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出てくるもの2:原子の間の交換(直接・運動・超交換・RKKY・DM)

2026年10月15日25分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第5部 第2章 磁性 I:Hund 則と交換相互作用
目次
  1. 2つのサイト:直接交換と運動交換
  2. 酸素を挟んだ超交換
  3. 結合の角度と Goodenough–Kanamori 則
  4. 伝導電子を介した交換:RKKY 相互作用
  5. スピン軌道相互作用を戻す:DM 相互作用
  6. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第2章 §5.2.4 ★★★ 2つのサイトの模型を解くと、直接交換 −2K-2K(強磁性)と運動交換 4t2/(U−V)4t^2/(U-V)(反強磁性)の和が JJ になる。酸素を挟むと4次の超交換になり、結合の角度で符号が変わる(Goodenough–Kanamori 則)。スピン軌道相互作用を戻すと、反対称な DM 相互作用 D⋅(S^i×S^j)\bm{D}\cdot(\hat{\bm{S}}_i\times\hat{\bm{S}}_j) が加わる

2つのサイト:直接交換と運動交換

式 (5.2.4) の模型に電子を2個入れる。例題 5.2.1 の分け方で、3重項は空間の波動関数が共有結合的な反対称のもの1つだけで、飛び移り tt では2個が同じサイトに入る状態へ移れない(Pauli の排他律)。したがって3重項のエネルギーは tt によらず、式 (5.2.7) から

ET=V−KE_T=V-K

である。1重項は3つあり、共有結合的な状態(エネルギー V+KV+K)と、イオン的な状態の対称な組 12(∣1 ⁣↑↓⟩+∣2 ⁣↑↓⟩)\frac{1}{\sqrt2}(| 1\!\uparrow\downarrow \rangle +| 2\!\uparrow\downarrow \rangle )(U+KU+K。対で移る項が +K+K を足す)と反対称な組(U−KU-K)である。飛び移りは共有結合的な状態と対称なイオン的な状態だけを行列要素 −2t-2t で結ぶので、1重項の最低のエネルギーは 2×22\times2 行列(V+K−2t−2tU+K)\begin{pmatrix}V+K&-2t\\-2t&U+K\end{pmatrix} の小さいほうの固有値で、

J=ET−ES=−2K−U−V2+(U−V2)2+4t2  ≈  −2K+4t2U−V(t≪U−V)(5.2.14)J=E_T-E_S=-2K-\frac{U-V}{2}+\sqrt{\Bigl(\frac{U-V}{2}\Bigr)^2+4t^2}\;\approx\;-2K+\frac{4t^2}{U-V}\qquad(t\ll U-V)\tag{5.2.14}

を得る。これが2サイトの模型の厳密な JJ で、右の近似は式 (5.2.8) の2次の摂動と一致する(Fock 空間の 6×66\times6 の行列の対角化と合わせた。検算 scripts/verify_ch5-02.py)。

式 (5.2.14) の2つの項は符号が逆である。第1項 −2K-2K は直接交換で、軌道の重なりの電荷の Coulomb エネルギー(命題 5.2.2)のために3重項を下げ、強磁性の向きに働く。第2項 4t2/(U−V)4t^2/(U-V) は運動交換で、1重項だけが隣のサイトへ一度飛び移って戻る仮想的な過程を持てる(3重項は Pauli の排他律で飛べない)ために1重項を下げ、反強磁性の向きに働く。分母の U−VU-V は、電子を隣へ移してサイトに2個詰めるのにかかるエネルギーである。V=K=0V=K=0 とすると第1部第1章の J=4t2/UJ=4t^2/U に戻る。

