量子力学の様々な構成方法 第2部 第6章 §2.6.5 ★★★ 交換関係を保つ時間発展は、Stone–von Neumann の定理により位相を除いて一意なユニタリで書ける。その位相はハミルトニアンの定数項で、Heisenberg 描像からは決まらない
正準変換をユニタリで書く
Heisenberg 描像の時間発展は、演算子の組 (x^,p^) を (x^H(t),p^H(t)) に移し、交換関係を保つ(第2部第3章の Jacobi の議論)。行列力学から出発するとき、手元にあるのはこの写像だけで、U^(t) はまだ無い。定理 2.6.5 はここで次の形で使う。
系 2.6.8(交換関係を保つ写像はユニタリで書ける ★★★)
Schrödinger 表現の WS(z) に対し、ユニタリ演算子の族 W′(z) が Weyl の関係 (2.6.10) を満たし、正則で既約であるとする。このときユニタリ U^ があって W′(z)=U^†WS(z)U^ となり、そのような U^ は位相 eic を除いて一意である。
証明
存在は定理 2.6.5 を W′ に当てたものである。一意性を示す。U^1 と U^2 が両方とも条件を満たすなら、T^:=U^1U^2† はすべての WS(z) と交換する。T^ の自己共役な部分 (T^+T^†)/2 と (T^−T^†)/(2i) もすべての WS(z) と交換し、そのスペクトル射影も交換する。スペクトル射影の像は WS で不変な閉部分空間なので、既約性から 0 か 1 で、2つの自己共役な部分はどちらも数である。よって T^ は絶対値1の数 eic である。
時間発展に当てると、各時刻で U^(t) が位相 eic(t) を除いて決まる。1径数群では位相を選び直して U^(t+s)=U^(t)U^(s) を満たすようにできることが知られていて、そうすると Stone の定理から U^(t)=e−iH^t/ℏ となる。残る自由度は c(t)=−E0t/ℏ の形で、ハミルトニアンに定数 E0 を足す自由度である。Heisenberg 方程式 (2.6.4) の右辺の交換子は H^ に定数を足しても変わらないので、この自由度は運動方程式からは決まらない。
共通例題①:位相空間の回転
調和振動子の Heisenberg 描像の解は x^H(t)=x^cosωt+mωp^sinωt、p^H(t)=p^cosωt−mωx^sinωt(第2部第3章)で、(x^/ℓ, ℓp^/ℏ) の平面の回転である。数の演算子 N^=a^†a^ を使うとeiωtN^a^e−iωtN^=a^e−iωt なので、この回転を書くユニタリの1つは e−iωtN^ で、系 2.6.8 によりほかの選び方は
U^(t)=e−iωt(N^+c)(2.6.17)
の形に限る。c は Heisenberg 描像からは決まらない。
c を決めるのは、どの演算子をハミルトニアンと呼ぶかという選択である。古典の H=p2/(2m)+mω2x2/2 に帽子を付けた p^2/(2m)+mω2x^2/2(2次式なので順序の曖昧さは無い。第2部第2章)を a^ で書けば ℏω(N^+21) なので、c=21 で共通例題①のスペクトル En=ℏω(n+21) が出る。第2部第4章で代数から出した零点 ℏω/2 は、Weyl の形の表現の中で「古典の H を順序どおり量子化したもの」をハミルトニアンに選んだ結果である。
c は観測で決まらないわけではない。c は全体の位相としては見えないが、振動子を動かす経路と動かさない経路を重ね合わせると相対位相として現れる。たとえば内部の2準位 ∣↑⟩,∣↓⟩ をもち、∣↑⟩ のときだけ振動子のばねが働く系では、ハミルトニアンの ∣↑⟩⟨↑∣⊗ℏω(N^+c) の c が2つの内部状態の干渉の位相 e−icωt になる。全体のエネルギーの原点は見えず、エネルギーの差は見える。
例題 2.6.5 4分の1周期の時間発展は Fourier 変換 ★★★
オリジナル共通例題①の振動子で、ωt=π/2 と ωt=2π の時間発展を調べる。
- (1) ωt=π/2 の Heisenberg 描像の解を書き、x^ と p^ がどう入れ替わるかを述べよ。
- (2) F^ψ(x):=(2πℓ2)−1/2∫e−ixy/ℓ2ψ(y)dy(運動量を長さに直した Fourier 変換)が Hermite 関数 ψn に (−i)n を掛けることを使って、(1) を書くユニタリが e−iπ(N^+c)/2=e−iπc/2F^ であることを示せ。
- (3) 共通例題①の Mehler 核 K(xf,t;xi,0) を ωt=π/2 で求め、c=21 と一致することを確かめよ。
- (4) 1周期 ωt=2π の U^ を求め、Heisenberg 描像では見えない量を指摘せよ。
解答
(1) x^H=p^/(mω)=ℓ2p^/ℏ、p^H=−mωx^=−ℏx^/ℓ2 である。位置と運動量の役が入れ替わる(向きは1回転の4分の1)。
(2) e−iπN^/2ψn=(−i)nψn なので、F^ と e−iπN^/2 は Hermite 関数の基底の上で同じ数を掛け、同じ演算子である(数値でも n=0,…,4 で確かめた)。したがって e−iπ(N^+c)/2=e−iπc/2F^。Fourier 変換が位置と運動量を入れ替えることは、波動関数の位置表示と運動量表示の関係そのものである。
(3) 正答表の Mehler 核で sinωt=1、cosωt=0 とおくと
K(xf,2ωπ;xi,0)=2πiℏmωexp(−ℏimωxfxi)=e−iπ/42πℓ21e−ixfxi/ℓ2
で、これは e−iπ/4F^ の積分核である。(2) と比べると e−iπc/2=e−iπ/4、すなわち c=21。経路積分で得た核(第3部第3章)の前の因子 1/i が、零点エネルギーの位相 e−iωt/2 を運んでいる。
(4) U^(2π/ω)=e−2πi(N^+1/2)=−1。Heisenberg 描像では x^H=x^、p^H=p^ に戻り、すべての演算子が元に戻るので、この −1 はどの期待値にも現れない。上の内部の2準位の干渉では、∣↑⟩ の側だけが −1 をもらうので、干渉の縞が半周期ずれる。
共通例題③の自由粒子では x^H(t)=x^+p^t/m が線形な正準変換で、系 2.6.8 によりそれを書くユニタリは位相を除いて一意である。その積分核を Heisenberg 描像の係数から組み立てて伝播関数 K=m/(2πiℏt)exp(im(xf−xi)2/(2ℏt)) を得る計算は第3部第3章の橋の節にある。ここではその計算の前提、すなわち「線形な x^H=ax^+bp^ から核が決まる」という主張が定理 2.6.5 で保証されることを付け加える。波束の広がり σ(t)2=σ02+(ℏt/(2mσ0))2 は第2部第3章で Heisenberg 描像だけから出した。
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