量子力学の様々な構成方法 第7部 第3章 §7.3.6 ★★★ GP 方程式は第二量子化の場の演算子の Heisenberg 方程式の期待値を、凝縮した状態で因数分解したものである。流体はこれで多粒子でも 3 次元の空間に戻る
場の演算子から GP 方程式へ
第6部の第二量子化(第6部第1章・第6部第2章)では、ボース粒子の場の演算子 ψ^(r) が[ψ^(r),ψ^†(r′)]=δ(3)(r−r′) を満たし、(7.3.1) は
H^=∫ψ^†(−2mℏ2∇2+V)ψ^d3r+2g∫ψ^†ψ^†ψ^ψ^d3r(7.3.26)
と書ける。Heisenberg の運動方程式(第2部第3章)iℏ∂tψ^=[ψ^,H^] を計算する。交換関係から [ψ^(r),ψ^†(r′)ψ^†(r′)ψ^(r′)ψ^(r′)]=2δ(3)(r−r′)ψ^†(r′)ψ^(r′)ψ^(r′) となるので([a^,a^†a^†]=2a^† と同じ計算)、
iℏ∂tψ^=−2mℏ2∇2ψ^+Vψ^+gψ^†ψ^ψ^(7.3.27)
を得る。これは演算子の方程式で、近似は入っていない。両辺の期待値をとり ψ=⟨ψ^⟩ と書くと、左辺と最初の2項は ψ だけで書けるが、最後の項は ⟨ψ^†ψ^ψ^⟩ で、一般には ∣ψ∣2ψ にならない。
凝縮体を、凝縮のモードについてのコヒーレント状態(ψ^ の固有状態、第6部第6章(第6部第6章)が経路積分の基底に使ったもの)とみなすと、ψ^∣Φ⟩=ψ∣Φ⟩ から ⟨ψ^†ψ^ψ^⟩=∣ψ∣2ψ が厳密に成り立ち、(7.3.27) の期待値は GP 方程式 (7.3.6) そのものになる。コヒーレント状態は時間発展で厳密には保たれないので、ここが平均場の近似である。ψ^=ψ+δψ^ と分けて δψ^ の1次まで残せば、第3節の線形化を演算子で行ったことになり、Bogoliubov の励起 (7.3.15) が出る。流体の振動の量子が Bogoliubov 準粒子である。
この見方では、巨視的波動関数 ψ は場の演算子の期待値で、その位相 S は凝縮体全体が選んだ1つの値である。粒子数の決まった状態 ∣N⟩ では ⟨N∣ψ^∣N⟩=0 で、位相は定まらない。ψ=0 と置くことは、ハミルトニアン (7.3.26) が持つ位相の回転 ψ^→eiαψ^ の対称性(粒子数の保存と同じもの)を状態の側で破ることに当たる。有限の系では、この破れは粒子数の決まった状態の重ね合わせで書けるが、無限の系では位相の異なる状態どうしが別の表現に属するようになる。この区別は第8部第3章(第8部第3章)の非同値な表現と、第8部第4章(第8部第4章)の自発的対称性の破れの言葉で正確になる。粒子数を固定したまま凝縮を定義するには、1体の密度行列 ⟨ψ^†(r)ψ^(r′)⟩ が ∣r−r′∣→∞ で 0 にならず ψ∗(r)ψ(r′) に近づくという条件(Penrose と Onsager の非対角長距離秩序)を使う。こちらは第4部の部分トレースで作った縮約密度行列の言葉である。
例題 7.3.6 1モードで見る平均場の因数分解 ★★
オリジナル凝縮のモードを1つの消滅演算子 a^ で表し、相互作用を H^int=2ℏUa^†a^†a^a^ とする(U は角振動数の次元の定数)。
- [a^,a^†a^†a^a^]=2a^†a^a^ を示し、a^ の Heisenberg 方程式を書け。
- コヒーレント状態 ∣α⟩(a^∣α⟩=α∣α⟩)で ⟨a^†a^a^⟩=∣α∣2α となることを示し、α(t) の平均場の方程式を解け。
- 粒子数の決まった状態 ∣N⟩ で ⟨a^⟩ を求め、(2) の α の位相が何を表すかを述べよ。
解答
(1) [a^,a^†a^†]=a^†[a^,a^†]+[a^,a^†]a^†=2a^† で、a^ は a^a^ と交換するので[a^,a^†a^†a^a^]=[a^,a^†a^†]a^a^=2a^†a^a^。Heisenberg 方程式は iℏa^˙=[a^,H^int]=ℏUa^†a^a^ となる。(7.3.27) の最後の項の1モード版である。
