ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第6章 §2.6.6 ★★ 比熱と Pauli 磁化率は D(εF) を、トンネル分光と光吸収は D(ε) の形(van Hove 特異点)を測る。教科書ごとの状態密度の規格化の違いを式で並べる
何の実験の量で確かめるか
Fermi 準位の状態密度は、低温の電子比熱と Pauli 磁化率に現れる。電子比熱は、Fermi 分布関数の幅 kBT の中の電子だけが熱を受け取れることから
Cel=3π2kB2D(εF)T(単位体積あたり)(2.6.19)
になる(Sommerfeld 展開による導出は第4部第1章)。Pauli 磁化率は、磁束密度 B の中で上向きと下向きのスピンの準位が ±μBB ずれ、Fermi 準位の近くの 21D(εF)μBB 個(単位体積あたり)の電子が一方のスピンから他方へ移ることから出る。磁化は M=μB⋅D(εF)μBB で、B≈μ0H として
χm=μ0μB2D(εF)(2.6.20)
である。どちらも D(εF) に比例するので、比 (Cel/T)/χm=π2kB2/(3μ0μB2) は状態密度によらない普遍的な値になる。この比を普遍値で割ったもの(Wilson 比)が 1 からずれることは、電子どうしの相互作用の目印になる(第5部第1章)。
状態密度の形は、エネルギーを選んで準位を数える測定に現れる。走査トンネル顕微鏡(STM)の探針と試料の間の電流を電圧 Vb で微分した dI/dVb は、試料の表面の局所的な状態密度を εF+eVb で測った量にほぼ比例する(第4部第7章)。1次元に近い炭素ナノチューブでは、dI/dVb に1次元の van Hove 特異点の鋭い山が並ぶことが観測された(J. W. G. Wildöer ほか(1998)、Nature 391、59。T. W. Odom ほか(1998)、Nature 391、62)。光の吸収は、占有された準位から空の準位への遷移を数えるので、2つのバンドの差 εn′(k)−εn(k) についての状態密度(結合状態密度)を測る。その臨界点が吸収スペクトルの折れや山として現れることは第4部第6章で扱う。光電子分光は、占有された準位の状態密度を、角度分解すれば εn(k) そのものを測る。
授業で習った形との対応
学部の授業では、状態密度を結晶全体について数えることが多い。体積 Vcr(この章の Nvc)の結晶の自由電子について、「波数空間で1つの状態が占める体積は (2π/L)3」から
D全体(E)=2π2Vcr(ℏ22m)3/2E
と書く。この章の D(ε) との関係は D全体=VcrD で、式 (2.6.10) の1行目に結晶の体積を掛けただけである。スピンを数えない(1スピンあたりの)状態密度を使う教科書では、さらに 1/2 倍になる。D(E)・g(E)・N(E) と記号も揺れるので、どの規格化かは式の積分(全電子数になるか、1サイトあたり1になるか)で確かめるのが確実である。
1次元の状態密度を、授業では「dE の間の状態の数は 2πL⋅2∣dk∣」と ±k の2つの向きを数えて出す。この章の式 (2.6.9) で d=1 とし、「面」を2点とした場合と同じ計算である。van Hove 特異点は、授業では3次元の M0〜M3 の x の折れを図で示すことが多い。この章では、それを臨界点のまわりの2次の展開 (2.6.14) と変数変換で導き、個数の下限を Brillouin 域がトーラスであることから出した。授業でバンド図を Γ–X–M–Γ のような対称性の高い点を結ぶ線の上で描くのは、多くの臨界点が対称性の高い点にあり(勾配が対称性によって 0 になるため)、その線の上で状態密度の特異点のエネルギーが読めるからである。
例題 2.6.6 状態密度の規格化を換え、比熱と磁化率を出す ★
オリジナル例題 2.6.3 の bcc 金属(εF=3.13eV、D(εF)=12.1eV−1nm−3)について答えよ。
- (1) 1原子あたり(両スピン)の D(εF) と、1cm3 の結晶全体の D全体(εF) を求めよ。
- (2) 1 mol あたりの電子比熱の係数 γ=Cel/T を mJmol−1K−2 で求めよ。
- (3) Pauli 磁化率 χm(SI、無次元)を求めよ。単位体積あたりの Cel/T と χm の比が D(εF) によらないことを確かめよ。
解答
(1) 1原子の体積は a3/2=0.0398nm3 なので、1原子あたり 12.1×0.0398=0.479eV−1 である。式 (2.6.11) から1原子あたりでは 3/(2εF) に等しい(1原子1電子のとき)。1cm3=1021nm3 を掛けると D全体=1.21×1022eV−1 である。
(2) 1 mol あたりの状態密度は NA⋅2εF3 なので、式 (2.6.19) から γ=3π2kB2NA2εF3=2π2εFRkB(R=NAkB は気体定数)である。kB/εF=1/TF=1/(3.63×104K) を入れて γ=4.935×8.314/(3.63×104)Jmol−1K−2=1.13mJmol−1K−2 である。
(3) D(εF)=12.1eV−1nm−3=7.52×1046J−1m−3、μB=9.274×10−24JT−1 からχm=4π×10−7×(9.274×10−24)2×7.52×1046=8.13×10−6 である。単位体積あたりの Cel/T=3π2kB2D(εF) と χm の比は 3μ0μB2π2kB2=5.80×106Jm−3K−2 で、D(εF) が約分されて消える。自由電子の値を使わなくても、同じ試料の比熱と磁化率を測れば、この比が自由な電子の値に合うかを確かめることができる。
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