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出てくるもの(1):gap のある1次元の基底状態

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第5部 第1章 エンタングルメント・エントロピーと面積則
目次
  1. Hastings の定理
  2. 自由フェルミオンの鎖と相関行列の方法
  3. 二量体化した鎖
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第5部 第1章 §5.1.3 ★★★ 1次元で gap のある基底状態はどんなに長い区間でもエントロピーが有界(Hastings の定理)。自由フェルミオンでは相関行列の固有値から直接計算できる

Hastings の定理

基底状態の面積則には、熱状態の上界とは別の議論が要る。1次元については次の定理が知られている。

定理 5.1.3(1次元の面積則(Hastings)★★★)

1次元の鎖の Hamiltonian が、有限の範囲の相互作用で、各項の強さが有界な項の和であり、基底状態が縮退せず、第1励起状態との間にエネルギーの gap ΔE>0\Delta E>0 があるとする。このとき、基底状態の任意の区間 AA のエンタングルメント・エントロピーは

S(ρ^A)≤Smax⁡(5.1.10)S(\hat\rho_A)\le S_{\max}\tag{5.1.10}

を満たす。Smax⁡S_{\max} は1サイトの次元 dd、相互作用の強さ、ΔE\Delta E だけで決まり、区間の長さ LL にも鎖の長さ NN にもよらない。

証明は M. B. Hastings による1M. B. Hastings (2007), Journal of Statistical Mechanics: Theory and Experiment, P08024。下の脚注へ。ここでは証明を追わず、なぜ gap が要るかだけを説明する。gap があると、基底状態の連結相関は距離 rr とともに e−r/ξ\mathrm{e}^{-r/\xi} の速さで減る(Hastings と T. Koma による2M. B. Hastings, T. Koma (2006), Communications in Mathematical Physics 265, 781–804。下の脚注へ)。相関の長さ ξ\xi は、相互作用の伝わる速さを vv として ξ∼v/ΔE\xi\sim v/\Delta E の程度で、gap が小さいほど長い。境界から ξ\xi より遠く離れたサイトは境界の向こう側とほとんど相関を持たないので、もつれは境界から ξ\xi 程度の幅の中に限られる、というのが直観である。ただし相関が速く減ることから面積則を導く議論は単純ではなく、Hastings の証明は gap と、相互作用が有限の速さでしか伝わらないこと(Lieb–Robinson 限界)を直接使う。得られる Smax⁡S_{\max} は 1/ΔE1/\Delta E について指数関数的に大きな数で、実際の模型の値よりずっと大きい。

2次元以上では、gap のある基底状態が面積則に従うことは一般には証明されていない(未解決の問題として残っている)。多くの模型で数値計算は面積則を示しており、第5部第2章 のトーリック符号のように厳密に計算できる模型では面積則に定数の補正が付いた形になる。

自由フェルミオンの鎖と相関行列の方法

具体的に計算するには、自由フェルミオンが最も扱いやすい。長さ NN の鎖に、スピンを持たないフェルミオンが飛び移る Hamiltonian

H^=−∑iti(c^i†c^i+1+c^i+1†c^i)(5.1.11)\hat H=-\sum_{i}t_i\bigl(\hat c_i^\dagger\hat c_{i+1}+\hat c_{i+1}^\dagger\hat c_i\bigr)\tag{5.1.11}

を考える(ti>0t_i>0 はホッピングの強さ)。2次形式の Hamiltonian の基底状態や熱状態では、すべての相関が2点の相関

Cij=⟨c^i†c^j⟩(5.1.12)C_{ij}=\langle \hat c_i^\dagger\hat c_j \rangle\tag{5.1.12}

で決まる(Wick の定理)。AA の中の i,ji,j だけを集めた ∣A∣×∣A∣\lvert A\rvert \times\lvert A\rvert の行列を CAC_A とする。

命題 5.1.4(相関行列の方法 ★★★)

