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何を削ったか・何の実験の量で確かめるか

2026年10月15日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第5部 第5章 つなぎ:Berry 曲率と異常 Hall 効果
目次
  1. 削ったもの
  2. 何の実験の量で確かめるか
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第5章 §5.5.5 ★★★ 削ったのはスピンとスピン軌道結合・乱れによる散乱・電子どうしの相互作用で、さらに局在した軌道で H^\hat H を書くこと自体が Chern 数 00 を前提にしている。強磁性金属の異常 Hall 伝導度の大きさと σxx\sigma_{xx} との関係、磁場なしで h/e2h/e^2 になる Hall 抵抗で確かめる

削ったもの

1つめはスピンである。式 (5.5.8) はスピンを持たない電子の模型で、時間反転を破る位相 eiϕ\mathrm{e}^{\mathrm{i}\phi} を手で入れた。実際の物質では、磁性(電子のスピンがそろうこと)と、スピンの向きを軌道の運動に伝えるスピン軌道結合の組が時間反転を破る。強磁性体の異常 Hall 効果はこの組による。スピン軌道結合だけで磁性が無い場合は、上向きのスピンが ϕ\phi、下向きのスピンが −ϕ-\phi の Haldane 模型を感じる形になり、2つの Chern 数が打ち消し合って σxy=0\sigma_{xy}=0 になる。それでも端には逆向きに進む2つのスピンの状態が残る。これが Kane–Mele 模型の考え方で、同じ仕組み(量子スピン Hall 絶縁体と Z2\mathbb{Z}_2)を第5部第6章で QWZ 模型を使って扱う。

2つめは乱れによる散乱である。式 (5.5.3) は平衡分布 f0f_0 について異常速度を足したもので、散乱は入っていない。絶縁体(Fermi 準位がギャップの中)では、乱れはバンドの状態を局在させるだけで、ギャップの中に Fermi 準位がある限り量子化は保たれる。金属では、不純物の散乱が異常 Hall 効果に2つの寄与を加える。1つは skew 散乱で、スピン軌道結合のある不純物が電子を左右非対称に散乱する。散乱の非対称は緩和時間 τ\tau の間に積み上がるので、寄与は σxy∝τ∝σxx\sigma_{xy}\propto\tau\propto\sigma_{xx} になる(J. Smit (1955), Physica 21, 877)。もう1つは side jump で、散乱の瞬間に波束の中心が横に一定の距離だけずれる。1回のずれの大きさは τ\tau によらず、ずれる頻度が 1/τ1/\tau なので、寄与は内因的な部分と同じく τ\tau によらない(L. Berger (1970), Phys. Rev. B 2, 4559)。これらは 第4部第2章の Boltzmann 方程式の衝突の項に Berry 位相を入れて出す量で、この章の半古典の式 (5.5.2) だけからは出ない。

3つめは電子どうしの相互作用である。Chern 数は相互作用の無い1電子のバンドで定義した。相互作用があっても、多電子の基底状態がギャップで隔たっている限り、Hall 伝導度は e2/he^2/h の整数倍のままであることが証明されている(M. B. Hastings and S. Michalakis (2015), Communications in Mathematical Physics 334, 433)。ただし、相互作用が強いと分数の値(分数量子 Hall 効果)を取る状態も現れ、そこでは1電子のバンドの Chern 数は使えない。

4つめは、この巻の作り方そのものに関わる。この巻は第2部以来、原子に局在した軌道を基底に選んで H^\hat H を書いてきた(tight-binding)。バンドの状態を逆に局在した軌道の重ね合わせで書き直したものが Wannier 関数で、各格子点に指数関数的に局在した Wannier 関数を選べることが、tight-binding の模型でバンドを表す前提になっている。ところが、Chern 数が 00 でないバンドでは、指数関数的に局在した Wannier 関数は選べない。Chern 数が 00 でないことは、unku_{n\bm{k}} の位相を Brillouin 域全体で滑らかに選べないことと同じで(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第11章の整数性の証明の筋)、滑らかな位相が選べなければ、Fourier 変換で作る Wannier 関数はゆっくりとしか減衰しない。Haldane 模型は局在した軌道から組んだ模型だが、2本のバンドを合わせると Chern 数は C−+C+=0C_-+C_+=0 で、2本まとめてなら局在した基底(もとの 2pz2p_z 軌道)がある。1本だけを取り出して局在した軌道の模型に書き直すことはできない。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの 外場の変化の長さに対する格子間隔の比 a/L→0a/L\to0(注目するバンドがほかのバンドからギャップで離れている) | 証明 条件付き(孤立したバンドの族について、Berry 曲率による1次の補正を含めて証明されている〔G. Panati, H. Spohn and S. Teufel (2003), Communications in Mathematical Physics 242, 547〕。Dirac 点のようにギャップが閉じると破れる) | 行き先 近似の数理 第7章・近似の数理 第12章

