ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第2部 第7章 §2.7.6 ★★ 抵抗の温度依存性・電子比熱・Fermi 面の量子振動・光の吸収端の4つで、埋まり方を実験で確かめる
何の実験の量で確かめるか
電気抵抗の温度依存性。金属の電気抵抗は、温度を上げると増える。キャリアの数は εF の近くの電子で決まって温度によらず、格子の振動による散乱が増えるからである(第4部第2章)。半導体の抵抗は、温度を上げると指数関数的に減る。キャリアの数 ni が式 (2.7.11) のように増えるからである。抵抗率 ρ の対数を 1/T に対して描けば、傾きからギャップが読み取れる(次の例題)。
電子比熱。金属では、εF の近くの幅 kBT ほどの電子だけが熱を吸うので、低温の比熱に T に比例する項 γT が現れる。係数は状態密度で決まり、γ=3π2kB2D(εF)(単位体積あたり)である(導出は Sommerfeld 展開で 第4部第1章)。絶縁体には γT の項が無い。格子の比熱は低温で T3 に比例して小さくなるので、数 K 以下で比熱を T で割ったものを T2 に対して描くと、切片が γ を与える。γ が 0 でないことが D(εF)>0、すなわち Fermi 面があることの直接の確かめになる。
Fermi 面の形。強い磁場の中では、Fermi 面の上の電子は Fermi 面を磁場に垂直な面で切った断面を回る。磁化などが 1/B の周期で振動する de Haas–van Alphen 効果の周期は、この断面の面積で決まるので、磁場の向きを変えて測れば Fermi 面の形が分かる(第4部第4章)。A. B. Pippard はこの種の測定(異常表皮効果)から、Cu の Fermi 面が L 点の六角形の面に届いて「首」を作ることを示した(A. B. Pippard (1957), Phil. Trans. R. Soc. Lond. A 250, 325)。例題 2.7.4 で fcc の Fermi 球が L 点に近いことを見たが、実際にはバンドの効果で届く。角度分解光電子分光(ARPES)では、占められた状態の εn(k) を直接描ける。
光の吸収端。光子は、エネルギーが Eg より大きければ価電子帯の電子を伝導帯に上げて吸収される。絶縁体と半導体は、Eg より小さいエネルギーの光に対して透明である。可視光の光子のエネルギーは 1.65eV(波長 750nm)から 3.1eV(400nm)なので、ギャップが 3.1eV より大きい結晶は無色透明に、1.65eV より小さい Si は可視光をすべて吸収して金属のような灰色に見える。吸収端の詳しい形は 第4部第6章で扱う。
例題 2.7.9 抵抗の温度変化からギャップを読む ★★
オリジナル不純物の少ない半導体の抵抗率を測ったところ、T1=300K での値が T2=350K での値の20倍だった。抵抗率は ni に反比例し、移動度の温度変化は無視できるとする。
- (1) ρ∝T−3/2eEg/(2kBT) を使って Eg を求めよ(kB=8.617×10−5eVK−1)。
- (2) T−3/2 の因子を無視すると、求めた Eg はどれだけずれるか。
解答
(1) NcNv∝T3 なので ni∝T3/2e−Eg/(2kBT)、ρ∝T−3/2eEg/(2kBT) である。比をとると
lnρ(T2)ρ(T1)=−23lnT2T1+2kBEg(T11−T21)
で、ln20=2.996、23ln300350=0.231、3001−3501=4.762×10−4K−1 からEg=2×8.617×10−5×(2.996−0.231)/(4.762×10−4)=1.00eV である。
(2) T−3/2 を落とすと Eg=2×8.617×10−5×2.996/(4.762×10−4)=1.08eV で、8% 大きく出る。指数関数の項が主だが、eEg/(2kBT) の変化がそれほど大きくない狭い温度範囲では、べきの因子も無視できない。実際の解析では、移動度の温度依存性もべきの因子として同じ形で入る。
授業で習った形との対応
学部の固体物理の授業では、この章の内容を次のように書くことが多い。式で並べておく。
金属と絶縁体の判定。授業では「価電子が詰まった最も高いバンドが途中まで詰まっていれば金属、満ちていれば絶縁体」と言葉で述べ、「基本単位胞あたりの価電子の数が偶数なら絶縁体になりうる(バンドが重なれば金属)」と続けることが多い。この章ではこれを、1本のバンドの容量が 2N であること(2.7.1節)と、満ちたバンドの電流が 0 であること(命題 2.7.1)の2つから導いた。