軌道が1つずつで、電子がサイトに1個ずつの場合、遷移金属の化合物では普通 4t2/U4t^2/U が 2K2K より大きく、反強磁性になる。Hubbard 模型(V=K=0V=K=0)については、連結な2部格子(隣どうしが別の副格子に属する格子)で半分詰めのとき、U>0U>0 ならどんな大きさでも基底状態の全スピンが ∣NA−NB∣/2\lvert N_A-N_B\rvert /2(NAN_A、NBN_B は副格子のサイト数)になることが証明されている(Lieb(1989)、Physical Review Letters 62、1201)。運動交換の反強磁性は摂動の極限だけの結果でなく、この意味で UU の大きさによらない。強磁性を作るには、軌道が直交したまま重なる(t=0t=0 で K>0K>0)ような配置や、同じサイトに複数の軌道があって Hund 則が働く場合が必要になる。次の超交換の 90° の結合がその例である。水素分子では、例題 5.2.1 のイオン的な状態の重みが t/Ut/U で決まり、第2部第1章で分子軌道の近似が「半分イオン的」になって解離を誤ったのは、UU を無視して重みを 12\frac12 に固定したためである。

例題 5.2.4 直接交換と運動交換のどちらが勝つか ★★★

オリジナル式 (5.2.4) で U=4 eVU=4\,\mathrm{eV}、V=1 eVV=1\,\mathrm{eV}、K=0.02 eVK=0.02\,\mathrm{eV} とする。

  1. (1) t=0.3 eVt=0.3\,\mathrm{eV} のとき、JJ を2次の摂動と式 (5.2.14) の厳密な形で求め、比べよ。
  2. (2) 2次の摂動で J=0J=0 になる tct_{\mathrm c} を求めよ。t<tct<t_{\mathrm c} でどちらの磁性になるか。厳密な形での tct_{\mathrm c} と比べよ。
解答

(1) 2次の摂動は J=−2K+4t2/(U−V)=−0.04+0.36/3=0.080 eVJ=-2K+4t^2/(U-V)=-0.04+0.36/3=0.080\,\mathrm{eV}。厳密な形は −0.04−1.5+2.25+0.36=0.0756 eV-0.04-1.5+\sqrt{2.25+0.36}=0.0756\,\mathrm{eV} で、摂動より 5.6 % 小さい。展開の次の項は −16t4/(U−V)3-16t^4/(U-V)^3 の大きさで、t/(U−V)=0.1t/(U-V)=0.1 ではその程度のずれになる。

(2) 4tc2/(U−V)=2K4t_{\mathrm c}^2/(U-V)=2K から tc=K(U−V)/2=0.03=0.173 eVt_{\mathrm c}=\sqrt{K(U-V)/2}=\sqrt{0.03}=0.173\,\mathrm{eV}。t<tct<t_{\mathrm c} では直接交換が勝って J<0J<0、強磁性になる。厳密な形では ((U−V)/2)2+4t2=(U−V)/2+2K\sqrt{((U-V)/2)^2+4t^2}=(U-V)/2+2K から tc2=K(U−V)/2+K2t_{\mathrm c}^2=K(U-V)/2+K^2、tc=0.174 eVt_{\mathrm c}=0.174\,\mathrm{eV} で、差は1 % 以内である。飛び移り tt と重なりの電荷による KK は、どちらも2つの軌道の重なりで決まり、原子を離すとどちらも小さくなる。そのため tt と KK を独立に動かせるわけではなく、どちらが勝つかは軌道の形と距離による。(検算 scripts/verify_ch5-02.py)

酸素を挟んだ超交換

遷移金属の酸化物では、磁性を担う金属イオンどうしは直接に接しておらず、間に酸素のイオン O2−^{2-} がある。金属の dd 軌道どうしの重なりは小さく、tt も KK もほとんど 0 だが、それでも金属のスピンの間に大きな反強磁性の相互作用が働く。これを超交換と呼ぶ。Anderson は、酸素の pp 軌道を仲立ちにした飛び移りの高次の過程として超交換を定式化した(Anderson(1959)、Physical Review 115、2)。

銅の酸化物を例に、Cu2+^{2+}(3d93d^9)を「dd 殻に正孔が1個」、O2−^{2-}(2p62p^6)を「正孔が無い」とみなし、正孔の言葉で模型を作る。Cu–O–Cu が一直線に並び、dd 軌道1つと酸素の pp 軌道1つだけを残すと、

