量子力学の様々な構成方法 第5部 第2章 §5.2.4 ★★ ei(ax+bp)/ℏ は ei(ax^+bp^)/ℏ に写る。そこから Weyl 順序・特性関数・1次結合の分布が一度に出る
指数関数の記号
正準量子化の処方では、古典の関数 xp を演算子にするときに x^p^ とするか p^x^ とするかの選択が残っていた(第2部第2章)。Weyl 対応がこの選択をどう決めているかは、指数関数の記号を見ると分かる。
命題 5.2.7(指数関数の Weyl 記号 ★★★)
実数 a、b について、ei(ax^+bp^)/ℏ の Weyl 記号は ei(ax+bp)/ℏ である。すなわちQW[ei(ax+bp)/ℏ]=ei(ax^+bp^)/ℏ。
証明
[iax^/ℏ,ibp^/ℏ]=−iab/ℏ は数なので、Baker–Campbell–Hausdorff の公式が2項で止まり
ei(ax^+bp^)/ℏ=eiax^/ℏeibp^/ℏeiab/(2ℏ).
eibp^/ℏ は波動関数を ψ(x)↦ψ(x+b) とずらす演算子なので、⟨x′∣ei(ax^+bp^)/ℏ∣x′′⟩=eiab/(2ℏ)eiax′/ℏδ(x′+b−x′′)。(5.2.2) に入れると δ(x−2y+b−x−2y)=δ(b−y) で y=b に落ち、
eiab/(2ℏ)eia(x−b/2)/ℏeipb/ℏ=ei(ax+bp)/ℏ.
指数関数は位相空間の Fourier 変換の基底なので、命題 5.2.7 と線形性から、一般の関数 f の Weyl 量子化は
QW[f]=∫(2πℏ)2dadbf~(a,b)ei(ax^+bp^)/ℏ,f~(a,b)=∫f(x,p)e−i(ax+bp)/ℏdxdp(5.2.13)
とも書ける。Weyl の 1927 年の定義はこの形である。
Weyl 順序
命題 5.2.7 の両辺を a、b について展開し、ajbk の係数を比べると、多項式の量子化の規則が得られる。ei(ax+bp)/ℏ の n 次の項は (i/ℏ)n(ax+bp)n/n!、演算子の側は (i/ℏ)n(ax^+bp^)n/n! なので
QW[(ax+bp)n]=(ax^+bp^)n.(5.2.14)
右辺を展開すると、x^ を j 個、p^ を k 個含む項は、その並べ方 (jn) 通りすべてが同じ重みで現れる。左辺の xjpk の係数も (jn)ajbk なので、
QW[xjpk]=(jj+k)1並べ方∑(x^ を j 個、p^ を k 個並べた積)(5.2.15)
を得る。これが Weyl 順序で、x^ と p^ の並べ方をすべて同じ重みで平均する規則である。xp なら 21(x^p^+p^x^) で、例題 5.2.1 と一致する。並べ方の平均はエルミート共役で不変なので、実数の多項式はエルミートな演算子に写り、命題 5.2.4 と矛盾しない。2次以下の多項式に制限した Weyl 量子化が、Poisson 括弧を交換子に写す規則を満たすただ1つの量子化であることは 第10部第1章で示されている。
例題 5.2.5 x^2p^2 の Weyl 記号 ★★
オリジナル
- (1) (5.2.15) の6通りの並べ方を A^=x^2p^2 を使って書き直し、QW[x2p2]=x^2p^2−2iℏx^p^−ℏ2/2 を示せ。
- (2) (x^2p^2)W=x2p2+2iℏxp−ℏ2/2 を示せ。
解答
(1) p^x^=x^p^−iℏ を繰り返し使う。
x^p^x^p^p^x^p^x^=A^−iℏx^p^,=A^−3iℏx^p^−ℏ2,x^p^2x^p^2x^2=A^−2iℏx^p^,=A^−4iℏx^p^−2ℏ2.p^x^2p^=A^−2iℏx^p^,
たとえば p^x^p^x^=(x^p^−iℏ)(x^p^−iℏ)=x^p^x^p^−2iℏx^p^−ℏ2 に1行目の左を入れる。A^ 自身を加えた6つを足すと 6A^−12iℏx^p^−3ℏ2 で、6で割って QW[x2p2]=A^−2iℏx^p^−ℏ2/2。
(2) (1) を A^ について解くと A^=QW[x2p2]+2iℏx^p^+ℏ2/2。例題 5.2.1 から x^p^ の記号は xp+iℏ/2 なので
(x^2p^2)W=x2p2+2iℏ(xp+2iℏ)+2ℏ2=x2p2+2iℏxp−2ℏ2.
