量子力学の様々な構成方法 第8部 第3章 §8.3.7 ★★ 有限自由度では表現が1つ、無限自由度では状態ごとに表現が分かれる。分かれる理由は巨視的な平均が数になること
この章では、交換関係を Weyl の関係 W(z1)W(z2)=eis(z1,z2)/(2ℏ)W(z1+z2) に直して CCR 代数を作り、その表現が1つか複数かを調べた。代数のノルムでは W(z) どうしが常に距離 2 だけ離れているので、x^ や p^ は代数に入らず、表現の側に正則性を課して作り直す。自由度が有限なら、Weyl 演算子の Gauss 平均 P が真空への射影になり、その性質は Weyl の関係だけから出る。どの正則な表現にも P の像として基底状態を与えるベクトルがあり、そこから Schrödinger 表現が作り直せるので、正則な表現は Schrödinger 表現の直和に限る(Stone–von Neumann の定理)。共通例題①では、Schrödinger・Fock・Bargmann の3つの表示がこの1つの表現の書き方の違いで、振動数を変えると真空が同じ表現の中で a^′=coshra^+sinhra^† と動くことを見た。
自由度が無限になると、振動数を全部変えた真空との重なりは (coshr)−N/2→0 になり、新しい真空は元の Fock 空間に入らない。証明の要は、積状態の GNS 表現で標本平均 N1∑kAk が数 φ1(A) に強収束するという大数の法則の形の補題で、この数が違う状態は別の表現に住み、互いの正規状態にもならない。フェルミ粒子では CAR 代数が最初から有界で、有限個のモードでは行列代数 M2n(C) になるが、無限個では空の状態と満ちた状態、スピン鎖の上向きと横向きが別の表現に住む。自由場(共通例題③)では、質量を変えた真空の重なりが e−c~Vκ3 と体積で指数関数的に減ることを見た。
残した問題は2つある。熱平衡状態を密度行列 e−βH^/Z を使わずに無限系で定義すること(第8部第4章の KMS 条件)と、強磁性・超伝導のように物性で実際に別の表現が現れる例(第8部第5章)である。総合問題では、共通例題①を無限個並べた系の振動数を変える操作を、この章の道具を全部使って調べる。
総合問題 振動子の鎖の振動数を一斉に変える ★★★
オリジナル共通例題①の振動子(質量 m、角周波数 ω)を番号 k=1,2,… で並べ、全部の振動子の角周波数を一斉に ω′=4ω に変える。ω の真空を φω、ω′ の真空を φω′ とし、どちらも各番号の基底状態の積状態とする。
- (1) 振動子1個について、a^′ を a^、a^† で表し、∣⟨0∣0′⟩∣ と ⟨0′∣a^†a^∣0′⟩ を求めよ。(使う道具:第8.3.3節、第2部第4章の a^・a^†)
- (2) N 個の振動子での重なりが 10−3 を切る最小の N を求め、N→∞ の極限を述べよ。(使う道具:第8.3.4節)
- (3) 各番号の V(b)(b=mℏω)の平均 MN を使い、φω と φω′ の GNS 表現がユニタリ同値でないことを示せ。N=100 での MN のゆらぎ ∥(MN−c)ξ∥ も求めよ。(使う道具:補題 8.3.4・定理 8.3.5、第8部第2章の GNS 構成と特性関数)
- (4) φω′ に含まれる ω の量子の総数を N 個の振動子で求め、Shale の条件と照らして、一斉に変える Bogoliubov 変換がユニタリで実装できない理由を述べよ。(使う道具:第8.3.4節、第6部第2章の Fock 空間)
- (5) 振動子1個の熱平衡状態 φβ(βℏω=ln2)について、真空の射影の期待値 φβ(P) と φβ(V(b)) を求めよ。振動子1個の熱平衡は ω の表現の正規状態だが、全部の番号を同じ温度にした積状態は φω の表現の正規状態でないことを、(3) と同じ方法で示せ。(使う道具:第8.3.2節の例題、第4部第4章の熱平衡、第8部第4章への予告)
解答
(1) (8.3.9) で r=21ln4=ln2 なので a^′=45a^+43a^†(cosh2r−sinh2r=1625−169=1 で交換関係が保たれる)。(8.3.10) から ∣⟨0∣0′⟩∣=(4/5)1/2=2/5=0.894、(8.3.11) から ⟨0′∣a^†a^∣0′⟩=sinh2r=9/16。
(2) 積状態なので重なりは1個の N 乗で (4/5)N/2。N>2ln103/ln(5/4)=61.9 から最小の N=62((4/5)31=9.9×10−4)。N→∞ で 0 に行くので、φω′ を表す単位ベクトルは ω の Fock 空間の中に無い。
(3) 第8.3.4節の例題と同じく c=φω(V(b))=e−1/4=0.779、c′=φω′(V(b))=e−1/16=0.939。補題 8.3.4 により φω の表現で MN→c1、φω′ の表現で MN→c′1 に強収束し、c=c′ なので定理 8.3.5 によりユニタリ同値でない。ゆらぎは (8.3.15) から (1−c2)/N=0.393/100=0.063 で、差 0.161 より小さい。N が増えるとゆらぎは 1/N で減る。
(4) 各番号で sinh2r=9/16 なので、N 個で 9N/16(N=62 なら 34.9)。N→∞ で発散する。Shale の条件は ∑ksinh2rk<∞ なので満たされず、一斉の Bogoliubov 変換を ω の Fock 空間のユニタリで実装することはできない。仮に実装できたとすると、φω′ は Fock 空間のベクトル U∣0⟩ で書け、その全粒子数 ⟨∑ka^k†a^k⟩ は有限のはずだが、上の計算では無限大になる。有限個の振動子に限れば、総数は有限で、(1) の変換は前の章までの言葉どおりユニタリで書くことができる。
(5) 第8.3.2節の例題から φβ(P)=1−e−βℏω=1/2。coth(βℏω/2)=(2+1)/(2−1)=3 なのでφβ(V(b))=exp(−3⋅b2/(4mℏω))=e−3/4=0.472。振動子1個なら φβ は密度行列 ρ^β で書けるので正規状態である(P の期待値 1/2 は基底状態の占有確率)。全部の番号を同じ温度にした積状態では、MN の極限が 0.472 で、φω の表現の極限 0.779 と違う。定理 8.3.5 の後半により、この積状態は φω の表現のどの密度行列でも書くことはできない。無限系の熱平衡を e−βH^/Z で定義できない理由がここにあり、状態と時間発展だけで熱平衡を定める KMS 条件(第8部第4章)が必要になる。
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