H^dpd=Δct n^p−tpd∑j=1,2∑σ(d^jσ†p^σ+p^σ†d^jσ)+Ud∑j=1,2n^j↑dn^j↓d+Upn^↑pn^↓p(5.2.15)\hat H_{\mathrm{dpd}}=\Delta_{\mathrm{ct}}\,\hat n_{\mathrm p}-t_{\mathrm{pd}}\sum_{j=1,2}\sum_\sigma\bigl(\hat d^\dagger_{j\sigma}\hat p_\sigma+\hat p^\dagger_\sigma\hat d_{j\sigma}\bigr) +U_{\mathrm d}\sum_{j=1,2}\hat n^{\mathrm d}_{j\uparrow}\hat n^{\mathrm d}_{j\downarrow}+U_{\mathrm p}\hat n^{\mathrm p}_\uparrow\hat n^{\mathrm p}_\downarrow\tag{5.2.15}

である。d^jσ\hat d_{j\sigma} は銅 jj の、p^σ\hat p_\sigma は酸素の正孔の消滅演算子、Δct\Delta_{\mathrm{ct}} は正孔を銅から酸素へ移すエネルギー(電荷移動エネルギー)、UdU_{\mathrm d}・UpU_{\mathrm p} は同じ軌道に正孔が2個入ったときの斥力である。正孔は2個で、低い準位の組は各銅に1個ずつの4状態である。

2つの銅は直接つながっていないので、2次の摂動では正孔が酸素へ出て同じ銅へ戻る過程しかなく、スピンによらない。スピンに依る最初の項は4次で、2種類の過程がある。1つは、正孔が銅1から酸素を経て銅2へ移り(銅2に正孔2個、エネルギー UdU_{\mathrm d})、同じ道を戻る過程で、運動交換の tt を teff=tpd2/Δctt_{\mathrm{eff}}=t_{\mathrm{pd}}^2/\Delta_{\mathrm{ct}} に置き換えたものにあたる。もう1つは、両方の銅の正孔が酸素へ出て(酸素に正孔2個、エネルギー 2Δct+Up2\Delta_{\mathrm{ct}}+U_{\mathrm p})から戻る過程である。どちらも、2個の正孔が同じ軌道に入る途中の状態を通るので、Pauli の排他律のために、1重項だけがこの途中の状態を経由できる。経路の数と分母を数えると、

J180∘=4tpd4Δct2(1Ud+22Δct+Up)>0(5.2.16)J_{180^\circ}=\frac{4t_{\mathrm{pd}}^4}{\Delta_{\mathrm{ct}}^2}\Bigl(\frac{1}{U_{\mathrm d}}+\frac{2}{2\Delta_{\mathrm{ct}}+U_{\mathrm p}}\Bigr)>0\tag{5.2.16}

となり、反強磁性である(Δct≫Ud\Delta_{\mathrm{ct}}\gg U_{\mathrm d} では第1項 4teff2/Ud4t_{\mathrm{eff}}^2/U_{\mathrm d} が残る)。図 5.2.2 は、3つのサイトの模型を厳密に対角化した JJ と式 (5.2.16) を比べたものである。tpd/Δct=0.1t_{\mathrm{pd}}/\Delta_{\mathrm{ct}}=0.1 では差は 5 % だが、0.3 では厳密な値が4次の式の 0.70 倍で、tpd/Δctt_{\mathrm{pd}}/\Delta_{\mathrm{ct}} が 0.3 を超える範囲では4次の式は大きめの見積もりになる。

図

図 5.2.2 一直線の Cu–O–Cu の超交換。Δct=3 eV\Delta_{\mathrm{ct}}=3\,\mathrm{eV}、Ud=8 eVU_{\mathrm d}=8\,\mathrm{eV}、Up=4 eVU_{\mathrm p}=4\,\mathrm{eV} として、正孔2個の3サイトの模型 (5.2.15) を厳密に対角化した J=ET−ESJ=E_T-E_S(点線)と、4次の摂動の式(実線)。厳密な値と式の比は tpd/Δct=0.1, 0.2, 0.3, 0.4t_{\mathrm{pd}}/\Delta_{\mathrm{ct}}=0.1,\,0.2,\,0.3,\,0.4 で 0.955, 0.841, 0.700, 0.5630.955,\,0.841,\,0.700,\,0.563 である。

