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橋:熱平衡の位置の分散を4つの言葉で

2026年10月17日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第11部 第1章 同値性の地図をもう一度
目次
  1. 4つの書き方
  2. 学部の授業での書き方と、流体・確率過程での扱い
  3. どの書き方が計算に向くか
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第11部 第1章 §11.1.6 ★★★ 熱平衡の調和振動子の ⟨x2⟩\langle x^2 \rangle を密度行列・位相空間・虚時間の経路積分・KMS 状態の4つの言葉で書いた式が等しいことを示し、どの書き方が計算に向くかを比べる

4つの書き方

この巻の構成の多くは、熱平衡の状態を自分の言葉で書き直した。調和振動子の位置の分散 ⟨x2⟩β\langle x^2 \rangle _\beta を例にとると、次の4つの式が並ぶ。基準・密度行列(第4部)では Tr⁡(ρ^βx^2)\operatorname{Tr}(\hat\rho_\beta\hat x^2)、位相空間(第5部)では ∫x2Wβ dx dp\int x^2W_\beta\,\mathrm{d} x\,\mathrm{d} p、虚時間の経路積分(第3部)では虚時間の相関 G(0)G(0) を Matsubara 成分で足したもの、代数(第8部)では KMS 条件で決まる Gauss 状態の特性関数を2回微分したもの、である。どれも第1部第1章で期待値の書き方として並べた形の、熱平衡の場合である。第3部第6章と第8部第4章の図 8.4.4 は熱平衡の書き方を並べたが、4つの式が等しいことを1か所で示してはいない。この節で示す。

命題 11.1.1(熱平衡の ⟨x2⟩\langle x^2 \rangle の4つの書き方 ★★★)

質量 mm、角振動数 ω\omega の調和振動子の、逆温度 β\beta の熱平衡で、次の4つの量は等しく、どれも ℏ2mωcoth⁡βℏω2\frac{\hbar}{2m\omega}\coth\frac{\beta\hbar\omega}{2} である。

  1. (a) 密度行列:Tr⁡(ρ^βx^2)=∑npn⟨n∣x^2∣n⟩\operatorname{Tr}(\hat\rho_\beta\hat x^2)=\sum_np_n\langle n | \hat x^2 | n \rangle(pn=(1−e−βℏω)e−nβℏωp_n=(1-\mathrm{e}^{-\beta\hbar\omega})\mathrm{e}^{-n\beta\hbar\omega})。
  2. (b) 位相空間:∫x2Wβ(x,p) dx dp\int x^2W_\beta(x,p)\,\mathrm{d} x\,\mathrm{d} p(Wβ=tβπℏexp⁡(−2tβH/(ℏω))W_\beta=\frac{t_\beta}{\pi\hbar}\exp(-2t_\beta H/(\hbar\omega))、tβ=tanh⁡(βℏω/2)t_\beta=\tanh(\beta\hbar\omega/2))。
  3. (c) 虚時間の経路積分:G(0)=1βm∑n∈Z1ω2+ωn2G(0)=\dfrac{1}{\beta m}\displaystyle\sum_{n\in\mathbb Z}\frac{1}{\omega^2+\omega_n^2}(ωn=2πn/(βℏ)\omega_n=2\pi n/(\beta\hbar))。
  4. (d) 代数:Weyl 演算子 W(a,b)=ei(ap^+bx^)/ℏW(a,b)=\mathrm{e}^{\mathrm{i}(a\hat p+b\hat x)/\hbar} の期待値が φc(W(a,b))=exp⁡(−c4(mωa2ℏ+b2mωℏ))\varphi_c(W(a,b))=\exp\bigl(-\frac c4\bigl(\frac{m\omega a^2}{\hbar}+\frac{b^2}{m\omega\hbar}\bigr)\bigr) の Gauss 状態 φc\varphi_c で、KMS 条件が選ぶ c=coth⁡(βℏω/2)c=\coth(\beta\hbar\omega/2) のときの −ℏ2∂b2φc(W(0,b))∣b=0-\hbar^2\partial_b^2\varphi_c(W(0,b))|_{b=0}。

ここで (d) では、角振動数 ω\omega と同じ式に出るので、状態を φ\varphi と書く(第8部第2章の断りと同じ)。

証明

(a) x^=ℏ/(2mω)(a^+a^†)\hat x=\sqrt{\hbar/(2m\omega)}(\hat a+\hat a^\dagger) から ⟨n∣x^2∣n⟩=ℏ2mω⟨n∣a^a^†+a^†a^∣n⟩=ℏ2mω(2n+1)\langle n | \hat x^2 | n \rangle =\frac{\hbar}{2m\omega}\langle n | \hat a\hat a^\dagger+\hat a^\dagger\hat a | n \rangle =\frac{\hbar}{2m\omega}(2n+1)。pnp_n で平均すると ℏ2mω(2⟨n⟩+1)\frac{\hbar}{2m\omega}(2\langle n \rangle +1) で、⟨n⟩=1/(eβℏω−1)\langle n \rangle =1/(\mathrm{e}^{\beta\hbar\omega}-1) から 2⟨n⟩+1=(eβℏω+1)/(eβℏω−1)=coth⁡(βℏω/2)2\langle n \rangle +1=(\mathrm{e}^{\beta\hbar\omega}+1)/(\mathrm{e}^{\beta\hbar\omega}-1)=\coth(\beta\hbar\omega/2)。

