量子力学の様々な構成方法 第5部 第3章 §5.3.5 ★★ 固有状態は H⋆W=EW、純粋状態は W⋆W=W/(2πℏ)、熱平衡は Bloch 方程式 ∂βΩ=−H⋆Ω。調和振動子では熱平衡の W が厳密に解ける
⋆ 固有値方程式と純粋状態
固有状態 H^∣ψE⟩=E∣ψE⟩ の密度行列 ρ^=∣ψE⟩⟨ψE∣ は H^ρ^=ρ^H^=Eρ^ を満たす。定理 5.3.2 で記号に写すと
H⋆W=W⋆H=EW(5.3.13)
である。D. B. Fairlie は 1964 年にこの形で、Schrödinger 方程式を経ずに位相空間の関数の方程式として固有状態を求める道を示した1D. B. Fairlie (1964), Proc. Cambridge Philos. Soc. 60, 581–586.。H⋆W−W⋆H=0 は Moyal 方程式の定常条件、H⋆W+W⋆H=2EW がエネルギーを決める条件である。2次の H=p2/(2m)+mω2x2/2 では (5.3.6) が厳密に ℏ2 で止まり、
H⋆W=[H−8ℏ2(m1∂x2+mω2∂p2)]W+2iℏ{H,W}
と実部と虚部に分かれる。虚部が 0 の条件は W が H だけの関数であること、実部の条件が H の関数についての2階の常微分方程式になり、その解が Laguerre 多項式の Wn である(共通例題①の Wn の導出は 第5部第5章)。ここでは W0=πℏ1e−2H/(ℏω) が解であることだけ確かめる。∂p2e−2H/(ℏω)=(4p2/(m2ℏ2ω2)−2/(mℏω))e−2H/(ℏω) と、x についての同様の式を入れると、括弧の中は H−8ℏ2(ℏ28H−ℏω4)=2ℏω となり、H⋆W0=2ℏωW0 を得る。
純粋状態の条件 ρ^2=ρ^ は、記号に写すと ρW⋆ρW=ρW、W=ρW/(2πℏ) で書けば
W⋆W=2πℏ1W(5.3.14)
である。両辺を積分すると、命題 5.3.3 (iii) から前の章の純粋度の式 2πℏ∫W2=1 が出る。W0 について (5.3.14) が成り立つことは、上の積分の形で数値で確かめた(verify_ch5-03.py)。Gauss 関数どうしの ⋆ 積は級数 (5.3.4) が収束しないので、積分の形が要る例である。
Bloch 方程式
熱平衡の密度行列は ρ^=e−βH^/Z である(第4部第4章)。規格化していない e−βH^ の記号を Ω(x,p;β) と書くと、∂βe−βH^=−H^e−βH^=−e−βH^H^ から
∂β∂Ω=−H⋆Ω=−21(H⋆Ω+Ω⋆H),Ω(x,p;0)=1(5.3.15)
を得る(Bloch 方程式)。2つ目の形では ⋆ 積の ℏ の奇数次の項が打ち消し合い、Ω の ℏ 展開は偶数次だけになる。熱平衡の Wigner 関数は Wβ=Ω/(2πℏZ)、分配関数は Z=Tre−βH^=∫Ωdxdp/(2πℏ) である。
命題 5.3.6(熱平衡の記号の ℏ2 補正 ★★)
H=p2/(2m)+V(x) のとき
Ω=e−βH(1+ℏ2χ+O(ℏ4)),χ=−8mβ2V′′+24mβ3V′2+24m2β3p2V′′.(5.3.16)
証明
(5.3.15) の2つ目の形に (5.3.6) の対称な部分 21(f⋆g+g⋆f)=fg−8ℏ2(fxxgpp−2fxpgxp+fppgxx)+O(ℏ4) を使う。Hxp=0、Hxx=V′′、Hpp=1/m なので、Ω=e−βH(1+ℏ2χ) を入れて ℏ0 の項は ∂βe−βH=−He−βH で成り立つ。ℏ2 の項は
e−βH∂β∂χ=81(V′′∂p2+m1∂x2)e−βH=81[V′′(m2β2p2−mβ)+m1(β2V′2−βV′′)]e−βH
で、χ(β=0)=0 から β について積分すると (5.3.16) を得る。