結合の角度と Goodenough–Kanamori 則

金属–酸素–金属の角度が 90° のときは、2つの金属の dd 軌道がつながる相手が、酸素の互いに直交する pxp_x と pyp_y になる(図 5.2.3)。4次の過程で両方の正孔が酸素へ出ても、入る軌道が別々なので、Pauli の排他律による3重項の制限は無い。1重項と3重項の差は、酸素の上で2個の正孔が pxp_x・pyp_y に1個ずつ入った途中の状態のエネルギーだけに残り、その差は酸素の中の交換積分 KpK_{\mathrm p}(pxp_x と pyp_y の間。5.2.3節の Hund の第1の規則と同じもの)による。U′=Up−2KpU'=U_{\mathrm p}-2K_{\mathrm p} を pxp_x と pyp_y の正孔の Coulomb 積分とすると、途中の状態は3重項で 2Δct+U′−Kp2\Delta_{\mathrm{ct}}+U'-K_{\mathrm p}、1重項で 2Δct+U′+Kp2\Delta_{\mathrm{ct}}+U'+K_{\mathrm p} であり、

J90∘=−4tpd4Δct2⋅2Kp(2Δct+U′)2−Kp2<0(5.2.17)J_{90^\circ}=-\frac{4t_{\mathrm{pd}}^4}{\Delta_{\mathrm{ct}}^2}\cdot\frac{2K_{\mathrm p}}{(2\Delta_{\mathrm{ct}}+U')^2-K_{\mathrm p}^2}<0\tag{5.2.17}

となる。90° の結合の JJ は負で、弱い強磁性になる。Kp=0K_{\mathrm p}=0 なら J90∘=0J_{90^\circ}=0 である(どちらも4つの軌道の模型の厳密な対角化で確かめた)。

図

図 5.2.3 金属–酸素–金属の結合の角度と超交換の符号。180° では2つの金属の正孔が酸素の同じ pp 軌道を経由するので、Pauli の排他律で1重項だけが仮想的な過程を持つ。90° では経由する軌道が直交する pxp_x と pyp_y に分かれ、酸素の中の Hund の交換 KpK_{\mathrm p} の分だけ3重項が下がる。

このように、超交換の符号と大きさは、金属の dd 軌道の占め方と結合の角度から決まる。180° の結合で半分詰まった軌道どうしなら強い反強磁性、90° なら弱い強磁性、というこの経験則をGoodenough–Kanamori 則と呼ぶ(Goodenough(1955)、Physical Review 100、564。Kanamori(1959)、Journal of Physics and Chemistry of Solids 10、87)。式 (5.2.15) の模型の2つのエネルギー UdU_{\mathrm d} と Δct\Delta_{\mathrm{ct}} のどちらが小さいかで、電荷を動かすのに要る最小のエネルギー(絶縁体のギャップ)の中身が変わる。Ud<ΔctU_{\mathrm d}<\Delta_{\mathrm{ct}} の物質を Mott–Hubbard 型、Δct<Ud\Delta_{\mathrm{ct}}<U_{\mathrm d} の物質を電荷移動型と呼んで分ける(Zaanen, Sawatzky, Allen(1985)、Physical Review Letters 55、418)。銅の酸化物は後者に入る。

例題 5.2.5 180° と 90° の超交換を比べる ★★

オリジナルtpd=1.0 eVt_{\mathrm{pd}}=1.0\,\mathrm{eV}、Δct=3.0 eV\Delta_{\mathrm{ct}}=3.0\,\mathrm{eV}、Ud=8 eVU_{\mathrm d}=8\,\mathrm{eV}、Up=4 eVU_{\mathrm p}=4\,\mathrm{eV}、Kp=0.6 eVK_{\mathrm p}=0.6\,\mathrm{eV} とする。

