解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第9章 §2.9.1 ★★★ 源 ρ,J を外から決めた関数とし、場の部分(2次)と結合(1次)に分けた作用を選ぶ
前の章までで、電磁場の Lagrangian 密度L=2ε0E2−2μ01B2−ρϕ+J⋅Aから Maxwell 方程式が出ること(第2部第6章)、時間の並進に対する Noether の定理からPoynting の定理が出ること(第2部第7章)、ポテンシャルにはゲージの自由度があり、それが電荷の保存と組になっていること(第2部第8章)を見た。この章では、同じ Lagrangian を、学部の電磁気学で最初に習う3つの場面に当てはめる。電荷が止まっている静電場、電流が一定の静磁場、そして電荷が加速して電磁波を出す放射である。
3つの場面に共通する操作は1つである。電荷密度 ρ と電流密度 J を外から決めた関数として固定し、場(ポテンシャル)について作用を停留させ、その解を作用に戻す。場の部分は2次式、源との結合は1次式なので、停留値は源の2次式になり、場を含まない「源どうしの Lagrangian」が得られる。2.9.2節でこの操作を有限次元の2次形式の補題として準備し、2.9.3節で静電場に当てると、停留値が静電エネルギーの符号を変えたもの −Ue になり、Coulomb の相互作用と、容量を上から見積もる変分原理(Dirichlet の原理)が出る。2.9.4節で静磁場に当てると、停留値は磁場のエネルギーそのもの +Um になり、磁場のエネルギーが Lagrangian の中で運動エネルギーの側に入ることがわかる。インダクタンスは回路の「質量」になる。2.9.5節では時間に依る源を扱う。遅延の解は時間の向きを区別するが、2次形式に入るのは時間について対称な部分だけである。対称な部分からは Darwin の Lagrangian が出て、反対称な部分からは放射の反作用と Larmor の公式が出る。2.9.6節では、学部の授業での書き方(エネルギーの微分で力を出す式、Neumann の公式、遠方の Poynting ベクトルの積分)と並べる。
選ぶ Lagrangian
この章で選ぶ Lagrangian は、電荷密度 ρ(r,t) と電流密度 J(r,t) を固定したときの電磁場の Lagrangian
L[ϕ,A]=∫d3x[2ε0E2−2μ01B2−ρϕ+J⋅A],E=−∇ϕ−∂t∂A,B=∇×A(2.9.1)
である。共変な形では L=−4μ01FμνFμν−JμAμ で、FμνFμν=2(B2−E2/c2) とJμAμ=ρϕ−J⋅A を使うと式 (2.9.1) の被積分関数に戻る。作用は S=∫Ldt である。力学変数は場 ϕ(r,t) と A(r,t) で、ρ と J は変分しない。ρ と J には連続の式∂tρ+∇⋅J=0 だけを課す。この条件がないと、ゲージ変換 ϕ→ϕ−∂tΛ, A→A+∇Λ で作用が全微分以外の分だけ変わってしまい、作用からゲージの自由度が消える(第2部第8章)。
源を固定するという選び方には、荷電粒子の運動を同時に解かないという意味がある。粒子の運動まで含めた作用は、これに粒子の Lagrangian(第2部第2章の 21mr˙2 や、第2部第3章の −mc21−v2/c2)を足したものになる。そのとき ρ と J は粒子の位置と速度で書かれ、結合の項 −ρϕ+J⋅A は第2部第2章の一般化ポテンシャル −qϕ+qr˙⋅A に戻る。この章では、まず場だけを解き、その結果を粒子の側に戻すという2段の手順を取る。
2つの部分の役割
式 (2.9.1) の被積分関数は、場だけの2次式 2ε0E2−2μ01B2 と、場について1次の結合 −ρϕ+J⋅A に分かれる。場だけの部分のうち、E2 は ∂tA を含むので質点の運動エネルギー 21mq˙2 の役をし、B2 は空間微分だけを含むので位置エネルギーの役をする。時間に依る場では、この見方のとおり E2 が正、B2 が負の符号で入る。ところが静的な場では ∂tA=0 なので、この区別をそのまま使うことはできない。静電場と静磁場で何が運動エネルギーの側に入るかは、場を消去したあとの源の Lagrangian で決まる。その答えは2.9.3節と2.9.4節で出る。
例題 2.9.1 平面波と一様な場の Lagrangian 密度 ★★
オリジナル(1) 真空中を z 方向へ進む平面波 E=E0cos(kz−ωt)ex, B=(E0/c)cos(kz−ωt)ey がMaxwell 方程式を満たす条件を求め、そのとき Lagrangian 密度 L0=2ε0E2−2μ01B2 が各点・各時刻で 0 になることを示せ。エネルギー密度 u=2ε0E2+2μ01B2 と比べよ。
(2) 一様な静電場 E だけがある場合と、一様な静磁場 B だけがある場合について、L0 の符号を答えよ。
解答
(1) Faraday の法則の y 成分 ∂zEx=−∂tBy に入れると、左辺は −kE0sin(kz−ωt)、右辺は −(ωE0/c)sin(kz−ωt) なので ω=ck が要る。Ampère–Maxwell の式の x 成分 −∂zBy=μ0ε0∂tEx も、μ0ε0=1/c2 を使うと同じ ω=ck で成り立つ。このとき B2=E2/c2 なので
L0=2ε0E2−2μ0c2E2=2ε0E2−2ε0E2=0
である。一方、エネルギー密度は u=ε0E2=ε0E02cos2(kz−ωt) で、0 にならない。平面波では運動エネルギーの側(E2)と位置エネルギーの側(B2)が各点で等しく、調和振動子の T=V を各点で満たしている。L0=−FμνFμν/(4μ0) は Lorentz 変換で変わらないので、どの慣性系で見ても平面波の L0 は 0 である。
(2) 静電場だけなら L0=ε0E2/2>0、静磁場だけなら L0=−B2/(2μ0)<0 である。場だけの部分の符号は電場と磁場で逆になる。この符号の違いが、2.9.3節と2.9.4節で停留値の符号の違いとして現れる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com