(b) WβW_\beta の指数は −2tβℏω(p22m+mω2x22)-\frac{2t_\beta}{\hbar\omega}\bigl(\frac{p^2}{2m}+\frac{m\omega^2x^2}{2}\bigr) で、xx について分散 ℏω2tβmω2=ℏ2mωtβ\frac{\hbar\omega}{2t_\beta m\omega^2}=\frac{\hbar}{2m\omega t_\beta} の Gauss 分布である。WβW_\beta は規格化されているので、∫x2Wβ=ℏ2mωcoth⁡(βℏω/2)\int x^2W_\beta=\frac{\hbar}{2m\omega}\coth(\beta\hbar\omega/2)。

(c) z=βℏω/2z=\beta\hbar\omega/2 とおくと ω2+ωn2=(2/(βℏ))2(z2+n2π2)\omega^2+\omega_n^2=(2/(\beta\hbar))^2(z^2+n^2\pi^2) なので

∑n∈Z1ω2+ωn2=(βℏ2)2[1z2+∑n≥12z2+n2π2]=(βℏ2)21z[1z+∑n≥12zz2+n2π2].\sum_{n\in\mathbb Z}\frac{1}{\omega^2+\omega_n^2}=\Bigl(\frac{\beta\hbar}{2}\Bigr)^2\Bigl[\frac1{z^2}+\sum_{n\ge1}\frac{2}{z^2+n^2\pi^2}\Bigr] =\Bigl(\frac{\beta\hbar}{2}\Bigr)^2\frac1z\Bigl[\frac1z+\sum_{n\ge1}\frac{2z}{z^2+n^2\pi^2}\Bigr].

最後の括弧は coth⁡z\coth z の部分分数展開(Mittag-Leffler の展開。coth⁡z\coth z の極は z=inπz=\mathrm{i} n\pi にあり、留数はどれも 11)そのものなので、和は (βℏ/2)2coth⁡z/z=βℏ2ωcoth⁡z(\beta\hbar/2)^2\coth z/z=\frac{\beta\hbar}{2\omega}\coth z となる。1/(βm)1/(\beta m) を掛けると ℏ2mωcoth⁡(βℏω/2)\frac{\hbar}{2m\omega}\coth(\beta\hbar\omega/2)。

(d) φc(W(0,b))=exp⁡(−cb2/(4mωℏ))\varphi_c(W(0,b))=\exp(-cb^2/(4m\omega\hbar)) である。W(0,b)=eibx^/ℏW(0,b)=\mathrm{e}^{\mathrm{i} b\hat x/\hbar} を bb で2回微分して b=0b=0 とおくと −x^2/ℏ2-\hat x^2/\hbar^2 になるので、−ℏ2∂b2φc∣b=0=⟨x^2⟩-\hbar^2\partial_b^2\varphi_c|_{b=0}=\langle \hat x^2 \rangle である。左辺は ℏ2⋅2c4mωℏ=cℏ2mω\hbar^2\cdot\frac{2c}{4m\omega\hbar}=\frac{c\hbar}{2m\omega} で、c=coth⁡(βℏω/2)c=\coth(\beta\hbar\omega/2) を代入すると同じ値になる。

4つの式の等しさの中身は、それぞれ別の橋である。(a) と (b) の等しさはトレースの公式 Tr⁡(ρ^A^)=∫WAW\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat A)=\int WA_W に A^=x^2\hat A=\hat x^2(Weyl 記号 x2x^2)を当てたもので、密度行列 ↔ 位相空間の橋(第5部第2章の定理 5.2.5)に当たる。(a) と (c) の等しさは、虚時間の経路積分の相関が熱平衡の密度行列の期待値であること(第3部第6章の命題 3.6.3)の、時刻 τ=0\tau=0 の場合である。(a) と (d) の等しさは、有限次元での KMS 状態と Gibbs 状態の同値(第8部第4章の定理 8.4.1)を、振動子という無限次元の場合に Gauss 状態の族の中で確かめたことに当たる。証明の (c) で使った部分分数展開は、第3部第6章で高温展開の収束半径が 2π2\pi になる理由として述べたことと同じ事実で、coth⁡z\coth z の極が z=±iπz=\pm\mathrm{i}\pi にあることによる。

