橋の索引(2):外側の4つの構成と、同値が終わる所
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量子力学の様々な構成方法 第11部 第1章 §11.1.3 ★★★ 第7〜10部の橋の一覧と、構成どうしの同値が成り立たなくなる前提の一覧
索引の表
第7〜10部の構成は、基準からの距離が主流の5つより遠い。橋の多くは前提を限った同値(段階 (ii))で、前提が構成ごとに違う。表 11.1.2 にまとめる。
| 橋 | 基準(または他の構成)→ 構成 | 構成 → 基準 | 成り立つ範囲 |
| 波動関数 ↔ 流体 | Madelung 変換で連続の式と量子 Hamilton–Jacobi 方程式(第7部第1章の命題 7.1.2) | 循環の量子化を足したときに限り を作り直せる(定理 7.1.4) | の領域。節で分かれた領域の位相差は決まらない |
| 流体 ↔ 古典の集団 | 単一運動量の Liouville 方程式と、 のない流体の方程式の同値(第7部第2章の定理 7.2.3) | 同じ定理の逆向き | 古典の側の同値は厳密。量子との差は |
| 波動関数 → 軌道 | 案内方程式と等変性(第7部第4章の定理 7.4.1) | Euler 形と Lagrange 形の同値(命題 7.4.2) | 測定の統計まで(表 7.4.1) |
| 流体 ↔ 確率過程 | Nelson の過程を から作る(第7部第5章の定理 7.5.3) | 前向き・後ろ向きの平均の加速度から Madelung 方程式(同じ定理) | 循環の量子化。熱平衡は1つの過程で書けない(命題 7.5.4) |
| 確率過程 ↔ 経路積分 | Feynman–Kac の公式(第7部第6章の定理 7.6.1)、Doob の変換で基底状態の過程(命題 7.6.2) | 推移密度から虚時間の核、解析接続で実時間(命題 7.6.4) | 正の基底状態 |
| 基準 ↔ 代数 | ベクトル状態 (第8部第1章の式 (8.1.10)) | GNS 構成(第8部第2章の定理 8.2.1)、往復が恒等(命題 8.2.6) | 一般の C*代数で成り立つ |
| 代数 ↔ 行列力学・第二量子化 | Weyl の関係の正則な表現は一意(第8部第3章の定理 8.3.2) | 無限自由度の積状態は互いに非同値(定理 8.3.5) | 有限自由度。強磁性・BCS は第8部第5章 |
| 代数 ↔ 密度行列(熱平衡) | Gibbs 状態は KMS 条件を満たす(第8部第4章の定理 8.4.1・第4部第4章の命題 4.4.6) | KMS 状態は Gibbs 状態だけ(同じ定理) | 有限次元。無限系では KMS が定義になり、相転移で複数 |
| 再構成 ↔ 密度行列 | は命題の束の上の状態(第9部第1章) | Gleason の定理(第9部第2章の定理 9.2.2)、効果の上なら Busch の定理(定理 9.2.7) | Gleason は3次元以上。Busch は2次元も |
| 隠れた変数 | 局所的な模型と非文脈的な模型の同値(第9部第3章の命題 9.3.9) | 3次元以上の射影の束は古典の状態空間に埋め込めない(定理 9.3.6) | 量子ビットだけなら非文脈的な模型がある |
| 一般確率論 ↔ 量子ビット | 状態空間が単体なら古典(第9部第4章の定理 9.4.3) | Bloch 球の一般確率論は量子ビットの理論(定理 9.4.8) | 有限次元 |
| 操作的な公理 ↔ 基準 | 有限次元の量子力学は Hardy の公理を満たす(第9部第5章の命題 9.5.9) | から 、連続性でユニタリ群(定理 9.5.3・命題 9.5.8) | 有限次元。局所トモグラフィーで複素数 |
| 正準量子化 ↔ 幾何学的量子化 | 2次以下では Weyl 順序が唯一(第10部第1章の補題 10.1.3) | 3次以上では括弧の規則が矛盾(定理 10.1.4)、前量子化は全関数で括弧を保つが可約(第10部第3章の命題 10.3.2) | 2次以下の多項式 |
| 偏極 ↔ 表示の選択 | 鉛直の偏極で位置表示、正則偏極で Bargmann 表示(第10部第4章の定理 10.4.6) | 同じ定理の逆向き(偏極した前量子化は Schrödinger 表現) | 偏極を保つ関数 |
| 幾何学的量子化 ↔ 位相空間 | 半形式つき量子化は Weyl 量子化(第10部第5章の命題 10.5.7) | Toeplitz 作用素と Weyl 量子化は で移り合う(第10部第6章の定理 10.6.9) | 偏極を保つ2次以下(前者)。後者は 全体 |
| 解析力学 ↔ 基準 | Schrödinger 方程式は の Hamilton 方程式(第10部第2章の命題 10.2.14) | 同じ命題(期待値の Poisson 括弧=交換子の期待値) | 射影ヒルベルト空間の上で |
