量子力学の様々な構成方法 第5部 第6章 §5.6.6 ★★★ Fock 空間の密度行列と Q が1対1に対応すること(両向き)、a^・a^† の掛け算が α の Bopp の微分演算子に写ること、Lindblad 方程式が s の族の Fokker–Planck 方程式に写ること
辞書
第二量子化(第6部)の言葉と位相空間の言葉の対応を表 5.6.1 にまとめる。
表 5.6.1 第二量子化と位相空間の辞書(1モード)。| 第二量子化(Fock 空間) | 位相空間 | 置き場 |
| a^, a^†, [a^,a^†]=1 | α, α∗, α⋆α∗−α∗⋆α=1 | (5.6.21) |
| 正規順序 (a^†)ma^n | P の重みの積分 | 定理 5.6.2 |
| 対称順序(Weyl 順序) | W の重みの積分 | 定理 5.6.2・第5部第2章 |
| 反正規順序 a^n(a^†)m | Q の重みの積分 | 定理 5.6.2 |
| a^†a^+21 | ∣α∣2 の Weyl 量子化 QW[∣α∣2] | 本文 |
| 行列要素 ⟨m∣ρ^∣n⟩ | πe∣α∣2Q の展開係数 | 定理 5.6.4 |
| コヒーレント状態の完全性 | P 表示・Q=⟨α∣ρ^∣α⟩/π | (5.6.8)・(5.6.7) |
| 振幅減衰の Lindblad 方程式 | Fokker–Planck 方程式(拡散係数 (1−s)Γ/2) | (5.6.22) |
∣α∣2 の行は、第5部第2章の Weyl 量子化 QW[f] が対称順序を与えることから出る。α は x,p の1次なので、同じ章の QW[(ax+bp)n]=(ax^+bp^)n を複素の係数に延ばすと QW[(ξα∗−ξ∗α)n]=(ξa^†−ξ∗a^)n、係数を比べて QW[α∗α]=21(a^†a^+a^a^†)=a^†a^+21 である。調和振動子の H=ℏω∣α∣2 を Weyl 量子化すると零点 21ℏω が自動的に付くのは、この行の結果である。
Fock 空間の密度行列と Q の往復
定理 5.6.4(ρ^ と Q は1対1 ★★★)
ρmn=⟨m∣ρ^∣n⟩ とすると
Q(α)=πe−∣α∣2m,n∑ρmnm!n!(α∗)mαn.(5.6.20)
逆に Q が与えられれば、πe∣α∣2Q(α) を α∗ と α のべき級数に展開したときの (α∗)mαn の係数に m!n! を掛けたものが ρmn で、ρ^ は Q から一意に決まる。
証明
(基準 → 位相空間)∣α⟩=e−∣α∣2/2∑nn!αn∣n⟩ を (5.6.7) に入れると (5.6.20) を得る。和は ∣ρmn∣≤1 から∑∣α∣m+n/m!n!≤(∑n∣α∣n/n!)2<∞ で、すべての α で絶対収束する。
(位相空間 → 基準)f(α,α∗)=πe∣α∣2Q=∑ρmn(α∗)mαn/m!n! は、α と zˉ=α∗ を独立な2つの複素変数とみなした関数g(z,zˉ)=∑ρmnzˉmzn/m!n! を対角線 zˉ=z∗ の上に制限したものである。g は2変数の整関数で、対角線の上の値は g を一意に決める(g(z,zˉ) を z=u+iv、zˉ=u−iv と書き直すと、(u,v) の実の値で決まる2変数の解析関数で、実の部分空間の上の値で解析接続が一意に決まる)。g が決まればべき級数の係数 ρmn が決まる。
この定理が「第二量子化 ↔ 位相空間」の橋の要である。Fock 空間の基底で書いた ρ^ と、相空間の上の非負の関数 Q は、同じ情報を持つ。W と P へは、命題 5.6.3 の特性関数の掛け算 χs=χ−1e(s+1)∣ξ∣2/2 で移る。特性関数の段階では3つの分布は常に互いに決め合い、関数として書けるかどうかだけが s ごとに違う。s を下げる向き(P→W→Q)は Gauss 関数でならすので常にできるが、上げる向きは Gauss 関数で「ならし戻す」ことになり、5.6.3節・5.6.4節のように特性関数が増えて関数にならないことがある。
掛け算の写し方と Fokker–Planck 方程式
演算子の掛け算は、第5部第3章の ⋆ 積に写る。同じ章の x⋆F=(x+2iℏ∂p)F、p⋆F=(p−2iℏ∂x)F を(5.6.1) の1次結合に組み、∂α∗=ℏ/(2mω)∂x+iℏmω/2∂p を使うと、α の上の Bopp の規則
α⋆F=(α+21∂α∗)F,F⋆α=(α−21∂α∗)F,α∗⋆F=(α∗−21∂α)F,F⋆α∗=(α∗+21∂α)F(5.6.21)