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの 電場 →0\to0(線形応答)。Fermi 準位がギャップの中にある | 証明 証明済み(ギャップがあるか、Fermi 準位で状態が局在していること。相互作用の無い周期系で Chern 数による量子化〔Thouless–甲元–Nightingale–den Nijs 1982〕、乱れのある場合は Fermi 準位で状態が局在していれば量子化が保たれる〔J. Bellissard, A. van Elst and H. Schulz-Baldes (1994), J. Math. Phys. 35, 5373〕。相互作用のあるギャップ系は Hastings–Michalakis 2015) | 行き先 近似の数理 第13章

近似の裏付け

型 A(射影) | 小さいもの 各格子点に局在した Wannier 関数の張る空間(tight-binding の基底) | 証明 証明済み(d≤3d\le3 の孤立したバンドの族では、指数関数的に局在した Wannier 関数が選べることと Chern 数がすべて 00 であることが同値〔C. Brouder et al. (2007), Phys. Rev. Lett. 98, 046402〕) | 行き先 近似の数理 第12章

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの 乱れが弱い:ℏ/(εFτ)→0\hbar/(\varepsilon _{\mathrm F}\tau)\to0(内因的・side jump・skew 散乱への分け方) | 証明 要確認(弱い乱れの展開の各項は模型の計算で確かめられているが、分け方の厳密な正当化は確かめていない) | 行き先 近似の数理 第8章・近似の数理 第13章

何の実験の量で確かめるか

強磁性金属の異常 Hall 効果では、Hall 抵抗率が ρyx=R0B+Rsμ0M\rho_{yx}=R_0B+R_{\mathrm s}\mu_0M の形に整理される(MM は磁化の大きさ、R0R_0 は普通の Hall 係数、RsR_{\mathrm s} は異常 Hall 係数)。磁化が飽和した後の ρyx\rho_{yx} を磁場に対して描くと、傾きから R0R_0 が、B=0B=0 への外挿の切片から異常 Hall 抵抗率 ρAH=Rsμ0M\rho_{\mathrm{AH}}=R_{\mathrm s}\mu_0M が求まる。理論の式 (5.5.3) は伝導度で書かれているので、伝導度の行列の逆を取って ∣σAH∣≈ρAH/ρxx2\lvert \sigma_{\mathrm{AH}}\rvert \approx\rho_{\mathrm{AH}}/\rho_{xx}^2 に直してから比べる(ρAH≪ρxx\rho_{\mathrm{AH}}\ll\rho_{xx} のとき)。Nagaosa らは多くの物質の測定をまとめ、σxx\sigma_{xx} の大きさで3つの領域に分かれることを示した(N. Nagaosa, J. Sinova, S. Onoda, A. H. MacDonald and N. P. Ong (2010), Rev. Mod. Phys. 82, 1539)。σxx≳106 (Ω cm)−1\sigma_{xx}\gtrsim10^6\,(\Omega\,\mathrm{cm})^{-1} の純度の高い領域では skew 散乱が主で σAH∝σxx\sigma_{\mathrm{AH}}\propto\sigma_{xx}、10410^4〜106 (Ω cm)−110^6\,(\Omega\,\mathrm{cm})^{-1} の領域では σAH\sigma_{\mathrm{AH}} が σxx\sigma_{xx} によらずほぼ一定、104 (Ω cm)−110^4\,(\Omega\,\mathrm{cm})^{-1} より小さい領域では σAH∝σxx1.6〜1.8\sigma_{\mathrm{AH}}\propto\sigma_{xx}^{1.6\text{〜}1.8} で減る(図 5.5.4)。真ん中の領域が内因的な部分(と side jump)の領域で、そこの σAH\sigma_{\mathrm{AH}} の大きさを Berry 曲率の計算と比べる。

図

図 5.5.4 異常 Hall 伝導度と縦の伝導度の関係の模式図。Nagaosa らの総説がまとめた3つの領域の傾き(1.61.6、00、11)を、真ん中の領域の高さを 103 (Ω cm)−110^3\,(\Omega\,\mathrm{cm})^{-1} として描いた。高さと領域の境目は物質によって違う。赤い点は例題 5.5.5 の鉄の値である。

