ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第1章 §5.1.5 ★★★ 遮蔽された相互作用のもとでは、Fermi 面の近くの励起の減衰率がエネルギーの2乗でしか増えないので、励起は寿命の長い準粒子として残る。その性質は有効質量と少数の Landau パラメータで書け、比熱と磁化率は別々の因子で変わる
断熱接続と準粒子
Landau の考え方は次のとおりである。相互作用の強さを 0 からゆっくり上げていく。自由電子の基底状態と、それに Fermi 面の外の電子1個を足した励起状態は、途中で相転移(超伝導・磁性など)が起きなければ、相互作用する系の基底状態と励起状態に1対1でつながる。つながった先の励起を、元の電子と同じ k, σ と電荷 −e で番号付けて準粒子と呼ぶ。準粒子は電子にその遮蔽の雲をまとわせたもので、裸の電子とは質量などの数が違う。
番号付けが同じなので、Fermi 面の内側の体積は相互作用によって変わらず、電子の密度 n だけで決まる(Luttinger の定理)。第2部第4章で見たように、相互作用があっても全体の結晶運動量は保存するので、状態を運動量で番号付けることが意味を持つ。
準粒子の寿命
準粒子という考えが意味を持つのは、その寿命 τ が、エネルギーの不確かさ ℏ/τ が準粒子のエネルギー ξ=ε−εF より十分小さくなるほど長いときである。Fermi 面より ξ>0 だけ上の準粒子が減衰するには、Fermi 面の下の電子(エネルギー ξ2<0)と散乱して、2つとも Fermi 面の上の空いた状態(ξ3>0、ξ4>0)へ移らなければならない。エネルギーの保存 ξ+ξ2=ξ3+ξ4 と Pauli の原理のために、ξ2 は −ξ から 0 の範囲、ξ3 は 0 から ξ+ξ2 の範囲にしか取れない。絶対零度で選べる終状態の数は
∫−ξ0dξ2∫0ξ+ξ2dξ3=2ξ2
に比例する。散乱の行列要素は遮蔽された相互作用で有限なので、減衰率は
τℏ∼εFξ2+(πkBT)2(5.1.17)
の形になる。有限温度の (πkBT)2 は、Fermi 分布で重みを付けた同じ積分 ∬dξ2dξ3f(ξ2)[1−f(ξ3)][1−f(ξ+ξ2−ξ3)]=2(1+e−ξ/kBT)ξ2+(πkBT)2 から出る。係数は相互作用の強さと Fermi 面の形で決まり、式 (5.1.17) は大きさの目安である。重要なのは ξ の2乗で減ることで、ξ→0 で ℏ/τ≪ξ が必ず成り立つ。Fermi 面に近い励起ほど長生きする。
Landau のエネルギー汎関数
準粒子の占有率が基底状態から δnkσ だけずれたときの全エネルギーを、ずれの2次まで
E=E0+kσ∑εk∗δnkσ+2V1kσ∑k′σ′∑fkσ,k′σ′Lδnkσδnk′σ′(5.1.18)
と書く。εk∗ は準粒子1個のエネルギーで、Fermi 面の近くでは εF+ℏvF∗(k−kF)、vF∗=ℏkF/m∗ で有効質量 m∗ を定める。fL は準粒子どうしの相互作用で、ほかの準粒子が増えると自分のエネルギーが変わる分を表す(Fermi 分布の f と区別するため添字 L を付ける)。等方な系では、k, k′ を Fermi 面の上にとると fL はなす角 θ とスピンの向きだけによるので、fL=fs(θ)+σσ′fa(θ)(σ,σ′=±1)と分け、Legendre 多項式で展開した係数に準粒子の状態密度 D∗=D(εF)m∗/m を掛けて無次元にしたものを Landau パラメータ Fls, Fla と呼ぶ(Fls=D∗fls など)。
ここから低温の3つの応答が出る。
比熱。準粒子のエントロピーは自由な Fermi 粒子と同じ形 −kB∑[nlnn+(1−n)ln(1−n)] で書けるので、第4部第1章の計算で D(εF) を D∗ に替えるだけになり、γ/γ0=m∗/m である(γ0 は自由電子の値)。fL は温度で一様に励起したときには打ち消し合って入らない。