  1. (1) 式 (5.2.16) で J180∘J_{180^\circ} を求め、2つの項の割合を述べよ。
  2. (2) 式 (5.2.17) で J90∘J_{90^\circ} を求め、J180∘J_{180^\circ} との比を求めよ。
  3. (3) 同じパラメータで模型を厳密に対角化すると、J180∘=0.094 eVJ_{180^\circ}=0.094\,\mathrm{eV}、J90∘=−4.1 meVJ_{90^\circ}=-4.1\,\mathrm{meV} になる。4次の式とのずれの向きと大きさを述べよ。
解答

(1) 4tpd4/Δct2=4/9=0.444 eV4t_{\mathrm{pd}}^4/\Delta_{\mathrm{ct}}^2=4/9=0.444\,\mathrm{eV}、括弧の中は 1/8+2/10=0.125+0.200=0.325 eV−11/8+2/10=0.125+0.200=0.325\,\mathrm{eV^{-1}} で、J180∘=0.144 eVJ_{180^\circ}=0.144\,\mathrm{eV}。酸素に正孔が2個入る過程(第2項)が 0.200/0.325 = 62 % を占め、銅に2個入る過程より大きい。これは 2Δct+Up=10 eV2\Delta_{\mathrm{ct}}+U_{\mathrm p}=10\,\mathrm{eV} でも、経路の数が2倍あるためである。

(2) U′=4−1.2=2.8 eVU'=4-1.2=2.8\,\mathrm{eV}、(2Δct+U′)2−Kp2=8.82−0.36=77.08 eV2(2\Delta_{\mathrm{ct}}+U')^2-K_{\mathrm p}^2=8.8^2-0.36=77.08\,\mathrm{eV^2} で、J90∘=−0.444×1.2/77.08=−6.92×10−3 eVJ_{90^\circ}=-0.444\times1.2/77.08=-6.92\times10^{-3}\,\mathrm{eV}。比は J90∘/J180∘=−0.048J_{90^\circ}/J_{180^\circ}=-0.048 で、符号が逆で大きさは約20分の1である。

(3) どちらも厳密な値のほうが小さく、180° で 0.65 倍、90° で 0.59 倍である。tpd/Δct=0.33t_{\mathrm{pd}}/\Delta_{\mathrm{ct}}=0.33 は図 5.2.2 で4次の式が大きめに出る範囲にあり、6次以降の過程(正孔が酸素へ出たまま往復を重ねる過程)の寄与で JJ が小さくなっている。符号と、90° が 180° よりずっと小さいという大小の関係は、厳密な値でも変わらない。(検算 scripts/verify_ch5-02.py)

伝導電子を介した交換:RKKY 相互作用

金属の中に局在したスピン(希土類の 4f 電子や、薄く混ぜた磁性の不純物)があると、その間の交換は伝導電子が仲立ちする。局在したスピン S^j\hat{\bm{S}}_j と、その位置の伝導電子のスピン密度 s^(r)\hat{\bm{s}}(\bm{r}) がJsd∑jS^j⋅s^(Rj)J_{\mathrm{sd}}\sum_j\hat{\bm{S}}_j\cdot\hat{\bm{s}}(\bm{R}_j) で結合するとする(JsdJ_{\mathrm{sd}} はエネルギー×体積の次元を持つ)。スピン1は伝導電子にとってスピンに依るポテンシャル ±12JsdS1zδ(3)(r−R1)\pm\frac12J_{\mathrm{sd}}S_{1z}\delta^{(3)}(\bm{r}-\bm{R}_1) になり、上向きと下向きの電子の密度を逆向きにずらす。そのずれは第5部第1章の静的な Lindhard 関数の実空間の形 χ0(r)\chi_0(r)(両スピンの和。1つのスピンあたりはその半分)で決まり、位置 R2\bm{R}_2 に誘起されるスピン密度は sz(R2)=14Jsdχ0(R)S1zs_z(\bm{R}_2)=\frac14J_{\mathrm{sd}}\chi_0(R)S_{1z}(R=∣R1−R2∣R=\lvert \bm{R}_1-\bm{R}_2\rvert)である。スピン2がこれを感じるエネルギーを回転で不変な形に直すと