これは E. Wigner が 1932 年に求めた熱平衡の量子補正2E. Wigner (1932), Phys. Rev. 40, 749–759.で、χ は実数で ℏ の奇数次の項は無い。Z を求めるには p で積分し、e−βp2/(2m) の重みで p2→m/β と置き換えてχ→−β2V′′/(12m)+β3V′2/(24m)、さらに古典の位置分布での部分積分 ⟨V′′⟩cl=β⟨V′2⟩cl を使うとZ=Zcl(1−ℏ2β3⟨V′2⟩cl/(24m)) になる。これは 第5部第1章が Kirkwood の方法で出した式と同じである。Kirkwood の補正因子 w には純虚数の ℏ の1次の項 w1 があったが、それは x^ を左・p^ を右に並べる標準の順序の記号を求めていたためで、Weyl 記号 Ω では対称化によって奇数次の項が消える。どちらも p で積分すれば同じ Z を与える。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏ→0(熱的な de Broglie 波長 ℏβ/m がポテンシャルの変化の長さに比べて短い)で Ω を ℏ2 まで展開する | 証明 要確認〔V が滑らかで無限遠で増えることを仮定。ℏ のべき級数は一般に漸近展開とみられるが、原論文で前提を確かめていない〕 | 行き先 近似の数理 第7章
例題 5.3.5 調和振動子の熱平衡を Bloch 方程式で解く ★★★
オリジナルH=p2/(2m)+mω2x2/2 とする。
- (1) Ω=A(β)e−B(β)H と置き、(5.3.15) から A と B の常微分方程式を導け。
- (2) それを解き、Z と規格化した Wβ を求めて、共通例題①の正答 Z=1/(2sinh(βℏω/2)) と熱平衡の W に一致することを示せ。
- (3) ℏ2 まで展開し、命題 5.3.6 の χ と一致することを確かめよ。
解答
(1) H が2次なので、2つ目の形の ℏ2 の項で厳密に止まり、∂βΩ=−HΩ+8ℏ2(mω2Ωpp+Ωxx/m) である。Ωpp=(B2p2/m2−B/m)Ω、Ωxx=(B2m2ω4x2−Bmω2)Ω から mω2Ωpp+Ωxx/m=(2B2ω2H−2Bω2)Ω。左辺は (A′/A−B′H)Ω なので、H の係数と定数を比べて
B′=1−4ℏ2ω2B2,AA′=−4ℏ2ω2B,A(0)=1, B(0)=0.
(2) B=ℏω2tanhu(u=βℏω/2)と置くと B′=sech2u=1−tanh2u で1つ目を満たす。2つ目は A′/A=−2ℏωtanhu で、A=1/coshu。よって
Ω=cosh(βℏω/2)1exp[−ℏω2tanh(2βℏω)H].
Gauss 積分 ∫e−BHdxdp=2π/(Bω) からZ=2πℏ1⋅coshu1⋅2ωtanhu2πℏω=2sinhu1 で、共通例題①の Z と一致する。規格化するとWβ=Ω/(2πℏZ)=πℏtanhuexp(−ℏω2tanhuH) で、共通例題①の正答に挙げた熱平衡の W と同じ形である。β→∞ で tanhu→1 となり W0 に、ℏ→0 で 2πβωe−βH(古典の分布)に戻る。
(3) coshu−1=1−u2/2+⋯=1−β2ℏ2ω2/8、ℏω2tanhu=β−β3ℏ2ω2/12+⋯ なのでΩ=e−βH[1+ℏ2(−β2ω2/8+β3ω2H/12)]+O(ℏ4)。一方 (5.3.16) に V′′=mω2、V′=mω2x を入れると χ=−β2ω2/8+β3(mω4x2+ω2p2/m)/24=−β2ω2/8+β3ω2H/12 で一致する。
1 D. B. Fairlie (1964), Proc. Cambridge Philos. Soc. 60, 581–586.
2 E. Wigner (1932), Phys. Rev. 40, 749–759.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com