スピンの磁化率。磁場 B の中でスピン σ の準粒子のエネルギーは σμBB だけずれる(第4部第1章と同じ向きの取り方)。さらに、スピンが偏ると fa の項を通して準粒子のエネルギーがずれる。上下のスピンの数の差を s=n↑−n↓ とすると、fL の l=0 の部分からδεσ∗=σ(μBB+f0as) で、各スピンの数は δnσ=−2D∗δεσ∗ だけ変わる。s=δn↑−δn↓=−D∗(μBB+f0as) を解いてs=−D∗μBB/(1+F0a)、磁化は M=−μBs なので
χm=1+F0aμ0μB2D∗,χm(0)χm=1+F0am∗/m(5.1.19)
になる(χm(0) は自由電子の Pauli 常磁性)。F0a<0(同じ向きのスピンがそろうと準粒子のエネルギーが下がる)なら磁化率は大きくなり、F0a→−1 で発散する。これは強磁性への不安定性(Stoner の条件)で、第5部第2章・第5部第3章の磁性につながる。
有効質量と圧縮率。正の背景だけの系(ジェリウム)は Galilei 変換で不変なので、運動量の密度は質量の流れの密度に等しい。準粒子の分布を一様にずらすと、運動量は ∑ℏkδnk、流れは準粒子自身の速度 ℏk/m∗ に、ほかの準粒子の流れが f1s を通して引きずる分を足したものになる。両者を等しいとおくと m1=m∗1(1+3F1s)、すなわち
mm∗=1+3F1s(5.1.20)
である。密度を一様に変えると f0s が同じ働きをして、圧縮率は κ/κ0=(m∗/m)/(1+F0s) になる。
Wilson 比。式 (5.1.19) と比熱から、第4部第1章で定義した Wilson 比は
RW=γ/γ0χm/χm(0)=1+F0a1(5.1.21)
になる。有効質量 m∗/m は分子と分母で打ち消し、スピンの間の相互作用 F0a だけが残る。自由電子の RW=1 からのずれが相互作用の目印になる(第2部第6章)のは、このためである。
例題 5.1.5 Landau パラメータから比熱・磁化率・圧縮率を読む ★★
オリジナルある金属の伝導電子の Landau パラメータが F1s=0.3、F0a=−0.25、F0s=−0.5 だったとする(説明のための仮の値)。
- (1) m∗/m と γ/γ0 を求めよ。
- (2) χm/χm(0) と Wilson 比を求めよ。比熱だけを見て状態密度を決めた人は、磁化率をいくらと予言し、実際とどれだけずれるか。
- (3) 圧縮率の比 κ/κ0 を求めよ。F0s が負であることは何を意味するか。
解答
(1) 式 (5.1.20) から m∗/m=1+0.3/3=1.10。比熱は準粒子の状態密度に比例するので γ/γ0=1.10。
(2) 式 (5.1.19) から χm/χm(0)=1.10/0.75=1.467、RW=1/0.75=1.333。比熱から D∗=1.10D(εF) を読み、それで Pauli の式を使うと磁化率は 1.10χm(0) と予言されるが、実際は 1.467χm(0) で、33% 大きい。この差が F0a による交換の増強である。
(3) κ/κ0=1.10/(1−0.5)=2.20。F0s<0 は、密度が上がると準粒子のエネルギーが下がる(交換の引力が勝つ)ことを意味し、そのぶん電子気体は圧縮しやすくなる。F0s→−1 では圧縮率が発散し、一様な密度が不安定になる。
ほかの巻では
- 近似の数理 第13章:Fermi 液体がくりこみ群でどこまで証明されたか(Feldman–Knörrer–Trubowitz)と、未解決の範囲が読める
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