量子力学の様々な構成方法 第10部 第1章 §10.1.6 ★★★ 計画 §2 の橋「正準量子化 ↔ 幾何学的量子化」の起点。基準・第2部・第5部・第10部の言葉で、同じ「括弧を交換子へ」がどう書かれるかを並べる
同じ規則の4つの書き方
この章の結果は、同値性の地図の橋「正準量子化 ↔ 幾何学的量子化」(Poisson 括弧 → 交換子を全部の関数には課せない/課せる範囲を前量子化と偏極で決める)の出発点である。同じ「括弧を交換子へ」が、各部でどう書かれ、どこまで厳密かを並べると次のようになる。
| 構成 | 規則 | どこまで厳密か |
| 学部の授業の書き方 | H(q,p) の p を −iℏd/dx に置き換え、積はエルミートになるよう対称化する | 順序は人が選ぶ |
| 第2部(正準量子化) | [q^,p^]=iℏ、dtdA^=[A^,H^]/(iℏ) | q^,p^ の2次以下で古典と同じ形(命題 10.1.2) |
| 第5部(位相空間) | [QW[f],QW[g]]/(iℏ)=QW[{{f,g}}] | すべての多項式で厳密。括弧が ℏ2 で変形される(式 (10.1.13)) |
| 第10部(前量子化) | [Qpre(f),Qpre(g)]=iℏQpre({f,g}) | すべての関数で厳密。ただし可約(式 (10.1.11)) |
| 第10部(偏極のあと) | p について1次以下の関数だけを写す | 既約で厳密。写せる関数が少ない |
基準(第1部)から見ると、どの行も同じ Hilbert 空間と同じ q^,p^ を作っている。各行は、q^,p^ 以外の関数をどの演算子に写すかの決め方で異なる。第2部の正準量子化は q^,p^ と Hamiltonian だけを写し、それ以上の関数の対応は問わない。Hamiltonian が2次の多項式なら Heisenberg 方程式は古典の Hamilton 方程式と同じ形になり(第2部第3章)、2次を超えると ℏ2 の補正が Heisenberg 方程式に入る。第5部はこの補正を Moyal 括弧に取り込み、位相空間の関数の言葉で厳密に書く。ℏ→0 で Moyal 括弧は Poisson 括弧に戻り、Moyal 方程式 ∂tW={{H,W}} は古典の Liouville 方程式になる(第5部第3章)。第10部は、括弧を変形せずに厳密に保ったまま、Hilbert 空間の作り方を幾何で決める道を取る。前量子化が (Q1)〜(Q3) を満たす写像を構成し、偏極が既約性を取り戻す代わりに写せる関数の範囲を決める。どちらの道でも、2次以下の多項式の上では同じ QW に一致する(補題 10.1.3 の一意性があるので、2次以下で要請を満たすものは Weyl 順序しかない)。
解析力学の巻では、同じ要請 (Q1)〜(Q4) を立てて正準量子化を組み立て、Groenewold の定理を証明なしで引用した(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第1章)。この章の 10.1.3節がその証明にあたる。
両向きの対応
この章の範囲で示せる両向きの対応は次の2つである。
基準 → 古典:基準の q^,p^ の2次以下の多項式の交換子は、古典の Poisson 括弧を iℏ 倍したものに一致する(命題 10.1.2)。3次以上では ℏ2 の補正つきで Moyal 括弧に一致する(式 (10.1.13))。
古典 → 基準:古典の2次以下の多項式の Poisson 括弧の代数を既約に表現する写像は Weyl 順序ただ1つである(補題 10.1.3)。3次以上を含めると、そのような写像は存在しない(定理 10.1.4)。
したがって「古典の Poisson 代数 → 量子の演算子代数」の対応は2次以下では両向きに1対1で、それを超えると片向き(量子の交換子から古典の括弧へは ℏ→0 で戻れるが、古典の括弧から量子の演算子へは一意に戻れない)になる。
例題 10.1.6 2次の Hamiltonian では古典と量子が同じ方程式になる ★★
オリジナル古典の Hamiltonian H=2mp2+21mω2q2+κqp(0<κ<ω)を考える。
- (1) Hamilton 方程式 q˙={q,H}, p˙={p,H} を書け。
- (2) Weyl 順序で H^ を作り、Heisenberg 方程式 dtdq^=[q^,H^]/(iℏ), dtdp^=[p^,H^]/(iℏ) を求めて (1) と比べよ。
- (3) 運動の角振動数を求めよ。学部の授業の書き方で κq^p^ と書いた Hamiltonian を使うと何が変わるか。
解答
(1) q˙=∂p∂H=mp+κq、p˙=−∂q∂H=−mω2q−κp。
(2) H^=2mp^2+21mω2q^2+κD^。[q^,p^2]=2iℏp^, [q^,D^]=iℏq^ からdtdq^=mp^+κq^。[p^,q^2]=−2iℏq^, [p^,D^]=−iℏp^ から dtdp^=−mω2q^−κp^。(1) の q,p に帽子を付けたものと一致する。H が2次なので命題 10.1.2 の範囲にあり、補正が出ない。
(3) (q,p) の線形方程式の係数行列 (κ−mω21/m−κ) の固有値は λ2=κ2−ω2<0 を満たし、角振動数は ω2−κ2。量子でも ⟨q^⟩, ⟨p^⟩ が同じ振動数で振動する。κq^p^=κD^+iℏκ/2 なので、κq^p^ を使うと H^ に虚数の定数 iℏκ/2 が足され、エルミートでなくなる。定数なので Heisenberg 方程式は変わらないが、時間発展 e−iH^t/ℏ は eℏκt/2 倍の因子を持ち、ノルムが保たれない。このため、授業の書き方には「エルミートになるよう対称化する」という但し書きが必要になる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com