ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第10章 §2.10.6 ★★ 全エネルギーは格子定数で、固有値はバンドの形で、ギャップは光電子分光と逆光電子分光の組で確かめる。授業の「与えられた周期ポテンシャル」は、自己無撞着に遮蔽された v e f f v_{\mathrm{eff}} v eff にあたる
何の実験の量で確かめるか
DFT の計算は2種類の量を出し、確かめ方もそれぞれ違う。
1つ目は全エネルギーで、DFT の枠組みが本来正しく求めることを目指す量である。格子定数を変えて全エネルギーを計算し、最小になる格子定数を X 線回折(第1部第3章 )の値と比べる。最小のまわりの曲がりから体積弾性率が、原子をずらしたときのエネルギーの変化からフォノンの振動数(第3部)が出る。LDA は格子定数をやや小さく、GGA(PBE)はやや大きく出す傾向があり、どちらも多くの単純な固体で数%以内に収まる。
2つ目は固有値で、これをバンドとして読む。バンドの形は、第2部第9章 で述べた角度分解光電子分光(ARPES)で、埋まった状態の ε \varepsilon ε と k \bm{k} k の組を直接測って確かめる。有効質量はサイクロトロン共鳴で確かめる。ギャップについては、測る量が何かを区別しなければならない。光電子分光と逆光電子分光の組で測るのは基本ギャップ I − A I-A I − A で、GW の準粒子のギャップと比べるべき量である。光の吸収の端で測るのは光学ギャップで、励起された電子と残った正孔が Coulomb 引力で束縛した状態(励起子)の分だけ基本ギャップより小さい。バルクの Si や GaAs では励起子の束縛エネルギーが数 meV から十数 meV と小さく、2つのギャップはほぼ等しい。
授業で習った形との対応
学部の固体物理の授業では、バンド理論を「1電子近似」から始めることが多い。電子は、原子核と他のすべての電子が作る平均の周期ポテンシャル V ( r ) V(\bm{r}) V ( r ) の中を独立に運動するとして
[ − ℏ 2 2 m ∇ 2 + V ( r ) ] ψ n k = ε n k ψ n k , V ( r + R ) = V ( r ) (2.10.18) \Bigl[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bm{r})\Bigr]\psi_{n\bm{k}}=\varepsilon _{n\bm{k}}\psi_{n\bm{k}},\qquad V(\bm{r}+\bm{R})=V(\bm{r})\tag{2.10.18} [ − 2 m ℏ 2 ∇ 2 + V ( r ) ] ψ n k = ε n k ψ n k , V ( r + R ) = V ( r ) ( 2.10.18 )
を立て、V V V の Fourier 成分 V G V_{\bm{G}} V G を与えてほぼ自由な電子の近似で解く。この章の Kohn–Sham 方程式 (2.10.3) と並べると、対応は
V ( r ) ⟷ v e f f ( r ) = v e x t ( r ) + v H [ n ] ( r ) + v x c [ n ] ( r ) (2.10.19) V(\bm{r})\ \longleftrightarrow\ v_{\mathrm{eff}}(\bm{r})=v_{\mathrm{ext}}(\bm{r})+v_{\mathrm H}[n](\bm{r})+v_{\mathrm{xc}}[n](\bm{r})\tag{2.10.19} V ( r ) ⟷ v eff ( r ) = v ext ( r ) + v H [ n ] ( r ) + v xc [ n ] ( r ) ( 2.10.19 )
である。授業の「平均の周期ポテンシャル」は、電子自身の密度で遮蔽された後の有効ポテンシャルで、その大きさは裸の原子核のポテンシャルよりずっと小さい。第2部第5章 で、深い − Z / r -Z/r − Z / r のポテンシャルの中で「ほぼ自由な電子」がなぜ成り立つのかという疑問が残ったが、その答えは2段に分かれる。内殻との直交による振動を擬ポテンシャルが消し、残った価電子のイオンのポテンシャルを価電子自身が遮蔽するので、V G V_{\bm{G}} V G は運動エネルギーに比べて小さくなる。
授業で V G V_{\bm{G}} V G を実験に合うように選んで解く方法は、経験的擬ポテンシャル法と呼ばれる。Si・Ge などの半導体のバンドを、数個の Fourier 成分(擬ポテンシャルの形状因子)を合わせるだけで再現した(M. L. Cohen and T. K. Bergstresser (1966), Phys. Rev. 141 , 789)。この章の計算は、その V G V_{\bm{G}} V G を合わせ込まず、全エネルギーの最小化から自己無撞着に決めるものにあたる。
もう1つの対応は Hartree–Fock 近似である。授業では Hartree–Fock の固有値に Koopmans の定理を当て、− ε i -\varepsilon _i − ε i を軌道を固定したままの電子の取り出しのエネルギーと読む。Kohn–Sham の固有値では、対応するのは Janak の定理 (2.10.15) で、最高被占の固有値だけが厳密に − I -I − I に等しい。Hartree–Fock は遮蔽の無い交換のため半導体のギャップを大きく出しすぎ、LDA は Δ x c \Delta_{\mathrm{xc}} Δ xc を落として小さく出しすぎる。
例題 2.10.9 Al の擬ポテンシャルの形状因子の遮蔽 ★★
