量子力学の様々な構成方法 第5部 第4章 §5.4.6 ★★★ 負の値はパリティの期待値・ずらしたパリティによる展開・光子数の偶奇・文脈依存性として、ほかの部に現れる
この章の結果を、計画の地図の橋に沿って並べ直す。
密度行列との橋:ずらしたパリティで展開する
(5.4.2) はすべての ρ^ について成り立ち、トレースの公式 Tr(ρ^A^)=∫WAW(第5部第2章)と比べると、ずらしたパリティの Weyl 記号は
(Πx0,p0)W(x,p)=πℏδ(x−x0)δ(p−p0)(5.4.15)
である(状態の Wigner 関数で張られる関数の範囲で、両辺の積分がすべて一致するので)。Weyl 量子化は線形なので、任意の関数 f について QW[f]=πℏ1∫f(x0,p0)Π^x0,p0dx0dp0 となる。状態の記号は ρW=2πℏW だったので
ρ^=2∫W(x0,p0)Π^x0,p0dx0dp0.(5.4.16)
密度行列は、ずらしたパリティを W を重みとして足し合わせたものである。W の負の値は、この展開の重みが負になることを意味する。(5.4.2) と (5.4.16) は互いに逆の写像で、密度行列 ↔ 位相空間の橋をパリティの言葉で両向きに書いたものになっている。Weyl 量子化をずらしたパリティで書くこの形は A. Grossmann(A. Grossmann (1976)、Commun. Math. Phys. 48、191–194)と A. Royer(A. Royer (1977)、Phys. Rev. A 15、449)による。
例題 5.4.7 パリティの展開で基底状態の確率を出す ★★
オリジナル(5.4.16) の両辺の ⟨0∣⋅∣0⟩ を取り、ρ^=∣n⟩⟨n∣(n=0,1,2)について ⟨0∣ρ^∣0⟩ が 1,0,0 になることを確かめよ。⟨0∣Π^x0,p0∣0⟩ は (5.4.2) を ρ^=∣0⟩⟨0∣ に使って求めよ。
解答
(5.4.2) から ⟨0∣Π^x0,p0∣0⟩=πℏW0(x0,p0)=e−u0(u0=2H(x0,p0)/(ℏω))。(5.4.16) に入れ、dx0dp0=πℏdu0 と (5.4.4) を使うと
⟨0∣ρ^∣0⟩=2∫Wne−u0dx0dp0=2(−1)n∫0∞e−2u0Ln(2u0)du0.
n=0 では 2⋅21=1。n=1 では −2∫0∞e−2u(1−2u)du=−2(21−21)=0。n=2 では L2(y)=1−2y+y2/2 から 2∫0∞e−2u(1−4u+2u2)du=2(21−1+21)=0。n=1 では W1 の負の部分(原点付近)と正の部分(外側の輪)が e−u0 の重みのもとでちょうど打ち消し合っている。
第二量子化・光との橋:光子数の偶奇
光の1モードでは、原点のパリティは光子数の偶奇 Π^=(−1)n^ である。(5.4.2) は
W(0,0)=πℏ1n∑(−1)n⟨n∣ρ^∣n⟩=πℏ1(P偶−P奇)(5.4.17)
となり、原点での W は「光子数が偶数の確率と奇数の確率の差」である。任意の点の値は、場をずらしてから偶奇を数えれば得られる。この方法で W を点ごとに測る提案を L. G. Lutterbach と L. Davidovich が行い(Phys. Rev. Lett. 78、2547(1997))、P. Bertet らは共振器の光子1個の状態の W を測って原点の負の値を観測した(P. Bertet et al. (2002)、Phys. Rev. Lett. 89、200402)。イオントラップの振動でも、D. Leibfried らが数状態の W を再構成して負の値を観測している(D. Leibfried et al. (1996)、Phys. Rev. Lett. 77、4281–4285)。これらの実験が測っているのは確率 P偶 と P奇 で、どちらも非負である。負になるのはその差で、2節の結論と一致している。
そのほかの部との対応
表 5.4.1 W の負の値が、ほかの構成でどう表れるか。| 構成 | 負の値に当たるもの | 置き場 |
| 基準(状態ベクトル) | ずらしたパリティの期待値 Tr(ρ^Π^x0,p0)<0 | (5.4.2)・第5部第1章 |
| 密度行列 | 展開 (5.4.16) の重みが負 | この節 |
| 第二量子化・光 | 光子数の偶奇の確率の差 P偶−P奇<0 | (5.4.17)・第5部第6章 |
| 位相空間の別の表示 | Husimi の Q は非負(ならした W)、Glauber–Sudarshan の P はより強く負や特異になる | 命題 5.4.2・第5部第6章 |
| 軌道と流体 | 位置の密度 ρ(x)=∣ψ∣2 は非負のまま。同時の (x,p) 分布は持たない | 第7部第1章 |
| 公理からの再構成 | 負の値の必要性 ⇔ 文脈依存性(Spekkens) | 定理 5.4.4・第9部第3章 |
表の5行目は、ほかの構成との違いを示している。第7部の Madelung・Bohm・Nelson の構成は、位置の分布 ∣ψ∣2 だけを確率として持ち、運動量は位置の関数(速度場 ∂xS/m)として扱う。そこでは確率はいつも非負だが、位置と運動量の同時分布という対象そのものが無い。位相空間の構成は同時分布の形を残して非負を捨て、軌道と流体の構成は非負を残して同時分布を捨てている。定理 5.4.4 から、両方を同時に残す構成は存在しない。
学部の量子力学の授業では、不確定性関係 ΔxΔp≥ℏ/2 を「位置と運動量の同時分布が無いこと」の表れとして説明することが多い。この章の結果はそれをより細かく述べたもので、同時分布の候補 W はあるが負の値を持ち得ること、負の値は ℏ/2 の幅の窓でならせば必ず消えること(命題 5.4.2)、そして窓でならした分布は実際に同時測定で得られること(Arthurs–Kelly)の3つに分けられる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com