特性関数と、1次結合の分布
確率論では、分布はその特性関数(Fourier 変換)で決まる。量子の状態についても
χ(a,b)=Tr(ρ^ei(ax^+bp^)/ℏ)(5.2.16)
を考えると、命題 5.2.7 とトレースの公式 (5.2.11) から
χ(a,b)=∫W(x,p)ei(ax+bp)/ℏdxdp(5.2.17)
となる。Wigner 関数は、量子の特性関数 χ を古典の分布と同じ公式で Fourier 逆変換したものである。古典との違いは、χ が「同時に測れる量の特性関数」ではなく、交換しない x^ と p^ を1次結合した1つの演算子 ax^+bp^ の特性関数を、(a,b) ごとに集めたものだという点にある。
この式から、前の章で予告した性質が出る。1次結合 u^=ax^+bp^ の値 u の確率密度を Pa,b(u) とすると、その特性関数は∫Pa,b(u)eikudu=⟨eiku^⟩=χ(ℏka,ℏkb)=∫Weik(ax+bp)dxdp。両辺の Fourier 逆変換を取れば
Pa,b(u)=∫W(x,p)δ(u−ax−bp)dxdp(5.2.18)
である。どの1次結合の分布も、W を直線 ax+bp=u に沿って積分すれば得られる。古典の分布と同じ性質で、周辺分布 (W3) はその (a,b)=(1,0)、(0,1) の場合である。逆に、すべての向きの Pa,b を測れば (5.2.18) を解いて W を、したがって ρ^ を復元することができる。この手続きは光のホモダイン測定で状態を決める方法の原理になっている(K. Vogel・H. Risken (1989)、Phys. Rev. A 40、2847–2849)。光の場合の詳細は 第5部第6章で扱う。
例題 5.2.6 チャープした波束の1次結合の分布 ★★
オリジナル前の章のチャープした Gauss 波束(∣ψ∣2 の分散 σ2、位相 κx2)の Wigner 関数はW=πℏ1exp(−2σ2x2−ℏ22σ2(p−2ℏκx)2) である(第5部第1章)。λ を実数とし u^=x^+λp^ とする。
- (1) (5.2.18) から u^ の分散を求め、演算子で計算した ⟨(x^+λp^)2⟩ と一致することを確かめよ。
- (2) 分散を最小にする λ と、最小値を求めよ。
解答
(1) W は平均 0 の Gauss 関数なので、直線に沿って積分した P1,λ(u) も平均 0 の正規分布で、分散は ∫(x+λp)2Wdxdp である。前の章の例題で読んだ共分散行列(⟨x2⟩=σ2、⟨xp⟩=C=2ℏκσ2、⟨p2⟩=ℏ2/(4σ2)+4ℏ2κ2σ2)から
Var(u)=σ2+2λC+λ2(4σ2ℏ2+4ℏ2κ2σ2).
演算子の側は (x^+λp^)2=x^2+λ(x^p^+p^x^)+λ2p^2 で、真ん中の項の期待値は 2λ⋅21⟨x^p^+p^x^⟩=2λC なので一致する。λ(x^p^+p^x^) が対称に並んでいるのは (5.2.14) のとおりで、W の積分 ∫xpW が対称化した積を与える理由もここにある。
(2) λ について微分して 0 と置くと λ∗=−C/⟨p2⟩=−ℏ(1+16κ2σ4)8κσ4。最小値は σ2−C2/⟨p2⟩ で、
Var(u)min=σ2−ℏ2(1+16κ2σ4)/(4σ2)4ℏ2κ2σ4=1+16κ2σ4σ2.
κ=0 なら、位置そのものより、位置から運動量を少し引いた組み合わせの方が細く分布している。位相空間で見ると、傾いた楕円を短い軸の方向から射影したものに当たる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com