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何を削ったか:電子の励起・非調和性・力の届く範囲

2026年10月15日8分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3部 第1章 つなぎ:原子の列の L から基準振動へ
目次
  1. 電子の励起を削った(Born–Oppenheimer 近似)
  2. 非調和性を削った(調和近似)
  3. 力の届く範囲を削った(近い数個のばねへの打ち切り)
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第3部 第1章 §3.1.5 ★★★ 式 (3.1.3) は Born–Oppenheimer 近似と調和近似の上に立ち、さらに力の定数を近い数個のばねに打ち切っている

電子の励起を削った(Born–Oppenheimer 近似)

力の定数 Φ\Phi を電子の基底状態のエネルギー E0({R})E_0(\{\bm{R}\}) の2階微分にした時点で、原子核が動く間も電子は常に基底状態にとどまる、と仮定した。これは 第1部第1章の Born–Oppenheimer 近似で、小さいパラメータは (m/M)1/4(m/M)^{1/4} である。原子核の振動の振動数(THz)に比べて、電子を励起するのに要るエネルギーが十分大きいことがこの近似の前提になる。絶縁体と半導体では電子のバンドギャップが eV の大きさで、THz(数十 meV)の振動よりずっと大きいので前提が満たされる。

金属では Fermi 面のすぐ上に空いた状態が切れ目なく続き、励起のエネルギーのギャップが無い。それでも金属のフォノンが Born–Oppenheimer 近似でよく記述されるのは、伝導電子が原子核の動きに合わせて遮蔽の雲を作り直し、その結果として Φ\Phi が決まるからである。ただし遮蔽は Fermi 面の形を反映するので、波数が Fermi 面の直径 2kF2k_{\mathrm F} に当たる所で分散に折れ目が現れる。これを Kohn 異常と呼ぶ(W. Kohn (1959), Phys. Rev. Lett. 2, 393)。1次元の金属ではこの折れ目が深い谷になり、k=2kFk=2k_{\mathrm F} のモードの振動数が 00 まで下がって格子が歪む。それが 第2部第8章の Peierls 転移である。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの (m/M)1/4→0(m/M)^{1/4}\to0(電子と原子核の質量比。電子の励起のギャップが振動のエネルギーより十分大きい) | 証明 条件付き(電子のギャップが一様に開いていること・有限個の核。結晶と金属への拡張は要確認) | 行き先 近似の数理 第7章

非調和性を削った(調和近似)

E0E_0 をずれの2次で打ち切ったので、3次以上の項(非調和項)を全部捨てた。捨てたことで、調和の結晶は次の3つの性質を持つ。第一に、モードは互いに独立なので、フォノンどうしが散乱しない。熱を運ぶフォノンが一度も散乱されないので、完全な結晶の熱伝導率は無限大になる。第二に、ポテンシャルが釣り合いのまわりで左右対称なので、原子の平均の位置は温度によらない。結晶は熱膨張しない。第三に、振動数は振幅によらないので、分散関係は温度によらない。実在の結晶はこの3つのどれも満たさない。有限の熱伝導率・熱膨張・振動数の温度変化は、どれも非調和項の効果であり、次の章(第3部第2章)で非調和項を摂動として戻して扱う。

調和近似の小さいパラメータは、揺れの振幅と格子間隔の比 ⟨u2⟩/a\sqrt{\langle u^2 \rangle }/a である。室温ではこの比は数 % で(例題 3.1.5)、2次の項に比べて3次の項はその程度に小さい。温度を上げて比が大きくなると調和近似の前提は崩れ、融点の近くでは結晶そのものが保てなくなる。なお、調和近似は「結晶が周期的な配置で安定である」ことを出発点にしている。多数の原子と電子からなる系の基底状態がそもそも周期的な結晶になることは、証明されていない(結晶化問題)。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの ⟨u2⟩/a→0\sqrt{\langle u^2 \rangle }/a\to0(揺れの振幅が格子間隔に比べて小さい) | 証明 条件付き(振幅→0 と有限の時間区間で。基底状態が周期的な結晶になること自体は未解決) | 行き先 近似の数理 第2章・近似の数理 第13章

力の届く範囲を削った(近い数個のばねへの打ち切り)

3.1.3 節の模型では、Φ\Phi を最近接と第2近接の中心力のばね2つだけで表した。実在の Φ\Phi はもっと遠くまで届き、角度にもよる。この打ち切りは小さいパラメータを持たない。ばねの定数は、測った分散や弾性定数に合わせて決める(第一原理計算では E0E_0 を直接微分して Φ\Phi を数値で求める)。打ち切りの影響がはっきり見えるのは2つの場合である。1つは中心力の仮定から出る Cauchy の関係 C12=C44C_{12}=C_{44} のずれで、もう1つはイオン結晶の長距離の Coulomb 力である。Coulomb 力は距離の3乗で減る双極子の相互作用として遠くまで届き、k→0\bm{k}\to0 で縦の光学モード(LO)だけに余分な復元力を足す。そのため LO と TO の振動数は k→0\bm{k}\to0 でも一致せず、その比は Lyddane–Sachs–Teller の関係 ωLO2/ωTO2=εr(0)/εr(∞)\omega_{\mathrm{LO}}^2/\omega_{\mathrm{TO}}^2=\varepsilon_{\mathrm r}(0)/\varepsilon_{\mathrm r}(\infty) で誘電関数の低周波と高周波の値に結びつく(R. H. Lyddane, R. G. Sachs, E. Teller (1941), Phys. Rev. 59, 673)。近いばねだけの模型はこの分裂を出せない。