量子異常 Hall 効果は、Haldane 模型が予言した「磁場なしの整数の Hall 伝導度」の測定である。Chang らは磁性元素 Cr を加えたトポロジカル絶縁体 (Bi,Sb)2_2Te3_3 の薄膜で、外部磁場 00、約 30 mK30\,\mathrm{mK} において、ゲート電圧で Fermi 準位をギャップに合わせると ρyx\rho_{yx} が h/e2h/e^2 になり、同時に ρxx\rho_{xx} が大きく下がることを報告した(C.-Z. Chang et al. (2013), Science 340, 167)。ρxx\rho_{xx} が下がる理由は、5.5.3節のカイラルな端の状態だけが電流を運び、後ろへの散乱が無いことである。Haldane 模型の形そのもの(蜂の巣格子と複素数の第2近接の飛び移り)は、冷却原子の光格子を周期的に揺することで作られ、Berry 曲率の効果が観測された(G. Jotzu et al. (2014), Nature 515, 237)。

例題 5.5.5 鉄の異常 Hall 伝導度 ★★★

オリジナル室温の鉄の測定値として、Rs=43.1×10−13 Ω cm G−1R_{\mathrm s}=43.1\times10^{-13}\,\Omega\,\mathrm{cm\,G^{-1}}、飽和磁化 4πMs=21.6 kG4\pi M_{\mathrm s}=21.6\,\mathrm{kG}、ρxx=9.5×10−6 Ω cm\rho_{xx}=9.5\times10^{-6}\,\Omega\,\mathrm{cm} がある(CGS 単位。P. N. Dheer (1967), Phys. Rev. 156, 637 の値で、次の論文が引用したもの)。

  1. (1) 異常 Hall 抵抗率 ρAH=Rs⋅4πMs\rho_{\mathrm{AH}}=R_{\mathrm s}\cdot4\pi M_{\mathrm s} と、∣σAH∣=ρAH/ρxx2\lvert \sigma_{\mathrm{AH}}\rvert =\rho_{\mathrm{AH}}/\rho_{xx}^2 を (Ω cm)−1(\Omega\,\mathrm{cm})^{-1} と S/m で求めよ。
  2. (2) 鉄は図 5.5.4 のどの領域にあるか。
  3. (3) 2次元の層を間隔 a=0.2867 nma=0.2867\,\mathrm{nm}(鉄の格子定数)で積み、各層が e2/he^2/h を持つとした目安 e2/(ha)e^2/(ha) と比べよ。Yao らが Berry 曲率から計算した値 751 (Ω cm)−1751\,(\Omega\,\mathrm{cm})^{-1}(Y. Yao et al. (2004), Phys. Rev. Lett. 92, 037204)とも比べよ。
解答

(1) ρAH=43.1×10−13×21.6×103=9.31×10−8 Ω cm\rho_{\mathrm{AH}}=43.1\times10^{-13}\times21.6\times10^3=9.31\times10^{-8}\,\Omega\,\mathrm{cm}(=9.31×10−10 Ω m=9.31\times10^{-10}\,\Omega\,\mathrm m)で、ρxx\rho_{xx} の 0.98%0.98\% である。∣σAH∣=9.31×10−8/(9.5×10−6)2=1.03×103 (Ω cm)−1=1.03×105 S/m\lvert \sigma_{\mathrm{AH}}\rvert =9.31\times10^{-8}/(9.5\times10^{-6})^2=1.03\times10^3\,(\Omega\,\mathrm{cm})^{-1}=1.03\times10^5\,\mathrm{S/m} である。ρAH/ρxx≈10−2\rho_{\mathrm{AH}}/\rho_{xx}\approx10^{-2} なので、近似 σ≈ρAH/ρxx2\sigma\approx\rho_{\mathrm{AH}}/\rho_{xx}^2 の誤差は (ρAH/ρxx)2≈10−4(\rho_{\mathrm{AH}}/\rho_{xx})^2\approx10^{-4} の程度である。

(2) σxx=1/ρxx=1.05×105 (Ω cm)−1\sigma_{xx}=1/\rho_{xx}=1.05\times10^5\,(\Omega\,\mathrm{cm})^{-1} で、10410^4〜10610^6 の真ん中の領域にある。異常 Hall 伝導度が散乱によらない内因的な部分で決まると期待される領域である。

(3) e2/(ha)=3.874×10−5/(0.2867×10−9)=1.35×105 S/m=1.35×103 (Ω cm)−1e^2/(ha)=3.874\times10^{-5}/(0.2867\times10^{-9})=1.35\times10^5\,\mathrm{S/m}=1.35\times10^3\,(\Omega\,\mathrm{cm})^{-1} で、測定値はその 0.760.76 倍である。鉄の異常 Hall 伝導度は、層1枚あたり Chern 数 11 程度の Berry 曲率の流束があるとした見積もりと同じ桁にある。Yao らの計算値 751751 は測定値の 0.730.73 倍で、調整するパラメータ無しで桁と大きさが合う。(検算 scripts/verify_ch5-05.py)

木下の勉強ステータス

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