量子力学の様々な構成方法 第2部 第4章 §2.4.5 ★★★ 抽象的な代数の表現と、位置表示・Bargmann 表示・第二量子化・経路積分・密度行列・幾何学的量子化を式で結ぶ。位置表示との橋は両向きを示す
この章の結果は、計画の同値性の地図(第1部第1章)では「行列力学 → 第二量子化(a, a† の起源)」の橋の出発点と、「行列力学の一意性(Stone–von Neumann)」の橋の手前に当たる。表示の選び方(第1部第3章)の言葉では、この章は表示を選ばずに解き、表示は後から選ぶ。
代数から位置表示へ、位置表示から代数へ
代数 → 位置表示。 位置表示では x^=x、p^=−iℏd/dx で、ξ=xmω/ℏ と置くと a^=21(ξ+d/dξ) である。定理 2.4.3 の a^∣0⟩=0 は1階の微分方程式 (ξ+d/dξ)ψ0=0 になり、解は ψ0∝e−ξ2/2 のただ1つ。∣n⟩=(a^†)n∣0⟩/n! は
ψn(x)=2nn!1(πℏmω)1/4Hn(ξ)e−ξ2/2,(ξ−dξd)ne−ξ2/2=Hn(ξ)e−ξ2/2(2.4.27)
になる(Hn は Hermite 多項式)。2つ目の式が、上りの演算子 a^†=21(ξ−d/dξ) を当てるたびに Hermite 多項式の次数が1上がることを表している。
位置表示 → 代数。 逆に、位置表示の Schrödinger 方程式 (−2mℏ2dx2d2+21mω2x2)ψ=Eψ から出発すると、微分演算子として 2ℏω(ξ−dξd)(ξ+dξd)=2ℏω(ξ2−dξ2d2−1) なので、左辺の演算子はℏω(a^†a^+21) に因数分解され、[a^,a^†]=1 は [d/dξ,ξ]=1 から出る。微分方程式の解の全体 L2(R) は [a^,a^†]=1 の既約な表現で、定理 2.4.3 (iii) により代数の側の表現と同じものになる。2つの向きを合わせると、「代数で解いた答え」と「微分方程式で解いた答え」は同じ表現の中の同じベクトルである。一意性が一般にどこまで成り立つか(Weyl 形式での Stone–von Neumann の定理)は第2部第6章で証明する。
Bargmann 表示:幾何学的量子化への入口
同じ代数のもう1つの表示は、複素変数 z の正則関数の空間で a^†=z、a^=d/dz とするものである(Bargmann–Fock 表示)。[d/dz,z]=1 は積の微分の規則から直ちに出て、a^∣0⟩=0 は df0/dz=0、つまり f0=1。∣n⟩ は zn/n! で、内積は次の例題で確かめる重み e−∣z∣2 の積分で入る。この表示は相空間の複素座標 z∝mωx−ip の上の関数で状態を表すもので、幾何学的量子化では「正則偏極」と呼ばれる選び方に当たる(第10部第4章)。そこでは、零点エネルギー 21ℏω が幾何学の補正(半形式)なしには出てこないことを見る(第10部第5章)。この章の代数では、零点は x^2, p^2 を a^†a^ に並べ替えたときの 21[a^,a^†] から出た。2つの説明は同じ 21 を、順序の問題と幾何の補正という別の言葉で読んでいる。
例題 2.4.7 Bargmann 表示の内積 ★★
オリジナル正則関数 f, g の内積を ⟨f,g⟩=∫Cf(z)g(z)e−∣z∣2πd2z(d2z=d(Rez)d(Imz))と定める。
- (1) ⟨zn,zk⟩=n!δnk を示せ。
- (2) この内積で z と d/dz が互いにエルミート共役であること、すなわち ⟨f,zg⟩=⟨df/dz,g⟩ を f=zn, g=zk で確かめよ。
解答
(1) 極座標 z=ρeiθ で znzk=ρn+kei(k−n)θ。θ の積分は n=k で 0、n=k で 2π。残りは π2π∫0∞ρ2ne−ρ2ρdρ=∫0∞sne−sds=n!(s=ρ2)。よって zn/n! は正規直交である。
(2) ⟨zn,zk+1⟩=n!δn,k+1、⟨nzn−1,zk⟩=n(n−1)!δn−1,k=n!δn,k+1 で等しい。したがって a^†=z と a^=d/dz は互いの共役で、a^(zn/n!)=nzn−1/(n−1)! は (2.4.5) と一致する。
共通例題①をほかの部の言葉で
この章で出した共通例題①の答えが、ほかの部でどの式から出てくるかを並べる。どの行も、[a^,a^†]=1 の表現の中の同じ量を別の道具で計算している。
表 2.4.2 共通例題①(調和振動子)の答えを出す道具の対応。| 構成 | 共通例題①の出し方 | この章の式との対応 |
| 行列力学(この章) | H^=ℏω(a^†a^+21)、正値性 | En (2.4.6)、Z (2.4.8) |
| 経路積分 | Mehler 核のトレース Z=∫K(x,−iβℏ;x,0)dx(第3部第3章・第3部第6章) | 同じ 1/(2sinh(βℏω/2)) |
| 密度行列 | ρ^=e−βH^/Z を基底 ∣n⟩ で対角に書く(第4部第4章) | ⟨N^⟩ (2.4.9) |
| 位相空間 | Wn∝(−1)nLn(4H/ℏω)e−2H/ℏω(第5部第5章) | ∣n⟩ (2.4.5) の Wigner 変換 |
| 第二量子化 | 場の1つのモード、a^ は量子を1個消す(第6部第1章) | 同じ代数を各モードに |
| 代数的量子論 | CCR 代数の表現、熱平衡は KMS 状態(第8部) | 定理 2.4.3 (iii) の既約性 |
| 幾何学的量子化 | 正則偏極+半形式補正(第10部第5章) | Bargmann 表示と零点の 21 |
角運動量の側の橋は、スピン21の表現 (2.4.13) が第4部の Bloch ベクトル ρ^=(1+r⋅σ)/2 の出発点になり(第4部第5章)、Majorana の公式の証明に使ったスピン21の積がスピンのコヒーレント状態の経路積分(第3部)と、球面の量子化の整数条件 2j∈Z(第10部第5章)へつながる。定理 2.4.4 の 2j∈Z は代数の正値性から、第10部の 2j∈Z は線束の整数条件から出るので、同じ条件の2つの理由になる。
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