| (近似) | 停留位相(第3部第4章の命題 3.4.2)・ を捨てた流体(第7部第2章)・Moyal から Liouville(第5部第3章の式 (5.3.12)) | 古典から量子へは戻れない(近似は片向き) | 焦点・転回点の前。2次の作用では厳密 |
の行は、古典極限の見方を構成ごとに並べた表の索引でもある。何を捨てて古典に近づくかは第3部第4章の表 3.4.1 に、流体から見た4つの見方は第7部第2章の表 7.2.1 にある。
同値が終わる所
各部の限界の節で、構成どうしの同値が成り立たなくなる前提が見つかった。それを表 11.1.3 に集める。どの行でも基準の予言は1つに決まっていて、ある構成がその前提の外では基準と同じ予言を出せないか、出すために追加の構造が要る。表にはそういう場合を並べた。
| 前提 | 外したときに起きること | 示した章 |
| 自由度が有限 | 交換関係・反交換関係の表現が無数に分かれ、積状態の重なりが になる。温度・磁化の向き・対の位相ごとに別の表現 | 第8部第3章の定理 8.3.5、第8部第5章 |
| 配置空間が単連結 | 円の上では 、輪の上では Aharonov–Bohm の磁束ごとに非同値な表現。経路積分では巻き数の重みの選択 | 第2部第5章の命題 2.5.1、第3部第7章の式 (3.7.11) |
| 多項式が2次以下 | Poisson 括弧を交換子に写す規則が矛盾する( の食い違い) | 第10部第1章の定理 10.1.4 |
| ヒルベルト空間が3次元以上 | 射影の上の確率が の形に限られない(効果の上へ広げれば回復) | 第9部第2章の式 (9.2.10) |
| ポテンシャルが滑らか | 時間分割の極限が崩れる(虚時間の Coulomb)、自己共役な拡張が一意でない(逆2乗) | 第3部第7章の式 (3.7.18) |
| 測るのは1つの時刻 | Bohm と Nelson の測らない2時刻の相関は基準の対称化した相関と一致しない(測定を入れれば一致) | 第7部第4章の例題 7.4.6、第7部第6章の式 (7.6.8) |
| 状態が純粋で節がない | 混合状態は1つの流体・1つの定常な Nelson の過程で書けない。節では速度場が発散 | 第7部第5章の命題 7.5.4、第7部第6章の表 7.6.2 |
| 同時分布が非負 | 位置と運動量の非負の同時分布は について線形にできない(位相空間は非負を、流体は同時分布を捨てた) | 第5部第1章の定理 5.1.2 |
表の最後から2行目は、第7部が「同値は測定の統計まで」とした理由である。Bohm の軌道も Nelson の過程も、1つの時刻の位置の分布は のままで、基準と一致する。ところが2つの時刻の位置の相関は、軌道や過程が持つ追加の構造で、基準には同じ量がない。基準で2時刻の相関に当たるのは の対称化した期待値で、それは別の量である。次の例題で、調和振動子の基底状態について3つの値を比べる。
図 11.1.2 調和振動子の基底状態の2時刻の位置の相関。点線が基準の対称化した相関 (測定を入れた Nelson・Bohm もこれに一致する)、実線は測らない Nelson の過程(Ornstein–Uhlenbeck 過程)と Bohm の軌道。どれも厳密な式で、 では3つとも 。
例題 11.1.3 2時刻の相関で、同値の範囲を確かめる ★★★
オリジナル質量 、角振動数 の調和振動子の基底状態で、時刻 と の位置の相関を3つの構成で比べる。 とする。
- (1) 基準で を求め、実部(対称化した相関)を書け。
- (2) Nelson の基底状態の過程は前向きのドリフト の Ornstein–Uhlenbeck 過程である(第7部第5章の式 (7.5.17))。 を求めよ。
- (3) Bohm の軌道で を求めよ。
- (4) Rb()を の振動子に入れたとき、 での3つの値を で求めよ。
解答
(1) Heisenberg 描像で なので、 である。基底状態では 、 なので 。虚部は交換子 の半分から来るもので、実部 が対称化した相関である(第7部第6章の式 (7.6.8))。
(2) を解くと で、雑音の項は と独立である。したがって 。符号を変えずに減衰し、基準の とは違う。
(3) 基底状態は実の波動関数で、位相 が一定なので速度場 である。Bohm の粒子は静止していて 、相関は のまま変わらない。
(4) ()。 で、基準は 、Nelson は 、Bohm は である。時刻 に分解能のある位置の測定を入れると、Nelson の過程も Bohm の軌道も測定で変わり、相関は基準の に一致する(第7部第6章の例題 7.6.4)。3つの構成の予言が一致するのは測定の統計に限られ、測らない量は構成ごとの追加の構造である。
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