ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第3部 第1章 §3.1.6 ★★★ 分散 ω s ( k ) \omega_s(\bm{k}) ω s ( k ) は、k → 0 k\to0 k → 0 の傾きを超音波、k ≈ 0 \bm{k}\approx0 k ≈ 0 の光学モードを赤外吸収と Raman 散乱、Brillouin 域全体を中性子の非弾性散乱で測る
長波長の傾き:音速と弾性定数
k → 0 \bm{k}\to0 k → 0 の音響の枝の傾きは音速そのものである。超音波のパルスを結晶に通して往復の時間を測れば、方向ごと・偏りごとの音速が分かり、式 (3.1.12) から弾性定数が決まる。これは分散の原点のすぐ近くだけを見る測り方で、Brillouin 域の大部分は見えない。
k ≈ 0 \bm{k}\approx0 k ≈ 0 の光学モード:赤外吸収と Raman 散乱
光で振動を測ると、光の波数が格子の逆格子に比べて非常に小さいので、運動量の保存から k ≈ 0 \bm{k}\approx0 k ≈ 0 のモードしか見えない(例題 3.1.6 )。k ≈ 0 \bm{k}\approx0 k ≈ 0 で振動数が 0 0 0 でないのは光学モードだけなので、光で見えるのは光学モードの Γ \Gamma Γ 点(k = 0 \bm{k}=0 k = 0 )の振動数である。赤外吸収では、単位胞の双極子を振動させる TO モードが同じ振動数の光を吸収する。イオン結晶では TO と LO の間の振動数の光が結晶の中を伝われず、強く反射される。Raman 散乱では、入射光が振動で変調された分極率に散乱され、振動数が ω s ( 0 ) \omega_s(0) ω s ( 0 ) だけずれた光が出てくる。どのモードが赤外と Raman のどちらで見えるかは、モードの振れ方の対称性で決まる。光での測定の詳細は 第3部第3章 で扱う。
Brillouin 域全体:中性子の非弾性散乱
分散を Brillouin 域の全体で測れるのは、熱中性子の非弾性散乱である。入射中性子の波数を k i \bm{k}_{\mathrm i} k i ・エネルギーを E i E_{\mathrm i} E i 、散乱後を k f \bm{k}_{\mathrm f} k f ・E f E_{\mathrm f} E f とすると、フォノンを1つ作る散乱では
E i − E f = ℏ ω s ( q ) , k i − k f = q + G (3.1.16) E_{\mathrm i}-E_{\mathrm f}=\hbar\omega_s(\bm{q}),\qquad \bm{k}_{\mathrm i}-\bm{k}_{\mathrm f}=\bm{q}+\bm{G}\tag{3.1.16} E i − E f = ℏ ω s ( q ) , k i − k f = q + G ( 3.1.16 )
が成り立つ。2つ目の式は 第1部第3章 の Laue 条件に、フォノンの結晶運動量 q \bm{q} q を足したものである。逆格子ベクトル G \bm{G} G の分だけの不定性は、q \bm{q} q を Brillouin 域に戻すことで取り除く。散乱の前後の波数とエネルギーを測れば、1回の測定で分散の上の点 ( q , ω s ( q ) ) (\bm{q},\omega_s(\bm{q})) ( q , ω s ( q )) が1つ決まる。熱中性子は、波長が格子間隔と同じ程度で、エネルギーがフォノンと同じ程度(数十 meV)なので、波数の変化とエネルギーの変化の両方を同時に精度よく測れる。X 線は同じ波長で keV のエネルギーを持つので、meV のエネルギーの変化を測るには非常に高い分解能が要る。
模型が合わなくなる条件
測った分散がこの章の調和の模型からずれる典型は、3.1.5 節で削ったものに対応して3つある。温度を上げると振動数が下がり、ピークの幅が広がる(非調和性。フォノンの寿命が有限になる)。金属では 2 k F 2k_{\mathrm F} 2 k F で分散に折れ目が入る(Kohn 異常。Born–Oppenheimer 近似の下で電子の遮蔽が Φ \Phi Φ に入れたもの)。イオン結晶では k → 0 \bm{k}\to0 k → 0 で LO と TO が分かれる(長距離の Coulomb 力)。