2次形式の Hamiltonian の基底状態または熱状態について、CAC_A の固有値を ν1,…,ν∣A∣\nu_1,\dots,\nu_{\lvert A\rvert }(0≤νk≤10\le\nu_k\le1)とすると

S(ρ^A)=∑k=1∣A∣hb(νk).(5.1.13)S(\hat\rho_A)=\sum_{k=1}^{\lvert A\rvert }h_{\mathrm b}(\nu_k).\tag{5.1.13}

証明

CAC_A はエルミートなので、ユニタリ行列 UU で対角化できる:CA=U diag(νk) U†C_A=U\,\mathrm{diag}(\nu_k)\,U^\dagger。新しいモード f^k=∑j∈AUjkc^j\hat f_k=\sum_{j\in A}U_{jk}\hat c_j を作ると⟨f^k†f^l⟩=νkδkl\langle \hat f_k^\dagger\hat f_l \rangle =\nu_k\delta_{kl} で、f^k\hat f_k は AA の中だけで閉じた独立なモードになる。Wick の定理により AA の中の相関はすべて CAC_A で決まるので、ρ^A\hat\rho_A はこの2点相関を持つ「2次形式の指数」の状態 ρ^A∝exp⁡(−∑kεkf^k†f^k)\hat\rho_A\propto\exp(-\sum_k\varepsilon _k\hat f_k^\dagger\hat f_k)(νk=1/(eεk+1)\nu_k=1/(\mathrm{e}^{\varepsilon _k}+1))に等しい。これは第2部第1章(第2部第1章)の最大エントロピー原理の形で、2点相関だけを決めてエントロピーを最大にした状態である。この状態は各モード kk が確率 νk\nu_k で占有された独立な2準位の積なので、エントロピーは hb(νk)h_{\mathrm b}(\nu_k) の和になる。

この方法は I. Peschel による3I. Peschel (2003), Journal of Physics A: Mathematical and General 36, L205–L208。下の脚注へ。2∣A∣2^{\lvert A\rvert } 次元の密度行列の代わりに ∣A∣\lvert A\rvert 次元の行列を対角化すればよいので、数百サイトの区間も計算できる。検算(verify_ch5-01.py)ではN=8N=8 の鎖で、Jordan–Wigner 変換で 282^8 次元のスピンの問題に直して厳密に対角化した値と式 (5.1.13) が一致することを確かめた。固有値 νk\nu_k が 00 か 11 に近いモードは AA の中で閉じていてエントロピーに寄与せず、12\frac12 に近いモードが境界をまたいでもつれたモードである。

二量体化した鎖

ホッピングを交互に強く・弱くした鎖 ti=t(1+δ)t_i=t(1+\delta)(ii が奇数)、ti=t(1−δ)t_i=t(1-\delta)(ii が偶数)を、半分の占有(フェルミオンの数 N/2N/2)で考える。4この鎖は固体の巻(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部第8章)の SSH 模型で、向こうは2つのホッピングを t±yt\pm y と書く(y=tδy=t\delta)。第V巻(近似の数理 第13章)は t±δt\pm\delta と書き、その δ\delta はこの章の tδt\delta にあたる。下の脚注へ 2サイトを単位胞とする2つのバンドができ、その間の gap は ΔE=4δt\Delta E=4\delta t である(0<δ≤10<\delta\le1)。gap があるので Hastings の定理の仮定を満たし、区間を長くしてもエントロピーは飽和する。無限に長い鎖で数値計算すると、δ=0.5\delta=0.5 では L≥8L\ge8 で S=0.1729S=0.1729、δ=0.2\delta=0.2 では L≥32L\ge32 で S=0.6140S=0.6140 に落ち着いた(図 5.1.2)。gap が小さいほど相関の長さが伸び、飽和する値も飽和に要る長さも大きくなる。

