mr/(4πr) とは符号が逆である。質量を持たせても反発は引力に変わらず、符号を決めているのは質量でなく、場が4元ベクトルの時間成分であることである。M→0 で HC の交差項 +q1q2/(4πr) に戻る。
(4) Coulomb の値との比は e−Mr なので、e−Mr=1/10 から r=ln10/M=2.303×1km=2.30km。
1 H. Yukawa (1935), Proceedings of the Physico-Mathematical Society of Japan 17, 48–57.
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