例題 3.1.6 光・中性子・X 線の波数とエネルギー ★★
オリジナル 格子定数 a = 0.5 n m a=0.5\,\mathrm{nm} a = 0.5 nm の結晶の Brillouin 域の端 π / a \pi/a π / a と、振動数 ν = 10 T H z \nu=10\,\mathrm{THz} ν = 10 THz のフォノンを考える。
(1) 波長 500 n m 500\,\mathrm{nm} 500 nm の可視光の波数は π / a \pi/a π / a の何倍か。
(2) エネルギー 25 m e V 25\,\mathrm{meV} 25 meV の中性子の波長と波数を求め、π / a \pi/a π / a と比べよ(中性子の質量 1.675 × 10 − 27 k g 1.675\times10^{-27}\,\mathrm{kg} 1.675 × 1 0 − 27 kg )。
(3) フォノンのエネルギー h ν h\nu h ν を meV で、Raman 分光で使う波数の単位 ν / c \nu/c ν / c を c m − 1 \mathrm{cm^{-1}} c m − 1 で求めよ。(2) と同じ波長の X 線のエネルギーとも比べよ。
解答 (1) ( 2 π / λ ) / ( π / a ) = 2 a / λ = 2 × 0.5 / 500 = 2.0 × 10 − 3 (2\pi/\lambda)/(\pi/a)=2a/\lambda=2\times0.5/500=2.0\times10^{-3} ( 2 π / λ ) / ( π / a ) = 2 a / λ = 2 × 0.5/500 = 2.0 × 1 0 − 3 。光の波数は Brillouin 域の幅の千分の1ほどしかなく、光が作るか消すフォノンは k ≈ 0 \bm{k}\approx0 k ≈ 0 に限られる。
(2) λ = h / 2 m n E = 6.626 × 10 − 34 / 2 × 1.675 × 10 − 27 × 4.01 × 10 − 21 = 0.181 n m \lambda=h/\sqrt{2m_{\mathrm n}E}=6.626\times10^{-34}/\sqrt{2\times1.675\times10^{-27}\times4.01\times10^{-21}}=0.181\,\mathrm{nm} λ = h / 2 m n E = 6.626 × 1 0 − 34 / 2 × 1.675 × 1 0 − 27 × 4.01 × 1 0 − 21 = 0.181 nm 、波数 2 π / λ = 34.7 n m − 1 2\pi/\lambda=34.7\,\mathrm{nm^{-1}} 2 π / λ = 34.7 n m − 1 。π / a = 6.28 n m − 1 \pi/a=6.28\,\mathrm{nm^{-1}} π / a = 6.28 n m − 1 の5倍ほどで、散乱の角度を選べば Brillouin 域のどこの q \bm{q} q にも届く。
(3) h ν = 6.626 × 10 − 34 × 10 13 / 1.602 × 10 − 19 J e V − 1 = 41.4 m e V h\nu=6.626\times10^{-34}\times10^{13}/1.602\times10^{-19}\,\mathrm J\,\mathrm{eV^{-1}}=41.4\,\mathrm{meV} h ν = 6.626 × 1 0 − 34 × 1 0 13 /1.602 × 1 0 − 19 J e V − 1 = 41.4 meV 、ν / c = 333.6 c m − 1 \nu/c=333.6\,\mathrm{cm^{-1}} ν / c = 333.6 c m − 1 。25 meV の中性子がこのフォノンを吸収すると、エネルギーは 66.4 m e V 66.4\,\mathrm{meV} 66.4 meV になり、始めの 2.65 倍に変わる。一方、波長 0.181 n m 0.181\,\mathrm{nm} 0.181 nm の X 線のエネルギーは h c / λ = 6.85 k e V hc/\lambda=6.85\,\mathrm{keV} h c / λ = 6.85 keV で、フォノンのエネルギーはその 6.0 × 10 − 6 6.0\times10^{-6} 6.0 × 1 0 − 6 にすぎない。中性子が分散の測定に向くのは、波数とエネルギーの両方がフォノンと同じ尺度にあるからである。