例題 5.1.3 完全に二量体化した鎖の相関行列 ★★

オリジナルδ=1\delta=1 の鎖を考える。ホッピングは (1,2)(1,2)、(3,4)(3,4)、(5,6)(5,6)、… の対の中だけにあり、対と対の間は 00 である。半分の占有の基底状態では、各対に1個のフェルミオンが結合軌道 12(c^2m−1†+c^2m†)∣0⟩\frac{1}{\sqrt2}(\hat c_{2m-1}^\dagger+\hat c_{2m}^\dagger)| 0 \rangle に入る。

  1. 相関行列の成分 C2m−1,2m−1C_{2m-1,2m-1}、C2m−1,2mC_{2m-1,2m}、異なる対の間の CijC_{ij} を求めよ。
  2. A={3,4}A=\{3,4\} と A={2,3}A=\{2,3\} のそれぞれで CAC_A の固有値を求め、式 (5.1.13) から S(ρ^A)S(\hat\rho_A) を求めよ。
  3. AA を長さ LL の区間にしたとき、S(ρ^A)S(\hat\rho_A) が取りうる値をすべて挙げよ。
解答

(1) 対 mm の結合軌道 b^m†=12(c^2m−1†+c^2m†)\hat b_m^\dagger=\frac{1}{\sqrt2}(\hat c_{2m-1}^\dagger+\hat c_{2m}^\dagger) が占有されているので、c^2m−1=12(b^m+a^m)\hat c_{2m-1}=\frac{1}{\sqrt2}(\hat b_m+\hat a_m)(a^m\hat a_m は空の反結合軌道)と書き直して

C2m−1,2m−1=C2m,2m=12,C2m−1,2m=12.C_{2m-1,2m-1}=C_{2m,2m}=\frac12,\qquad C_{2m-1,2m}=\frac12.

異なる対は独立なので、対をまたぐ CijC_{ij} はすべて 00 である。

(2) A={3,4}A=\{3,4\} は対 (3,4)(3,4) を丸ごと含み、CA=12(1111)C_A=\frac12\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix} の固有値は 11 と 00 である。hb(1)=hb(0)=0h_{\mathrm b}(1)=h_{\mathrm b}(0)=0 なので S=0S=0。A={2,3}A=\{2,3\} は対 (1,2)(1,2) と (3,4)(3,4) の片割れを1つずつ含み、CA=diag(12,12)C_A=\mathrm{diag}(\frac12,\frac12) で固有値はどちらも 12\frac12。S=2hb(12)=2ln⁡2S=2h_{\mathrm b}(\frac12)=2\ln2 である。切られた対1つが、もつれたモード(ν=12\nu=\frac12)を1つ作る。

(3) 区間が切る対は両端の高々2つなので、SS は 00、ln⁡2\ln2、2ln⁡22\ln2 のどれかである(LL が偶数なら 00 か 2ln⁡22\ln2、奇数なら ln⁡2\ln2)。どれだけ長くしても 2ln⁡22\ln2 を超えない。例題 5.1.1 の一重項の鎖と同じ構造で、gap ΔE=4t\Delta E=4t が最大の場合にあたる。

ほかの巻では

  • ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部第8章:二量体化した鎖を SSH 模型として扱い、端の準位と巻き数を出している。記号の対応:この章の t(1±δ)t(1\pm\delta) は向こうの t±yt\pm y(y=tδy=t\delta)
  • 近似の数理 第13章:2量体化が長い鎖で必ず起こること(Peierls の不安定性)の証明が読める。記号の対応:向こうの t±δt\pm\delta の δ\delta はこの章の tδt\delta

1 M. B. Hastings (2007), Journal of Statistical Mechanics: Theory and Experiment, P08024。

2 M. B. Hastings, T. Koma (2006), Communications in Mathematical Physics 265, 781–804。

3 I. Peschel (2003), Journal of Physics A: Mathematical and General 36, L205–L208。

4 この鎖は固体の巻(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部第8章)の SSH 模型で、向こうは2つのホッピングを t±yt\pm y と書く(y=tδy=t\delta)。第V巻(近似の数理 第13章)は t±δt\pm\delta と書き、その δ\delta はこの章の tδt\delta にあたる。

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