(2) ⟨α∣a^†=α∗⟨α∣ と a^a^∣α⟩=α2∣α⟩ から ⟨α∣a^†a^a^∣α⟩=α∗α2=∣α∣2α。平均場の方程式は iα˙=U∣α∣2α で、∣α∣2 は保存するので α(t)=α(0)e−iU∣α∣2t。これは一様な凝縮体 ψ=n0e−ign0t/ℏ(位相が μ/ℏ で回る)の1モード版で、U∣α∣2 が μ/ℏ に当たる。厳密な時間発展では、各 Fock 成分 ∣n⟩ が e−iUn(n−1)t/2 で回る。厳密な期待値は ⟨a^⟩(t)=αexp[−∣α∣2(1−e−iUt)] で、その大きさは短い時間で ∣α∣e−∣α∣2U2t2/2 と減る。粒子数の広がり ∣α∣ の分だけ回る速さがばらつくためで、因数分解は時間 1/(U∣α∣) 程度より短い間だけ正しい(時間 2π/U で元に戻る)。∣α∣2=N→∞ で UN を一定に保つと、崩れる時間 1/(UN) は N に比例して延びる。平均場の極限は、この時間が無限に延びる極限である。
(3) a^∣N⟩=N∣N−1⟩ は ∣N⟩ と直交するので ⟨N∣a^∣N⟩=0。粒子数の決まった状態では ⟨a^⟩ がそもそも 0 で、位相は定まらない。コヒーレント状態は粒子数の異なる状態の重ね合わせで、その相対的な位相が α の偏角である。凝縮体の位相 S/ℏ は、この相対位相を全粒子がそろって持つことを表す。2つの凝縮体の間の干渉縞のように位相の差を測る実験では、粒子数の決まった2つの凝縮体からでも、測定のたびにある位相差が選ばれて縞が現れる。
第7部第1章の流体との関係
第7部第1章の流体と、この章の流体の違いを並べる。
第1に、密度の意味が違う。第1章の ρ は1粒子の位置の確率密度で、1回の測定で見えるのは1点だけだった。この章の n は凝縮体の粒子数密度で、N 個の粒子が同じ ψ に入っているので、1回の撮影で n の形がそのまま写る。N=1、g=0 と置けば2つは同じ式になる。
第2に、住む空間が違う。多粒子の波動関数を極形式に書けば流体は 3N 次元に住むが、凝縮体では積の試行関数 (7.3.3) によって全粒子が同じ3次元の関数に入るので、流体は3次元の空間に戻る。その代償が平均場の近似で、凝縮から外れる粒子の割合が 0 になる極限(第1節の札)でだけ正しい。
第3に、量子化条件の意味が違う。第1章では循環の量子化は「流体から波動関数を作り直すために足す要請」で、その必要は節の線があるときにだけ現れた。この章では節の線が渦の芯として実在し、その周りの循環が実験で測れる。第7部の構成の出発点の要請のうち、流体の言葉の外にあった条件が、凝縮体では最も目立つ性質になっている。
地図の上の位置と授業の形
図 7.3.4 に、この章の結果がほかの部とつながる所をまとめた。第10部第3章(第10部第3章)の前量子化では、相空間の上の線束の曲率の積分が 2πℏ の整数倍になる条件が出る。循環の量子化 (7.3.17) と磁束の量子化 (7.3.24) は、どちらも「位相 S/ℏ が閉曲線を1周して 2π の整数倍だけ増える」という同じ条件の別の姿である。

図 7.3.4 この章の結果と同値性の地図。太枠がこの章。上の矢印が第二量子化からの導き方、左が第7部第1章の1粒子の流体の拡張、右の2本が第8部・第10部へのつながり、下の2本が荷電した凝縮体と平均場の正当化である。
学部の授業では、超流動は2流体模型(全体の密度を超流動成分と常流動成分に分け、超流動成分は渦なしで粘性がないとする)で、超伝導は London 方程式 js=−(nsq2/m∗)A(London ゲージ)で導入する。この章の形と並べると、超流動成分の速度は v=∇S/m で、渦なしの条件は「速度が位相の勾配である」ことから出る。London 方程式は、(7.3.24) の速度場 v=(∇S−qA)/m∗ に ∇S=0 を代入して電流 js=qnsv を書いたものである。授業で「超流動成分は渦なし」「London 方程式」と仮定として置く2つは、この章ではどちらも巨視的波動関数の位相から導かれる。2流体模型の常流動成分は、第3節の Bogoliubov の励起が熱的に詰まったもので、有限温度の凝縮体の扱いは第7部の流体の外にある。
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