量子力学の様々な構成方法 第7部 第1章 §7.1.6 ★★★ この章の結果が同値性の地図の「波動関数 ↔ 流体」の橋に当たること、基準と第5部の言葉で同じ量がどう書けるかを式で並べる
地図の上の位置
第1部第1章の同値性の地図(第1部第1章)では、第7部は「波動関数 ──Madelung 変換──▶ 流体」の矢印から始まる。この章で示したのはその矢印の両向きで、基準から流体へは第2節と第3節、流体から基準へは第4節の定理 7.1.4 が受け持つ。図 7.1.3 に、この章の結果がほかの部とつながる所をまとめた。

図 7.1.3 この章の結果と同値性の地図。太枠がこの章の流体。上下の2本の矢印がこの章で証明した両向きの橋で、下の3本は第7部の後の章、右の1本は第5部へ続く。
基準の言葉で:密度と流れは演算子の期待値
第1部の基準では、ρ と j は演算子の期待値として書ける。1次元で書くと、δ(x^−x)=∣x⟩⟨x∣ を使って
ρ(x)=⟨ψ∣δ(x^−x)∣ψ⟩,j(x)=⟨ψ∣2m1{p^, δ(x^−x)}∣ψ⟩(7.1.19)
である({⋅,⋅} は反交換子)。2つ目は、⟨ψ∣p^∣x⟩=(⟨x∣p^∣ψ⟩)∗=(−iℏψ′(x))∗ から2m1[ψ∗(−iℏψ′)+ψ(iℏψ′∗)]=mℏIm(ψ∗ψ′) となり、(7.1.3) と一致する。連続の式は、演算子 δ(x^−x) の Heisenberg の運動方程式(第2部第3章)の期待値である。運動量の保存則 (7.1.11) を全空間で積分したものは dtd⟨p^⟩=−⟨V′(x^)⟩ で、Heisenberg 方程式 p^˙=−V′(x^) の期待値と同じ式になる。流体の側では「量子応力は表面の項なので積分すると消える」、基準の側では「[p^,p^2]=0 なので運動エネルギーの項は p^ を変えない」という別の理由で同じ式になっている。
運動量の分散も2つに分かれる。(7.1.12) を1次元で書き直し、⟨p^⟩=∫ρmvdx を引くと
⟨p^2⟩−⟨p^⟩2=[∫ρ(mv)2dx−(∫ρmvdx)2]+4ℏ2J[ρ] ≥ 4ℏ2J[ρ] ≥ 4(⟨x^2⟩−⟨x^⟩2)ℏ2(7.1.20)
となる。最初の括弧は流れの速さのばらつき(分散なので 0 以上)、2つ目の不等号は位置の Fisher 情報についての Cramér–Rao の不等式 J[ρ]Var(x)≥1(相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部第7章)である。両端を結ぶと Heisenberg の不確定性関係 ΔxΔp≥ℏ/2 が出る。流体の言葉では、不確定性関係の下限は「流れが一様で、密度が Fisher 情報の下限を達成するガウス分布」のときに等号になる。
第5部の言葉で:Wigner 関数の運動量のモーメント
第5部の Wigner 関数 W(x,p)=πℏ1∫dyψ(x+y)ψ∗(x−y)e−2ipy/ℏ を運動量で積分すると、∫pkWdp は ψ(x+y)ψ∗(x−y) を y=0 で k 回微分したものに (ℏ/(2i))k を掛けた形になる。k=0,1,2 を極形式で計算すると
∫Wdp=ρ,∫pWdp=ρmv,∫p2Wdp=ρ(mv)2+mP(7.1.21)
となる(P=Pxx。3本目は一般の R,S について検算で確かめた)。つまり、流体の密度・運動量密度・運動量の流れは Wigner 関数の運動量についての0次・1次・2次のモーメントで、量子応力 P は「その点での運動量の条件付き分散」に当たる。Moyal 方程式(第5部第3章)を p で積分していくとモーメントの方程式が無限に続くが、純粋状態では高次のモーメントも ρ と S で決まるので、2次で閉じて Madelung の方程式になる。混合状態ではこの閉じ方が成り立たない。第5節の終わりで熱平衡を1つの流体で書けないと述べたのは、この事情による。
解析力学と授業の形
解析力学の巻の第1部第13章(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第13章)は、同じ極形式から量子 HJ 方程式と連続の式を導き、ℏ→0 の古典極限の条件を出した。その章は「古典力学の Hamilton–Jacobi 方程式が量子力学の位相の式の極限になる」向きに読み、この章は「量子力学を流体として書き直す構成の出発点」として読む。ℏ→0 の極限そのものは次の章で扱う。
学部の量子力学の授業では、確率流密度 j=2miℏ(ψ∗∇ψ−ψ∇ψ∗) と連続の式 ∂t∣ψ∣2+∇⋅j=0 を、Schrödinger 方程式に ψ∗ を掛けて複素共役と引き算する形で導く。この章の (7.1.6) はそれと同じ式で、授業の導き方は第2節の虚部だけを取り出したものに当たる。授業で通常省かれる実部の式が、この部の中心になる量子 HJ 方程式である。
例題 7.1.7 チャープしたガウス波束の Wigner 関数のモーメント ★★
オリジナルψ=(2πσ2)−1/4exp(−x2/(4σ2)+icx2)(c は実数)の Wigner 関数を求め、(7.1.21) の3本を確かめよ。
解答
ψ(x+y)ψ∗(x−y)=(2πσ2)−1/2exp(−4σ2(x+y)2+(x−y)2+ic[(x+y)2−(x−y)2])=(2πσ2)−1/2e−x2/(2σ2)e−y2/(2σ2)e4icxy である。y についての Gauss 積分∫e−y2/(2σ2)e−2i(p−2ℏcx)y/ℏdy=2πσe−2σ2(p−2ℏcx)2/ℏ2 を使うと
W(x,p)=πℏ1e−x2/(2σ2)e−2σ2(p−2ℏcx)2/ℏ2.
各点 x で、W は p について中心 2ℏcx、分散 ℏ2/(4σ2) のガウス分布に ρ(x) を掛けたものになっている。したがって∫Wdp=ρ、∫pWdp=ρ⋅2ℏcx、∫p2Wdp=ρ[(2ℏcx)2+ℏ2/(4σ2)] である。一方、流体の側では S=ℏcx2 から mv=2ℏcx、例題 7.1.3 の (1) から mP=ℏ2ρ/(4σ2) で、3本とも一致する。位相空間で見ると、チャープ c は W を p=2ℏcx の直線に沿って傾けるだけで、その傾きが流体の速度場、直線の周りの p の広がりが量子圧力である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com