Fermi エネルギーと Fermi 準位。授業では、金属について絶対零度の εF を「Fermi エネルギー」、半導体について有限温度の化学ポテンシャル μ を「Fermi 準位」と呼び分けることが多い。この章の記号では、Fermi 準位は μ(T) そのもので、εF=limT→0μ(T) である。半導体の「Fermi 準位がギャップの中央にある」は式 (2.7.11) の μi のことである。
キャリア密度。授業の半導体の章では
n=NCexp(−kBTEC−EF),p=NVexp(−kBTEF−EV),np=ni2
と書くことが多い。EC・EV・EF は、この章の εc・εv・μ に当たる。NC・NV の式は式 (2.7.9) と同じで、np=ni2 は式 (2.7.10) と (2.7.11) を合わせたものである。授業ではこれらの式を「伝導帯の状態を底に集めた有効状態密度」の図で説明することが多いが、この章では (2.7.4) の積分を2つの近似(非縮退・放物線)で評価した結果として出した。近似を明示したことで、縮退半導体(例題 2.7.7)で式が使えなくなる理由が見える。
例題 2.7.10 低温の比熱で金属と絶縁体を見分ける ★
オリジナル2つの結晶の電子の比熱を、10K と 300K で比べる(R=8.314Jmol−1K−1、kB=8.617×10−5eV/K)。
- (1) 金属:例題 2.7.2 の半分詰まりの1次元の鎖(t=1eV)。D(εF) を1サイトあたりに直し、Sommerfeld 展開の結果 Cel=γT、γ=3π2kB2D(εF) に入れて、サイト1モルあたりの γ と、10K・300K の Cel を求めよ。
- (2) 絶縁体:ギャップ Eg=1eV、me∗=mh∗=m、原子の数密度 5.0×1022cm−3 の結晶。熱で上がる電子と正孔の対の数は 2.7.4節の ni で、1対ごとにほぼ Eg のエネルギーを持つ。1原子あたりの対の数 x=ni/nat を求め、電子の比熱が Cel≈21x(Eg/kBT)2kB(1原子あたり)になることを示して、10K・300K の値を1モルあたりで求めよ。
- (3) 低温で測った比熱を C/T 対 T2 に描くと、何で金属と絶縁体が分かれるか。
解答
(1) 例題 2.7.2 (3) の D(εF)=1/(πta) は単位長さあたりなので、1サイト(長さ a)あたりでは 1/(πt) である。これを入れて
γ=3π2kB2⋅πt1=3tπkB2,γmol=NA3tπkB2=3πR⋅tkB
で、t=1eV では γmol=3π×8.314×8.617×10−5Jmol−1K−2=0.750mJmol−1K−2 である。Cel=γT は 10K で 7.50mJmol−1K−1、300K で 0.225Jmol−1K−1 になる。γ の式の導き方は 第4部第1章で扱う。ここで使うのは、比熱が D(εF) に比例し、T に比例するという形だけである。Fermi 面の近くの幅 kBT の電子だけが動けるので、温度に比例する(2.7.4節の初め)。
(2) m∗=m では Nc=Nv で、300K の Nc=2.51×1019cm−3 と e−Eg/(2kBT)=e−19.34=3.98×10−9 から ni=1.0×1011cm−3、x=2.0×10−12 である。1原子あたりのエネルギーは U≈xEg で、x の温度変化は指数 e−Eg/(2kBT) が決める(dx/dT≈xEg/(2kBT2))。したがって
Cel=dTdU≈Eg⋅2kBT2xEg=21x(kBTEg)2kB
である。前の因子 T3/2 の微分と、電子と正孔の運動エネルギー 3kBT を入れても、300K で値が2割ほど変わるだけである。300K では Eg/kBT=38.7 で、Cel≈21×2.0×10−12×38.72kB=1.5×10−9kB、1モルあたり 1.2×10−8Jmol−1K−1 である。金属の (1) の 0.225 より7桁小さい。10K では Eg/(2kBT)=580 で、x は 10−258 ほどになり、Cel は 10−251Jmol−1K−1 の大きさで、測れる量としては 0 である。
(3) 低温の比熱は、電子の項と格子の項(Debye の T3。第3部第2章)の和で、金属では C=γT+AT3、C/T=γ+AT2 になる(A は格子で決まる定数)。C/T 対 T2 の直線の切片が γ である。金属では切片が D(εF)>0 に比例して有限に残り、絶縁体では (2) のとおり電子の項が指数で消えるので、直線は原点を通る。切片が有限か 0 かが、Fermi 準位がバンドの中にあるかギャップの中にあるかの判定になる。切片の値を1電子の D(εF) と比べたずれは、有効質量や相互作用の大きさを表し、第4部第1章で読む。
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