オリジナル Al は fcc で、立方格子の格子定数は a = 0.405 n m = 7.65 a 0 a=0.405\,\mathrm{nm}=7.65\,a_0 a = 0.405 nm = 7.65 a 0 、価電子は原子1個あたり3個である。イオンの擬ポテンシャルの Fourier 成分 v i o n ( G ) v_{\mathrm{ion}}(\bm{G}) v ion ( G ) は、価電子の線形の応答で v e f f ( G ) = v i o n ( G ) / ε r ( G ) v_{\mathrm{eff}}(\bm{G})=v_{\mathrm{ion}}(\bm{G})/\varepsilon _{\mathrm r}(G) v eff ( G ) = v ion ( G ) / ε r ( G ) と遮蔽される。
(1) 価電子の r s r_{\mathrm s} r s 、k F k_{\mathrm F} k F 、Thomas–Fermi の q T F 2 = 4 k F / ( π a 0 ) q_{\mathrm{TF}}^2=4k_{\mathrm F}/(\pi a_0) q TF 2 = 4 k F / ( π a 0 ) (第5部第1章 )を求めよ。
(2) いちばん小さい逆格子ベクトル ( 111 ) (111) ( 111 ) の長さ ∣ G 111 ∣ = 2 π 3 / a \lvert \bm{G}_{111}\rvert =2\pi\sqrt3/a ∣ G 111 ∣ = 2 π 3 / a での Thomas–Fermi の ε r = 1 + q T F 2 / G 2 \varepsilon _{\mathrm r}=1+q_{\mathrm{TF}}^2/G^2 ε r = 1 + q TF 2 / G 2 を求めよ。
(3) Lindhard の静的な誘電関数 ε r = 1 + ( q T F 2 / G 2 ) L ( G / 2 k F ) \varepsilon _{\mathrm r}=1+(q_{\mathrm{TF}}^2/G^2)L(G/2k_{\mathrm F}) ε r = 1 + ( q TF 2 / G 2 ) L ( G /2 k F ) 、L ( x ) = 1 2 + 1 − x 2 4 x ln ∣ 1 + x 1 − x ∣ L(x)=\frac12+\frac{1-x^2}{4x}\ln\lvert \frac{1+x}{1-x}\rvert L ( x ) = 2 1 + 4 x 1 − x 2 ln ∣ 1 − x 1 + x ∣ (第5部第1章)で計算し直し、Thomas–Fermi と比べよ。
解答 (1) 立方体の単位胞(原子4個)に価電子 12 個なので n = 12 / 7.65 3 = 0.0268 a 0 − 3 n=12/7.65^3=0.0268\,a_0^{-3} n = 12/7.6 5 3 = 0.0268 a 0 − 3 。r s = ( 3 / ( 4 π n ) ) 1 / 3 = 2.07 a 0 r_{\mathrm s}=(3/(4\pi n))^{1/3}=2.07\,a_0 r s = ( 3/ ( 4 π n ) ) 1/3 = 2.07 a 0 、k F = ( 3 π 2 n ) 1 / 3 = 0.925 a 0 − 1 k_{\mathrm F}=(3\pi^2n)^{1/3}=0.925\,a_0^{-1} k F = ( 3 π 2 n ) 1/3 = 0.925 a 0 − 1 、q T F 2 = 4 × 0.925 / π = 1.18 a 0 − 2 q_{\mathrm{TF}}^2=4\times0.925/\pi=1.18\,a_0^{-2} q TF 2 = 4 × 0.925/ π = 1.18 a 0 − 2 。
(2) ∣ G 111 ∣ = 2 π 3 / 7.65 = 1.422 a 0 − 1 \lvert \bm{G}_{111}\rvert =2\pi\sqrt3/7.65=1.422\,a_0^{-1} ∣ G 111 ∣ = 2 π 3 /7.65 = 1.422 a 0 − 1 、G 2 = 2.02 a 0 − 2 G^2=2.02\,a_0^{-2} G 2 = 2.02 a 0 − 2 で、ε r = 1 + 1.18 / 2.02 = 1.58 \varepsilon _{\mathrm r}=1+1.18/2.02=1.58 ε r = 1 + 1.18/2.02 = 1.58 。電子が感じる形状因子は裸のイオンの値の約 0.63 0.63 0.63 倍に弱められる。
(3) x = G / 2 k F = 0.768 x=G/2k_{\mathrm F}=0.768 x = G /2 k F = 0.768 で L ( 0.768 ) = 0.5 + 0.410 3.07 ln 7.62 = 0.771 L(0.768)=0.5+\frac{0.410}{3.07}\ln7.62=0.771 L ( 0.768 ) = 0.5 + 3.07 0.410 ln 7.62 = 0.771 。ε r = 1 + 0.583 × 0.771 = 1.45 \varepsilon _{\mathrm r}=1+0.583\times0.771=1.45 ε r = 1 + 0.583 × 0.771 = 1.45 。Thomas–Fermi は q ≪ k F q\ll k_{\mathrm F} q ≪ k F の近似で、q q q が 2 k F 2k_{\mathrm F} 2 k F に近づくと遮蔽を大きく見積もりすぎる。G 111 G_{111} G 111 は 2 k F 2k_{\mathrm F} 2 k F の 77% なので、その差は約 9% になる。Al の Fermi 面がほぼ自由な電子の球に近いのは、遮蔽された形状因子が小さいからで、そのギャップ 2 ∣ v e f f ( G ) ∣ 2\lvert v_{\mathrm{eff}}(\bm{G})\rvert 2 ∣ v eff ( G )∣ は第2部第5章の式でそのまま見積もることができる。この遮蔽を毎回の反復で自己無撞着に入れているのが、2.10.1 節の Kohn–Sham のループである(例題 2.10.2 の (3) と同じ現象)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com