授業で習った形との対応
学部の固体物理の授業では、格子振動を Lagrangian を経ずに Newton の運動方程式から始めることが多い。1原子の列なら、ばね定数を C C C として
M d 2 u s d t 2 = C ( u s + 1 + u s − 1 − 2 u s ) , u s = u e i ( s k a − ω t ) ⇒ ω 2 = 4 C M sin 2 k a 2 M\frac{\mathrm{d}^2u_s}{\mathrm{d} t^2}=C(u_{s+1}+u_{s-1}-2u_s),\qquad u_s=u\,\mathrm{e}^{\mathrm{i}(ska-\omega t)}\ \Rightarrow\ \omega^2=\frac{4C}{M}\sin^2\frac{ka}{2} M d t 2 d 2 u s = C ( u s + 1 + u s − 1 − 2 u s ) , u s = u e i ( s k a − ω t ) ⇒ ω 2 = M 4 C sin 2 2 k a
と書く。この章の形との対応は次のとおりである。Newton の運動方程式は式 (3.1.1) の Euler–Lagrange 方程式そのもので、ばね定数 C C C はこの章の K K K である。平面波を仮定することは、この章では「番号ずらしで L L L が変わらないので、ずらしの固有状態に選べる」という対称性の議論で正当化した。授業では仮定として置き、解が見つかることで事後に確かめる。2原子の列も、授業では
M 1 u ¨ s = C ( v s + v s − 1 − 2 u s ) , M 2 v ¨ s = C ( u s + 1 + u s − 2 v s ) , ω 2 = C ( 1 M 1 + 1 M 2 ) ± C ( 1 M 1 + 1 M 2 ) 2 − 4 sin 2 ( k a / 2 ) M 1 M 2 \begin{gathered}M_1\ddot u_s=C(v_s+v_{s-1}-2u_s),\qquad M_2\ddot v_s=C(u_{s+1}+u_s-2v_s),\\
\omega^2=C\Bigl(\frac{1}{M_1}+\frac{1}{M_2}\Bigr)\pm C\sqrt{\Bigl(\frac{1}{M_1}+\frac{1}{M_2}\Bigr)^2-\frac{4\sin^2(ka/2)}{M_1M_2}}\end{gathered} M 1 u ¨ s = C ( v s + v s − 1 − 2 u s ) , M 2 v ¨ s = C ( u s + 1 + u s − 2 v s ) , ω 2 = C ( M 1 1 + M 2 1 ) ± C ( M 1 1 + M 2 1 ) 2 − M 1 M 2 4 sin 2 ( k a /2 )
の形で習う。これは式 (3.1.7) ・(3.1.9) と同じ式で、違いは振幅を 1 / M 1/\sqrt{M} 1/ M で割って動的行列 (3.1.8) をエルミートにしたかどうかだけである。エルミートにしておくと、固有値 ω 2 \omega^2 ω 2 が実数であること、固有ベクトルが直交して基準座標になること、3次元・多原子への一般化 (3.1.6) が、行列の一般論からそのまま従う。3次元の格子振動は授業では弾性波の式 ρ u ¨ = ⋯ \rho\ddot{\bm{u}}=\cdots ρ u ¨ = ⋯ から音速 C 11 / ρ \sqrt{C_{11}/\rho} C 11 / ρ を出す形で習うことが多く、これは 3.1.3 節の長波長の極限 (3.1.12) に当たる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com