この章のまとめ
AI 生成・木下が未勉強
近似の数理 第14章 §14.7 ★★★ 開放系の Markov 近似を、型と証明の状況で一覧する
開放系の近似を、第11章・第13章の表と同じ形で表 14.1 にまとめる。
| 近似 | 型 | 数学が保証すること | 証明の状況 | 破綻する場面 |
| Nakajima–Zwanzig(14.1 節) | A | 射影による厳密な書き直し(記憶の核つき) | 恒等式 | —(閉じた微分方程式ではない) |
| Born–Markov・Redfield(14.2 節) | B | の次数までの展開 | 正値性・完全正値性は保証されない | 永年でない項が残る短時間、 |
| van Hove 極限・Davies の生成子(14.3 節) | B | の有限の区間で一様に完全正値な半群へ収束、KMS なら Gibbs 状態が定常 | 証明済み(有限次元の系・無限の浴・相関関数の可積分。Davies 1974) | 強結合、低温で相関時間が長い、近い Bohr 周波数 |
| 永年近似(14.3 節) | B | 速い振動の項の平均化 | Davies の極限に含まれる | 近い Bohr 周波数(部分的な永年近似) |
| Lindblad 形(14.4 節) | 厳密 | 完全正値な半群の生成子の形 | 証明済み(GKS・Lindblad 1976。有界な生成子) | 半群でない時間発展は対象外 |
| 自然放出の Markov 近似(14.5 節) | B | A 係数 、回転波近似を含む | 高い周波数の切断のもとで条件付き | 共振器の強結合、構造のある |
| 量子回帰定理(14.5 節) | B | 2時刻の相関を1時刻の生成子で計算 | 要確認(Dümcke 1983 とされる) | 有限の結合(記憶の相関を捨てる) |
| singular coupling limit(14.6 節) | B | 白色雑音の浴で完全正値な半群 | 要確認(Gorini–Kossakowski 1976) | 熱平衡を再現しない |
表から3つのことが読み取れる。
第一に、Markov 近似の正当化は、射影(A 型)と極限(B 型)の2段でできている。Nakajima–Zwanzig の射影は近似を含まない書き直しで、系の方程式を閉じさせる代わりに記憶の核を残す。記憶を消すのは van Hove の極限で、その極限では、浴の相関時間 を緩和の時間で測った量が に比例して になる。第8章の Boltzmann 方程式が「BBGKY 階層を書き、Boltzmann–Grad 極限をとる」という同じ2段でできていたのと並行している。
第二に、極限のとり方が、近似の方程式の形まで決める。 を固定して2次で打ち切る Redfield 方程式は正値性を壊し、時間を で伸ばす極限は永年近似を自動的に含んで完全正値な生成子を与える。どの項を残すかを物理の勘で決めるのでなく、どの極限をとるかを決めれば項は決まる。これは第7章の平均化定理が、遅い時間 の範囲でだけ誤差を保証したのと同じ構造である。
第三に、構造定理と極限の定理は役割が違う。GKSL の定理は「完全正値な半群なら Lindblad 形」という形を決め、 のような制約を与えるが、どの が現れるかは言わない。Davies の定理は、具体的な系と浴から と速さを決め、KMS の浴なら Gibbs 状態に向かうことまで言う。光の巻と情報の巻が「Markov 近似」として使った方程式は、すべてこの2つの定理の組み合わせの中にあり、外れるのは強結合・低温・近い周波数・多時刻の相関の4つの場面である。
総合問題 熱浴の中の2準位:Davies の生成子から ・H 定理・数値の見積もりまで ★★★
オリジナル2準位 を、 で温度 の Bose 場の熱浴に結合させる。浴のスペクトル密度を とし、、 とおく。
- (1) (使う道具:14.3 節・14.5 節)Davies の生成子の速さが 、 になることを、 を求めて示し、比 が KMS の関係 (14.16) を満たすことを確かめよ。
- (2) (使う道具:14.4 節の例題)・ と定常状態の を求めよ。この結合では になる理由を、 から述べよ。
- (3) (使う道具:14.4 節・近似の数理 第8章の H 定理)対角な状態 が に従うことを使い、定常分布 との相対エントロピー が時間について増えないことを示せ。
- (4) (使う道具:14.2 節・近似の数理 第7章の平均化定理)同じ結合の Redfield 方程式の Kossakowski 行列の行列式を と準位のずれで書き、負になることを示せ。Redfield と Davies の解の差が の程度である理由を述べよ。
- (5) (使う道具:14.6 節)超伝導回路のような 、、 の2準位を例にとる。、定常状態の 、弱結合の小さいパラメータ と を見積もれ。
解答
(1) の固有状態は ()と で、、、。 の熱平衡の相関関数は で、(14.10) の Fourier 変換は 、。比は で、(14.16) に一致する。
(2) 例題 14.4 で とおいたものなので、、、。純粋な位相緩和 は Davies の生成子の の項 に当たるが、 の結合では でその項がない。 の成分を持つ結合( など)なら に比例する位相緩和が加わり、 になる。
(3) とおくと 。 を微分すると
( を使った)。 と は同じ条件なので、右辺は常に 以下である。Boltzmann 方程式の H 定理と同じく、詳細つり合いを満たす Markov の時間発展では、定常分布との相対エントロピーが単調に減る(相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部第2章の言い方では、第二法則がデータ処理不等式の1つの姿として現れる)。
(4) 命題 14.2 の計算で とおけば、行列式は ( は温度によらない)。Redfield と Davies の差は永年でない項 、 で、相互作用描像で で回る。平均化定理は、遅い時間 の範囲で、平均で落とした項の影響が「振動の周期 × 速さ」 に収まることを保証する。温度 で とした数値計算でも、 を から に5倍にすると、2つの解の差の最大値は から へ約 になった。
(5) で、。 で、励起状態に残る割合は の程度である。 から、。どちらも十分小さく、熱浴の相関時間 も緩和の時間 よりずっと短いので、Davies の極限の前提は数の上では満たされている。実際の回路で Markov の近似が外れるのは、この見積もりの外にある、相関時間の長い雑音( 雑音のように低周波に重みのある浴)や、近い周波数の別の準位・別の量子ビットとの結合による場合である(検算スクリプト)。
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