測って得られる分布と、位相空間の構成の限界
AI 生成・木下が未勉強
量子力学の様々な構成方法 第5部 第6章 §5.6.5 ★★ ホモダイン検出は の周辺分布を、8ポートのヘテロダイン検出は を、光子計数は の積分を測る。位相空間の構成が書きにくいものは、多モード・非2次の動力学・有限次元の系・フェルミ粒子
どの分布を測っているか
3つの分布は計算の道具であるだけでなく、それぞれに対応する測定がある。
ホモダイン検出と 。強い局部発振光(位相 のコヒーレント状態)を信号とビームスプリッタで混ぜ、2つの出口の光電流の差を取ると、差は信号の直交位相 に比例する(光学と量子エレクトロニクス 第31章)。 は の1次結合なので、第5部第2章の「1次結合の分布は を直線に沿って積分したもの」から、測られる分布は
で、 の回転した軸への周辺分布である。 を から まで回してすべての周辺分布を集めると、逆 Radon 変換で が決まる。回転した直交位相の分布と擬確率分布が互いに決め合うことは W. Vogel and H. Risken (1989), Phys. Rev. A 40, 2847 が示し、D. T. Smithey, M. Beck, M. G. Raymer and A. Faridani (1993), Phys. Rev. Lett. 70, 1244 がスクイーズド光の を実験で再構成した(光ホモダイン・トモグラフィー)。空洞に閉じ込めたマイクロ波の光子では、S. Deléglise et al. (2008), Nature 455, 510 が猫状態の を再構成し、損失で縞が消えていく様子を時刻ごとに示した。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの 局部発振光の振幅 で、光電流の差の測定を直交位相 の射影測定で置き換える | 証明 条件付き〔局部発振光がコヒーレント状態であること。強い局部発振光の極限で測定の POVM が直交位相の射影測定に近づくことを Tyc and Sanders (2004), J. Phys. A 37, 7341 が直接導いた(同論文の定理1で確認。平衡型で局部発振光の振幅 の極限の主張で、有限の の補正の級数は Fock 基底で打ち切った状態では有限和で厳密になるが、一般の状態での収束は同論文でも予想〔Conjecture 1〕にとどまる)〕 | 行き先 近似の数理 第1章
ヘテロダイン検出と 。信号を 50:50 のビームスプリッタで2つに分け、片方で 、もう片方で をホモダイン検出する(8ポートの検出器)。2つの読みを 倍して の実部と虚部と読むと、その同時分布は に等しい。空いた入口から入る真空が、両方の読みに分散 の雑音を足すためである。位置と運動量の同時測定の読みの分布が「 を別の状態の でならした非負の分布」になることは 第5部第4章で Arthurs–Kelly の模型(E. Arthurs and J. L. Kelly, Jr. (1965), Bell Syst. Tech. J. 44, 725)として扱った。窓を真空に選んだものが である。 が (W3) の周辺分布を満たさないのは、同時測定が真空の雑音を両方の読みに足すからである。
光子計数と 。光電子の計数は正規順序の量 を測る(Glauber 1963、光学と量子エレクトロニクス 第32章)。定理 5.6.2 からこれは で、計数の統計が古典の場の揺らぎで書けるかどうかが、 が確率分布かどうかと同じことになる。 は直接に測られる分布ではなく、正規順序の期待値の母関数として現れる。
例題 5.6.5 位相のずれたホモダイン検出で測るスクイーズ ★★
オリジナル10 dB のスクイーズド真空()を、局部発振光の位相が細い向きから ずれた状態でホモダイン検出する。(5.6.19) から を求め、測られるスクイーズを dB で答えよ。測られる分散が真空と同じ になる角度を求めよ。
解答
(5.6.11) の は に相関のない Gauss 関数なので、 の分散は
で 、 から 。真空との比 で dB である。位相が ずれただけで、10 dB のうち 2.4 dB が失われる。反スクイーズの が で混ざるからで、スクイーズが強いほど位相の揺れに弱い。分散が になるのは 、 のときである。
位相空間の構成の限界
第5部の構成は、1つの自由度の量子力学を、相空間の上の実数の関数1つと 積で完全に書き直す。その代わりに、次のものは書きにくい。
第一に、自由度の数が増えると、 は 変数の関数になる。Gauss 型の状態は共分散行列()だけで閉じるので多モードでも扱いやすいが、猫状態のような非 Gauss の状態では関数の情報量が自由度とともに指数関数的に増え、密度行列を Fock 空間で持つのと手間は変わらない。
第二に、 が の2次でないと、Moyal 方程式は の高階の微分を含み(第5部第3章)、Liouville 方程式のように相空間の点の流れとして読むことができなくなる。Kerr の のように光子数で書いた方が簡単な では、位相空間の方が遠回りになる(第5部第4章の Kerr 発展は Fock 基底で解いた)。第5部第5章が示したように、 の項を摂動として扱う半古典近似も、時刻 の復活は書けない。
第三に、スピンや量子ビットのような有限次元の系には、連続の相空間が無い。離散の位相空間の Wigner 関数(第5部第5章の Wootters の 点)や、球面の上の Wigner 関数を作ることはできるが、作り方が一意でなく、 積の簡単な形も失われる。
第四に、フェルミ粒子は反交換関係 を持つので、 を普通の複素数に置けない。コヒーレント状態の固有値を Grassmann 数に取れば形式的に同じ構成ができるが、分布はもはや数値の関数ではない(第6部第6章のコヒーレント状態の経路積分で導入する)。
第五に、 の負の値と の特異さのため、3つの分布のどれも、量子の状態を古典の確率分布として標本を取ってシミュレーションする方法には、そのままでは使えない。 は非負だが、Kerr のような非線形の では の時間発展の式が正定値でない拡散の項や3階以上の微分を含み、確率過程として解けない。位相空間の次元を倍にして、どんな状態にも非負の分布を与える一般化 表示(P. D. Drummond and C. W. Gardiner (1980), J. Phys. A 13, 2353)はこの困難を避ける1つの方法で、その代わりに分布が状態に対して一意でなくなる。どの を選んでも、(W2)(W3)(W5) を同時に満たすことはできない。これは 第5部第1章の定理の帰結で、位相空間の構成に限界がある理由である。
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