を得る。例えば α⋆F の ∂p の項は 2ℏ1mω⋅2iℏ∂p=2iℏmω/2∂p で、21∂α∗ の ∂p の項と一致する。F=α∗ と置くと α⋆α∗=∣α∣2+21、α∗⋆α=∣α∣2−21 で、差が交換関係の 1 になる。
(5.6.21) を 第4部第5章の振幅減衰の Lindblad 方程式dtdρ^=Γ(a^ρ^a^†−21a^†a^ρ^−21ρ^a^†a^) に当てる。a^ρ^a^†↦α⋆W⋆α∗=(α+21∂α∗)(α∗+21∂α)W、a^†a^ρ^↦α∗⋆(α⋆W)=(α∗−21∂α)(α+21∂α∗)W、ρ^a^†a^↦(W⋆α∗)⋆α=(α−21∂α∗)(α∗+21∂α)W を展開して足すと、∣α∣2W の項は係数 1−21−21=0 で消え、∂α∂α∗W の係数は 41+81+81=21 になる。1階の微分の項は 41α∂αW+43∂α∗(α∗W)−41α∗∂α∗W+41∂α(αW) で、α∂αW=∂α(αW)−W、α∗∂α∗W=∂α∗(α∗W)−W と並べ替えると 21(∂α(αW)+∂α∗(α∗W)) にまとまる。一般の s では、次の段落の有限時間の解 χs,out を t で微分して Fourier 変換すると(ξ∂ξ・ξ∗∂ξ∗ が ∂αα・∂α∗α∗ に、−∣ξ∣2 が ∂α∂α∗ に写る)、
∂t∂Fs=2Γ[∂α(αFs)+∂α∗(α∗Fs)+(1−s)∂α∂α∗Fs](5.6.22)
を得る。1次の微分の項は原点へ縮む流れ(ドリフト)、2次の項は拡散で、拡散係数 (1−s)Γ/2 が並べ方で変わる。
P(s=1)には拡散が無く、損失は 5.6.4節で見たとおり純粋な縮小である。W には Γ/2、Q には Γ の拡散が付く。(5.6.22) の有限時間の解は、(5.6.17) に es∣ξ∣2/2 を掛けた χs,out(ξ)=χs,in(ηξ)e−(1−η)(1−s)∣ξ∣2/2(η=e−Γt)で、「η 倍に縮めてから G(1−η)(1−s)/2 でならす」の形をしている。熱的な光 Fs=Gnˉ+(1−s)/2 が nˉ→nˉe−Γt と冷えていくことは、3つの s のどれでも (5.6.22) の解になっていることで確かめることができる。密度行列(第4部)の Lindblad 方程式が、位相空間の上では古典の確率過程の Fokker–Planck 方程式と同じ形に写る。これが「密度行列 ↔ 位相空間」の橋(第5部第2章)を開放系まで延ばしたものである。

図 5.6.3 第二量子化と位相空間の橋。Fock 空間の ρ^ から特性関数を作り、並べ方の因子 es∣ξ∣2/2 ごとに Fourier 変換すると P・W・Q になる。右向きの太い矢印(s を下げる)は Gauss 関数でならす操作で常に定義でき、左向きは関数にならないことがある。破線は ρ^ と Q の1対1の対応。
ほかの部との接続
Q の背後にある関数 ⟨α∣ψ⟩e∣α∣2/2 は、第5部第4章で Hudson の定理の証明に使った Bargmann 変換 F(α∗) で、第10部第4章の正則偏極(Bargmann–Fock 表示)で波動関数そのものになる。幾何学的量子化の言葉では、Q は正則偏極で書いた状態の絶対値の2乗である。コヒーレント状態の完全性 ∫∣α⟩⟨α∣d2α/π=1 を時間の各刻みに挟むと、第6部第6章のコヒーレント状態の経路積分になる。光の量子化そのもの(モードごとの a^ の起源)は 第6部第1章と 光学と量子エレクトロニクス 第30章にある。
例題 5.6.6 (∣0⟩+∣1⟩)/2 の Q と、その零点 ★★
オリジナル∣ψ⟩=(∣0⟩+∣1⟩)/2 の Q を (5.6.20) で求め、Q が 0 になる点を求めよ。次に定理 5.6.4 の逆向きの手順で Q から ρmn を復元せよ。
解答
ρ00=ρ01=ρ10=ρ11=21 なので
Q(α)=2πe−∣α∣2(1+α∗+α+α∗α)=2πe−∣α∣2∣1+α∣2.
Q は α=−1 のただ1点で 0 になる。これは Bargmann 変換 F(z)=(1+z)/2 の零点 z=−1 である。第5部第4章の Hudson の定理の証明では、W≥0 の純粋状態の F が零点を持たないことを示した。この状態は Q に零点を持つので Gauss の状態でなく、W は負の値を持つ(W=π2e−2∣α∣2(2∣α∣2+2Reα) は α=−21 で −π1e−1/2)。復元は πe∣α∣2Q=21(1+α∗)(1+α) を展開し、1,α,α∗,α∗α の係数がすべて 21、m!n!=1 を掛けて ρmn=21 に戻る。
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