H^RKKY=J(R) S^1⋅S^2,J(R)=Jsd24χ0(R)=−Jsd2mkF42π3ℏ2 sin⁡x−xcos⁡xx4,x=2kFR(5.2.18)\hat H_{\mathrm{RKKY}}=J(R)\,\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2,\qquad J(R)=\frac{J_{\mathrm{sd}}^2}{4}\chi_0(R)=-\frac{J_{\mathrm{sd}}^2mk_{\mathrm F}^4}{2\pi^3\hbar^2}\,\frac{\sin x-x\cos x}{x^4},\qquad x=2k_{\mathrm F}R\tag{5.2.18}

を得る。これを RKKY 相互作用と呼ぶ(Ruderman, Kittel(1954)、Physical Review 96、99。Kasuya(1956)、Progress of Theoretical Physics 16、45。Yosida(1957)、Physical Review 106、893)。近い距離(x≪1x\ll1)では (sin⁡x−xcos⁡x)/x4≈1/(3x)>0(\sin x-x\cos x)/x^4\approx1/(3x)>0 で J<0J<0(強磁性)、最初に符号が変わるのは tan⁡x=x\tan x=x の根 2kFR=4.492k_{\mathrm F}R=4.49 で、遠方では J∝cos⁡(2kFR)/R3J\propto\cos(2k_{\mathrm F}R)/R^3 と符号を変えながら減る。5.2.2節の縮退摂動の言葉では、これは伝導電子の励起を「高い準位」とした2次の過程で、Friedel 振動と同じく Fermi 面の角(q=2kFq=2k_{\mathrm F})で振動の波数が決まる。2つのスピンの距離によって強磁性にも反強磁性にもなるので、磁性の不純物がでたらめに散らばった金属ではスピンの向きがそろわずに凍りつく状態(スピングラス)が現れ、磁性層を非磁性の金属の層で挟んだ多層膜では、層の厚さで上下の層の向きが平行と反平行に交互に変わる。

スピン軌道相互作用を戻す:DM 相互作用

ここまで式 (5.2.1) の第3項を 0 にしてきた。これを戻すと、飛び移りの行列要素がスピンに依るようになる。最も簡単な形は、2つのサイトの間の飛び移りを−∑σσ′c^1σ†(t δσσ′+iλ⋅σσσ′)c^2σ′+h.c.-\sum_{\sigma\sigma'}\hat c^\dagger_{1\sigma}\bigl(t\,\delta_{\sigma\sigma'}+\mathrm{i}\bm{\lambda}\cdot\bm{\sigma}_{\sigma\sigma'}\bigr)\hat c_{2\sigma'}+\mathrm{h.c.} とすることで、実数のベクトル λ\bm{\lambda} がスピン軌道相互作用で生じたスピンの回転を表す(∣λ∣≪t\lvert \bm{\lambda}\rvert \ll t)。式 (5.2.8) の2次の摂動を Hubbard の UU について計算すると

H^eff=4U[(t2−λ2) S^1⋅S^2+2t λ⋅(S^1×S^2)+2(λ⋅S^1)(λ⋅S^2)]+定数(5.2.19)\hat H_{\mathrm{eff}}=\frac{4}{U}\Bigl[(t^2-\lambda^2)\,\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2+2t\,\bm{\lambda}\cdot(\hat{\bm{S}}_1\times\hat{\bm{S}}_2)+2(\bm{\lambda}\cdot\hat{\bm{S}}_1)(\bm{\lambda}\cdot\hat{\bm{S}}_2)\Bigr]+\text{定数}\tag{5.2.19}

を得る(λ=∣λ∣\lambda=\lvert \bm{\lambda}\rvert。4×44\times4 の行列として検算した)。第1項は等方的な交換 J=4(t2−λ2)/UJ=4(t^2-\lambda^2)/U、第3項は λ2\lambda^2 の大きさの異方的な交換で、第2項が新しく現れた反対称な項