学部の授業での書き方と、流体・確率過程での扱い

学部の統計力学の授業では、(a) の形 ⟨x2⟩=∑npn⟨n∣x^2∣n⟩\langle x^2 \rangle =\sum_np_n\langle n | \hat x^2 | n \rangle を固有状態の Boltzmann 重みの平均として書くのが普通である。これは第4部第3章で見た「同じ ρ^\hat\rho を作るアンサンブル」のうち、エネルギー固有状態の混合という1つの選び方に当たる。コヒーレント状態の混合(P 表示 e−∣α∣2/nˉ/(πnˉ)\mathrm{e}^{-\lvert \alpha\rvert ^2/\bar n}/(\pi\bar n))で書いても、同じ ρ^\hat\rho なので同じ ⟨x2⟩\langle x^2 \rangle になる。

第7部の流体と Nelson の過程では、熱平衡は1つの流体や1つの定常な過程として書けない(第7部第5章の命題 7.5.4)。位置の分布を ⟨x2⟩β\langle x^2 \rangle _\beta に合わせた Ornstein–Uhlenbeck 過程は作れるが、それは角振動数 γ=ωtanh⁡(βℏω/2)\gamma=\omega\tanh(\beta\hbar\omega/2) の別の振動子の基底状態で、エネルギーが熱平衡と合わない(総合問題の (5))。第7部の構成で熱平衡を扱うには、エネルギー固有状態ごとの過程か、コヒーレント状態ごとの過程を混ぜる必要がある(第7部第4章の総合問題)。この点は、表 11.1.3 の「状態が純粋」の行に当たる。

どの書き方が計算に向くか

4つの式は等しいが、和の収束の速さが違う。(a) は nn についての等比級数で、高い準位の寄与が e−nβℏω\mathrm{e}^{-n\beta\hbar\omega} で減るので、低温ほど少ない項で足りる。(c) は ωn\omega_n についての和で、項が 1/n21/n^2 でしか減らないので、打ち切りの誤差は 1/N1/N でしか減らない。そのかわり (c) は高温ほど少ない項で足り、n=0n=0 の項だけで古典の等分配 kBT/(mω2)k_{\mathrm B} T/(m\omega^2) になる。(b) と (d) は閉じた形の Gauss 関数で、和を含まない。どの構成で計算するかの使い分けは第11部第2章の早見表で扱う。

例題 11.1.7 和を打ち切ったときの誤差を比べる ★★

オリジナルβℏω=1\beta\hbar\omega=1 の調和振動子で、⟨x2⟩β\langle x^2 \rangle _\beta を ℏ/(2mω)\hbar/(2m\omega) の単位で求める。正確な値は coth⁡12=2.1640\coth\frac12=2.1640 である。

  1. (1) 命題 11.1.1 の (a) の和を n≤3n\le3、n≤10n\le10、n≤20n\le20 で打ち切ったときの誤差を求めよ。
  2. (2) (c) の和を ∣n∣≤N\lvert n\rvert \le N で打ち切ったとき、NN が大きい所での誤差を NN で表し、N=10N=10 と N=100N=100 の誤差を求めよ。
解答

(1) 単位を ℏ/(2mω)\hbar/(2m\omega) にとると、(a) は ∑n(1−q)qn(2n+1)\sum_n(1-q)q^n(2n+1)(q=e−1q=\mathrm{e}^{-1})で、n≤nmax⁡n\le n_{\max} で打ち切った誤差は残りの和 ∑n>nmax⁡(1−q)qn(2n+1)\sum_{n>n_{\max}}(1-q)q^n(2n+1) である。数値で n≤3n\le3 が 0.1860.186、n≤10n\le10 が 4.0×10−44.0\times10^{-4}、n≤20n\le20 が 3.3×10−83.3\times10^{-8} となり、およそ qnmax⁡q^{n_{\max}} の速さで減る。

(2) 同じ単位で (c) は 2βℏω∑n11+(2πn/(βℏω))2\frac{2}{\beta\hbar\omega}\sum_n\frac{1}{1+(2\pi n/(\beta\hbar\omega))^2} で、βℏω=1\beta\hbar\omega=1 では 2∑n1/(1+4π2n2)2\sum_n1/(1+4\pi^2n^2) である。∣n∣>N\lvert n\rvert >N の項は 1/(4π2n2)1/(4\pi^2n^2) で近似でき、∑n>N1/n2≈1/N\sum_{n>N}1/n^2\approx1/N なので、打ち切りの誤差は 2×2×14π2N=1/(π2N)2\times2\times\frac{1}{4\pi^2N}=1/(\pi^2N) である。N=10N=10 で 0.01010.0101(数値は 0.00960.0096)、N=100N=100 で 1.01×10−31.01\times10^{-3}(数値は 1.01×10−31.01\times10^{-3})となる。βℏω=1\beta\hbar\omega=1 では (a) のほうが速く収束する。βℏω\beta\hbar\omega が小さい高温では qq が 11 に近づいて (a) の収束が遅くなり、(c) は n=0n=0 の項が支配的になる。

木下の勉強ステータス

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