量子力学の様々な構成方法 第2部 第2章 §2.2.6 ★★★ この章の処方が同値性の地図のどの橋に当たるか。基準の位置表示・Moyal の⋆ 積・前量子化と式で並べる
この章では、交換関係 (2.2.3) と量子化の写像 Q の選択(順序)の2つを作った。それぞれが巻の同値性の地図(第1部第1章)でどこにつながるかを、式を並べて示す(図 2.2.4)。
基準へ:位置表示と教科書の書き方
交換関係 (2.2.3) の既約な表現は、Stone–von Neumann の定理により本質的に1つで(第2部第6章)、その代表が位置表示
q^ψ(x)=xψ(x),p^ψ(x)=−iℏdxdψ(2.2.18)
である(第1部第3章)。学部の授業では、量子化を「古典の H(x,p) の p を −iℏ∂/∂x に置き換えてiℏ∂tψ=H(x,−iℏ∂x)ψ とする」と書くことが多い。この章の言葉では、これは (C1)(C2) を位置表示 (2.2.18) で実現し、(C3) を H=p2/(2m)+V(x) の形に限って順序の問題を避けたものに当たる。置き換えがデカルト座標でだけ許されることは 2.2.5 節で見た。
行列力学の運動方程式へ
(C4) の運動方程式と古典の運動方程式は、規則 (2.2.1) で1対1に対応する。
dtdA={A,H}⟷dtdA^=iℏ1[A^,H^].
A^=q^、p^ で右辺を計算すると、H が2次以下なら古典の Hamilton 方程式と同じ形の演算子の方程式になる。この対応の詳細と、状態ベクトルの基準との同値(⟨A^⟩(t) が描像によらないこと)は 第2部第3章と 第2部第6章で示す。
位相空間へ:順序の選択は記号の選択
Weyl の順序は、第5部の Weyl 対応そのものである(第5部第2章)。位相空間の関数 A(q,p)(Weyl 記号)に演算子 QW[A] を対応させる写像がWeyl の順序で、たとえば q^p^=21(q^p^+p^q^)+2iℏ だから q^p^ の Weyl 記号は qp+iℏ/2 である。Weyl 対応のもとで演算子の積は⋆ 積 f⋆g に、交換子を iℏ で割ったものは Moyal 括弧に写り(第5部第3章)、
iℏ1[QW[f],QW[g]]=QW[{{f,g}}],{{f,g}}={f,g}+O(ℏ2)
となる。f、g が2次以下なら O(ℏ2) の項は0で、これが 2.2.3 節のキーボックスの事実の位相空間での姿である。他の順序も位相空間の別の記号の規則に対応する。生成消滅演算子の正規順序は Glauber–Sudarshan の P 表示に、反正規順序は Husimi の Q 表示に対応し(第5部第6章)、順序の曖昧さは「どの準確率分布で期待値を書くか」の選択として読み替えられる。
幾何学的量子化へ:規則を全部守る代わりに既約性を捨てる
Groenewold–van Hove の定理は「規則を全部守る」「既約である」を同時に要求すると不可能だと言う。幾何学的量子化は、まず既約性を捨てて規則を全部守る写像を作る。シンプレクティック形式 ω=dq∧dp、dθ=ω となる θ=−pdq、Hamilton ベクトル場Xf=∂p∂f∂q−∂q∂f∂p を使って、相空間の関数 Ψ(q,p) に作用する前量子化の演算子を
f^pre=−iℏXf+θ(Xf)+f(2.2.19)
と定める(第10部第3章)。f=q なら Xq=−∂p、θ(Xq)=0 で q^pre=iℏ∂p+q、f=p なら Xp=∂q、θ(Xp)=−p で p^pre=−iℏ∂q となる。この写像はすべての f、g について[f^pre,g^pre]=iℏ{f,g}pre を満たすが、Ψ が q と p の両方に依存するので既約でない(例題 2.2.6)。既約にするために Ψ を q だけの関数に制限する操作が偏極(第10部第4章)で、制限すると位置表示 (2.2.18) が戻ってくる。制限した後に正しく作用する f は、偏極を保つもの(p について1次以下の関数など)に限られる。こうして「どの関数が規則どおりに量子化できるか」の範囲が幾何で決まる。

図 2.2.4 この章の処方から出る橋。矢印の脇の式が、両側を同じものと読むための対応。
例題 2.2.6 前量子化は規則を守るが既約でない ★★
オリジナル(2.2.19) の前量子化の演算子を、相空間の関数 Ψ(q,p) に作用させて考える。
- (1) [q^pre,p^pre]=iℏ を確かめよ。
- (2) f=p2/2 の前量子化 f^pre を求め、[q^pre,f^pre]=iℏp^pre を確かめよ(古典では {q,p2/2}=p)。
- (3) D^=iℏ∂p が q^pre、p^pre の両方と交換することを示し、表現が既約でない理由を述べよ。
解答
(1) q^prep^preΨ=(iℏ∂p+q)(−iℏΨq)=ℏ2Ψqp−iℏqΨq、p^preq^preΨ=−iℏ∂q(iℏΨp+qΨ)=ℏ2Ψpq−iℏΨ−iℏqΨq。差は iℏΨ なので [q^pre,p^pre]=iℏ。
(2) Xf=p∂q、θ(Xf)=−p⋅p=−p2 なので f^pre=−iℏp∂q−p2+p2/2=−iℏp∂q−p2/2。q^pre の q の掛け算と −iℏp∂q の交換子は [q,−iℏp∂q]=iℏp、iℏ∂p と −iℏp∂q−p2/2 の交換子は iℏ(−iℏ∂q−p)=ℏ2∂q−iℏp である。合計は ℏ2∂q=iℏ(−iℏ∂q)=iℏp^pre で、規則どおりになる。
(3) D^=iℏ∂p は q の掛け算とも ∂p とも交換するので [q^pre,D^]=0、∂q とも交換するので [p^pre,D^]=0 である。D^ は数の掛け算ではない。既約な表現なら、すべての q^、p^ と交換する演算子は数の掛け算に限られる(Schur の補題)ので、前量子化の表現は既約でない。Ψ が q と p の両方に依存することが、この余分な自由度の正体である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com