H^DM=D⋅(S^1×S^2),D=8tλU,∣D∣J≈2λt(5.2.20)\hat H_{\mathrm{DM}}=\bm{D}\cdot\bigl(\hat{\bm{S}}_1\times\hat{\bm{S}}_2\bigr),\qquad\bm{D}=\frac{8t\bm{\lambda}}{U},\qquad\frac{\lvert \bm{D}\rvert }{J}\approx\frac{2\lambda}{t}\tag{5.2.20}

である。これを Dzyaloshinskii–Moriya(DM)相互作用と呼ぶ。Dzyaloshinsky は対称性からこの項の存在を指摘し(Dzyaloshinsky(1958)、Journal of Physics and Chemistry of Solids 4、241)、Moriya は超交換にスピン軌道相互作用を1次で入れてこれを導き、大きさを ∣D∣∼(Δg/g)J\lvert \bm{D}\rvert \sim(\Delta g/g)J と見積もった(Moriya(1960)、Physical Review 120、91)。Δg=g−2\Delta g=g-2 は gg 因子の2からのずれで、スピン軌道相互作用の強さを測る量である。

D\bm{D} の向きは、2つのサイトを結ぶ結合の対称性で制限される。スピンは軸性ベクトルなので、空間の反転で向きを変えない。結合の中点に反転の中心があれば、反転で2つのサイトが入れ替わり、S^1×S^2→S^2×S^1=−S^1×S^2\hat{\bm{S}}_1\times\hat{\bm{S}}_2\to\hat{\bm{S}}_2\times\hat{\bm{S}}_1=-\hat{\bm{S}}_1\times\hat{\bm{S}}_2 となる。H^\hat H が反転で不変なら D=−D\bm{D}=-\bm{D} で、D=0\bm{D}=0 である。2つのサイトを含む鏡映面があれば、鏡映で軸性ベクトルの面内の成分だけが符号を変えるので、D\bm{D} はその面に垂直でなければならない。DM 相互作用は、反転の中心を持たない結合にだけ現れる。

図

図 5.2.4 DM 相互作用による反強磁性のスピンの傾き(傾きの角は誇張して描いた)。等方的な交換 J>0J>0 のエネルギーは2つのスピンが反平行のとき、D⋅(S^1×S^2)\bm{D}\cdot(\hat{\bm{S}}_1\times\hat{\bm{S}}_2) のエネルギーは直交するとき最も低い。2つの和を最小にする向きでは各スピンが φ\varphi だけ傾き、2つの磁気モーメントの和が 0 でなくなる(弱い強磁性)。

DM 相互作用のエネルギーは2つのスピンが直交するとき最も低く、等方的な交換のエネルギーは平行か反平行のとき最も低い。反強磁性の副格子が2つある結晶で、隣どうしの D\bm{D} が打ち消し合わずにそろっていると、各スピンが反平行の向きから少し傾き、副格子の磁化の和が残る(図 5.2.4)。これを弱い強磁性と呼び、Dzyaloshinsky が赤鉄鉱(α\alpha-Fe2_2O3_3)の弱い自発磁化をこの機構で説明した。

例題 5.2.6 DM 相互作用によるスピンの傾きと、1本の結合では消せること ★★

オリジナル

  1. (1) 長さ SS の古典的なスピン2つが E=JS1⋅S2+D⋅(S1×S2)E=J\bm{S}_1\cdot\bm{S}_2+\bm{D}\cdot(\bm{S}_1\times\bm{S}_2)(J>0J>0)で相互作用し、スピンは D\bm{D} に垂直な面の中にあるとする。各スピンが反平行の向きから φ\varphi だけ逆向きに傾くとして、EE を最小にする φ\varphi が tan⁡2φ=D/J\tan2\varphi=D/J を満たすことを示せ。D/J=0.02D/J=0.02、S=12S=\frac12、g=2g=2 のとき、φ\varphi とスピン1個あたりの正味の磁気モーメントを求めよ。
  2. (2) 量子の2つのスピン 12\frac12 で H^=JS^1⋅S^2+D(S^1xS^2y−S^1yS^2x)\hat H=J\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2+D(\hat S_{1x}\hat S_{2y}-\hat S_{1y}\hat S_{2x}) の準位を求めよ。
  3. (3) 式 (5.2.19) の3つの項をすべて残すと、1本の結合の準位は等方的な J′=4(t2+λ2)/UJ'=4(t^2+\lambda^2)/U の Heisenberg 模型と同じになる(検算で確かめた)。このことが、DM 相互作用の効果を見るのに結晶の中で結合が複数要る理由になっていることを説明せよ。
解答

