解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第5章 §5.5.5 ★★ [Dμ,Dν]=iqFμν で場の強さは共変微分の曲率。位相の群を SU(2) などに広げると F に [A,A] の項が加わり、ゲージ場自身が荷を持つ
場の強さは共変微分の交換子
普通の微分は互いに交換するが、共変微分は交換しない。式 (5.5.5) から
[Dμ,Dν]ψ=iq(∂μAν−∂νAμ)ψ=iqFμνψ(5.5.22)
である。第2部第14章では、曲がった時空の共変微分について [∇μ,∇ν]Vρ=RρσμνVσ を示し、Riemann テンソルを「共変微分が交換しない度合い」として読んだ。式 (5.5.22) は同じ形で、Fμν は位相の向きについての曲率にあたる。重力では接ベクトルの向きを点から点へ運ぶ規則が Christoffel 記号 Γ で、電磁気では位相を点から点へ運ぶ規則が Aμ である。
この「運ぶ」を式にする。点 y から点 x へ曲線 C に沿って
WC(x,y):=exp(−iq∫C,yxAμdxμ)(5.5.23)
を考えると、ゲージ変換 (5.5.4) で WC→eiqΛ(x)WCe−iqΛ(y) と変わる。そのため WC(x,y)ψ(y) は ψ(x) と同じ形で変わり、2点の場を比べる ψˉ(x)WC(x,y)ψ(y) はゲージ不変になる。C を閉じた曲線にとると、WC そのものがゲージ不変で、空間の閉曲線では Aμdxμ=−A⋅dl から
WC=exp(iq∮CA⋅dl)=eiqΦB(5.5.24)
になる。ΦB は C を貫く磁束で、これは第2部第8章と第4部第6章の Aharonov–Bohm の位相そのものである。一辺 ε の小さい正方形では ΦB=Bε2(図 5.5.3)で、一周の位相を面積で割ったものが場の強さになる。これは第2部第14章で、ベクトルを小さいループに沿って一周運んだときのずれが Riemann テンソル×面積になったことと同じ構造である。

図 5.5.3 小さい正方形に沿って位相を運ぶ(式 (5.5.23) の WC)。一周で残る位相は貫く磁束 ΦB に q を掛けたもので、F12=−Bz の約束(記法の正本)により −iqF12ε2=iqBε2 と書ける。B は z の正の向きで、一周の向き(反時計回り)に右ねじを回して進む向きである。
非可換な位相の群:Yang–Mills 場
ここまでの位相 eiqΛ は複素数で、2つの変換の順序を入れ替えても結果は変わらない(可換な群 U(1))。場が N 成分を持ち、成分を混ぜる行列 U(x) で変換する場合 ψ→U(x)ψ に同じ要請を当てる。U が SU(2) の元なら、U=exp(i∑aθa(x)Ta)、Ta=σa/2(a=1,2,3)、[Ta,Tb]=i∑cϵabcTc と書ける。共変微分を
Dμ=∂μ+igAμ,Aμ:=a∑AμaTa,Aμ→UAμU†+gi(∂μU)U†(5.5.25)
とすると Dμψ→UDμψ になる。Aμ は行列に値をとる場で、変換則は U(1) の場合に U=eiqΛ, g=q とおくと Aμ→Aμ−∂μΛ に戻る。共変微分の交換子は
[Dμ,Dν]=igFμν,Fμν=∂μAν−∂νAμ+ig[Aμ,Aν],Fμνa=∂μAνa−∂νAμa−gb,c∑ϵabcAμbAνc(5.5.26)
になり、変換で Fμν→UFμνU† と変わる。Fμν はもはやゲージ不変でないが、トレース Tr(FμνFμν) は不変なので、場の項を
LYM=−21Tr(FμνFμν)=−41a∑FμνaFaμν(5.5.27)
と選ぶ(Tr(TaTb)=21δab)。これが Yang–Mills の理論である1C. N. Yang and R. L. Mills (1954), Physical Review 96, 191–195.。
式 (5.5.26) の [Aμ,Aν] の項は、第2部第14章の Riemann テンソルの ΓΓ−ΓΓ の項と同じ役割を持つ。LYM を展開すると、A の3次と4次の項が現れ、ゲージ場どうしが直接相互作用する。光子は電荷を持たないので光どうしは古典的には散乱しないが、非可換なゲージ場は自分自身が荷を持つ。強い相互作用のグルーオン(SU(3))がその例で、この自己相互作用が第5部第11章で結合定数が高エネルギーで弱くなること(漸近的自由性)の原因になる。ゲージ場に質量項を書けないことは U(1) と同じで、弱い相互作用のゲージ場の質量は、第5部第6章で扱う Anderson–Higgs の機構で生じる。
例題 5.5.5 一定のゲージ場でも場の強さが0でない ★★
オリジナルSU(2) のゲージ場で、A1=aT1, A2=aT2(a は定数、下付きの空間成分)、ほかの成分を 0 とする。
- (1) 式 (5.5.26) から F12 を求めよ。
- (2) U(1) で A1=a, A2=a′(定数)とすると F12 はどうなるか。この A はどんな Λ で 0 にできるか。
- (3) (1) の場で、一辺 ε の小さい正方形を一周して戻したときに ψ にかかる行列を ε2 の次数まで書き、2つの成分が受ける位相を述べよ。
解答
(1) 定数なので微分の項は 0。F12=ig[aT1,aT2]=iga2⋅iT3=−ga2T3。成分では F123=−ga2、F121=F122=0。
(2) U(1) では [A1,A2]=0 なので F12=0。Aμ=−∂μΛ を満たす Λ=−(ax1+a′x2) をとってゲージ変換すれば A は 0 になる。可換な場合、一定の A は場の強さを持たず、ゲージの取り方だけの違いである。非可換な場合は (1) のとおり、場の強さが 0 でないので、どんなゲージ変換でも 0 にできない。
(3) 本文の U(1) の場合と同じく、一周の行列は 1−igF12ε2+O(ε3)=1+ig2a2ε2T3。T3=diag(21,−21) なので、上の成分は位相 +21g2a2ε2、下の成分は −21g2a2ε2 を受ける。2つの成分が逆向きの位相を受けるのは、場の強さが T3 の向き(群の中の「向き」)を持つからである。
1 C. N. Yang and R. L. Mills (1954), Physical Review 96, 191–195.
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