近似の裏付け

型 C(閉じる) | 小さいもの Φ\Phi を近い数個の中心力のばねで置き換え、定数を測定値に合わせる(小さいパラメータなし) | 証明 C 型=内部の評価なし | 行き先 近似の数理 第1章

例題 3.1.5 3次の項を戻すと熱膨張が出る ★★★

オリジナル隣り合う2つの原子の距離の釣り合いからのずれを xx とし、結合のポテンシャルを Morse の形 V(x)=D(1−e−αx)2V(x)=D(1-\mathrm{e}^{-\alpha x})^2 とする。

  1. (1) VV を xx の3次まで展開し、ばね定数 KK と3次の係数 gg(V≈12Kx2−gx3V\approx\frac12Kx^2-gx^3)を DD・α\alpha で表せ。
  2. (2) 古典統計で、gg の1次までで ⟨x⟩=3gkBT/K2\langle x \rangle =3g k_{\mathrm B} T/K^2 を示せ。g=0g=0(調和)ではどうなるか。
  3. (3) 仮の値 D=2 eVD=2\,\mathrm{eV}、α=2×1010 m−1\alpha=2\times10^{10}\,\mathrm{m^{-1}}、釣り合いの距離 r0=0.25 nmr_0=0.25\,\mathrm{nm}、T=300 KT=300\,\mathrm K で、KK、揺れの大きさ ⟨x2⟩≈kBT/K\sqrt{\langle x^2 \rangle }\approx\sqrt{ k_{\mathrm B} T/K}、3次の項と2次の項の比 α⟨x2⟩\alpha\sqrt{\langle x^2 \rangle }、平均のずれ ⟨x⟩\langle x \rangle、線膨張係数 ⟨x⟩/(r0T)\langle x \rangle /(r_0T) を求めよ。
解答

(1) 1−e−αx=αx−12α2x2+16α3x3−⋯1-\mathrm{e}^{-\alpha x}=\alpha x-\frac12\alpha^2x^2+\frac16\alpha^3x^3-\cdots を2乗すると V=Dα2x2−Dα3x3+712Dα4x4+⋯V=D\alpha^2x^2-D\alpha^3x^3+\frac{7}{12}D\alpha^4x^4+\cdots。よって K=2Dα2K=2D\alpha^2、g=Dα3g=D\alpha^3 である。g>0g>0 なので、縮む向き(x<0x<0)に急な壁、伸びる向きに緩い斜面を持つ。

(2) 重み e−βV=e−βKx2/2(1+βgx3+⋯ )\mathrm{e}^{-\beta V}=\mathrm{e}^{-\beta Kx^2/2}(1+\beta gx^3+\cdots) で平均を取る。Gauss 分布 e−βKx2/2\mathrm{e}^{-\beta Kx^2/2} のもとでは奇数次の平均が 00 で、⟨x4⟩0=3/(βK)2\langle x^4 \rangle _0=3/(\beta K)^2 なので、⟨x⟩=βg⟨x4⟩0=3g/(βK2)=3gkBT/K2\langle x \rangle =\beta g\langle x^4 \rangle _0=3g/(\beta K^2)=3g k_{\mathrm B} T/K^2。g=0g=0 なら被積分関数 xe−βKx2/2x\mathrm{e}^{-\beta Kx^2/2} が奇関数で ⟨x⟩=0\langle x \rangle =0、調和の結晶は熱膨張しない。平均の位置がずれるのは、ポテンシャルが左右非対称で、緩い斜面の側へ多く揺れるからである。Morse の形では ⟨x⟩=3kBT/(4Dα)\langle x \rangle =3 k_{\mathrm B} T/(4D\alpha) になる。

(3) K=2×2×1.602×10−19×(2×1010)2=256 N m−1K=2\times2\times1.602\times10^{-19}\times(2\times10^{10})^2=256\,\mathrm{N\,m^{-1}}。kBT/K=4.14×10−21/256=4.02 pm\sqrt{ k_{\mathrm B} T/K}=\sqrt{4.14\times10^{-21}/256}=4.02\,\mathrm{pm}。比は α⟨x2⟩=0.080\alpha\sqrt{\langle x^2 \rangle }=0.080 で、3次の項は2次の項の 8% ほどである。⟨x⟩=3kBT/(4Dα)=0.485 pm\langle x \rangle =3 k_{\mathrm B} T/(4D\alpha)=0.485\,\mathrm{pm}、線膨張係数は 3kB/(4Dαr0)=6.46×10−6 K−13 k_{\mathrm B}/(4D\alpha r_0)=6.46\times10^{-6}\,\mathrm K^{-1} である。調和近似が数 % の精度で成り立つ所でも、熱膨張のように調和近似では厳密に 00 になる量は、捨てた非調和項だけで決まる。この見積もりは結合1本の古典の模型で、3次元の結晶の熱膨張は次の章でモードごとの振動数の体積依存(Grüneisen 定数)を使って扱い直す。

ほかの巻では

  • 近似の数理 第13章:調和近似が振幅の漸近展開であることと、結晶化問題が未解決であることが読める

木下の勉強ステータス

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