(1) 2つのスピンのなす角は π−2φ\pi-2\varphi である。D\bm{D} に垂直な面の中で S1×S2\bm{S}_1\times\bm{S}_2 は D\bm{D} と平行か反平行で、大きさは S2sin⁡(π−2φ)=S2sin⁡2φS^2\sin(\pi-2\varphi)=S^2\sin2\varphi。EE が下がる向きに傾くとして

E(φ)=JS2cos⁡(π−2φ)−DS2sin⁡2φ=−S2(Jcos⁡2φ+Dsin⁡2φ).E(\varphi)=JS^2\cos(\pi-2\varphi)-DS^2\sin2\varphi=-S^2\bigl(J\cos2\varphi+D\sin2\varphi\bigr).

dEdφ=2S2(Jsin⁡2φ−Dcos⁡2φ)=0\frac{\mathrm{d} E}{\mathrm{d} \varphi}=2S^2(J\sin2\varphi-D\cos2\varphi)=0 から tan⁡2φ=D/J\tan2\varphi=D/J。D/J=0.02D/J=0.02 で φ=12arctan⁡0.02=0.0100 rad=0.573∘\varphi=\frac12\arctan0.02=0.0100\,\mathrm{rad}=0.573^\circ。副格子の磁気モーメントは傾いた方向に gμBSsin⁡φg\mu_{\mathrm B}S\sin\varphi ずつ残るので、スピン1個あたり 2×12×0.0100 μB=0.0100 μB2\times\frac12\times0.0100\,\mu_{\mathrm B}=0.0100\,\mu_{\mathrm B} で、反強磁性の副格子の磁化の約1 % である。

(2) S^1xS^2y−S^1yS^2x\hat S_{1x}\hat S_{2y}-\hat S_{1y}\hat S_{2x} は全スピンの zz 成分 S^1z+S^2z\hat S_{1z}+\hat S_{2z} と交換するので、Sz=±1S_z=\pm1 の2状態 ∣↑↑⟩| \uparrow\uparrow \rangle、∣↓↓⟩| \downarrow\downarrow \rangle には作用せず、エネルギーは J/4J/4 のままである。Sz=0S_z=0 の1重項 ∣s⟩| s \rangle と3重項 ∣t0⟩| t_0 \rangle の間には ±iD/2\pm\mathrm{i} D/2 の行列要素があり、(−3J/4iD/2−iD/2J/4)\begin{pmatrix}-3J/4&\mathrm{i} D/2\\-\mathrm{i} D/2&J/4\end{pmatrix} を対角化してE=−J4±12J2+D2E=-\frac J4\pm\frac12\sqrt{J^2+D^2} を得る。DM 相互作用は1重項と3重項を混ぜ、D2/(2J)D^2/(2J) の程度だけ最低の準位を下げる。

(3) 2つのサイトのスピンの座標軸を、λ\bm{\lambda} の周りに互いに逆向きに少し回すと、飛び移り t+iλ⋅σt+\mathrm{i}\bm{\lambda}\cdot\bm{\sigma} のスピンの回転の部分を消すことができ、模型は等方的な Hubbard 模型と同じ準位を持つ。1本の結合だけなら DM 相互作用と第3項の異方性は、この座標の取り直しで消える組み合わせになっている。結晶の中ではスピンは複数の結合で隣とつながり、すべての結合の回転を同時に消す座標の取り直しは一般に無い。そのため、DM 相互作用の効果(弱い強磁性やらせん状の秩序)は、結合が並んだ格子の上で初めて現れる。(検算 scripts/verify_ch5-02.py)

ほかの巻では

  • 近似の数理 第13章:Hubbard の2量体の厳密解と、t/Ut/U の展開を超えて基底状態のスピンを決める Lieb の定理が読める

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